開発研究テーマ:「系統的自主開発ソフトによる個別課題アプローチ表(肢体不自由校における)」を構築する為のソフト開発研究 

 

〜重度障害児のQOLを高めることを目指して〜

 

開発研究代表者:大阪府立堺支援学校 教諭 小西 順

 

 

 

目     次

 

概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1ページ

 

1)「一人で出来た喜び」を目指したソフト群

     「風船爆発ソフト」・「楽器ソフト」・「カメラでカシャ!ソフト」 ・・・・・・・・ 2ページ

         「輪投げソフト」・「色を覚えよう!ソフト集・「電子絵本」   ・・・・・・・・  3ページ

     「キャッチボールソフト」・「シュートでクラッカーソフト」   ・・・・・・・・  4ページ

2)「立場が逆転した喜び」を目指したソフト群

         「池田先生に服を着せてあげよう!ソフト」          ・・・・・・・・  5ページ 

         「こちょこちょ遊びソフト」・「小西先生に服を着せてあげよう!ソフト」

3)「番外編」ソフト群

    「きつつきおじさんソフト」・「たんぽぽ綿毛ソフト」・「校歌」   ・・・・・・・・  5ページ

4)「良く知っている事を聞いてもらえる喜び」を目指したソフト群

         「電子アルバムソフト」・「この音なあ〜にソフト」          ・・・・・・・・ 6ページ

「よく見るソフト」 「文字学習用ソフト“TUITATE57”セット集」   ・・・ 7ページ              

5)「会話の主導権を握る喜び」を目指したソフト群

   「2ボタン用出席点呼ソフト」・「出席点呼ソフトセット集」      ・・・・・・・・ 8ページ

        「むすんでひらいてソフトセット集」                  ・・・・・・・・ 9ページ

「小西先生にボールをなげちゃえソフトセット集」

「バナナケーキ電子レシピソフト

6)「自分の思いを相手にしっかりと伝える喜び」を目指したソフト群

   「意思伝達ソフト“ももちゃん”ソフトセット集           ・・・・・・・・  10ページ

7)「社会生活における成功体験による喜び」を目指したシミュレーションソフト群

   「マクドナルドへ行こう!シミュレーションソフトセット集」    ・・・・・・・・  11ページ

        「ローソンに行こう!シミュレーションソフト」           ・・・・・・・・  12ページ

       「ビデオを借りに行こう!シミュレーションソフト」 

       「自動券売機なんか怖くな〜い!シミュレーションソフト」

       「ATMなんか怖くな〜い!シミュレーションソフト」       ・・・・・・・・ 13ページ

        

 

概要

 

 以前から障害のある児童生徒のQOL(=生活の質)を高めることが、大切であると言われてきました。特に言葉の持たない児童生徒にとって、自己選択/自己決定ができることは、自立につながり、QOLを高めることになります。そこから、近年彼等のコミュニケーション能力を高めることが我々支援者にとって、重要な課題となってきました。そこから、電子機器面では、VOCA(=携帯会話補助装置)や、意思伝達装置が開発されてきた経緯があります。また、パソコンを操作する支援機器もたくさん開発されて来ています。ところが、多くの教育現場ではそれらのほとんどが、本来の働きをせず、宝の持ち腐れ状態になっています。その原因は、彼等が支援者の期待に反して、それらの機器を使いたがらないという現実があるからです。

 彼等が使いたいと思う場面を、支援者が構築しきれていないからなのです。つまり、外界に発信しようとする「意欲」(→コミュニケーション能力へ発展につながる!)を、育てていないからなのです。そこで、その「意欲」を育てるためのソフト「喜び」を基準として5段階に分け『小西グラフ』に沿って開発し実践してきました。具体的には@「一人で出来る喜び」/A「知っている事を聞いてもらえる喜び」/B「会話の主導権を握る喜び」/C「自分の意思が理解された喜び」/D「社会生活における成功体験を味わえる喜び」を楽しめる授業展開を工夫して実践してきました。

 上記の@〜Dは、かれらにとって楽しいから、一生懸命にしようとします。でも、残念ながら障害がある故になかなかうまくできないのが現実です。しかしながら、逆に児童生徒は、そこに自らの課題を見つける事ができるのです。そして、児童生徒は、ここで自らの課題を克服しようと前向きに積極的に行動しようとします。楽しもうとする動機付けがあるからです。そのことを支援する事こそ、われわれ支援者の役割であるといえるのではないでしょうか。つまり、成功体験が出来る様に、支援者が「場を設定」して行く事が大変重要になってきます。その「場を設定」するための支援ツールを構築することが、将に今回の開発研究のテーマでした。そこで、本研究では、特に※電子支援機器(パソコンを肢体不自由児が操作するには不可欠です!)を当初から念頭に置きソフト開発をしていきました。市販のソフトにはその点が欠けています。 この様な経過を経て、だれもが、私の「自作ソフト」が活用出来、その場合にどのような支援機器が必要か、また、どのような課題を克服するのに役立つかについてまとめた表を完成させました。名付けて、「小西ソフト活用による個別課題アプローチ表」です。

以下に、そのアプローチ表@〜Dに沿って、様々な自作ソフトと電子支援機器について、如何に活用し、どのような成果をあげることができたのかを、記していきたいと思います。

 

        電子支援機器とは、ここではBDアダプター/USBスイッチインターフェイス/ビッグスイッチ/ジェリービーンスイッチ/ビッグマック/スーパートーカー/スピーキングダイナミカリープロ/インテリキーを指します。アプローチ表から、ネットに販売店にリンクさせていますので、詳細は、そちらをご覧下さい。余談ですが、本校に21年1月に50インチのプラズマテレビが20台配置されました。電子支援機器として(大型ディスプレイとして)多いに活用しています。

 

代表者勤務先:大阪府立堺支援学校

 

 

「風船爆発ソフト」: 開発したソフト群では、一番単純なソフトです。でも、多くの児童生徒に人気があります単純に、スイッチを押すだけで、膨らませる音入りで、どんどん、風船が膨らんで行きます。最後に、10回目にボタンを押すと、破裂音とともに、様々な色の小さい風船として飛び散ります。視覚障害の児童生徒にも好評でした。

 

 

「楽器ソフト」:日頃、楽器を鳴らすことのできない児童生徒が、健常児とともに一緒に、合奏が出来るというソフトです。これも単純で、スイッチを押すと様々な楽器を鳴らす事が出来ます。一例をあげると、「グランドピアノ」「ドラムセット」「銅鑼」等全部で11種類です。一般校との交流でも、大いに活用されました。

 

 

「カメラでカシャ!ソフト」:いつも写真を撮られている児童生徒が、逆に相手を撮影することを目的に作成しました。教室での友達や教師の写真をソフトに埋め込んでいます。ディスプレイの前に相手に立ってもらい、その相手を見ながらスイッチを押すと、その瞬間に、シャッターがおりる映像と音声が流れる仕組みになっています。非常にリアルです。と同時に、画面にその友達や教師が、映る設定になっています。ソフト上で、友達や教師の顔写真のデータを差し替えるだけで簡単に、他の授業グループでも活用出来る仕組みになっています。さらにこれでシャッターを押す練習をした後に、実際に「カメラシャッター補助装置」(大阪市立住吉支援学校の田中敏哉先生作)を使い、大好きな先生や、校長先生の写真を撮影する等を行っています。

「輪投げソフト」:これも単純なソフトです。スイッチを押すと、輪っかが手から投げられる設定になっています。成功すると、友達からの歓声が聞こえる設定になっています。それが、児童生徒にはとても嬉しい様です。「輪投げの神様」(アプローチ表参照下さい)のおかげで、児童生徒は、姿勢が良くなり、涎も少なくなりました。

 

 

「色を覚えよう!(よ〜く聞いて見て)ソフト集」:このソフトは、インテリキーを使ったソフトになっています。インテリキーを使うためには、インテリキーというハード(代替キーボードとして多くは利用されている)にバンドルされているオーバーレイメーカーというソフトで、「色を覚えよう!ソフト」に適したスイッチをインテリキー上のディスプレイに作成する必要があります。そこで作成されたファイルをオーバーレイファイル、シートをオーバーレイシートといいます。このファイルを一緒に、このアプローチ表に載せているので、ソフト集という名称になっています。以下に説明するソフトでソフト集となっているのは全てインテリキー対応版です。なお今回使用するオーバーレイシートは、全て印刷し、送付致しました封筒に同梱しています。(備考:インテリキーについては、アプローチ表のその箇所をクリックすると販売先の会社にリンクさせていますので詳細を知る事が出来ます。)

 

 

「電子絵本(浦島太朗)ソフト」:私は、毎年保護者から、担当する児童生徒が、小さい時から読み聞かせをしてもらっていた絵本を聞きとり、その絵本を借りてスキャナーで読み取り、電子絵本にしています。スキャナーで読み込みますので簡単に作成出来ます。授業においては、こちらから、画面を見ながら、「浦島太郎は、助けた亀に、どこに連れてもらったのかな?Aちゃん教えてくれる?」と質問します。すると対象の生徒は、小さい時から、読み聞かせしてもらっていますから、答えがわかっているのです。つまり「竜宮城」です。しかし、それが表現できないのです。それが非常にもどかしいと感じているときに、目の前に置いてあるスイッチを押すことによって画面がめくれて、擬似的にですが、答えることができるのです。その時、私は、大げさに「ああ〜、そうか!竜宮城だったね!Aちゃん、よくわかったね〜」と褒めてあげます。本人は大喜びです。次に「竜宮城では、きれいなお姉さんが待っててくれたよね。なんという人だったかな?先生、忘れてしまったわ!教えてよ!」というとAちゃんは、進んでスイッチを押して次の画面に進めることで、答えてくれます。また大げさにこちらはリアクションをして、褒めてあげます。この様な擬似的な「言葉のキャッチボール」が出来ます。一人でページをめくれる喜び以上のものを、実はこの電子絵本が生み出すことが出来るのです。ただ、著作権の問題で校内限定使用というのが、効果が大きいだけに残念な思いをしてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャッチボールソフト」:二手に分かれて、画面上でキャッチボールをします。1に設定されたスイッチ(USBスイッチインターフェイスで挿入する)を持って画面左に児童生徒を座らせ、2に設定されたスイッチ(同上)を持って画面右側に座らせます。スイッチを押すとボールが飛び出し、そのボールが受けて側に到着したら、相手側にボールを投げ返すというルールの下でゲームをします。このタイミングが難しく、「待つ」という動作を学ぶ事ができます。ここで「インテリスイッチ」を利用すると、体育館での超大型スクリーンで「遠投」もできます。また早く押すゲームもできます。この場合、なかなかスイッチを押せない重度の児童生徒に、VOCAを使ったり、発声をさせて、スターターの役割をさせます。彼が合図を送らないと、ゲームが始まりません。重度の児童生徒に皆の注目が集まります。喜んでVOCAを押そうとしたり、なかなか音声を発しない彼が、必死になって声を出そうとしたりします。この後、授業では、実際に「電動ピッチングマシーン」で、重度の児童生徒に、BDアダプターで連結したスイッチを押して、ボールを投げてもらいます。それを軽度の児童生徒が、ビニール製のバットで打つというゲームをします。みんなが楽しめる一連の教材になっています。

 

「シュートでクラッカー」:友達が、シュートにゴールを決めたら、クラッカーを鳴らして、相手と共に喜びを分かち合う姿勢を身につけさせたくて、作成したソフトです。操作方法は、他のソフトと同様に、オープニング画面に記しています。

 

 

「池田先生に服をきせてあげようソフト」:池田先生は身長180センチの保健体育の先生です。彼の依頼から生まれたソフトです。当初は、衣服の着る順番を教えるソフトということでしたが、「喜び」に基づいて次のような発想で作成しました。池田先生がいつも介助し、服を着替えさせている重度の生徒が、逆に池田先生に服を着せてあげるという発想の下で作成しました。なかなか他の授業では、スイッチを押そうとしなかったこの生徒は、一生懸命に腕を動かし、スイッチを押す事ができました。

 

 

「こちょこちょ遊びソフト」:このソフトも、上のソフトと同じ発想から生まれたソフトです。いつも、支援者に「こちょこちょされる」ことが多い児童生徒が、逆に支援者を、「こちょこちょする」という設定で作成しました。これは、インテリキー対応版として作成しています。また、この授業では、マッサージ器とパワーリンク・エアーリンクコードレススイッチ(1700Wまでの電化製品を,外部スイッチを接続してON-OFFする装置です。タイマー・ラッチ機能もあり,エアーリンクコードレススイッチを使用すれば,ワイヤレスでスイッチのON-OFFもできます。)をつないで、実際に児童生徒に、支援者をこちょこちょする場面も設定します。児童生徒は大喜びです。(→ 外界に対して、自分は影響力を持っているんだと実感出来る授業になっています。)

「小西先生に服をきせてあげようソフト」:インテリキー対応版です。池田先生と同じく逆の立場での面白さもあるのですが、ねらいとしては、障害のある児童生徒が、感謝の気持ちを持てるようになることです。彼等はいつもしてもらう立場です。そのため、なかなか、「ありがとう」と言う気持ちや「ことば」が出てきません。その理由は、逆に彼等が能動的に動いて、感謝された事がほとんどないからです。「ありがとう!」と言われた経験が皆無に等しいからなのです。私は、このことは、実は非常に悲しい事だろうと感じています。そこでこのソフトでは、着せてもらう度に、「ありがとう!」と音声がでる設定にしています。

 

 

「きつつきおじさん」:定年退職される音楽の先生の教材を残そうとした若い教員からの要望で作成したソフトです。振り付けを中心としたビデオ中心のソフトですが、児童生徒は大喜びです。このような形で他の教員の教材資産をソフトという形で、現場に引き継ぐ重要性を痛感したソフトになりました。

 

 

「たんぽぽ綿毛ソフト」:「ことば」「て」の自立活動の授業の前には、必ず二回ずつ実施しているストレッチ体操のビデオソフトです。身体をほぐすことを、自立活動の授業の最初に出来るソフトになっています。今までなら、教師も児童生徒は、手本無しに教師が後から介助しながら行っていたストレッチが、このソフト(画面をクリックすると始まります)により、どんな教員も前のディスプレイを見ながら参加してできるようになりました。また、生徒も一人でできるようになりました。(ビデオでなくソフトで行うため迅速に準備可能!)

 

「大阪府立堺支援学校 校歌ソフト」:重度の児童生徒の授業の最後には、必ずその授業の様子を連絡帳に記入することになっています。その間に、このソフトを起動し、校歌を流します。他の軽度の授業でも、リクエストが多くて、最後に流す場合が多々あります。音楽とあわすと「ことば」が出やすくなるようで、児童生徒の多くは歌詞を口ずさむようになってきました。愛校心に基づいたソフトです。

 

「電子アルバムソフト」:私は、最初に担当する生徒の保護者に、生徒の生まれてから今までのベストショットを15枚から20枚を持って来てもらう様に依頼します。それを元に電子アルバムを作成します。そこには保護者のコメントも埋め込んでおきます。音声の場合もあります。多くの児童生徒は、自分の写真が大好きです。スイッチを自分で押す楽しさもありますが、それ以上に、そのディスプレイに大写しになった自分や家族について、質問されることが大好きです。その答えが出せる様に、こちらでスイッチを準備しておきます。言葉のない児童生徒と言葉のキャッチボール、擬似的なコミュニケーションが取れることになります。生徒は、大喜びです。実は、前述の「電子絵本」でも、全く同じ効果を得ることができることを記しました。パワーポイントでも作成が可能なので、多くの支援者に是非、勧めたいソフトです。(備考:今回の電子アルバムは、保護者の許諾を得ています。)

 

「オリジナル・浦島太郎 電子絵本ソフト」セット集:今回は、教育現場を離れての発表になりますので当然著作権が大きな問題となります。そこで、私の娘にイラストを描かせて作った作品です。今まで、保護者にめくってもらっていた絵本を、自分でめくれるのは、児童生徒にとって、それだけでも楽しいものです。しかし、それ以上に繰り返しになりますが、擬似的な会話が成立することの意義の方が大きいと考えます。代替的な手段を使ってコミュニケーションをとろうとする意欲を育てることができるからです。さて、今回のソフトでは、それ以外にも、話を聞いた上で質問をする形態をとっています。また、正解すれば、友達が祝福してクラッカーを鳴らすという仕組みにしています。友達との交流関係が希薄な重度の児童生徒にとっての課題の一つである友達との交流を目指したソフトにもなっています。また、当然答えるためには、よく話を聞かないとだめですから話を聞く能力の向上も目指しています。

「この音なあ〜に」セット集:音当てクイズは、今まででもたくさんありました。私も制作したことがあります。しかし、その音が何であるかと理解出来ても、言葉がない児童生徒にとっては、それを表現する方法が限られていました。カードで示され、それを指差すか、トーキングエイドなどのVOCAで答えるしか方法はありませんでした。軽度の児童生徒や健常児と、同じ土俵で楽しむことが出来ませんでした。ゲームというものは、流れが重要です。その流れが途切れてしまい、面白くないのです。ところが、今回制作したこのセット集は、重度も軽度の児童生徒も、健常児も同時に同じ土俵に立って楽しめるインクルージョン的なセット集になっています。ここで大きな役割を果たすのが、インテリキーです。インテリキーの画面を押すことで、言葉のない児童生徒もタイムラグ無しに答えることができるのです。正解すると「ピンポーン」という効果音が流れます。児童生徒はこの音が大好きです。言葉のある児童生徒も、言葉のない児童生徒と一緒になって、インテリキー上のスイッチを押したがります。実際、28人の様々な生徒がいる授業場面で実施し、多いに盛り上がりました。操作説明は、ソフトのオープニング画面に記していますのでご覧下さい。また、このイラストは、全て私の娘のオリジナルです。音声も、ICレコーダー(研究資金から購入)から録音しています。

 

 

「よく見るソフト」:「大きさ」「長さ」「重さ」「色」「数」「位置」等について、学習用に作成したソフト集です。よく知っていることを尋ねるつもりで作成しました。夏休みの宿題を、イラストを自分で描いて、そのままの問題を作ったからです。2学期から使用するつもりでしたが、このグループには難しすぎたようで、あるいは、ほとんど勉強していなかったのか、あまり活用出来ませんでした。しかし、学習用のソフトとしては利用価値があると考えます。あまり楽しくないかもしれませんが。

 

 

「文字学習用ソフト/TUITATE57セット集」:このソフトもインテリキーを活用しています。3年間を掛けて修正を加えたセット集になっています。生徒の文字学習に多いに効果をあげることができた作品です。これもインクルージョン的なセット集に仕上がっています。様々なレベルの生徒3人を同時に対象にして、3年間関わってきました。一人の生徒は、トーキングエイド(VOCA)を持ちながら、シンボルに頼りがちで、なかなか文字を覚えようとしない生徒でした。しかし、このセット集を活用し始めてからは、文字を覚えようと意気込むようになり、今ではほとんど50音を覚える一歩手前まで来ています。二人目の生徒は、文字を殆ど知らなかったのですが、このクイズに答えようとして、インテリキーを代替キーボードとして、パソコンに文字を打ち込みながら文字を覚え始めています。3人目の生徒は、こだわりが強く、知らない文字がでてくると授業そのものを拒否する生徒でしたが、知らなくても、自分で答えを見つけ出すことができるようにソフトを設定にしてからは、そのような態度もとらなくなり、競争意識のもと同じく、インテリキーを駆使してパソコンに文字を打ち込む様になりました。これも、イラストは全て娘が描いています。

 

 

 

 

 

 

 

2ボタン用出席点呼(校内限定)ソフト」:多くの支援学校では、VOCAの一つであるステップバイステップ(今回の研究資金で購入)を、出席点呼に使用しています。しかし、重度の児童生徒にとっては、呼ぶ方も呼ばれる方も、音声だけでは、わかりづらい面があります。視覚優位の児童生徒が多いからです。そこで、ステップバイステップを導入する準備段階として使用するソフトを開発しました。教師がスイッチを押すと、先ず、大型ディスプレイに呼ばれる予定の生徒の顔写真がアップで映ります。次いで当番の生徒が、スイッチを押すと名前が音声で流れるような設定にしています。これで、呼ぶ方も、呼ばれる方も、より確実に理解出来るわけです。会話の主導権を握る喜びを味わうことができます。これを十分経験した上で、ステップバイステップの導入すると、スムースに展開することができるようになりました。

 

「出席点呼(オーバーレイシート付き/校内限定)ソフト」:多くの支援学校では、VOCAの一つであるスーパートーカー(今回の研究資金で購入)を、出席点呼に利用しています。ことばの出にくい認知レベルの高い児童生徒が使用しています。この機器にはディスプレイがあり、該当する箇所を押すと(1面〜8面に切り替え可能)、音声が流れる仕組みです。シンボルや写真が貼られています。呼ぶ本人は、視覚的に確認しながら押すのですが、呼ばれている方は、わかりづらいのです。そこで、その弱点を補うべく開発したのがインテリキーを利用したこのソフトです。スーパートーカーの画面をそっくりそのままインテリキーのシートに移し替えました。その画面の該当する生徒の写真を押すと音声と共に、大型ディスプレイ上にその写真が映る設定にしています。制作手順は、アプローチ表にPDFファイルとして載せていますので、他の支援学校でも是非活用してもらいたいと考えています

「むすんでひらいてセット集」:上の二つと同じで、会話の主導権を握る喜びを味わうことを目的として2つのバージョンを制作しました。児童生徒にとって馴染みのある曲なので、全学部で大人気です。歌の途中で、「その手を〜に!」とありますが、「その手を」でソフト上の動画が止まります。インテリキーの画面上に、「頭」「目」「鼻」「口」のシンボルを描いたシートを挿入しておきます。一人の児童生徒に、好きな顔の部位(例えば「頭」)を押させると、大型ディスプレイの画面上で動画が再び動き出し、画面上の人物(教師)が、その頭に手をもっていき画面がアップの状態で止まります。これを受けて、他の友達も、彼の指示に従って、頭にもっていく設定に成っています。一番上手にもっていくことが出来た児童生徒に、今度はバトンタッチして、このゲームを続けていきます。しばらく続けた後、次は「その手を〜に!」を「肩」「お腹」「お尻」「足」にもっていく2つ目のシーンに変えます。当然、インテリキーには、これら身体の部位を示した別のシートに入れ替えます。進行手順は1つ目と同じです。教室は、にぎやかな楽しい雰囲気に包まれながら、ボディイメージを高める効果がありました。

 

 

「小西先生にボールを投げちゃえセット集」:自虐的なソフトですが、大人気のソフトです。「むすんでひらいて」の顔の部位のシートを利用するインテリキー対応版です。例えば、インテリキーのシートに描かれている「目のシンボル」を押すと、大型ディスプレイの「目のシンボル」からボールが勢い良く飛び出し、画面中央に居る小西先生(私)の目に命中し、痛がる私の姿が動画で映し出されます。子供達は大喜び(私は、複雑な気持ち・・・)です。他の生徒には、どこにボールがあたったのか、自分の目を押さえさせます。ボディイメージの獲得に役立ちました。また、こちらから、「今度は、鼻にぶつけてごらん!」指示すると、しっかりと自分の鼻に手をもっていった生徒に、インテリキーを押す権利を与えます。みんな押したがりますから前向きに取り組みます。また、人の話しを聞き取るのが苦手な生徒も、必死になって、私の指示を聞こうとする姿勢を見せ始めました。さらに発展して、「二段階命令」も対応出来る様になる生徒も現れました。「先ず頭にぶつけて次に目にぶつけてごらん!」という命令です。これが実は、なかなか難しいのです。私にとっては、気持ち的には、複雑なソフトですが、多いに児童生徒の課題克服には役立つソフトになっています。

 

 

「バナナケーキ電子レシピ」:これは、訪問の生徒が、スクーリングで学校に登校した時に、活躍出来る場面を設定しようとして作成したソフトです。訪問先の家庭で事前に練習をし、実際にバナナケーキを一緒に作ります。一方、学校に居る生徒にも教師にも、一切作り方を教えていません。いざ、スクーリングの時、バナナケーキを焼く調理実習の場面では、訪問の生徒の指示を、生徒も教師も、真剣に聞き、その通りに調理実習が進められて行きます。訪問の生徒は大喜びです。交流が深まりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「意思伝達ソフト“ももちゃん”」セット集:インテリキーをフルに活用した、電子版コミュニケーションブックです。意思伝達装置と名付けることができるものです。言葉の持たない愛称“ももちゃん”のためにのみ制作したソフトです。“ももちゃん”の気持ちになって、保護者からも意見を聞き、彼が伝えたい内容をシンボルを使って、意思表明出来るようにしています。使ったオーバーレイシートは16枚です。大型ディスプレイに、画面が映ります。その画面が16面あるわけです。それをインテリキーで制御して行く設定になっています。しかし、実際は、彼は、マッチングが出来るので、シートは1枚だけで済み、大型ディスプレイの画面を見ながら、該当するシートの箇所を押すことができました。彼の意思が、最初に私に伝わった時の非常に喜んだ姿を、忘れることができません。操作方法の詳細は、アプローチ表のPDFをご覧下さい。

 

 

 

 

 

 

 

 

「マクドナルドへ行こう!」シミュレーションソフトセット集:本校から徒歩10分のところで営業しているマクドナルドのお店を舞台にしたシミュレーションソフトを開発しました。店長、それに本部の広報の方に依頼し、快くソフト制作に協力して頂きました。このソフトは、買い物のパターンとして約500通りの注文形式が、演出できます。店員の方には、マニュアル通りに、受け応えをして頂きました。最初、このソフトでは、店員との言葉のやり取りを学ばせました。しばらくすると、指導の成果が上がり、非常に丁寧な応対が出来る様になっていきました。次に、意図的に、注文を店員が、間違う設定で授業展開を進めもしました。その様な状況では、多くの生徒は、現実には、パニックになります。そこで、シミュレーション授業では、何度も、その練習を行いました。次第に、適切な対応を学ぶ事が出来る様になっていきます。また、言葉の出にくい児童生徒においては、代替手段(サイン、カード、ボカ等)を使って、スクリーンの店員に、注文を伝える練習も出来ます。その結果、それらを使用するに際しての自信を深める事になっていきました。 次の段階として、「校外学習」にでかけます。そこで実際に、このソフトに登場している店員のもとで、注文をすることになります。まさに仮想が現実に転換する瞬間です。そうして、充分な教室での練習の結果、無事に全員が、注文出来きたのです。その時の店内で食べている子供達の笑顔が忘れられません。生まれて初めて、自分の足で店に出向き、自分の大好きなマクドナルドのハンバーガーを、自分で注文し、料金を支払い、そして食べたのです。しかも、ぬくぬくのハンバーガーです。美味しくないはずがありません。笑顔があふれたのは当然です。さて、この改訂版として昨年の夏に制作したのが、インテリキー対応版です。言葉の出にくい児童生徒でも、メニュー(インテリキー上のシート)を指差すことで、買い物ができるということを実感させることができました。

「ローソンに行こう!シミュレーションソフト」:制作に関しては、肢体不自由の児童生徒には、生活体験学習が大切だという主旨を、ローソンの東京本部の方が理解していただいた結果、普通ならば、撮影の許可を得ることが出来ないのですが、特別の計らいでデータを収集させていただきました。その結果、この「ローソンに行こう!」シミュレーションソフトが完成したのです。また、教育活動において広く活用する一環として、コンクールや実践研究等での発表も許諾していただきました。

 このソフトでは、ローソンに入店し、25品目の商品を、購入できます。また、車いすで入店し、陳列棚から取れない場合のバーションも加えています(どのようにして店員に頼むのかが課題)。いずれも店員とのやりとりが重要と考えています。また、店内を隅々まで歩くことにより、どのような商品が、コンビニで販売されているかということも、理解できるように設定しています。また、目的は、お金の計算ではないので、500円玉を持っていって、それで支払い、そのお釣りをもらうという設定にしています。操作説明はアプローチ表のビデオ説明をご覧ください

 

「ビデオを借りに行こう!シミュレーションソフト」:本校から徒歩5分の距離にあるレンタルビデオショップに、撮影を依頼し、快く協力して頂きました。「ビデオを借りに行こう!」と「自分は、今どのような状況?」との二本立てです。前半は、「マクドナルドへ行こう!」と同じスタイルで制作。後半のソフトは、ボタンを押すと、自分が置かれている状況が、169パターンの中から、一つだけ文章で提示されます。それを受けて、児童生徒はビデオを借りるかどうかを判断します。借りるとなると、「ビデオを借りに行こう!」の画面でシミュレーションの世界に入るのですが、その状況を覚えつつ、新作か旧作のどちらを借りるのか、また、一泊二日なのか七泊八日なのか、といった事を判断して進めていくことになります。常に自己選択/自己決定を強いられるソフトになっています。

 

「自働券売機なんか怖くな〜い!シミュレーションソフト」:南海電鉄の岸和田駅からの全ての切符を購入出来るソフトになっています。ATMソフトと同様にタッチパネルを想定して制作しました。南海電鉄の広報部の許可を得て、撮影を行いました。ボタンを押すとアトランダムに114の駅名が漢字で表示されます。その表示部分をオーバーするとフリガナが示されます。さらに、クリックすると路線図&運賃表上で該当の駅に赤丸が点滅する仕組みになっています。このようにして路線図&運賃表の見方を学習します。さらに、路線図上の駅名をクリックすると自動券売機が画面に表示され、該当する運賃の額のボタンを押すと、その切符が出てきます。そして、切符の拡大画面になり、そこで金額が確認できるようになっています。ところで、このソフトでは、正しく路線図&運賃表を読み、ボタンを押す事の動機付けとして、次の様な工夫も設定しています。それは、“「みさき公園駅」に行けば、ジェットコースターに乗れる”“「和歌山港駅」に行けば、フェリーに乗れる”“「関西空港駅」に行けば、ジャンボジェット機に乗れる”“「光明池駅」に行けば、泉北高速鉄道に乗れる”というお楽しみを設けています。つまり、それぞれの切符を購入すれば、上記の様な様々な乗り物に乗れる疑似体験ができるように工夫しています。その際、タッチパネルだけでなく、ダブルモニターとしてプロジェクターによる大スクリーンを併用する事も、リアル感を出す為に多いに役立ちます。今年度の校外学習では、電車に乗り繁華街に繰り出しました。その事前学習に多いに役立ちました。目的地までの運賃を、運賃表で確かめ、切符を自動券売機で買う事に対して、臆する事無くできました。

 

 

 

 

 

「ATMなんか怖くな〜い!シミュレーションソフト」:本校から徒歩約10分のところにある泉州銀行の上野芝支店で取材し、ATMの撮影の許可を得ました。また、銀行員5名に本校へ来校してもらい、通帳とカードを作成しました。生徒11名の暗証番号を、このソフトにインプットし、各自の生徒が、自分の暗証番号を入力しないと、出金できない仕組みにしています。また、出金は、コンピュータのテンキーを押すと、押した数字の金額のお札が、画面に表示される様に設定しています。充分に教室で練習を積んだ上で、実際に「校外学習」に出かけました。手順は、「泉州銀行」で、預金(事前に出かけて入金済み)を出金させます。そして、マクドナルへ行き、そのお金でハンバーガーを食べる計画をたてました。ところが、出金では、大失敗に終わってしまいます。車椅子では、ATMのカードの挿入口に手が届かない、また、どうしても視線が低くなるので、ATMの画面が見えないのです。さらに、手がぶれる生徒にとって、タッチセンサーのパネルは、誤動作しがちです。さて、生徒達のその後の反応に、私は驚くことになります。というのは、本来なら、気落ちしている生徒達を予想したのですが、ATMのバリアフリーになっていない点(教室では、パネルを立てて、文字を見やすくしたり、テンキーを併用して押しやすくしたり、机の上にパネルを置いて、車いすが入りやすい様にしたりと、バリアフリーになっていました!)を、次々と述べて行くのです。それを私達は、生徒達の目の前で、泉州銀行の本店に、メールにて、顧客の改善要望として送信しました。明くる日、丁寧なそれに対する返信がもどってきました。私達は、生徒に失敗させる事を極端に恐れ、充分なシミュレーション学習をさせてきました。ところが、充分なシミュレーションで成功体験を積んでおけば、たとえ失敗しても、自らを取り巻く環境の不備を指摘するだけの強さを、積極性を発揮できるのです。従来ならば、その失敗経験がトラウマとなり、物事に対する消極性をさらに助長したことでしょう。これらのことから、パソコンによるシミュレーション学習の有効性をあらためて、確信できたのでした。

 

 

さて、これら一連のシミュレーションソフトは、児童生徒の経験不足を補い自信をつけさせるという大きな効果がありました。一方、もうひとつ大きな成果をあげることができました。それは重い心臓病の訪問生徒が、これらのシミュレーションソフトを自宅で学習し、今まで外出を極端に拒否していたにもかかわらず、積極的に「マクドナルド」や「ローソン」そして、「銀行のATM 」に出かけるようになったそうです。そして、最後の卒業年度には、みんなと一緒に初めて電車に乗り校外学習に参加することができました。

 

 

最後に、子ども達に、コミュニケーションの意欲を引き出す手段として様々なソフトを、特にこの一年間、開発してきました。現場では、電子支援機器の有効活用は、多いに求められています。ほとんどが使いこなせていません。その様ななかで、貴財団からの寄付によって様々な電子支援機器を個人で購入できましたことは、研究開発を進めるにあたり、大変助かりました。感謝申し上げます。おかげさまで、このように他の支援者にも伝達できる形式を整えることができました。今後は、この成果を全国的に広めていくことを目標に頑張っていきたいと決意しています。

 

 

 

研究協力者 : 小西 加倫(イラスト作成)/諸石 桂三(BGM作成)

参考資料  :  なし