3DCGを用いた新体操のインタラクティブ・ルールブックの開発
グループ名 |
MOTION LAB |
代表者名 |
曽我 麻佐子 (龍谷大学理工学部) |
開発研究分担者 |
木下 洋佑 (龍谷大学理工学部4年) |
開発研究助言者 |
明神 由佳 (龍谷大学体操競技部技術指導者) |
新体操3Dルールブックのページ http://www.motionlab.jp/rg/
目次
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本研究では,人体アニメーションデータを3Dデジタルアーカイブとして蓄積し,教育やエンターテイメントの分野で実用できる新しいシステムの開発を目的としている.そこで,モーションキャプチャシステムで取得した人体アニメーションとWeb3D技術を利用し,新体操の基本動作およびルールの学習を支援するシステムの開発を行った.本システムは,主に生徒や学生が主体となって自主的に,かつ楽しみながら新体操のルールを学習することを想定している.具体的には,リストから選択した基本動作に対応する3DCGアニメーションを随時再生可能なシステムを開発した.3Dルールブックの利点として,動作を好みの角度から確認できる点,アニメーションの再生を制御できる点などが挙げられる.対象とする動作は,女子新体操競技の国内大会で一般的に使用される範囲とし,40種類75個の基本動作とした.システムはJavaアプレットで実現し,3Dアニメーションデータの利点を効果的に活かしたインタラクティブ機能として,視点の変更,衣装の変更を行えるようにした.さらに,教育的効果を考慮し,動作の細かい注意点を3Dアニメーションと同時に表示する機能を実装した.本研究で開発したシステムを新体操の指導者および現役の選手に使用してもらったところ,中高生や初心者を対象とした自主学習システムとして有用であると評価された.
本研究では,モーションキャプチャシステムで取得した人体アニメーションを3Dデジタルアーカイブとして蓄積し,教育やエンターテイメントの分野で実用できる新しいシステムの開発を目的としている.特に,多くの人が手軽に利用できるようにするために,インターネット上で公開できるシステムの開発を目的としている.今回は,新体操を対象にし,3DCGを用いたインタラクティブ・ルールブックの開発を行った.新体操を選択した理由は,中学校や高等学校の部活動で多くの生徒が自主的に取り組んでいるため,生徒や学生を対象とした学習支援システムとしての需要が期待されるからである.
新体操には難度と呼ばれる基本動作が存在し,競技における演技構成の得点は,演技中に含まれる難度の種類や数によって決まる.既存のルールブックは,数個のイラストで表現した2次元の静止情報であるため,実際の動作を理解するのがむずかしい.そこで本研究では,図1に示すように,新体操の基本動作を3DCGによるアニメーションで表現することで,視覚的に理解し易いルールブックの開発を行った.
図1 3DCGによるアニメーションの例
本システムは,基本動作のリストから目的の動作を選択すると,それに対応するアニメーションを3DCGで随時再生することができる.その際,動作の説明や難度,点数,新体操特有の記号,注意点なども同時に閲覧することができる.難度と点数は,2007年2月現在のルール[1][2]に従ったものであり,注意点は,新体操の第一種審判免許取得者の監修により,独自に追加した.3Dルールブックの利点として,動作を好みの角度から確認できる点,アニメーションの再生を制御できる点などが挙げられる.また,インタラクティブ機能として,衣装の変更機能,動作の注意点をCGと同時に表示する機能も実験的に実装した.
開発環境には, Windows XPのPCとDemicron社のWeb3Dコンテンツ開発ソフトであるWireFusion4.1.19[3]を使用した.本システムは,Javaアプレットで実現しているので,Java 1.1以降に対応したブラウザがあればOSに依存しないで実行できる. 開発したシステムは,以下のWebページで公開している.
・新体操3Dルールブックのページ http://www.motionlab.jp/rg/
新体操の第一種審判免許取得者に協力してもらい,本研究で対象とする基本動作の選定を行った.対象とする動作は,女子新体操競技の国内大会で一般的に使用される範囲とし,40種類75個の基本動作とした.新体操はルールの改訂が頻繁に行われるため,今回は普遍的な基本動作のみを対象とし,使用頻度の低いものは一部除外した.
次に,選定した基本動作の分類を行った.本研究では,次の三段階で分類した.まず,第一段階として,採点規則[1]に記載されているカテゴリを基準にし,ジャンプ,バランス,ピヴォット,柔軟の4つに分類した.第二段階では,動作の種類で分類した.第三段階では,アレンジを含めて個々の基本動作を特定できるようにした.表1に基本動作の分類と個数を示す.付録に,今回対象とした基本動作の一覧を示す.
表1 基本動作の分類と個数
第一段階 |
第二段階 |
第三段階 |
ジャンプ |
10種類 |
14個 |
バランス |
11種類 |
23個 |
ピヴォット |
7種類 |
10個 |
柔軟 |
12種類 |
28個 |
合計 |
40種類 |
75個 |
新体操のモーションデータは,光学式モーションキャプチャシステムを使用し,現役の新体操選手の実演により取得した.光学式モーションキャプチャシステムは,身体に反射マーカーを装着し,複数の赤外線カメラで撮影することで,マーカーの3D空間での位置を測定する方法である.本研究で対象とした75個の基本動作のうち,26個は2004年に取得したものを使用した.残りの49個は2006年に新たに収録した.図2にモーションデータ収録の様子を示す.
龍谷大学体操競技部 百瀬仁美さん(2004年) |
龍谷大学体操競技部 三溝明日香さん(2006年) |
図2 モーションキャプチャによるデータ収録の様子
(場所:立命館大学アートリサーチセンター)
図3にシステムの実行画面を示す.GUIは,(1)動作リスト,(2)動作詳細エリア,(3)3D空間,(4)再生制御エリアの4つの部分で構成されている.
(1) 動作リスト............ 基本動作のリストが階層的に表示される.動作の選択に使用する.
(2) 動作詳細エリア... 選択した動作の名称,難度,点数,記号,動作の説明,注意事項が表示される.
(3) 3D空間.............. CGアニメーションが表示される.マウス操作による視点変更が可能である.
(4) 再生制御エリア... 再生,一時停止,停止ボタン,およびスライドバーを使用することで,アニメーションの再生制御が可能である.また,視点変更ボタンで,あらかじめ用意された5つの視点に切り替えることもできる.
図3 新体操3Dルールブックの実行画面
操作手順は以下の通りである.
(1) 動作リスト上部に表示された第一段階の分類(ジャンプ,バランス,ピヴォット,柔軟)から一つを選択すると,その分類に属する基本動作のリストが表示される.
(2) 表示された基本動作リストの中から目的の動作を選択すると,3D空間において,その動作に対応するCGアニメーションが再生される.同時に,動作詳細エリアに動作の詳細情報が表示される.
(3) 必要に応じて,視点の変更,再生制御,衣装の切り替えを行う.
3Dアニメーションデータの利点を効果的に活かしたインタラクティブ機能として,(1)視点の変更,(2)衣装の変更,(3)動作の注意点表示が可能である.
(1) 視点の変更
3D空間内でマウスを操作することで,視点を自由に変更することができる.具体的には,マウスの左ボタンを押しながらドラッグすることで視点の回転,右ボタンを押しながらドラッグすることで拡大・縮小,左右のボタンを同時に押しながらドラッグすることで平行移動が可能である.また,再生制御エリアの視点変更ボタンを使用すると,あらかじめ用意された視点に切り替えることができる.視点変更ボタンは,Front(正面),Back(背面),Left(左),Right(右),Top(上)の5つに対応している.図4は各視点から見た基本動作の一例である.
Front |
Left Right
Back Top |
図4 各視点から見た基本動作の一例
(2) 衣装の変更
3D空間の右上にある衣装のアイコンをクリックすると,CGキャラクタの衣装を変更することができる.図5は衣装を切り替えた例である.
図5 衣装の変更例
(3) 注意点の表示
3D空間右上にある注意点表示ボタンを押すと,動作の注意点をCGと同時に表示することができる.図6は注意点の表示例である.
図6 注意点の表示例
開発したソフトを新体操の現役選手に使用してもらったところ,75個のデータを全て揃えることができたことや,再生制御が便利であることから,新体操のルールを学習するシステムとして十分有用であると評価された[4][5].しかし,一部のCGアニメーションにおいて,手本となる動作を厳密に再現していないものがあるため,教育者を対象としたシステムとしては,まだ不十分であるという意見も得られた.今後も,最新版のルールに適応させながら,CGアニメーションの質や機能の向上を行い,継続的にシステムの更新を行っていく予定である[6].
モーションデータ収録にあたっては立命館大学アートリサーチセンターをお借りした.新体操の実演をして頂いた百瀬仁美氏,三溝明日香氏,モーションデータ収録に協力頂いた京都府中小企業技術センターの松井洋泰氏,龍谷大学体育局体操競技部の学生,立命館大学八村研究室の学生に謝意を表する.
[1] 日本体操協会:採点規則 新体操女子2005
[2] 2007年第一種女子新体操技術研修会資料(2007.1)
[3] Demicron:WireFusion 4.1.19,http://www.demicron.jp/wirefusion/
[4] 曽我麻佐子,木下洋佑:Web3D技術とモーションデータを用いた舞踊学習支援システム〜新体操のインタラクティブ・ルールブックの開発〜,第18回龍谷大学新春技術講演会(2007.1)
[5] 木下洋佑:Web3D技術を用いた新体操の学習支援システムの開発,平成18年度龍谷大学理工学部情報メディア学科特別研究報告書(2007.1)
[6] 木下洋佑,曽我麻佐子:Web3D技術を用いた新体操のインタラクティブ・ルールブックの試作,インタラクション2007(2007.3),http://www.interaction-ipsj.org/