開発研究テーマ

礎を固め、やる気にさせる

楽しい理科学習ソフトウェアの開発

− 小学生向け −

 

開発研究代表者 

小早川誠二

 

目     次

 

 

概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

1 開発の背景・・・・・・・・・・・・・・・・

2 開発の過程・・・・・・・・・・・・・・・・

(1)開発環境・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)共同開発の分担・・・・・・・・・・・・・

(3)ソフト開発に入るまでの研究・・・・・・・

3.本開発作品の特徴・・・・・・・・・・・・・

(1)基本構造・・・・・・・・・・・・・・・・

(2)学習情報・・・・・・・・・・・・・・・・

(3)電子黒板・・・・・・・・・・・・・・・・

(4)用紙印刷・・・・・・・・・・・・・・・・

4.開発ソフトの活用・・・・・・・・・・・・・

 

概要

小学校の学習指導要領が改訂され、理科については、早速、平成21年度より新学習指導要領の内容に移行した。そのため、移行措置で追加された単元を中心に、新しい学習指導内容を研究することが、全国の理科担当の教師の急務となっている。現代は、子どもたちの「理科嫌い」が社会問題として叫ばれており、学校現場の教師たちは実験や観察などの直接体験を重視して、子どもが理科を好きになるように努力している。実際の授業の中でも、理科の実験自体は子どもたちは喜んで行っており、様々に変化する自然現象を興味深く捉えている。ただ、実験の方法や技能を確実に習得したり、実験結果を図や表にまとめたり、結果から理科的な考察をしたりすることは、苦手にしている子どもが多い。他の理科専科と話しても、「子どもたちが楽しいと思う授業をすればするほどペーパーテストの成績は悪い」と、楽しい実験や観察の内容を基礎基本としてなかなか定着させられないことを懸念する声をよく聞く。

そこで、理科における基礎基本を定着できるような手だてを、コンピュータを使って講じてみたいと考えた。特に平成20年以後は、どの学校も、学校デジタル化の推進のために、50インチ以上の液晶テレビやプロジェクタなどが続々と導入されている。大型テレビに「第2の黒板」の意味合いを持たせ、大画面を利用したマルチメディアな資料を見せてやれば、子どもたちにより印象づけできるのではないかと考えた。また、見せたいものを瞬時に画面に映し出すことで、教師が板書に要する時間が節約でき、それによって授業中に生じるいわゆる「子どもの待ち時間」が削減され、その分子ども自身がじっくり考える時間や話し合いをする時間をより十分にもたせることができるのではないかとも考えた。

開発するソフトウェアのねらいとしては、以下の3点である。

(1) 授業の効率化を図るために、各種の学習資料を蓄積する。

(2) 小学校でおさえたい基礎基本を徹底反復させる。

(3) 自然に興味をもち、理科が好きで自ら調べようとする態度を育てる。

本研究では、これからのデジタル時代を見据え、大型テレビを授業で積極的に活用できるようなコンピュータ教材を開発する。基本的には、「自然現象→疑問(問題把握)→予想→方法→結果→考察→まとめ・今後の課題」といった問題解決学習の流れにそった構成にする。また、コンテンツとしては、3〜6年生の各単元ごとに以下のような3つの機能を用意して、教師と子どもが一体となった学習活動が構築できるよう配慮する。

(1)「学習情報」では、重要語句や準備物など教師の教材研究に役立つ情報を入れる。

(2)「電子黒板」では、板書の内容を問題解決の手順で表示するようにし、実際の授業で黒板にかく手間を節約できるデジタル資料を用意する。

(3)「用紙印刷」では、(2)の電子黒板表示に対応させて、子どもに配布してノート代わりに利用させるワークシートを随時印刷できるようにする。

なお、共同開発者の中には、その道の達人が多く参加している。発展的な内容の文筆や専門的なデータストックの提供を依頼して、理科読み物としてもレベルの高い内容になるようにしていきたい。プログラムにおいては、製作に用いるAdobe社の Flashのよさを十分に発揮して、グラフィカルで、楽しい効果のあるものを作るようにする。特に、子どもがマウスなどを使ってより具体的に操作する活動を積極的に取り入れて、子どもの印象に残る授業ができるように工夫したい。

ソフトウェアを配布する上で、プログラムをサーバに置いて運用するネットワーク版とDVDを挿入すれば利用できるDVD版の2種類を開発したいと考えている。

 

1 開発の背景

日本人の「理科離れ」、子どもの「理科嫌い」が社会問題として叫ばれている中、「生きる力」を育むという理念の実現に向けて「小学校の学習指導要領が改訂された。理科については、早速平成21年度より新学習指導要領の内容に移行して、標準時数も350時間から405時間と増大した。また、地上デジタル化の波が小学校にも来ており、テレビの買い換えを機に、画面サイズが50インチ以上もある大型液晶テレビが各教室にも配置されてきている。

こういった時代の変化、教育の変化を見据え、学校現場で使える小学校理科用の教材ソフトを開発することにした。理科の領域でのプログラム開発は、実験シミュレーションなど実験観察を補佐する目的のソフトが多く、小学校向けの基礎基本の定着を図るための教材が少ないからである。

小学校では、理科に専科教員を置く場合が多い。理科専科の教員は、いろいろな創意工夫をして、子どもたちに理科に興味をもたせ、基礎基本を定着させていこうと考えている。しかし、理科専科の問題点として、まず、授業時間以外で復習の場をもつのが難しい点がある。学級担任なら漢字や計算の定着と同様、毎日の宿題に出したり、休み時間に個別に支援したりすることができる。しかし、専科だと、理科室と自教室が離れていたり、次々と他の学級が理科室に入ったりするために、学級担任のような融通がききにくい。また、専科の教師が、理科室の黒板に詳細にかいた板書を同学年の他の学級用に残したいと思っても、次の校時は違う学年が理科室を使うために、毎回消して改めて書き直さないといけないことも手間に感じることがある。教師が黒板にかいている時間は、子どもたちにとっては、ただの待ち時間になるため、教師が板書に費やす時間を短縮できれば、子どもたちの実験・観察や話し合う時間をもっと確保できるはずである。

また、専科ではなく、学級担任が理科の授業を行うときには、理科の専門知識の不足や準備不足から、子どもに十分な実験・観察を提供しにくい不安をもつ場合がある。特に、移行措置で追加された単元の教材研究は急務となっている。毎年、担当学年が変わる上、他の多くの教科の指導も兼務する学級担任にとって、教材研究に時間のかかる理科の教材ソフトができることは歓迎されると感じる。

 

2 開発の過程

(1) 開発環境

  全国の小学校に導入されているパソコンのOSは、ほとんどWindowsなので、Windowsで動作するソフトを開発することにした。また、面倒なインストール作業や設定が必要なく、どこでも使えるように、一般的なブラウザさえあれば動作する「ブラウザソフト」仕様にした。そのため、ブラウザ上でマルチメディアに対応し、アニメーション動作できるFlashを中心にプログラム開発を進めるようにした。

  ◎ 開発ソフトの動作環境

・ OS                         Windows95/98/Me/2000/Xp/Vista/7

・ 開発言語・ツール        Adobe Flash CS4

・ 動作に必要なソフトウェア等  Internet Explorer 等ブラウザ(Flashプラグイン、JavaScript)

理科データの収集には、デジタルカメラ等デジタル機器を積極的に利用し、コンピュータとの親和性を高めた。今後のことを考えて、フルHDサイズの映像や画像を積極的に撮影していくが、ブルーレイ限定での配布になるなど一般的な活用ができなくなるため、現状ではフルHDデータについてはソフト化をせずに、撮影とHDDへの記録だけに留めた。

データ記録の方法もいろいろなやり方を研究し、子どもにとってよりわかりやすい理科データになるように、撮影や記録の仕方を工夫した。資料1は、種子の発芽の様子を長期的に記録したインターバル撮影の技法である。

資料1 インターバル撮影の実践例  ※ 理科基礎学習研究会MLにて紹介したもの

(2) 共同開発の分担

   全国から小学校理科にかかわる教員たちに声をかけ、共同開発を募った。プログラムできる人は少なかったので、主にデータ提供と試用モニタ、バグチェックなどの役割を分担した。データ提供について、実物画像データであれば、季節の植物、観察用植物の成長の様子、昆虫、天体、演示実験といった画像や動画を、文書データであれば、発展教材として使える面白理科実験や植物、こん虫、人体、天気、天体、環境などに関連した読み物原稿を、メール添付や郵送の方法で送ってもらっている。特に、植物や小動物などの栽培・飼育については、実際に種子から栽培してもらうなどして、長期的な観察記録を依頼した。共同研究者からは、継続的に記録データを送ってもらっており、特に季節や生長によって変化する動植物について、数多くのデータを集められている。

資料2 ヒマワリの画像(7月)   資料3 ヒマワリの画像(9月)   資料4 [動画]…メダカのたまご

  

(3) ソフト開発に入るまでの研究

まずは、「小学校学習指導要領 理科編」や関連資料を時間をかけて調べ、理科の各領域と各学年の系統性や関連性を念頭におきながら、ソフトウェア化の基礎となる内容構成を単元として考えた。

資料5 骨子となる単元構成表   ※ 領域と学年の系統性を図っている。

つぎに、各単元において実際の授業に沿った流れでソフトが動作できるように、各単元の中での学習活動の構成を考えた。その際に、理科の重要用語や準備物を抽出したり、子どもに理解させる内容をまとめたりして、開発するソフトが新学習指導要領からぶれないように留意した。また、同単元でも教科書によって実験や観察の方法が違っているため、各教科書間の共通点や独自の特徴を整理して、どの教科書のどの内容でも対応することができるプログラム構成を考えた。

資料6 単元別の学習活動構成表

こうやって、小学校理科の基礎・基本を再度見つめ直し、単元ごとに学習計画を立てる段階から研究を始めたので、学習指導要領の研究だけでかなりの時間を要してしまった。

 

3.本開発作品の特徴

(1) 基本構造

全国に導入されてきている50インチ大型テレビを第2の黒板と考え、実際の授業において、実験図などの板書を提示して利用するソフトである。「自然現象→疑問(問題把握)→予想→方法→結果→考察→まとめ・今後の課題」の順で掲示され、子どもたちの問題解決能力の基礎を養うこともねらっている。

ソフトを使う流れとして、初期メニューを起動した後は、以下のような手順になっている。

[1] 教科書(現状、学校図書のみ)と学年を選択する。

[2] 単元を選択する。

[3] 学習活動(課題)を選択する。

また、各学習活動には、現開発時点で「学習情報」、「電子黒板」、「用紙印刷」のメニューがある。

◎ 「学習情報」…重要語句や準備物など授業に役立つ情報

◎ 「電子黒板」…板書の内容を問題解決の手順で表示

◎ 「用紙印刷」…電子黒板に対応したワークシートの印刷

 

(2) 学習情報

「学習情報」は、「理解内容」、「基本用語」、「基本技能」、「準備物」といった教材研究や事前準備に役立つ情報が入っている。

 

資料7 魚の受精卵(5年)               資料8 空気に含まれる気体(6月)

 

 

(3)電子黒板

「電子黒板」は、教師が黒板に板書する時間を短縮するため、実験方法など板書として必要な内容を、代わりにテレビやプロジェクターで映し出すことができる。

映し出す内容は、「自然現象→疑問(問題把握)→予想→方法→結果→考察→まとめ・今後の課題」といった問題解決の順番で表示される。

 

資料9 「魚のおすとめす(5年)」の学習においての、観察方法と観察結果の提示資料

 

 

資料10 「花粉のはたらき(5年)」の学習においての、実験方法と実験結果の提示資料

 

また、Flashの特性を生かしてアニメーション表示できる提示資料を作成した。例えば、資料11では、集気びんに水を少し入れ、火をつけたろうそくを中に入れてふたをするまでをアニメーション表示している。また、資料12では、すりばちで葉をすりつぶしたり、スポイトで上澄み液を吸ったりする様子がアニメーション化され、すりしぼりの手順がよりわかりやすくなっている。

 

資料11 「燃焼のしくみ(6年)」         資料12 「植物の養分と日光(6年)」

 

 

   子どもが操作できる提示資料も作成した。例えば、資料13では、下の昆虫をドラッグして、すみかに入れるといった操作活動ができる。資料14では、鉄製の品物だけが磁石につくような仕組みを施している。

 

資料13 「こん虫のすみか(3年)」         資料14 「じしゃくであそぼう(3年)」

 

 

   星座早見盤など子どもが具体的に操作する教具との連携を図っている。資料15は、パソコン版の星座早見である。資料16は、月の形早見盤で、新学習指導要領で追加された新単元に対応している。

 

資料15 「星座早見盤(4年)」             資料16 「月の形早見盤(6年)」

 

(4) 用紙印刷

電子黒板に対応したワークシートを出力することができる。出力したワークシートは、人数分印刷して、学習ノートとして活用する。

ワークシートは、汎用と専用の2種類ある。汎用タイプは、すべての活動で使える白紙タイプのワークシートで、学期当初に一度にたくさん印刷しておけば便利です。専用タイプは、その学習活動専用の構成なので授業ごとに印刷しないといけないが、必要事項が書かれているので子どもが板書を書き写す時間を短縮することができる。

資料17 「植物の養分と日光(6年)」用のワークシート出力画面(左がワークシート、右が記入見本)

 

資料18  専用タイプのワークシート ※ 図やグラフなど内容にあったワークシートが印刷される。

 

資料19  電子黒板とワークシートとの連動の様子 ※ 左が電子黒板、右がワークシート

 

(5) 未搭載の機能

前述の通り、ActionScript3でのプログラム組み直しの予定があることから、今回のバージョンではいろいろな部品がカットされている。実画像を用いたクイズやストリーミング動画、生き物データベースなどである。「メタセコイア」を使って作成していた3Dの実験器具なども組み込んでいない。新バージョンで、貯め込んでいる実画像を使った教材や動画ストリーミングが搭載されるようになると、活用の幅がさらに広がってくるはずである。

資料20 今年度のバージョンでは未搭載になってしまったFalshコンテンツや素材

 

4.開発ソフトの活用

開発を進めながら試用してみて、やはり一番のメリットは、板書に費やす時間を短縮して実験・観察や話合い活動の時間を確保できることである。実験方法など同じ内容を何度もかかないといけない手間もなくなり、子どもの活動をより注目できるようになった。なお、本来の黒板はまるまる空くため、予想や考察など子どもたちの意見や考えを整理する場に使えるため、新学習指導要領でいわれている各教科での言語力の育成も図ることができるように感じる。

   勤務校では、50インチテレビの導入は3月になっているが、50インチテレビを第2の黒板として、日常使うことで、教師も子どももゆとりが生まれてくるように思う。

   なお、勤務校では、50インチテレビに加えて、顕微鏡モニタとして23インチのフルHDモニタが各実験テーブルにおかれるようになる。それぞれのモニタはケーブルで結ばれ、親機から画像を一斉送信することができる。今回開発したソフトと連動させることによって、新しい教育活動の形が期待できそうだ。

資料21 勤務校の液晶モニタの配置予定図 ※ 各実験テーブルに1台設置される。