図形ワールドを楽しく探求する教材の開発

(ソフト名: 図形ワールド)

 

植 松 嘉 夫

 

 

 

要約

 

本研究は、高校数学を中心に図形ワールドを作図ツールを用いて楽しく散策したり探求したりするための教材ソフトを開発するものである。

作図ツールとしてはcabri geometry gc(geometric constructor) を予定している.gccabriの代用として考えている.これはフリーソフトであるので授業ではどこの学校でも使えるソフトである.このソフトは,授業実践での使用を重ねながら機能を改良しているというのでこれから大いに期待できるソフトである.

cabri geometryは市販のソフトであるが3D版もリリースされているので図形の学習を支援するソフトとしては最適だある.立体の展開図を作成できるので,展開図から立体を紙工作でつくることができる.また,動画を取り込めるなど高機能なソフトである.

開発する教材は一時流行したCAI教材ではなく,また現在研究が進められ一部実用化されているe-learningとも一線を画するものである。TIMSSの調査結果でも明らかなように数学が社会とどう関わっているかがわからないために数学を学ぶ意義が見いだせずに数学が嫌いという生徒が多い.生徒が楽しさを実感できる教材を実際の場面をもとに作成する。例えば,歩道のレンガ模様,橋,噴水や花火など生徒が興味ある身近な題材について,実際の場面の写真を撮り,その上に図形を重ね描く.現在の作図ツールではこのことが可能である.こうすることで,写真の上に図形的構造が見てとれ,図形の持つ美しさや性質を印象深く探究できる.また,写真だけでなく動画の活用も考えたい.例えば花火大会を動画で撮り,それに図形を重ね描いて探究する.また図形を動かすと実際の場面が変化するような工夫もしたい.また,錐体の体積が柱体の体積の3分の1になることや球の体積,表面積など証明なしに覚えさせられる公式や定積分で体積は求まるが見取り図がよくわからない立体などを3Dを用いて生徒が実感,納得できるように楽しくわかる教材も考えたい.これら身近な例をもとにマウスを自由に操作して図形を動かし探求する中で図形の構造を捉え,図形の認識力を高める.まず図形を動かして楽しい.次に構造がわかって楽しい.そして,構造がわかると動かし方がコントロールできてさらに楽しい.このことを第一に考えて教材開発を進めた.

 

 

 

東京都立北園高等学校

1. エデュテインメントの概念

エデュテインメントedutainmentとは,「教育効果があり楽しませる映画やテレビ番組、またはコンピュータのソフトウェアのことである.」(ロングマン現代英英辞典)と辞書にある.黒田(2000)の,愛知万博国際セミナーのあいさつで以下に述べている見解をエデュテインメントの定義とする.

 

 「エデュテインメント」とは「エデュケーション(学ぶこと)」と,「エンターテインメント(遊ぶこと)」を組み合わせたもので,21世紀のライフスタイルにとって大切な要素であり,デジタル技術の発展によって,その可能性はその可能性はますます広がりつつあると考えている.アメリカでは「エデュテインメント」というと,小学生用教育ソフト的な少し狭い概念に定着しそうな様子であるが,ここで私たちが言わんとしている,博覧会で取り上げようとしているエデュテインメントは,「学びを通じて楽しむ,楽しさを通じて学ぶ」という,よりひろいコンセプトとして捉えられている.思うに「学ぶこと」と「倒しむこと」は,アイ反するもののようにとらえられてきたようである.しかし,実際には,昔から中国の古典にも,古代ギリシアの言葉にも,学びに通じる遊び・楽しさ,楽しさに通じる学びというコンセプトは存在していた.それらは,その後互いに遊離してしまったが,新しい情報技術がそれらを再びしっかりと結びつける可能性が出てきたのではないかと思う.

 

2.数学教育におけるエデュテインメント教材の開発

2.1 教材開発の目的

 2.1.1  教材の満たすべき条件 

  仲田(1982)は,「良い教材は学習意欲を高め,教育効果を上げることは論をまたないが,一口に良い教材といってもいろいろなタイプがある.」として一般的にはつぎの7つのタイプがあげられるとている.

(1)考えてみようとする興味を起こさせるもの.

(2)パズル,クイズのようなものでなく,数学的考えや数学的手法で処理できるもの.

(3)数学として創造性,発展性のあるもの.

(4)数学の有用性,ご利益がわかるようなもの.

(5)数学のもっている考えが明確に示されるもの.

(6)そこでの学習が一般化できたり,他の学習にも転移できるようなもの.

(7)数学とはどんな学問なのか,がわかるようなもの

  また,吉村(1982)は,「一つの面白い,興味をひく新しい教材が考えられたとしても,それが広く実際に教室での指導の場面にとり上げられ、よい教材として世に認められるためには,次のような点が満たされているかどうかが重要なポイントである.」として,つぎの4点を上げている.

(1)その教材には適切な例題がいくつか用意されていること.

(2)良い評価問題が作られていること.

(3)どのような指導法が適当であるか考えられていること.

(4)その教材に適した教具が開発されていること.

すると,エデュテインメント教材は,その性格上次の3点を満たすものであるのがよいと思われる.

(1)生徒の活動性に訴えるもの

  生徒が興味・関心を示す教材は,自分でもやってみたいと思うものでなくてはならない.ただ,見せるだけでは興味・関心は持続されない.

(2)生徒がそこに多くの構成できるものである問題を意識することができるもの

  生徒の取り組みようで,いくらでも多くの数学的問題を示唆するものがよい.すなわち,数学的問題場面を豊かに構成できるもの.

(3)ある単元での教材が他の単元にも転用可能であること.

  たとえば,「宝探し教材」のように,中学校での図形の性質の単元での利用が高校のベクトルなどの単元でも利用可能なものがよい.

 

 2.1.2どういうことを実現するのか

  上記の教材を開発し次の4点を実現するのが教材開発の目的である.

(1)興味関心を喚起する

(2)学習内容の生徒の理解度を高める

(3)主体的に数学的活動を行える

(4)数学的な思考力が育成できる

3.プロダクトソフトウェア

3.1 作図ツール

作図ツールとしてはCabri geometry gc(geometric constructor) を予定している.gccabriの代用として考えている.これはフリーソフトであるので授業ではどこの学校でも使えるソフトである.このソフトは,授業実践での使用を重ねながら機能を改良しているというのでこれから大いに期待できるソフトである.

Cabri geometryは市販のソフトであるが3D版もリリースされているので図形の学習を支援するソフトとしては最適である.立体の展開図を作成できるので,展開図から立体を紙工作でつくることができる.また,動画を取り込めるなど高機能なソフトである.

 

3.2 Cabri Geometryについて

 このソフトウェアはもとはグラフ理論のために開発されたソフトを幾何に援用したものである.しかし,図形のリアルタイムの変形が可能であることによって,変形に対しても保持される図形の性質の発見を援助するソフトとして優れた機能を有している.自分で任意の図形を作図でき,頂点をマウスでつかむことによって移動できる.それによって,同時にもとの図形も作図されたときの幾何的性質を保持しながらその形を変える.そこで不変な性質を生徒自身が発見したり,教師がその提示のための道具として利用することができる.さらに,ほとんどの操作をプルダウンメニューの選択とマウスによって行うことができるので,大変高い操作性を有している.そのため,幾何における主体的学習の展開を可能にしている.

扱われている内容

 幾何一般(特に動的扱いに適している.)

期待される教育効果と限界

 幾何の性質の発見に有効,しかし変形という考えは日本においてはあまり指導されてきていない点が一つの障害となろう.

評価: 制御入力,試行錯誤に優れている.

3.3 Cabri Geometry Uplus 1.4 体験版(30日間無料)の入手方法

 Windows版とmac版が次のwebページからダウンロードできます.

http://www.cabri.com/download-cabri-2-plus.html

Installation language としてEnglish (US)の欄にあるものをダウンロードします.

Plug-inEnglish (US)の欄にあるものをダウンロードします.

日本語のマニュアルもPDFファイルとして次の3つJapaneseuser manual, Advanced tutorial, Referencesをダウンロードします.

 注意:画像の貼り付けはwindows vista では不具合が生じることがあります.Windows XPでは問題ありません.

 

4.教材ソフト

4.1 見て楽しむアニメーション

1)万華鏡 

 線対称を用いて模様をつくり、それを動かして楽しむ。

下図のように模様が連続的に変わっていくので見ていて楽しい。

 

 

 

(2) 回転 (3)平行移動+回転

(2)(3)はマルチアニメーション機能を用いてみて楽しみます。

4.2 楽しみながら問題を探求する.

(1) 宝探し 井戸がどこにあっても宝の隠し場所は変わらないという面白い問題です。

「次のような古文書があります。これをもとに宝探しをしよう。

    ある島に,井戸と松の木と梅の木がある。井戸から松の木へ線分を引 け。そこから右へ90度曲がり,同じ長さだけ進み,そこに杭を打て。    井戸から梅の木へ線分を引け。そこから左へ90度曲がり,同じ長さだ    け進み,そこに杭を打て。 2本の杭の中点に宝は隠されている。ところが,実際に島へいってみると,あるのは松の木と梅の木だけ。井戸ももちろん杭もなかった。井戸は埋まってしまったらしい。さあ,君は宝物 を発見できるか。

 

(2) 芝刈りじいさん問題 最短経路問題です。

「むかしむかし,あるところにおじいさんとばあさんが住んでいました.おじいさんは山へ芝刈りに行きました.おばあさんは,弁当を作り少し遅れて家を出て,川で洗濯をした後弁当をおじいさんに届けに行きます.

    さて,おばあさんが歩く距離が最短のときの距離を求めてみよう.」

 

4.3 図形の探究

(1) 三角形の内部の点から頂点までの距離の和

三角形ABCの内部に1点Pをとり,Pと各頂点を結ぶ.このとき,AP+BP+CPの最小の長さを1つの線分で表そう。

(1) 問題                            ヒント

 

 

(2)  AX=XY=YBとなる線分XYの作図

3点A,B,Oが与えられている.OAと点Xで,OBと点Yで交わり,AX=XY=YBとなる線分XYを作図してみよう.

(3)  AP+PQ+QBの最短距離

角35°をなす2つの半直線Ox,Oy上のそれぞれOA=2OBである点ABをとる.OxOyの定める平面内で,動く距離が最短となるように,点PAを出発して半直線Oy上の点に至り,次に半直線Ox上の点を経てBに到達する.その距離を定めよ.  (AP+PQ+QBの最短距離)

 

 

4.4 正12面体でフラットキャッチボール

 Cabri Dという3次元描画ソフトは、立体の展開図が作成できるので正多面体の学習をした後

 正12面体の展開図をつくり花びらのような形2つに切り分ける。

 そして正12面体の形にして回りを輪ゴムで接合するとフラットキャッチボールを楽しめる。

 

5.まとめと課題

 2008年度に発表された高校数学の新学習指導要領では作図を学習することが新たに追加された。作図ツールを用いるとエデュテインメント性のある探究活動が活発になっていくことが期待される。そのためには良質な教材の開発をさらに進めていくことが課題である。ノートパソコンとプロジェクタがあれば手軽に教室で授業が行える時代になりつつある。

 

参考資料

エデュテインメント(2005年日本国際博覧会国際シンポジウム学術情報誌),

2005年日本国際博覧会協会 2000

 

清水克彦・垣花京子編著,「コンピュータで支援する生徒の活動」,明治図書,1999

 

飯島康之。礒田正美・大久保和義/編著,

「コンピュータで数学授業を変えよう」,明治図書,1995