開発ソフト概要説明書

 

 

科学実験ショーによる動機づけ効果と原体験化を組み込んだ

「ふぉとんサイエンスプログラム」の開発と実践

(ふぉとんDEサイエンス・NEO実験屋台村 )

 

開発研究代表者

星屋 泰二

 

開発研究分担者

横井 貞弘、佐々木 和也、駒田 伊知朗

 

開発協力者

江口 正、辻本 久美、橋本  一

 

助言者

西川 雅弘

 

 

 

目     次

 

 

概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  1

 

1. はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   2   

      2. 実施方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   2

      2.1 目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  2

      2.2 実施計画と進捗状況・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  2

      2.3 実施結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  3

 

3. 開発ソフトウェアの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   5

3.1 導入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  5

3.2 機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  6

 

4. 評価と解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   7

 

5. 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・   10

 

謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  10

 

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  10




概 要

 

 

理科離れ現象を効果的に抑制しうるモデルは、これまで提唱されていない。これには、現象の本質を分析し、ものに触れることの実体験と達成感をもとに、カリキュラムの制約、教える/教えられる側の垣根、親子環境の醸成などを勘案し、無意識に科学好き・実験好きになるよう吟味されたプログラムが必要である。発想の転換(教えるから親しむ&伝えるへ)を図るとともに、教育と研究の間の垣根を除き、実験を中核とする教育プログラム開発が急務である。

本研究では、低学年期に原体験化させ、理科好きから科学好きに繋げるための効果的実験モデルを提案し、モデル妥当性検証、システム構築及びソフトウェア開発に反映させる。

 生活の一部に科学を位置づけた、科学実験に関する屋台村的運営の概念モデルを着想するに至った。試行の結果、 (1)店舗間の重畳効果、(2)児童から大人まで対象混在、(3)低コスト化、 (4)講師の自由選択、(5)低学年層の理解度や科学技術への関心度が8割を超えるなど、特筆すべき学習効果の獲得が明らかとなった。

 一方、理科を伝える/動機づけや不思議体験/専門性をどの程度犠牲にして伝えるのか等、理科を教えるのか?/科学への導入を図るのか?など基本的課題が抽出された。このため理科と科学を嵌合させ、上記屋台村方式に組込んだ新実験モデル(NEO実験屋台村)を提示し、内容の全体像(マップ)を認識させることにより、科学教育の方法論策定と、理科実験を切り口とした重畳・非線型効果が期待される。

実践には、科学館/研究機関/大学/教員(学校)/教育機関が一体となった実験教育モデルを試行する。

1.出張理科実験教室を骨子とする「NEO実験屋台村」モデル概念を構築する。

2.動機づけとして科学実験ショーを導入し、効果を評価・分析するとともに、モデル構成要素実験(理科的・科学的要因)を実施し、解析、評価する。

3.実験要素間の重畳効果および非線型効果について、各要素を多元的に含めたプロジェクト(実験フェスティバル)を実践し、解析、評価する。

4.策定されたモデルの最適化とプログラム化を実施する。

活動にあたり、(a)きっづ光科学館ふぉとん、 (b)日本原子力研究開発機構関西光科学研究所、 (c)大阪大学大学院工学研究科、 (d)京都府山城・奈良県北部地域の理科部会教員グループ及び(e)教育関係機関(京都府山城教育局、奈良県立教育研究所等)が一体となり相補的かつ連携して推進する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

科学実験ショーによる動機づけ効果と原体験化を組み込んだ

「ふぉとんサイエンスプログラム」の開発と実践

(ふぉとんDEサイエンス・NEO実験屋台村 )

      

1. はじめに

理科離れ現象を効果的に抑制しうるモデルは、これまで提唱されていない。これには、現象の本質を分析し、ものに触れることの実体験と達成感をもとに、カリキュラムの制約、教える/教えられる側の垣根、親子環境の醸成などを勘案し、無意識に科学好き・実験好きになるよう吟味されたプログラムが必要である。これには、発想の転換(教えるから親しむ&伝えるへ)を図るとともに、教育と研究の間の垣根を除き、実験を中核とした教育プログラムの開発が急務である。

本研究では、低学年期に原体験化させ、理科好きから科学好きに繋げるための効果的実験モデルを提案し、モデル妥当性検証、システム構築及びソフトウェア開発に反映させることを狙いとした。

 生活の一部に科学を位置づけた、科学実験に関する屋台村的実験教室に関する運営のモデルを試行することにより、 (1)店舗間の重畳効果、(2)児童から大人まで対象混在、(3)低コスト化、 (4)講師の自由選択、(5)低学年層の理解度や科学技術への関心度の大幅な増大など、特筆すべき学習効果の獲得が実現するものと推量した。

 

2. 実施方法

2.1 目的

 理科離れ現象を効果的に抑制しうるモデルとして、教育と研究の間の垣根を除き、低学年期に原体験化させ、理科好きから科学好きに繋げるための効果的実験モデル実験を中核とする教育プログラム開発を目指す。これには、理科と科学を嵌合させ、実験屋台村方式に組込んだ新実験モデル(NEO実験屋台村)を提示し、内容の全体像(マップ)を認識させることに留意する。

実践には、科学館/研究機関/大学/教員(学校)/教育機関が一体となった実験教育モデルを試行する。

(1)出張理科実験教室を骨子とする「NEO実験屋台村」モデル概念を構築する。

(2)動機づけとして科学実験ショーを導入し、効果を評価・分析するとともに、モデル構成要素実験(理科的・科学的要因)を実施し、解析、評価する。

(3)実験要素間の重畳効果および非線型効果について、各要素を多元的に含めたプロジェクト(実験フェスティバル)を実践し、解析、評価する。

(4)策定されたモデルの最適化とプログラム化を実施する。

 

2.2 実施計画と進捗状況

 モデル概念検討、構成要素効果の検討を進めるとともに、それらを構成する各実験教室、教員研修プログラムについて、その概要と実施要項の作成、要素効果抽出にむけての留意点について整理した。実験教室については、四つのマップ作成(光、宇宙、エネルギー、環境)について、各イベントに盛り込む構成要素(マップの縦軸と横軸)について検討を進め、

(1) 光マップでは、光の波長と振動数による整理をもとに、電波、マイクロ波、赤外線、可視光、紫外線、放射線の5領域に分別し、実験を構成することに決定した。

(2) 宇宙マップでは、時間と空間による整理をもとに、パワーズ・オブ・テンによるDVDを参考に、空間の広がりについて(a)現在から宇宙の極限まで、(b)現代から体内の細胞、DNA、分子、原子レベルの極限までに至る概念の構築について検討した。

(3) エネルギーマップでは、エネルギーの質と量による整理をもとに、エネルギーの量が、(a)宇宙のビッグバンから始まる極限から、(b)光量子1個に相当する極限までを対象とすることとした。エネルギーの質については、エネルギ−変換効率とエネルギー品位の観点からの整理を試みた。

(4) 環境マップでは、 エネルギー、資源、リサイクルの観点をもとに、地圏、水圏、気圏からの環境要素について整理することとした。

 

 実験教室については、きっづ光科学館ふぉとんで実施している「ふぉとんサイエンスクラブ」を補完し、相互に相乗、重畳効果が得られる内容とするとともに、教員研修では、京都府山城教育局、奈良県立教育研究所、奈良市教育委員会、木津川市教育委員会による四種類の研修について、個々の構成要素の効果が抽出できる内容となるよう、実施要項を作成した。京都府山城教育局では、フィールドワークを、奈良県立教育研究所では、光、エネルギーの他に環境要素として地圏環境を、奈良市教育委員会では、光マップと文理融合企画を、木津川市教育委員会では、エネルギーと粒子、生命と地球について取り上げることとし、第1回研修を各々実施し、データ取得を実施した。

 

 

研究項目と担当者

1四半期

2四半期

 第3-4

研究総括

(担当:星屋)

  モデル概念検討

  構成要素効果の検討

モデル化検討・評価解析

重畳(シナジー)効果検討

モデル

提案と

ソフトウェア開発

 

実証確認

 

●科学館運営

(担当:駒田)

 

   実験教室(データ収集)

 

⇒⇒ モデルの構築検討 

 NEO実験屋台村試行

●研究所運営

(担当:星屋)

 

科学セミナー/教員研修開催

  

●教員理科部会担当

(担当:佐々木/池尻/植村)

 

 教員研修参加/教育委員会

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2.3 実施結果(実施例)

 

 光マップ実験では、(1)太古の光と光の不思議、(2)光の基本的性質、(3)光マップ、(4)レーザー体験を四つのテーマ(下図参照)として抽出した。太古の光では、雷実験、松明・灯籠・火おこし実験、摩擦熱発電体験、あかりの歴史探索、LED工作等の実験教室を通して得られた各コンテンツをもとに、各実験手順から構成される詳細なシナリオを作成した。

 

 宇宙マップ実験では、太古の光が織りなす不思議を例にとり、2006年のX線天文衛星「すざく」によるSN1006(地球から7000光年離れた超新星の爆発後(爆発は、縄文時代に発生と推定)1000年を経た星の残骸)の観察結果と平安時代の明月記(藤原定家作)に記された超新星爆発記録との不思議な相関について着目し、時間と空間を繋ぐ光の不思議を概念的に捉えるとともに、宇宙空間の広がりについて宇宙の極限から、原子レベルの極限に至る概念の構築を反映したシナリオを作成した。




光の不思議に関する説明例



3. 開発ソフトウェアの概要

3.1 導入

 参加者の興味のあるレベルに応じて光科学に関する1から4までのレベルに対応して,光科学実験の疑似体験を可能とする。動画対応のiPhone3Sの動画機能処理について充分に把握できていないことから、画像及び、文書表示機能までとしている。この部分は、MOVファイル(MP4ファイル)の取り扱いを可能とするべく、対応予定である。

 1から4までのセグメント選別ボタンにタッチすると、各々のコースの演示写真が表示され、全体の概要を簡単に把握することができる。一方、5のボタンにタッチすれば、それぞれのコンテンツの詳細について表示され、実験器具の準備や、講座の内容概要について、その実験のポイントが簡便に把握できるようになっている。

 

 

 

 

 


3.2 機能

3.2.1太古の光と光の不思議:佐々木 和也 講師

(1) 夜空に輝く星朱里(超新星爆発と悠久の時間)

(2) 火山の大噴火(高温の光と熱)とマントル流出、溶岩流

(3) 灯りの変遷(木の摩擦、石の摩擦、篝火、松明、行灯、ガス灯、ア−ク灯、エジソン電球、LED電球)

 

3.2.2 光の基本的性質:横井 貞弘 講師

(1) 光の直進性

(2) 直進性の応用(ピンホールカメラ、電球のフィラメント観察)

(3) 反射(スモークボックス内実験、コーナーキューブ、光ファイバーの原理)、光通信(チャールズ・カオ:ノーベル物理学賞受賞)、電荷結合素子(CCD)センサー発明(ジョージ・スミス、ウィラード・ボイル:ノーベル物理学賞受賞)

(4) 屈折(スモークボックスと水槽による実験、光の逆進性の説明、濃度変化の効果、蜃気楼の実験)

(5) 分散(2波長レーザ、白色平行光による実験、ニュートンの実験、虹の原理、水フラスコによる実験)

 

3.2.3 光マップ(電波も光と同じ):江口 正 講師

(1) 電磁波について

(2) 輻射エレメント、反射エレメント及び導波エレメントの役割と組み合わせ効果

(3) 偏光について

(4) 電波の性質と伝わり方

(5) 電子レンジ漏洩電波検知器の試作体験

 

3.2.4 レーザー体験:横井 貞弘 講師

(1) レーザーの原理と特徴(光の直進性、単色性、干渉性、強度、パルス幅、構造)

(2) レーザーを用いた実験(電球の内部構造、ダイヤモンドによる反射、YAGレーザによる実験)

(3) 潜望鏡の製作(光の反射教材)

(4) 簡易分光器製作と応用


 

4. 評価と解析

 本研究でデータ取得のために実施した光科学実験教室に関するアンケート結果(平成21年度に、きっづ光科学館ふぉとんにおいて実施した光科学実験教室に関わる多数の分析データから一部抽出)から、人気の高かった実験教室について、判明した分析結果を1に示す。表中の設問に対する肯定的回答をYES、否定的回答をNOと表現し、未回答分についても否定的回答に集約した。

 

 

1 光科学実験教室アンケート結果




 

 

 

4.1 感想

 参加した感想については、「とても楽しかった」「まあまあ楽しかった」を含めて、ほぼ全回にわたり、9割が肯定的に回答している。次回への期待度についても「積極的に」「機会があれば」参加したいとしており、カリキュラムに関する当初の目的を充分に達成している。

 

4.2 興味の持ち方

 実験分野に関して「興味の持ち方が変ったか」という設問については、8割以上が「興味を持てた」と回答しており、7割〜8割が「新しいことを発見できた」とする回答と併せ、参加者の動機づけに大きな効果があったことを示している。また、自然や科学・技術に関する興味の度合いを図る設問については、「興味があった」が8割強であるのに対して、「興味が増加した」がほぼ同数または、それ以下である。なかでも、全てが体験実験づけの内容とした第1回については、他の3回の場合と比べると明らかに異なる傾向にある。その値が10割を呈するなど、動機づけ効果が一段と顕著であったことが特筆すべきであり、本研究で実施した実験教室によって科学・技術に関する興味が一層高まったことを示している。

 

4.3 理解度

 理解度は、全ての回において8割を超えるなど、通常の実験教室と比較しても極めて高い値を呈しており、探究心との相関が興味深い。

 

 

 

4.4 探求心

 探究心については、一般の実験教室の場合、通常6割前後の値が平均値であるのに対して、初回では、8割超え、第4回では、8割弱と高い値を保持している。また、キャリア教育の視点から見ても、第1回では、8割弱と他の場合よりも大きく引き離している。これは、参加者である子ども達にとって、インパクトが強く、あわせて、大きな動機づけ効果を与えることができれば、その効果が大きければ大きいほど、探究心やキャリア教育にも影響が広く及ぶことを示している。

 

4.5 人気の高いコンテンツ

 参加者に人気のあった実験・工作教材について、5段階評価結果を用いて以下に示す。

・火おこし(4.18) = 潜望鏡製作(4.18) = 不思議貯金箱(4.18)

・簡易分光器製作(4.14)>ダイポールアンテナ(4.13)LED(カチカチ)(4.00)

・赤外線、可視光、紫外線実験(3.87)>レーザー実験(3.86)>光の屈折(3.85)

・マイクロ波(電子レンジ実験)(3.8)>レーザーの原理と特徴(3.77)

・光の反射(3.68)>摩擦熱人力発電(3.53) = エジソン電球(3.53)

 

 このうち、赤外線、可視光、紫外線実験、レーザーの原理と特徴、レーザー実験は、演示実験であるものの、その評価値は高かった。こうした演示実験項目の内容改善により、より高い効果が得られることが分かった。光科学に代表されるように、理科教材として難度の高く、かつ、理解度を高めることに時間を多く要する内容に関しても、大きな動機づけ効果が期待できるような体験実験や工作実験を適宜、組合せることにより、参加者の理解を深めることが可能であることが判明した。

 

 

4.6 興味のある分野

 受講後における参加者の興味ある分野について調査した結果、共通してロボットや宇宙に関する人気が高い他に、研修受講後の学習効果として、コンピューター、化学やレーザーに関する評点が上昇している(表2)。一方で、物理、機械、電気・電子等、基礎的項目についても一定の高い値を示している。エネルギー分野に着目してみると、第3回で電波に関する実験をした際にエネルギーの値(7%)が最高値を呈しており、参加者が、光に関し、波や粒子としてではなく、エネルギーとして捉えていることが判る。

 今回では、取り上げなかった情報やバイオの項目についても、理解度向上策についてさらなる検討が必要であることを示している。また、スポーツ、音楽、絵画、歴史、農業等、人文科学や社会科学的見地からの視点も踏まえるとともに、理工学の分野においては、最近着目されている環境はもとより、それ以外のテーマとして、海洋、材料等についても取り組む必要があることを指摘している。 

 本研究のように実験体験を中心として、楽しくかつ、系統的に配慮されたコンテンツについて体験し、感性体験や課題について、仮想体験による手法を併用しつつ自由に学習することにより、「理科ぎらい」ではなく、本来の「理科実験好き」である学生の本質を損なうことなく、科学技術理解増進活動の促進に繋げるための予想以上の効果が生じるものと考えられる。