3.5  歴史に見る情報


3.5.1  ねらいと概要

 昨今のマスコミの取り上げ方を見ていると、情報というものがあたかも科学技術の発展に伴ってごく最近生まれたような誤解があるが、本来二つの個体の間に何らかのやり取りがあれば、それが情報である。人が二人いて何かを伝え合う瞬間に情報は発生し、二匹の動物が餌の在り処を伝えても情報交換である。また二台の機械がデータをやり取りするのも情報交換である。ここでは人と人との情報のやり取りに限定するが、情報のやり取りが現代に始まったことではないこと、自分たちも意識しないで情報交換を日常的にしていることに気づかせる。


3.5.2  三国志を読む

 マンガの三国志[横山光輝,1985]の全60巻のうち、第1巻から順に、連続した巻を一人当たり2冊ずつ全員に配り、それぞれの巻に出てくる情報のやり取りのシーンを抜き出させ報告し合う。左隣の生徒は自分の持っている巻の直前の巻を持っており、右隣の生徒は自分の持っている巻の直後の巻を持っている。歴史を綴った物語であるため、ある程度の長さの量を読まないと、初めて読むものにとっては理解しにくい点があるという考えから2冊ずつにした。

 読み始めるに当たって、生徒には
 ・ どのような情報が
 ・ どのような手段で
 ・ 誰から誰に伝えようとされ
 ・ うまく伝わったのか、敵の手に渡ったのか
 ・ その結果状況がどのように変化したか
という視点で読むように指示した。内容的に引きこまれる生徒が多く、こうした視点は途中何度か指示して意識させないと、単に漫画を読みふけっているだけということになりかねない。また、必要に応じて、左隣の生徒に自分が読んでいるシーンの伏線を尋ねたりすることも指示した。同様に、自分の読んでいるシーンの続きを知る必要が出てくる生徒も現れ、隣同士の意見のやり取りは自然にできた。二巻を読み終えるのに約30分を要した。また、単に読むだけでなく、指示した視点についてまとめるためにもう一度読み返す必要も生じることから、予想以上に時間がかかった。

 生徒からは、手紙のやり取りや、狼煙による情報伝達、頭の飾りによる敵味方の識別などが報告された。さらに、ある情報が敵に渡ってしまった結果のダメージは企業秘密の漏洩、敵に虚偽の情報を流し敵を混乱させることは犯罪の囮捜査などというように、現代の社会における情報のやり取りにおいてもよく似た現象が見られることを理解した。またある事象を見て敵の罠と思い裏をかいたり、逆にかえって敵に術中にはまったりするなど情報の受け止め方の難しさを感じたという感想も聞かれた。

 グループ学習では一部の生徒が他人を頼ったり無責任な態度をとることがあるが、この授業では一人一人が異なる教材を用いた学習をするため他人を頼れない。こうした作業が苦手な生徒も、教材の平易さにも助けられて意見をまとめることができた。


3.5.3  生徒の感想

 ・ 歴史は苦手だが、漫画なら楽しめた。
 ・ こういう視点で漫画を読んだことがなかった。
 ・ 正しい漫画の読み方ではない。
 ・ 登場人物が多すぎて難しい。
 ・ 情報というものがそんな昔からあるとは思わなかった。
 ・ 人間って進歩していないと思った。


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