3.3  標識に見る情報


3.3.1  ねらいと概要

 前回、休み時間にパソコンを使うのは自由であるといったためか、授業が始まる前に生徒はほぼ全員そろって着席し、インターネットで自由にWeb検索していた。授業開始の合図でやめさせたが、教室移動を伴う授業でチャイムと同じに授業がはじめられることは珍しく、生徒の興味の強さを感じた。この関心の高さが持続するよう内容を高めたい。

 今回の授業ではシンボルから情報を読み取ることをテーマとすることを説明する。


3.3.2  校章に込められた意味

 生徒にとって身近であるはずの校章と学年章を教材に取り入れた。(図3-2)

校章

図3-2 兵庫県立神戸甲北高等学校の校章

 まず、生徒を中央に集め、生徒手帳にある校章を拡大コピーしてホワイトボードに貼り付けた。この校章のデザインに何が込められているかを生徒たちに尋ねた。まず、学校名から「甲」「北」「高」がデザインされていることは見たとおりである。そこから「甲」の上部が六角形にデフォルメされている理由、「北」の変形は何を意味するかの二つについて考えさせた。生徒手帳にはそのすべてが記載されているが、生徒はそうした記述があること自体知らない。常時携帯するように指導されている生徒手帳を持っていない生徒も多く、授業の本題に入る前にそうした点について指導する時間を取らざるを得なかった。

 「甲」の字が六角形にデフォルメされているのは、3つの校訓「自主」「協調」「創造」と3つの生徒信条「忍耐」「自律」「向上」を合わせた数の「6」を意味している。また、「北」は炎と兜の前立てをイメージしたデザインである。3年生にしてはじめてその意味を知らされたようだ。この授業とは関係ないが、入学時にもっと説明するなどして愛着を持たせられないかと思う。

 一方、学年章は「K(甲北の頭文字)」に学校の象徴であるアメリカ楓の木の葉をデザインしたもので学年によって色を変えてある。アメリカ楓の木の由来については毎年創立記念日に全校生に話されることであるため、この学年章については生徒もよく知っていた。


3.3.3  日本の道路標識

 校章のようなデザインに込められた意味を知らないままであっても生徒は実際の生活に困らないようだが、それに対して伝えるべき内容を、一目見て誤解なく伝えなければならないのが道路標識である。身の回りにある道路標識や商標から無意識に読み取っている情報について改めて考えさせた。

 交通の教則を見て、普段見なれている道路標識を自分たちの手で分類させた。(図3-3)

追越禁止信号スクールゾーン

図3-3 日本の道路標識

 生徒は、多数ある道路標識も形と配色で分類すると非常に単純な類型化ができることを発見していった。

 例えば、「赤い標識は禁止事項を表現し、青は許可を表す。また黄色は注意を促す標識に用いられる色であることが多い。」といったことが整理された。さらに形については円形、正方形や正三角形がほとんどで、長方形の標識の少なさに驚く生徒が多かった。

 三角形の標識や黄色い正方形の標識が、普通に三角形や正方形が置かれるのと違って不安定な状態に置かれることに疑問を持つ生徒が現れ、討議の題材とした。「不安定さで注意を喚起する意図があるのではないか」という意見が支持され、警察や公安委員会に問い合わせることにした。

 さて、現在兵庫県の高校生は「三ない運動」を遵守して卒業までバイクや自動車の免許を取得しない。道路標識といっても歩行者か自転車を利用する場面において目にするだけで、信号や踏み切り以外に制限を受けることはほとんどない。しかし、ある程度の道路標識は常識としてその意味を知っている、あるいは知らなくても標識を見てその意味を理解できる。道路標識はその意味を知識として知っていなくても一目見てその内容が誤解なく把握できなければならない。そこで生徒に道路標識を見た際にその意味をどのような手順で把握するかを考えさせた。

 生徒によると、まず形については今回の授業で改めて意識した程度で、日常においては道路標識は形ではなく色のほうが大切だという。さらにその標識に文字があればもはや色さえも意識しなくなり、文字だけから情報を獲得する。文字がなければその標識が自分に関係あるものかどうかを考える。歩行者か自転車を対象とする標識は、必ず歩行者または自転車が描かれているので、自分がその標識の対象であるかどうかは一目見てわかるという。その他の標識は、「自分を対象としていない」という意味を把握すればもうその標識は意識する必要がない。

 そこで、「止まれ」など文字を含む標識に対して「子供や外国人には意味は理解できるのか。」という疑問が出され、逆の立場から世界の道路標識を見てみることにした。(図3-4)

止まれ

図3-4 文字を含む標識「止まれ」




3.3.4  世界の道路標識

 世界各国の道路標識をWeb上で検索して、異文化圏で生活するものにその標識が理解できるかどうかを考えさせた。

 最初生徒は例えば日本の公安委員会に該当するドイツの行政機関は何であるかということを考え始め、そこが作成したWebページを見に行くことを考えていたが、ドイツ語で何というのか、ドイツ語をどのように入力するのかといった壁に当たっていた。そこで難しく考えずに「道路標識」と「ドイツ」をキーワードに検索してみて、運がよければ日本語のページでドイツの道路標識を紹介しているWebページがあるかもしれないと指示した。もちろんそうしたページが存在することは前もって確認済みである。ブリジストンのWebページ
 http://www.bridgestone.co.jp/hgt/hgtindex.html
 に世界の道路情報をまとめたページがあり、そこが検索されるはずである。ただし教師が想定した以外のWebページを生徒が見つけてくる可能性もある。そうした経緯を経てイタリア、ドイツとニュージーランドの道路標識のWebページを見つけた(図3-5)。

日本の速度制限ドイツの速度制限ニュージーランドの速度制限

図3-5 日本、ドイツ、ニュージーランドの速度制限標識



 まず赤が禁止、青が許可、黄色が注意を表現することはほぼ共通していることが確認できた。矢印を使った標識もほぼその意味を理解できる。また数字さえ読めれば速度制限の標識は意味が解る。しかしニュージーランドの道路標識で、「LSZ」という文字を含んだものがあった。Limited Speed Zoneの頭文字が並べられ、速度制限区間を意味するが、文字を含む標識は意味が理解できないことは事前の生徒の予想通りだった。

 その他にも踏切を表す絵文字からわれわれが踏切を読み取れなかったりするなど文字を含まない絵文字のみの標識でも完全に理解することは難しく、生活の中で見なれていくうちに身につけてきた要素が多いことも解った。

 今回の授業のテーマである「シンボルから読み取る情報」からは少し内容が外れるが、世界の道路標識を見ていく中で、各国の文化の違いにも触れることができた。例えば「日本では踏切では必ず一旦停止しなければならないが、ドイツでは逆に踏切で止まってはいけない」などといった理解し難い文化の違いなども紹介されているWebページに出会い、諸外国に対する新しい発見があった。


3.3.5  その他のシンボル

 この時間の課題として
  @ 道路標識以外のシンボルについてそのデザインに込められた意味を調べる。
  A シンボルを一つ提案し、そこに込めた意味をまとめる。
を与えた。@については、父親の勤める関西電力のマークや衣類についたクリーニングの方法を指示したマークなどについて調べたものが報告された。関西電力のマークはアンペアのAとボルトのVがデザインされたものでいかにも電気を扱う会社のマークであるが、説明されるまでその意味は教師も含め誰も知らなかった。聞いてみればなるほどというデザインである。またAについては「携帯電話の使用禁止エリア」や「高齢者が多いゾーン」を表現したものなどが提出され、高校生の持つ問題意識を引き出せた。(図3-6)

関西電力携帯電話使用禁止暴力反対

図3-6 関西電力、携帯電話使用禁止、暴力禁止

3.3.6  生徒の感想

 ・自分の学校の校章について知らなさすぎた。恥ずかしい。
 ・校章と比べて曖昧さのない道路標識に驚いた。
 ・関西電力にびっくりした。すぐに誰かに教えたい。


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