目次/はじめに/何を目指したか/機器構成/校内情報化/実践(プロジェクト)/成果と課題/最後に 次へ
6 成果と課題(子どもたちにどんな変容があり、どんな力が付いたか)
(1)子ども達への情報環境の提供はできたか。
ア 自分の考えで自由に構成できる一人一人のホームページと作る技術が与えられる。
イ VODや文書、リンク集でデジタル化された情報が提供される。
ウ 調べたこと、学習したことを付け加えられる「新東なんでも情報館」がある。
エ 交流の窓口を持つ、一人一人にメールアドレスがある。
以上の4項目が子ども達に提供した情報環境だが、
ア については、自由に構成できるページ
に、子ども達が、自由に向かい始めている。作成技術は3年生が修得を始めている。3年生は、写真を取り入れ、文書を書き、ページからのリンクが出来るようになっている。(論文作成時点で)4年生以上はそれに加えて、ビデオキャプチャーと簡単な編集が行えるという状況まで技術を持たせることが出来た。主に、総合的学習の時間が使われ、3,4年生で修得する技術として位置づけている。
イ については、教師によるコンテンツ作りと子ども達が独自に作り上げたものがあり、量は増えているが、活用については、始められたばかりの取り組みであることから、活用すること自体に慣れてないというのが実態である。一人一人のページからビデオや音楽へのリンクが始まった程度である。VODは、授業で有効に活用されている。
ウ 子どもの「新東小学校に関するデータベース」作り、調べ学習の蓄積が進んでおり、さらに大きなものへと発展していけるように思える。百科辞典的にデータベースが使えるようにするのがこれからの目標である。
エ hotmailの活用が行われている。Webメールなので多少不便なところもあるが、有効な活用が図られつつある。(米作り、宿泊学習、他校との連絡などは学校のメールアドレスを使って行っている)
子どもへの情報環境の提供は計画通りに進んでいる。
(2)子ども達は提供された環境にどのように対応し得たか。
各プロジェクトの中で、子ども達がどのようなうごきをしていたのか、以下の項目ごとに成果を見てみたい。
ア 一人一人のホームページの成果
(ア) ページの中身は
1,2年生については、担任がデジタルカメラで撮影した顔写真や活動している姿、作品を一人一人のページ載せている。3年生以上は、授業で制作した作品が共通で載せられ、それ以外は独自のページが構成されている。趣味や家族の状況、収集しているものといったプロフィール、創作詩、創作物語、調べ学習のリンク集、本の紹介などが多くのページに載せられている。
宿泊学習プロジェクトの実行委員や現地集合班の班長、米作りプロジェクトの農業長、新東生物学研究所プロジェクトの所長など、プロジェクトの中心になった子どものページには関連の情報が載せられ、そのページを中心にプロジェクトが進行していった。また、中心になった子ども達は、ページにまとめることで、全体の流れを掌握し、方向性を示していけたように思える。(これらのプロジェクトはあらかじめ指導計画があるわけではなく、教師と子どもの話し合いでいろいろな方向への発展ができるようにしている)
好きな物語のビデオ、ビデオ日記、音楽へのリンクなどが行われている。特に、宿泊学習の下見のビデオ、運動会の鼓笛練習ビデオ、創作ダンスビデオは何人もの子どもからリンクされ、資料として活用されている。
ここでは、自分なりの構成でページが作られているということが評価できるのではないかと思える。「自ら考え」の第一歩がスタートできたように思える。
各プロジェクトは自己実現を目的に進められる。プロジェクトが進行する過程で、子どもの願望を表面化させ、子どもは、実現するための手段を考え、実現のための活動を展開する。中心になった子どものページは、そのように構成されている。
(イ) 一人一人のホームページの相互関連づけの状況
友達、プロジェクトを行っている仲間の相互リンクが行われているが、知識を得るための子ども同士のリンクはまだできてない。○○に関する情報は△△さんのページにあるからリンクするという段階に至ってないが、(まだ、一人一人のページが知的財産に値するものになってないことも要因であるが、共有化ということに、子どもばかりではなく、教師自身も慣れてないことが大きな要因である)、興味のあるものへのリンク集のあるページへのリンクが作られ始めているのは、徐々に知的財産への意識が芽生えてきたからだと考えられる。
(ウ) 共同性について
自分を公開し、お互いに評価し、自分の情報は他の人の情報でもあるという共同性を高められるには、更に時間がかかる。情報化社会の光の面を積極的に推進するためには、共同性を持つ情報を互いに努力し作り上げるという体験が小・中学校段階に必要なのではないかと思う。自分のノートをいつでも公開し、誰にでも見られるようにしているような「一人一人がホームページを持つ」取り組みは、教師も経験がないことであり、十分理解するには努力が必要である。
イ 情報館を作る、データを蓄積する試みでは、
子どもは、電話で問い合わせ教えてもらう、本から調べる、直接人に聞くなど様々な手段を使って情報を収集してくるが、人との交流からいろいろな情報を提供してもらっているのがほとんどである。
そこには、会話があり、自分を尊重してくれる大人がいた。小学生という時期は、自分中心から他を意識し、社会を意識していく、最初の時期である。対等に自分が扱ってもらえる経験は自立していく上で重要なことであったように思う。データを収集する過程から得られるものが多いことは予想していたが、公的な立場の大人と話をすること、やりとりをすることが子どもの変容に果たす役割が、予想以上に大きかった。
「手に汗しながら受話器を握り、終わると大きなため息」をついている姿を見ると、その大きさが分かる。二度目に、より適切な言葉遣いに進歩している。
データの蓄積を図る上で、表計算ソフトを使い、データを入力し、グラフを作成するという情報処理のいくつかを体験し、技術として習得していき、効果のある表現ができるように、適切なグラフを選び、構成している。ホームページからのリンクをすることで、みんなに見える様にする。処理したデータから自分の考えをまとめ、発表する。行動に移した子どももいた。自分のデータを作り上げることで、ものの見方を養うことができたように思える。また、自分の作ったデータが人に役立っているとの認識は、動機付けに大きな寄与をしているように思える。
ウ 人とのかかわりに果たした役割
全てのプロジェクトで、学校以外の大人との関わりを持っている。情報関係だけに限ってみると、メールによる関わりが大きな割合を占める。5年生は米の注文で全国にわたる50人以上の人とメールの交換をし、米の注文量などについて交渉をした。宿泊学習では、メールや電話で情報を提供してくれた人と、実施当日に直接会う場面も見られた。栽培での他校との交流、ケナフや米作りについての情報交換、パソコンクラブ同士のメール交換など、メールの使用が日常化しつつある。
メールを前にして判断せざるを得ない状況にも遭遇し、子どもが判断した結果がメールで相手に伝えられ、プロジェクトが進行するという場面の設定がいくつもできている。
相手がある、相手と共に高めあうという学習は、新東小学校にとっては未知の分野である。Web学級日誌というプロジェクトに参加しようとしている(全国100校程度の学校が学級単位で参加し、学級日誌を付けよう、学級日誌は参加している各学校から自由に見ることが出来、また、いくつかの学校が集まり共同プロジェクトを計画し、進めることも出来る)、この交流からやるべき事が見えてくるように思える。成果を報告できる日を期待していただきたい。
(3)情報モラルについて
著作物、個人情報に関するモラルは教えなければならないが、情報の作り手と受け手が同じ校舎にいる環境では、実生活上のモラルが情報モラルになっており、相手への配慮、基本的なルールについては、日常生活で考えさせることでモラルを構築できている。性や暴力等有害情報についても日常生活の延長上に考えていけるのである。特に、小規模校(全児童65名)という環境の中では、日常的に接することで一人一人の有害情報への考えを把握し、指導できる状況にある。
情報への疑問 宿泊学習で、インターネットから情報を取り出しグループ別行動の(現地集合の)コース作りを行った。インターネットからのイメージと現地で行動することで、情報がどれだけ正しく、また、情報から得たイメージがどれだけ実際のものに近いかを比べることになった。ネット上の写真から広い売り場を想像していたが実際はかなり狭い場所だった土産物売り場、ネット上ではあるはずの販売店が存在しないなど、情報と実際の差を体験的に学ぶ機会が得られている。