机/床タッチパネルディスプレイを用いた
エデュテインメントプラットフォームの開発

大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科
高見友幸、松村匡浩、永井裕樹、籔貴晶、山脇直樹


概要

 超短焦点プロジェクタと近赤外線レーダーを用いたマルチタッチテーブルを設計、試作した。レーダーは高速でビーム走査されているため、テーブル上面への多点同時タッチを識別することが可能である。また、このマルチタッチテーブルの仕組みを転用し、床や壁面をマルチタッチディスプレイとして利用することも容易である。
 本研究では、試作したマルチタッチディスプレイシステム上で動作するアプリケーションのプロトタイピングを開発し、システムをエデュテインメントのプラットフォームとして活用すべく検討を行った。システムのマルチタッチ機能は十分な精度を持っており、複数人数で使用するエデュテインメントのプラットフォームとして非常に有用であることを確認することができた。


目次

  1. はじめに
  2. システム
  3. 近赤外線レーダー
  4. 制作事例
  5. 今後の課題
  6. おわりに

1. はじめに

 近年、タッチパネルディスプレイの普及はめざましく、直感的かつ迅速な画面操作ができることから、家電、ゲーム機、設備機器等、広範囲に採用されている。しかし、その機構上、タッチパネルディスプレイの大型化は容易でない。大型のタッチパネルディスプレイの代用として、プロジェクタで生成した大画面ディスプレイに対してタッチ機能を付加した様々な形式のシステムが開発されている。大画面を複数人数で共有するアプリの場合、同時入力機能を持つことが望ましく、最近の技術的な注目点は、大画面でのマルチタッチ機能の実装にある。主流となっているのは、赤外線カメラをタッチ検出デバイスとして使用するシステムであるが、我々のグループが提案するシステムは、ディスプレイ面のマルチタッチ機能を近赤外線レーダーの計測により生成するシステムである。

 本研究では、テーブルや床や壁の平面をタッチディスプレイとして用いるマルチタッチシステムの設計と試作を行った。さらに、試作したシステム上で動作するアプリケーションのプロトタイピングを開発し、システムをエデュテインメントのプラットフォームとして活用すべく検討を行った。


2. システム

 本システムはテーブル、床、壁のいずれに対しても同様の仕組みで適用することができる。この中で、エデュテインメントのプラットフォームとして最も適していると思われるテーブルをディスプレイとして用いたシステムについて述べる。

 設計・試作した80インチのマルチタッチテーブルの全体像を図1に示す。テーブルの上面のガラス板に対して、テーブルの下側につけた超短焦点プロジェクタ(三洋電機LP-XL51)で投影することでディスプレイ部を生成している。また、ディスプレイ面のすぐ上方を近赤外線レーダーで掃引することで、ディスプレイへのタッチ位置を推定している。ディスプレイ面にタッチした際の振動をなくすため、わく組と足には重いステンレスを用いた。画面の調整を容易にするため、ディスプレイ部とプロジェクタ設置部が一体化した構造となっている。ディスプレイ部には厚さ10mmのガラス板を用いた。ガラス板の自重によるガラス面中央部のひずみを小さくするため、10mmの厚さが必要となる。ガラス板の下面には、リアスクリーン用フィルムが貼られている。テーブルの4本の足は取り外しが可能であり、持ち運び可能とした。テーブルの高さは通常のテーブルよりもやや高く75cmであり、立った状態でもディスプレイ面へのタッチがしやすくなっている。テーブル上面の外枠には近赤外線レーダーを設置する窪みがつけられている。窪みは4箇所あり、最大4台までレーダーを設置することができる。

Multi-touch Table
図1.マルチタッチテーブルの全体像。

3. 近赤外線レーダー

 ポインティングデバイスとして使用した近赤外線レーダーは、北陽電機製のレンジセンサUBG-04LX-F01である。約36Hzでビームが回転し、240度の視野角を683本のビームで走査することで、レーダーの標的の位置を推定することができる。時間分解能は28ms、位置の推定精度はレーダーから1mの距離で最大1cm程度である。

 レーダー標的となるすべての物体がマウスの代替となる。ひとつの標的がひとつのマウスに相当するため、複数の標的を同時操作すればマルチタッチ機能が実現することになる。レーダービームが走査する平面を、タッチテーブル面のすぐ上方に設定して、レーダー標的の位置がディスプレイへのタッチ位置と一致するように調整しなければならない。

 図2は、マルチタッチ時におけるレーダー受信データのレーダーチャートである。異なるタッチ形状によるレーダー受信データの違いが示されている。点Rがレーダーの置かれている位置で、図中の1)〜4)の4箇所で同時タッチ動作を検出した瞬間が示されている。1)〜4)の各箇所では異なる形状のタッチ動作が行われている。1)は1本の指で、2)は2本の指で、3)は手のひら全体で、4)は拳でタッチしたときの受信データである。レーダービームが1回転するのに要する時間は28msであり、少なくとも28msの時間だけ画面へのタッチが継続していれば、レーダーはタッチ動作を捕捉することができる。したがって、通常のタッチ動作においては、問題なくタッチを認識することができる。タッチ動作をレーダーから1mの距離で発生させた場合を考えると、その付近でのレーダービームの間隔は約6mmであり、1本の指は十分にレーダーの標的となり得る。拳によるタッチの場合(標的の大きさ〜5cm)では、ビーム10本程度に捕捉され、手のひらによるタッチの場合では(標的の大きさ〜15cm)では、ビーム30本程度に捕捉されることになるため、タッチの大きさや形状を推定するのは容易である。

Near-infrared Radar
図2.近赤外線レーダーの計測で得られた受信データのレーダーチャート。

4. 制作事例

 アプリケーションは、受信データ処理部とアプリ本体のふたつから構成される。データ処理部では、レーダーの受信時系列のノイズ処理とフィルタ処理を行った後、標的の位置を算出する。この位置情報をアプリ本体へリアルタイムで入力し、アプリ個別の目的に利用する。

 マルチタッチテーブル用のアプリの制作事例として、Kanade[1]とHexを紹介する。Kanadeは、机ディスプレイの3辺に楽器が表示されており、その楽器を用いて3人でひとつの曲を演奏するというアプリである(図3)。楽曲にはいくつかのパートが用意されており、各プレイヤーが好きなパートを選択して演奏を行う。画面中央部から3方向に流れてくるオレンジのバーの位置を確認し、その動きのタイミングに合わせて鍵盤を弾くことで演奏が進行する。1回のタッチ操作を1回のサウンド出力に対応させているが、マルチタッチのときには必然的にサウンドの多重出力が実現する。数人でテーブルを取り囲んでいっしょに楽しむアプリに仕上がっている。また、鍵盤やドラムを叩く速さをゆっくりとすることで、音量を小さくすることも可能である。この機能は多層タッチ面を利用した一例である。

 Hexは、現実のオブジェクトをマルチタッチテーブル上に置くことによってゲームを操作するデジタルボードゲームである(図4)。赤と青に分かれ交互に駒を置いて陣地を広げていく。対面には自分と同じ色のエリアがあり、先に対面のエリアまで陣地を広げると勝利となる。駒を置くだけの単純なゲーム操作であるが、現実のオブジェクトとバーチャルなゲーム画面とのインタラクションがこのゲームの面白さを作っている。

Kanade
Hex
図3.Kanadeの実行画面。 図4.Hexの実行画面。

5. 今後の課題

 現時点では、マルチタッチデータの処理プログラムは個々のアプリケーションの機能に応じて調整が必要であるため、汎用のライブラリとして構築するのが容易ではない。また、投影されたディスプレイのサイズに応じてレーダー計測の位置補正が必要となるが、ディスプレイの台形ゆがみが位置の推定精度を悪くする。これらの点を克服し、位置補正の自動化およびアプリケーションに共通した汎用ライブラリを作成することが今後の課題である。


6. おわりに

 超短焦点プロジェクタと近赤外線レーダーを用いたマルチタッチテーブルを設計・試作した。同様の仕組みを、床や壁面に対しても転用し、インタラクティブな大画面ディスプレイを作ることができた。マルチタッチテーブルおよび床・壁インタラクティブディスプレイともに、アプリケーションの適用範囲は非常に広い。エデュテインメントのプラットフォームとしても今後の発展が大いに期待できる。


参考文献

  1. Takaaki Yabu, Tsuyoshi Araya, Hiroki Nagai, and Tomoyuki Takami, Sound Applications with the Desk Touch-Panel-Display System, Proc. of NICOGRAPH International 2009 (CD-ROM), 2009.