要約

大学生に対する教育用ゲームソフトは,小中学生および高校生に対するそれと比べ,非常に数少ない状況にある.この現状には三つ程理由が考えられる.一つは,「ゲームという言葉の響きが゛遊び"を連想させる点」である.一般には,「勉強」と「遊び」が共存する世界を想像するのは難しく,むしろ「勉強」の反意語として自然と浮かんでくるのが「遊び」という語である (「遊んでばかりでなく,たまには勉強しなさい」というフレーズが代表するように).二つ目は,「大学生の勉学に対する自律性を重んずる点」である.大学生ともなれば,「ゲーム」というオブラートで包む必要がないという考え方である.この考え方には,社会人一歩手前の大学生に対し,過保護な教育はかえって大学生を駄目にするという考えが関係していると思われる.三つ目は,「大学教育が今現在は受験産業の外にある点」である.受験の最終目標が大学合格にある現状では,学習教材を扱う企業が市場的価値を見出すには,まだ時を要するかもしれない.

二つ目に挙げた大学生の自律性の育成という点を除けば,大学の大衆化を考えると,大学生に対する教育用ゲームソフトの普及は重要な意味を持ってくる.「勉学が好きな子が大学に進む」という考えは,進学率が3割台の時代の考えで,進学率が5割を超える今日では残念ながら通用しない.むしろ学習に対するストレスを如何に緩和できるが大学の教育現場でも大きいな問題となっている.これは,大学で使う参考書が薄くなったり,文字数が減り,その分図が多く挿入されているなどの変化からも窺い知ることができる.

本研究の目的は,学生が自ら問題に興味を持ち,進んで解法を見つけるような仕組みを,大学の授業内に取り入れることにある.これにより,教員が一方的に説明する教員主体の授業から,学生が自ら考え、発言や行動する授業への変化が期待できる.このような目的のため我々は,大学生が自然に問題に興味を持ち,自発的にその解法を探りたくなるような教育用ゲームソフトを作成する.

本研究で開発したソフトは数学・情報工学における基礎的かつ重要な問題を題材として扱っており,ゲーム感覚で問題に取り組むことにより、利用者の学習に対する興味をひく効果を期待して作成を行った.ソフトを通じて問題の解き方を考える事によって理解が深まる効果も同時に期待する.また,これら二つの効果をより大きく得るために,ソフトのプレイ形式を一人用ではなく,ネットワークを利用した多人数参加型の形式にしているのが本ソフトの大きな特徴である.多人数で協力しながら問題を解いていく過程で,問題に対する興味の向上および理解の向上を図るのが本ソフトのねらいである.