第9回上月情報教育賞 研究論文
 
〜 教育コミュニティの創設・再生・発展を目指すASK-NETプロジェクト 〜
 
 
5.ASK-NETプロジェクトの1999〜2001年の成果
5.7 「情報教育」を後ろ支えするASK-NETプロジェクト
 ASK-NETプロジェクトと「情報教育」のかかわりについてまとめる。
 現時点でのASK-NETプロジェクトは、いわゆる情報教育における具体的な授業実践という観点からは有意な成果がつかめていない状況にある。しかし、中等教育における「情報教育」の推進という観点からは、ASK-NETは情報を活用しやすい環境を構築するという点で大きな進歩をもたらしている。
 以下にASK-NETによる「情報教育」につながる成果をあげる。
 1)椙山女学園での社会科発表授業での実践例
 椙山女学園高校では、社会科の授業の一環で、3年時にテーマを選び、グループでそのテーマについて調査し、発表するという実践を数年前から行っている。しかし、インターネットの普及によって、たくさんの情報を収集してくるが、発表時に、あまり魅力のない発表になってしまう場合が増加した。それに対し、サマーセミナーで自分の選んだテーマに近い講座を選んで、そこで聞いてきた話をもとに、テーマをまとめた生徒の発表は、話はうまくなくても、生徒たちも集中する発表になるという傾向が生まれた。
 この件から、「情報が簡単に検索できるようになり、情報を集めてくることだけで理解した気持ちにさせてしまうというインターネットの副作用ではないか。人から直接聞いた話は、臨場感をもって自分のなかに落ちるので、伝えたい内容への思いが強くなり、結果的にはいい発表になるのでは」という指摘が教員の中からされるようになり、椙山女学園高校では、サマーセミナーを社会科発表授業での実践のなかに取り込み、サマーセミナーホームページの検索も利用させながら、講座にできるだけ参加するように進めたところ、非常に優れたレポートが生まれる社会科授業実践へと育っている。これはASK-NETをバーチャルとリアルの架け橋としてうまく利用しているひとつの例である。
 2)「情報活用の実践力」を自己獲得していく高校生フェスティバル実行委員たち
 高校生フェスティバル実行委員会は、ホームページを生徒同士の全国交流に積極的に活かしている。「どうしたら自分たちのフェスティバルに人をきてもらうか?」「どうしたらさまざまな人とのつながりが生まれるか」という問題を自分の頭で考え、自発的な創意工夫によって、掲示板へ書き込んだり、相互リンクの協力体制をつくったりと、多角的な情報発信、交流を行っている。特筆すべき点は、「インターネット」だけにならない点だ。やはり基本となるのは、人から人への直接の呼びかけであり、人と実際に会うことでの人間関係を広げることを基本としながら、距離を越えて深めるひとつのツールとしてインターネットを位置づけ、山形や仙台、神奈川などの高校生ネットワークと連携を進めている。
 こうしたひとつの学校外の教育活動の充実は、学校内へ還流をしていき、学校の「情報」活用を推し進めるエネルギーとなっている。
 
 我々の基本姿勢は、コミュニティにITを溶け込ませることであり、コミュニティがITのインターフェースを充実させられれば、授業において「情報」の活用を進めるときに、街の市民とのコラボレーション等を生み出しやすくなることは間違いない。
 いずれにしても、いわゆる狭義の「情報教育」の成果として評価される範疇に入ってくるのはこれからであり、さらにプロジェクトを進めていきたいと考えている。