テレビ会議システムを利用した学習指導における教育技術の開発研究

 

 

京都市立下鴨中学校   教頭  友野  瑶子

 

  研究の概要

(1) テーマ設定の理由

    21世紀に入り情報技術は日進月歩の勢いで進歩をとげており、それが日常生活にも大きな影響を及ぼしている。その中で、子供たちの価値観や意識が従来のものとは変わってきていることが、授業中でも実感されるが、そのことは多くの人々によっても指摘されている。それに対応する教師も黒板とチョークを使って教えるという体質から、様々なメディアを活用した学習を中心とした授業へ変わることが期待されている。

このような教育実践は教師が個々ばらばらに行うのでなく、教師同士の情報交流による学習指導法の開発がきわめて重要である。テレビ会議システムは、子供たちの授業交流というだけでなく、教師の教育実践を研究交流するためにも活用できるので、情報交換を円滑に行いながら、この情報社会での教育に主体的に対応すべきと考えている。

  テレビ会議システムでの交流授業はスタートしたばかりである。2校または3校が交流することによって、「閉ざされた授業」から「開かれた授業」へとかわるであろうし、生徒、教師ともにこのことにより、発想の転換を迫られて、自分の授業を内部から見るだけでなく、鳥瞰的に考察できるであろうと考えている。今回の実践では、生徒、教師共にはじめての経験であるが、今までの取り組みの中でさまざまな波及効果も期待できるようになってくると実感しているので問題の所在を次のように考えた。

 

1.             テレビ会議システムの双方向通信機能は授業実践にどのような効果をもつか

2.             2校間の生徒同士教えあい学習をする際の教師の支援方法はどのようなものか

3.             双方向交流では教師にどのような指導能力が要求されるか

4、  数学の1単元の中でのテレビ会議を使うメリットになる場面はどこか。

以上のような問題意識で研究主題を設定した。

 

(2)  研究の方法

 

        研究の枠組み  

        (ア) データの収集方法

        テレビ会議システムを使った交流授業を2校とも録画する。また、授業終了後、       

       刺激回想法により、教師の判断を記録する。

        (イ)分析方法

            打ち合わせ

      

             授業設計

              

             授業実施

 

           ビデオによる録画  ビデオ分析               

             発問の文章化

               

              指導概念

    収集したデータを文章化するとともに、教師の授業中における意識を詳細に記述する。それらをもとに、授業中の行為と、その場面での意図や意識を繰り返し質的に分析し、指導法の概念化を図る。

   

 

        (ウ)    教科と領域   

          数学科 

 

領域

内容

授業1

課題学習

小町算」と正八面体の展開図

授業2

課題学習

スポーツテストでは?

授業3

総合的な学習

水質検査(3校)

授業4

平面図形

1種類で敷き詰める

授業5

平面図形

2,3種類で敷き詰める

授業6

課題学習

1から10までで100をつくる

授業7

平面図形

1種類で敷き詰める

授業8

空間図形

理想の学校を作ろう

          

        社会科(総合的な学習の時間) 

      リサイクルについて考える

 

使用ソフト     テレビ会議システム(phoenix)

 

  実施した授業と分析結果

 

(1)授業実施にあたっての基本的考え方と授業の記述

 

  テレビ会議システムを使用して、2校が交流授業をする主な目的は「いかに論理的に明確に相手に考えを伝えることができるか」であると考えた。

その際にFaxでなく、電話でもなく、電子メールやインターネットでもなく、テレビ会議システムで行う授業のメリットは何か?問題点は何かを浮き彫りにすることを目的とする。

 

(ア)数学科の授業で

 

数学での実践を平成9年より行った。 そして授業分析システム(西之園 晴夫氏 開発)に入力した。実施した授業は発言を記述することによって授業文節に分けた。各文節の記述については、要旨とそこでの中心的課題と、発言者を記述した。各授業の発言を記録したが、授業分析システムの精選データの一部を後の資料1に添付してある。授業実践は表1の授業3で、3校のテレビ会議で水質検査について取り上げたものである。

精選データにすべての発言を記録したものを、その発言内容をカテゴリーに分けて考えた。そのカデゴリデータは次ページのようであった。初めはどこの学校も教師が多く話しているが授業後半には生徒どうしの交流が多くなってきている。

 

発言の中でテレビ会議特有な教師の行動について特に興味深かったのは、何校かと行った結果、どこも、問題提示を行うと、事前の打ち合わせになかったことだが、「それでは、〜〜〜〜〜〜について考えてみましょう」と必ず自校の生徒だけを対象に問題を繰り返すことであった。流れてくる問題提示では、徹底していないという判断からの、とっさの行動であるが、教師の習性であろうか。どの場合も同じであったことに奇異を感じた。

 

カテゴリーデータ

 

 

 

 

A校生徒の発言

A校教師発言

B校生徒発言

B校教師発言

C校生徒発言

C校教師発言

回答の補充

授業設定の賞賛

授業運営に対する回答

説明の繰り返し

質問

授業運営

 

例示

要請

解説

 

授業運営

 

授業運営に対する回答

 

おどろき

 

提示

 

解説の繰り返し

 

問題点の説明

 

授業運営に対する質問

 

要請への応答

 

質問に対する回答

 

解説

 

質問の繰り返し

 

 

 

演示

 

ヒント

 

 

 

質問

 

操作の指示

 

 

 

ヒント

 

指示

 

 

 

指示

子どもも大人も聴く力が落ちているといわれて久しいが、何回も繰り返すことが日常的に行われているために注意して聴く姿勢が少なくなっているのかもしれない。何人かの生徒に指名して、「今の問題を自分の言葉で述べてみてください」のほうが、定着するのではなかったかと支援方法を見直さなければならないと感じた。

また、時間的にみても後半生徒の発言がでてきたといっても、教師が話している時間が圧倒的に多い。これも教師の習性であろうが、よほどのことがない限り教師が他校の生徒を対象に教えることは、テレビ会議では効果はなく生徒たちを素通りしていると感じた。

 

この授業3では水質検査の方法を自校では取り組んでいない比色計という実物を見せてもらって、色が水質によって変わるという映像で見るとよくわかるという授業設計であった。しかしそれも教師が演示するのでなく、生徒が演示し、生徒の質問をもっと受け付ける工夫を取り入れた授業設計であるとさらに生徒達に定着したのではないか。

数少ない実践であるし、普段の授業のように工夫してもう一度という実践ができないのが難点であるだけに、事前に素通りしないための工夫が必要であるし、教え込む授業は考えなおさなければならないとも感じた。

 

ア 授業実践

 

数学科の授業1から授業8までの授業の一覧が表1のようである。テレビ会議システムの映像と音声を数学の授業で生かせる領域は何かを追求し、授業を工夫した。

図形領域

@ 正八面体の展開図の種類を映像に映すことにより理解する。 

A 1種類の正多角形で平面を敷き詰めるとどんな考察ができるか理解する。

B        2,3種類の正多角形で平面を敷き詰めるとどんな考察ができるか理解する。

C        平面を1つの図形で敷き詰めた作品交流とその思考過程の交流をする。

D        空間図形で理想の学校を組み立てたものを交流し、製作物の交流をすることによって思考過程の交流をする。

数式領域

@ 1から10までの数で100を作ろう。

 A 小町算の結果を比較しあう。

数量関係

@ スポーツテストの結果をグラフに表して比較することによって考察する。

A 水質検査を半年間を事前に測定しておき、その結果から考察する

 

イ 生徒の活動

 

 中学校の教育課程の中で、数学での領域に、数式、数量、図形の3領域がある。

その中で生徒がつける力を教科書から拾い上げた表が資料2である。

それに比してテレビ会議での授業での生徒の活動は次のように考えられる。

   

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 生徒の活動の動詞の資料2表1による実践事例の中の生徒の活動の表を比較してみる。そうすると、取り上げた教材の特性が課題学習という領域や1単元にとらわれない範囲であった理由にもよるが、数学教科書の中にある動詞だけではない。

 

テレビ会議において生徒の数学的態度として

「比較する」  「比較してチェックする」  「単純化する」  「類別化する」

「発表する」 「発表の工夫をする」 「相手の工夫を理解する」

「考察を述べ合う」 「考察を聞く」 「討議する」

があげられる。

 

問題解決の過程

用いられる態度

(1)問題形成・把握

 

自ら進んで自己の問題や目的・内容を明らかに把握しようとする。

内容を簡潔明確に表現しようとする。

(2)見通しを立てる

筋道の立った行動をしようとする。

(3)解決の実行

 

筋道の立った行動をしようとする。

(4)論理的組織化

筋道の立った行動をしようとする

内容を簡潔明確に表現しようとする

(5)検証

よりよいものを求めようとする。

「数学的な態度」として片桐氏は次のように考えている。

 

1、        自ら進んで自己の問題や目的・内容を明解に把握しようとする。

@        疑問を持とうとする。

A        問題意識を持とうとする。

B        事象の中から数学的な問題を見つけようとする。

2、        筋道の立った行動をしようとする。

@        目的にあった行動をしようとする。

A        見通しを立てようとする。

B        使える資料や既習事項、仮定に基づいて考えようとする。

3、        内容を簡潔明確に表現しようとする。

@        問題や結果を簡潔明解に記録したり、伝えたりしようとする。

A        分類整理して表そうとする。

4、        よりよいものを求めようとする。

@        思考を対象的思考から、操作的思考に高めようとする。

A        自他の思考とその結果を評価し、洗練しようとする。

 

数学的な考え方・態度の構造として問題解決過程を

@        問題形成・把握、A 見通しを立てる B 解決の実行 C 解の論理的組織化

D        検証  

に分けると(片桐氏による)テレビ会議での今回の実践例は問題解決過程の「論理的組織化」と「検証」の段階で行っていることが多かった。

 

生徒たちが理解なり、考察したものを発表したり質問したりすることがないとテレビ会議で交流が成り立たない。また問題解決の過程の中で「論理的組織化」する段階で内容を簡潔明確に表現しようとする学習行動のときにテレビ会議は大変大きな意味をもつ。これは、思考を進めていく時、対象となるものをできるだけ明確に把握し、これを簡潔明解に表現しようとすることが必要であることを日常的に行っていてこそである。

内容を簡潔明解に表現しなかったために、整理できなかったり、誤解をまねくことはよく経験することである。

「閉ざされた空間」の中でもなかなか至難のことをさらに「開かれた空間」の相手側に意を尽くして伝えることはさらに至難の業である。しかし生徒たちは映像という技術を駆使して、それを伝えようと必死の努力をする。その動機づけとしてはテレビ会議は大変有効な方法であることは今までの授業で確信を得ている。

また、数学で問題が解ければよいということでなく、その時に使われた方法や考え方を反省し、的確につかみ、これらの内容や考え方をできるだけ簡潔、明解に表現するようにする。それは他人に自分の考えを正しく伝えるということと共に、自分の反省の為に必要なことである。

テレビ会議では他に伝えようという行動が「閉ざされた空間」よりもより多く確実になされている。意欲をもって積極的に生徒達がかかわろうとしている。

そのために普段なら意識せずに発表し、言葉にだしていたものを、大変慎重に、練って言葉にだすことが多い。また映像を使って説明をすることに今の生徒達は大変積極的に取り組む。

こんな実践があった。一種類の図形で平面を敷き詰めようということでいろいろな図形の敷き詰めを2校で交流した授業7において、「春よ来い」の敷き詰めを考えた生徒へ

「どのようにして考えることができたのか」という質問に対して、「画用紙をこのようにして折り込んで、また広げて考えました」と実演をして見せてくれた。教師の演示では感動を示さなかった生徒が食い入るように画面を見つめ、感動の声さえ出して賞賛しており、その賞賛は相手校にも伝わって、さらなる意欲に繋げることができた。

1種類の図形での敷き詰め。題「春よ来い」

 

→         →

また問題解決の過程の「検証」の段階で「より良いものを求めようとする」態度をとる。

交流前の作品

 
「開かれた空間」の中では良い意味での競争心が芽生え、特に教師が仕掛けなくても自然発生的に「よりよいものを求めようとする」態度が生まれる。2校または3校の学校が無意識のうちに自校をよりよく高めようという意識からの発露であると思われる。

 先ほどの授業7の敷き詰めの手法を交流で習った後に、再度挑戦をした成果はそれぞれの学校が大変レベルアップした作品を制作することができた。下図はその1例である。

 違うクラス風土にふれることで、競争心が芽生え、1クラスだけでは得ることのできなかったアイデアを得ることができ、それを自分に取り込むことができたと確信している。

テキスト ボックス:

交流前の作品

 

交流後の作品

 
 数学は何のために学ぶのかという質問を生徒からよく受けることであるがこの「よりよいものを求めようとする」 すなわち、「学ばなければならないこと、解決しなければならない問題は、私たちの生活に非常に沢山ある。これをうまく処理するにはなるべく少ない労力や思考で、できるだけ多くのものを処理していくことができればよいだろう。そのための数学的な考え方を学んでいる」というのが1つの答えであろう。

普段の数学の授業での実践もそのように心がけてはいるが、なかなか「検証」の段階まで到達しがたい。それをテレビ会議での授業では補うことが可能になる。しかし当然のことであるが、普段の授業でも「論理的組織化」や「検証」の段階を多く取り入れないと単発のテレビ会議だけでは生徒達に「よりよいものを求める力」はつかない。

「よりよいものを求める」とは次のように考える。

A より美しいものを求める。

B より合理的なものを求める。

C より新しいものを求める。

D より確実なものを求める。

等と考えられる。それはすなわち21世紀に求められる子ども像であり、それが「開かれた空間」では「閉ざされた空間」よりよく、動機づけを含めて実現することが可能になることを実感している。

 

ウ 求められる教師の発問

 

いままでの実践の中で教師の発問が「よりよいものを求める」生徒の活動に結びついたものをデータから拾ってみる。

@ どういうことが考えられるだろう。それはどんなことを根拠にして考えただろう。

  (考え方と方法)

A     もっと簡単に言えませんか

(合理的思考)

B グラフで表してみよう。

(方法の示唆)

C これと同じようなことをした人はいませんか

  (方法の比較)

D        もっとありませんか。それを考えるにはどんな方法があるだろう。

   (発展と方法)

E        敷き詰められるにはどんな条件があればよいか

(演繹)

等の質問に従って生徒達が考えをめぐらしている。

2校の生徒に対する発問であるので、80人近くを動かす質問としてこれからまだまだ研究を重ね、事前の協議でもっともっと検討なされなければならない分野であろう。

 

(2)社会科授業(総合的な学習の時間)

 

  「リサイクルについて考えよう」をテーマに愛知県安城市安城西中学校とテレビ会議を2年生社会科の授業でおこなった。

ディベート形式でリサイクル積極的推進派と消極的推進派に両校がわかれて議論を行った。

安城西中学校は総合的な学習の時間に11個のものについて、いろいろな場所を訪ね、どのようにリサイクルをおこなっているかを調べていた。その結果をもって交流授業に臨んだ。調べてきた自分が分担した物のリサイクルについて物を見せたり、自分の考えもいれながら、3分程度の発表を行っているのを、他方の学級は聞き役であった。

 

 

50分間一方的に聞き役であれば、集中が途切れる生徒も多いが、3分弱で終わるのと、マイクの受け渡しのタイミングでうまく集中が持続した。そのポイントとなったのは教師の時間を考えながらの話題の振り方、深め方であった。支援方法力がまさに問われようとしている。

教師技術とは教育専門職としての教師の技術をさすと考えているが、いままで職人芸的な要素が多く、それが一般化されなかったことが教育界の低迷につながっているという指摘がある。

 

今回の実践では数日前に交流依頼をうけ、安城西中学校とテレビ会議で準備、打ち合わせを数回行っての慌しい実践であった。コミュニケーションのやりとりの難しさもさることながら、内容については、どんなとっさの質問に対してもこたえられること、議論の方向性を決める判断力等、幅広く、しかも深い知見を教師に要求されることを実感した実践であった。資料3(P.19)にそのときの生徒の意見を掲載してある。氏名は今回は省いたが、リサイクルに対して調べた結果の意見が紙上で発表されている。そのプリントは事前に電子メールで送ってもらい。生徒一人づつに配布されてもっている。それを見ながら発表を聞き、質問をするという形をとった。

普段から意見をしっかりと持ち、まとめて述べることができていることがこの授業でも臨機応変に、自在に自分の意見を述べることができることにつながると強く感じた実践であった。一言にコミュニケーション能力の開発、支援といっても、細かくその能力を分析してその力を伸ばす授業が、受身でなく行わなければならない。どの教科でも数多く行われることが、生徒たちが身構えずに体得したものとするためにも必要なことである。

 

相手校の感想は次のようであった。

 

生徒の感想

               よかったことは向こうの人が質問していたこと。

               下鴨中の人もちゃんと反応してくれてよかった。1時間だけ短かったのでもう少しやりたかった。

               いろんな人の意見が聞けてよかったけど、中途半端に終わってしまったので残念でした。

               もっと下鴨中学校の意見が聞きたかった。

               初めてちがう学校と話せた。もう少し時間があればもっと話せた。

               京都の人達の言葉がちがってびっくりした。

               ふつうに電話しているのと違ってとてもわかりやすかった。

               テレビ会議は緊張した。

               向こうの学校の制服がみれてよかった。かわいい制服だった。やっぱり声だけより映像があるといいなと思いました

 

 

相手校教諭の感想

 

 テレビ会議をやってみたかったですが、実際にはかなり高いハードルがありました。まず相手校選びに苦労しました。引き受けていただいてありがとうございました。生徒は地域の違う生徒の意見や反応を興味をもって受け入れてくれています。学習が深まってくるにつれてひとりよがりなかんがえになることもあるので、各方面の意見を得る1つの方法としてテレビ会議を使うのは有効な方法であると思います。テレビ会議は相手校の必要があるので、今後このシステムの有効性が他の研究によっても評価され、本校を含め導入校が増えていくことを期待しています、ご協力ありがとうございました。

 

 

(2) 問題点

 

@ 数学的な考え方を発表するには1回では聞き手は理解できにくい。

そのため、繰り返すとか相手校にもう一度述べてもらう等の工夫が必要である。

ポイントをしぼって繰り返すことが有効である。

 

A        50分間思考が連続しにくい。1対1でなく、1対多、または多対多のコミュニケーションの組み立てかたに様々な工夫が必要である。

 

B        教材によっては1時間中の交流である必要はない。ポイントをしぼった授業の組み立てかたが問題になる。

 

C なんでもテレビ会議を使えばよいのでない。ファックスや電子メール、ホームページ等それぞれの特質を活かすことが必要である。

それにともなって、指導者側になぜテレビ会議を使うのかをはっきりと意識する必要がある。またテレビ会議で交流する以前にメールやホームページ等で人的交流をしておく等の工夫が必要である。

 

D 授業の時間的配分の予測がたてにくい。また交流がうまくできるようになった頃に時間切れになることが多い。

 

E         2校、3校の連絡調整を綿密に取る必要があるが時間の調整がなかなか大変である。

 

F         相手校の様子は一部の生徒しか見えない。

 

G         カメラやマイクの使い方に教師が習熟する必要がある。

 

H         29インチ1台では情報を伝えにくい。もっと大きい画面が望ましい。

 

I         映像が途切れても授業が続けられるが。音声の調子が悪いと続けにくい。

 

J         教師が3校の生徒を把握するにはよほどの工夫が必要である。

 

K         イニシャティブを取る学校とそうでない学校との意識の差が大きい。

  事前の連絡もそうであるが、授業案を一方が立て他方が受ける形になるとそれが

意識の差となってスムースには運べない。

 

L 数学的コミュニケーション力を育てることが普段大切である。

 

 

 

 

 

 

(3)問題点から学ぶ

 

@ 発表者と発表者以外の生徒の問題

発表者とその他のフロアにいる生徒の意識の違いは大変大きい。そのため、パソコン教室等で映像が一人ひとりに写るシステムであったりするとちがった実践になり生徒の集中もつながりやすい。

そして、発表しなくても自分がその時考えた意見を書き留めることができるシステムがあれば、発表者以外の生徒の活動が50分間飽きないで続けられる。

その外にも発表者以外の生徒の集中が50分続く工夫がいろいろ必要である。

 

A    生徒把握

教師は自校の生徒把握に精一杯で他校生徒の様子まではつかみにくい。

事前の打ち合わせで他校生徒の動きまで予測した授業設計,発問の工夫が必要である。

 

B    教材の特質

テレビ会議というリアルタイムである必要があるかどうかが問題である。テレビ会議を使う必要性のあるものは、映像が必要であるもの。意見の交換が必要であるもの、等で、テレビ会議を使う必要のある授業はなにかを検討する必要がある。

どんな教材のどんな場面でテレビ会議が有効かをもっと検証する必要がある。

 

C 発問の問題

教師の発問により授業の方向性が決定するのは「閉ざされた空間」でも「開かれた空間」でも同じであるが、「開かれた空間」のほうがその重要度はさらに増す。さきに述べた生徒の学習行動の「内容を簡潔明確に表現しようとする」「よりよいものを求めようとする」活動を支援するための発問の研究がさらに必要である。

D 相手校の依頼

さまざまな形で相手校を募ったが、しり込みされることも多かった。もっと気楽に交流できることが必要である。

 

E        時間帯の調整

開始時間、終了時間の微妙なずれから、交流中に相手校のチャイムが聞こえることもたびたびあった。その時間帯にはノーチャイムにするなど学校内の教職員の協力も必要であろう。

 

F        単発にならないために

50分の1単位授業時間でははじめての交流で様子見ていて活動にかかるのが遅く、やっと終わりに活発になることがあった。2時間続きとか、連続して2日とるなどの工夫も必要である。

 

G        テレビ会議での打ち合わせ

   交流授業の打ち合わせはリハーサルを兼ねてテレビ会議で行うことが多かった。

  差し迫った問題点の解決のために、特にどのような映像で相手側に映っているかは大変興味ある課題であった。

 

H        テレビ会議の準備

機器の問題点を情報教育センターへ問合せることが多くあった。それもテレビ会議で機器を映し出しながらおこなったが、映像を映しながら行うことは大変わかりやすかった。

このことはこれからのパソコン教室等の質問には便利だと感じた。さまざまな会社のサポートセンター(パソコンソフト会社に限らず、製品の部品等の注文)には

   威力を発揮するであろう。

 

  研究の成果と今後の課題

 

(1)研究の成果

 今回の実践は生徒にとっても初めての経験であり、しかも新しい機器を活用したものであったが、次の4点について問題の所在を設定したので次のように整理した。

 

1、              テレビ会議システムの双方向通信機能は授業実践にどのような効果をもつか

 

@ 生徒は他のクラスの授業を意識して緊張感があり、学習への集中力が刺激される。

 

A 映像が見えることによる他のクラスへの臨場感があり、その刺激は大変大きい。     

   (電話での対応とでは比較にならない)

 

B    1校で行われる「閉ざされた授業」から、2校間で行われる「開かれた授業」に   なり、通常の授業とは違ったクラス風土に接することができるので、良い意味での競争心ができる。

 

C     波及効果として、その時間だけでなく、その準備段階から、またその後の授業にお  

いても、他校を意識して考える姿勢が養われる。

 

D     発表能力がきわめて重要であることを生徒達は実感できる。発表の緊張感は1空間

よりも、2空間のほうがはるかに生徒達にとって大きかった。

 

2、  2校間の生徒同士教えあい学習をする際の教師の支援方法はどのようなものか

 

@    教師の発問の分析が綿密に行われる必要がある。教師の発問により、思考が広がったり話題が広がったり、途切れたりするからである。そのことにより教師の指導法の見直しを迫られる。

 

A     生徒が司会をすることは大変有効であり、教師はそれを支援する形をとることはうまくいった。

 

B     生徒の教えあい学習を「開かれた」環境でする場合の双方の教師の生徒の動きの予測が大きな意味を持つ。そのためには普段から生徒の思考過程を予測することに習熟していなければならない。

 

C     生徒が教えあいをするのが重要であり、教師が他校の生徒にテレビ会議を通して教えることはよほど相手校の生徒の質問で要望がない限り無意味である。知識伝達授業は数学のテレビ会議交流授業にはそぐわない。

 

3、双方向交流では教師にどのような指導能力が要求されるか。

 

@ メディア操作などには生徒のほうがすぐに慣れるであろうから、教師にとって最も重要な指導能力は、いかに生徒に学習の主体性をもたせた授業を設計・実施できるかである。教師の設計能力と支援能力が問われている。

 

A     教師にとっては、日常の授業での発問よりもさらに発問の効果に注意しなければならない状況に追い込まれるので学習指導法の見直しをすることができる。

 

B     説明についても慣れた生徒ばかりを相手にするのでないから、説明は、くわしく、しかも簡潔にして言葉を十分に選ばなければならない。最近乱れた日本語を正しく使おうという気運が起こっているが、あいまいにならず、数学だからこそ簡潔な表現を教師がしなければならない。テレビ会議の時だけに意識してもできることではない。

 

C 生徒達は違ったクラス風土にふれることができることにより、クラスが「開かれた空間」になり比較することがたやすくなる。そのことにより教師が「一世界に一人」から投げ出される。どんなクラスでも通用する力が必要になってくる

 

D 「生徒の目を見ての授業ではない」メリットとデメリットがある。メリットはお互いの「慣れ」が無くなること、デメリットは生徒一人一人の体調や、状況把握や思考パターンの把握ができにくいことである。

 

E 教師が2つの教室を相手に教えるということは、よほどの理由がない限りする必要がない。よほどの興味がない限り生徒の反応は素通りしてしまうからである。

 

F        1時間の授業に少なくとも2人の教師が関わるのであるから、教師同士の事前の打ち合わせは、授業の流れを把握する上で大変大切である。しかし、臨機応変さも今まで以上に要求される。その際に簡単な指示で、流れを組み替えられる柔軟さと信頼関係が必要である。

 

G 教師の意思決定には授業時間の終わりから逆算して授業の流れを決定すること      が、今まで以上に大きく関わった。次の時間への配慮等2校の校内事情が影響するものと思われる。

 

H  授業者以外にもビデオ撮り、機器の操作、調整などの協力者が必要であった。ティームティーチングへの1つの示唆であろう。

2校間の調整、時間割調整、授業開始時間の調整など、さまざまなマネージメントが必要である。年間計画を作成して早い目に連絡調整が必要であろう。

 

 

4.  数学の1単元の中でのテレビ会議を使うメリットになる場面はどこか。

 

@ リアルタイムであること、映像が映ることは大変なメリットである。特にグラフと図形の分野で有効であった。

 

A 統計学習や、生徒達にさまざまな場面でグラフを書かせること、そのグラフを読み取ったり、意見交換をすることができる場面で大変有効であった。

 

B その際にアプリケーション共有機能をつかうことは、意見交換がスムーズに行われて有効であった。

 

C 離れた地域で、環境の違う2校の様々な要素の比較や、世界各国との比較など総合的な学習の時間の教材を数学的に「論理的に組織化」する教材として、興味ある教材と考える。

 

D 映像を見せ合うということで平面図形を敷き詰めた図形を一人一人作品の 発表をし合った。エッシャーの図形にも似たすばらしい作品を2校とも作り上げ、その意欲の高まりに脱帽するほどであった。有効であると思われる場面を想定した実践であったが、長期的な単元での交流をもっと行って、単元のどの場面でテレビ会議システムを使うことが有効かをさらに検証する必要がある。

 

E 数学で「論理的に組織化」の段階で「よりよいものを求める」ことを普段の授業で練習しておく必要がある。子どもたちは違った空間に自然発生的に競争心を持って取り組むからである。

 

(2) 今後の課題

 

生徒達にとっては、テレビ会議の授業とはどんなシステムで映像が映る等の理由に関心は全くない。通信回線であろうと、テレビであろうと、そんなことはおかまいなしに、自分達がテレビ出演しているようだ、自分が参加しているということでの盛り上がりをみせている。むしろ戸惑っているのは教師のほうである。

これからIT革命が進み、平成17年度には教室すべてにインターネット接続ができる等いろいろな条件が整備される。2校、3校間のテレビ会議での交流授業もますます進むであろう。交流授業をするには、相手校の選定、時間調整、時間割調整、授業打ち合わせ、機械の調達、調整、環境面での提示機器の設定、当日の機器操作や、ビデオ撮り、通信費がかかることの了解等のマネージメントが必要になってくる。授業者だけでは普段の授業が連続してある中で10分間休み時間にテレビ会議システムをたち上げて…..テレビ会議の授業を行い、また次の10分後には普段の授業を行うなどの忙しさの中でまだまだ気軽に取り組める環境でない。コーディネーターが欲しいと切実に感じた。

ティームティーチングの取組みや少人数授業の取組みにも応用できそうであると期待している。

1997年から2年間で行った数少ない実践の結果である。機器もさらに進歩したであろうがさらに支援方法、指導能力、指導概念への研究が必要である。

  さらに、 環境面で、もっと大きくはっきりと見ることができれば、さらにすばらしい実践となるであろう。また、マイクの使い方、映像の写し方などに教師が習熟する必要があると痛切に感じている。

 閉ざされた空間から、学習しているのは自校だけではないことがわかり、またその離れた空間へ「臨場感」を持って交流することができる感動に生徒達の眼が輝く。その輝きに押されての実践であった。

しりごみの多い中で、心よくご協力いただいた多方面の方々の協力なしでは実践できなかったことばかりである。最後に大いなる感謝を申し上げたい。

 

(協力者)  

    生徒 :京都市立下鴨中学校

           京都市立樫原中学校

           京都市立桂中学校

           京都市立小野郷中学校

           国立京都教育大学教育学部附属桃山中学校

      愛知県安城市安城西中学校

   授業者  筆者とそれぞれの学校の担当教諭(数学については京都市中学校数学教育研究会のメンバー)

           京都市立樫原中学校        西谷  浩一    百々  完之   廣瀬  忠昭 

           京都市立桂中学校          友野  瑶子が出張授業,尾崎  東洋雄

           京都市立小野郷中学校      平野  道夫  

           国立京都教育大学教育学部附属桃山中学校   武藤  明子  福住 英仁

愛知県安城市安城西中学校  川澄 貢士

 

 

引用文献

 

1片桐 重男   「問題解決過程と発問分析」 p73、74  明治図書 1995

 

参考文献                    

 

西之園  晴夫   「教育技術研究のパラダイムを利用した現職教育に関する研究」

平成10年3月

今川  仁史

                 「話し合い学習をめざした教師の教育技術についての事例研究」

 

南 裕子監修  「質的研究の基礎」グランデッド・セオリーの技法と手順 北大路書房

 

樋口康子監修  グラウンデッド・セオリー          1998 医学書院

          看護の質的研究のために

西之園 晴夫  授業の過程                 昭和58 第一法規

 

平山 満義   質的研究法による授業研究          1997 北大路書房

 

水越 敏行   「メディア」による新しい学習        1995 明治図書

 

西之園 晴夫   コンピュータによる授業設計と評価     昭和61 東京書籍

 

金本 良通    数学的コミュニケーション能力の育成    1998 明治図書

 

堂山 真一    インターネットで遠隔教育・研修      1999 NTT出版

 

野嶋 栄一郎   教育実践を記述する            2002 金子書房

          教えること・学ぶことの技法

 

久保田賢一    デジタル時代の学びの創出         2002日本文教出版

水越 敏行