小学校における情報モラル育成教材の開発
−学校インターネット教習所の取り組みから−
埼玉県熊谷市立籠原小学校 教諭 関根達郎(熊谷教育工学研究会) |
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6 今後の課題
(1) 情報モラル育成のための段階的な指導の教材開発
調べ学習が本格的に始まる小学校3年生の初期段階で、「調べる」という活動のモデルケースを児童に示し、その中に情報モラルを織り込んで指導することで、確かなメディア活用能力を身につけさせられるだろうという仮説をもとに、調べ学習テキスト(絵本)の作成を試みた。
内容は、情報モラル育成カリキュラムの図書館利用レベルからネットワーク利用レベルを網羅したいと考えた。絵本は、読み聞かせ形式で授業を行えるため、児童にも教師にも、もっとも親しみやすい汎用のメディアであると考えた。「インターネット教習所」がインターネット利用に特化した教材であるのに対し、こちらは調べ学習全般から情報社会までの広い範囲を対象とした教材であると考えている。
T 絵本の概要 全5巻
[1] 調べ学習をはじめよう
(目標 調べようとする問題に対して主体的に取り組み、図書を有効利用することの 重要性を知る)
[2] 調べ学習でどうするの
[3] まとめたことを伝えよう
[4] インターネットで調べてみようかな
[5] 現代ってどんな時代?
U第1巻の内容
情報教育の絵本 その1
V結果の考察
今回の絵本作成は、技術的な問題、時間的な問題もあり、デジタルベースで第1巻のみの作成であった。また、実際に使用してもらって、その効果も測定したかったが、それもできなかった。そのため、具体的な数値を持って評価できないのが残念であるが、「インターネット教習所」と比較し、より汎用的で扱いやすい教材ができたと考えている。第1巻で扱っているメディアは図書資料であり、主な対象学年である3年生の実態から見ても適当であったと考えられる。情報モラルの内容としても、「出典を明示すること」「原文通り引用すること」「他の情報と比較すること」等の、基本的だが重要な内容をオフラインで扱っており、第1巻の内容としてふさわしいものであった。また、登場人物の行動や言葉の中に、情報モラルの内容がちりばめられているため、児童にとっても親しみやすく理解しやすいものとなっている。さらに、「図書資料を使った調べ方」や「調べることは自分で探すこと」「資料が見つからなくてもすぐにあきらめないこと」など調べ学習に関わる技能や態度も盛り込むことができた。調べ学習の演繹的な指導にも適した教材であると考えられる。
(2) 研究のまとめ
今回の研究では、文部科学省や埼玉県教育委員会の示す問題対処的な情報モラル教育の方向性を転換し、積極的に行う情報モラル教育の在り方について研究してきた。
オフライン(図書館利用レベル)からオンライン(ネットワーク利用レベル)まで網羅した情報モラル育成カリキュラムをもとに「学校インターネット教習所」を開発し、授業実践を行った。さらに、実践後の児童生徒の習得状況および、開発教材を利用した教職員の意識の調査もあわせて行った。その結果から、情報モラル教育の重要性を再確認するとともに、誰もが、いつでも、簡単に指導でき、児童にとっても理解しやすく、より広範囲の内容を扱った教材の必要性も明らかとなった。
その点を考慮し試みたのが、情報モラルの内容を扱った絵本の作成である。教材として絵本という素材は、汎用的で手軽であるというだけでなく、理解のしやすさ、親しみやすさからみても、非常に有効であるといえる。積極的な情報モラル教育を行う上での課題に対する一つの解決策となるのではないかと考える。
今後の課題としては、絵本の中で扱う情報モラルの内容の吟味、第2巻以降の作成、より汎用性の高い紙ベースでの絵本の発行等があげられる。次年度以降、取り組んでいきたいと考えている。
共同研究者 埼玉県熊谷市立石原小学校 教諭 小鹿原 潤
埼玉県熊谷市立久下小学校 教諭 山中和久
参考文献
坂元昴・古藤泰弘共編著『教育の情報化と情報教育の展開』(財)才能開発研究財団、1991
古藤泰弘「情報を軸とした総合的な学習のカリキュラムの開発」
『日本教材学会年報第10巻』1999
古藤泰弘・淵野辺小学校共著『インターネットで総合的な学習を立ち上げる』明治図書、1999
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