携帯電話で楽しく学べる算数数学学習Javaアプリ「Mobile Math」の開発と実践

 

 

宮城県立ろう学校

 

中 村 好 則

 

 

目 次

 

要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1

 

1.はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

 

2.「Mobile Math」の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

 

3.実践による評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6

 

4.まとめと課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7

 

研究協力者・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

 

参考資料・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8

 


 

携帯電話で楽しく学べる算数数学学習Javaアプリ「Mobile Math」の開発と実践

 

 

宮城県立ろう学校

 

中 村 好 則

 

 

 

要約

 

携帯電話の機能は多機能化し,インターネットやメール,Javaアプリなどパソコンと同様の機能が活用できるようになってきた.また,生徒の多くは,携帯電話を所有し,自由に操作できる.しかし,生徒の携帯電話の活用は,学習よりは,むしろメールやインターネットなどを活用したコミュニケーションや情報収集,あるいは音楽を聴いたりゲームを楽しんだりする娯楽のためのツールとしてのものである.筆者は,生徒がいつでもどこでも使用できる携帯電話用のエデュテインメントを開発することで,生徒の学習を質的にも量的にも支援することができるものと考える.特に,最近の生徒は,通学や友達との待合せの時間など,わずかな時間があれば,携帯電話を使っている場面を多く見かける.クイズやパズルなど楽しさや知的探究心を持てるエデュテインメントが携帯電話で使えれば,パソコン上のエデュテインメントよりもより手軽に活用でき,効果的だと考える.

 近年,理科や算数数学嫌いが社会的にも課題となっている.しかし,生徒が高度情報化社会に積極的に社会参加し自己実現をしていくためには,算数数学の力は必要であり重要であると考える.そこで,本開発研究では,算数数学の学習内容に焦点を当て,携帯電話で楽しく学べる算数数学学習Javaアプリ「Mobile Math」を開発した.また,開発した教材を用いて,実際に何人かの生徒に試用してもらい,教材を評価した.

この「Mobile Math」では,その内容を小学校から中学校,高校の内容の各領域から作成した.学習者は,興味に合わせて,小中高の範囲と領域から問題を選択し,パズルやクイズ,ドリルなどに挑戦できる.学習者には正誤が瞬時に与えられる.Javaアプリの性質上,一度携帯電話にダウンロードすれば,2度目からはパケット料金を課金されることなく,何度でも利用可能である.また,今回は,動きのある問題を作成するために,Javaアプリだけではなく,Flash light版アプリも開発した.

 

 

 

 

 


宮城県立ろう学校


1.  はじめに

携帯電話の機能は多機能化し,インターネットやメール,Javaアプリなどパソコンと同様の機能が活用できるようになってきた.また,生徒の多くは,携帯電話を所有し,自由に操作できる.しかし,生徒の携帯電話の活用は,学習よりは,むしろメールやインターネットなどを活用したコミュニケーションや情報収集,あるいは音楽を聴いたりゲームを楽しんだりする娯楽のためのツールとしてのものである.筆者は,生徒がいつでもどこでも使用できる携帯電話用のエデュテインメントを開発することで,生徒の学習を質的にも量的にも支援することができるものと考える.特に,最近の生徒は,通学や友達との待合せの時間など,わずかな時間があれば,携帯電話を使っている場面を多く見かける.クイズやパズルなど楽しさや知的探究心を持てるエデュテインメントが携帯電話で使えれば,パソコン上のエデュテインメントよりもより手軽に活用でき,効果的だと考える.

近年,理科や算数数学嫌いが社会的にも課題となっている.しかし,生徒が高度情報化社会に積極的に社会参加し自己実現をしていくためには,算数数学の力は必要であり重要であると考える.そこで,本開発研究では,算数数学の学習内容に焦点を当て,携帯電話で楽しく学べる算数数学学習Javaアプリ「Mobile Math」を開発した.また,開発した教材を用いて,実際に何人かの生徒に試用してもらい,教材を評価した.

 

2.  Mobile Math」の概要

この「Mobile Math」では,その内容を小学校から中学校,高校の内容の各領域から構成した.学習者は,興味に合わせて,レベル(小学校,中学校,高校)と領域(小学校の場合は数と量・数量関係・図形,中学校の場合は数と式・数量関係・図形,高校の場合は代数・解析・幾何・確率統計)を選択し,パズルやクイズ,ドリルなどに挑戦できる.学習者には各問題ごとに正誤の結果が瞬時に与えられる.

 学習者は,まず始めに携帯電話で「Mobile Math」のホームページに接続し,希望の問題を選択すると,自分の携帯電話にその問題のJavaアプリがダウンロードされる.ただし,今回開発したJavaアプリは,NTTドコモの携帯電話にのみ対応しているため,それ以外の会社の携帯電話では利用できない.このとき,学習者はパケット料金が必要になるが,2度目の利用からはダウンロードする必要がないので,その後は無料で何度でも利用可能である.図1は,それぞれ小学校,中学校,高校の内容のiモード対応の「Mobile Math」ダウンロードサイトの一場面である.

 

  

1 「Mobile Math」のスタート画面

 

 学習者の対象として小学校の児童から高校の生徒までを考えた.それぞれの問題はできるだけ同じ操作で学習できるように設計した.基本的には,@課題提示,A解答の選択,B正誤判定という流れを繰り返してプログラムが進行する.以下では,開発したアプリの具体的な例を,(1)パズル・クイズ系問題と,(2)ドリル系問題に分けて,その概要を説明する.開発したアプリは,エミュレータでのテストのほかに,P506iP902iP905iの実機で動作を確認した.このとき,開発したアプリによっては,プログラムのデータ量の関係でP506iでは動作しないものがいくつかあった.

 

(1)   パズル・クイズ系問題

 算数数学とかかわりのあるパズルやクイズなどを題材として開発した.

一筆書き(図1の左側)は,与えられた図形や絵が一筆書きできるかどうかを考える問題である.この問題は小学生でも解答できるが,高校生には,奇点の数に気付き解答することが期待される.一筆書きの図は何種類か出題される.道順(図1の中央)は,スタート点からゴール点まで最短で行くには何通りの方法があるかを考える問題である.これも,小学生から解答可能と考える.ここでは,5種類の問題が出題される.魔方陣(図1の右側)は縦横斜めの3つの数字の和が全て等しくなるように@からDの欄に数字を入れるものである. 鶴亀算や年齢算などの算術計算をまとめたものが図3の左側,暦に関わる問題を集めたものが図3の暦パズルである.また,虫食い算についても,加減乗除,それぞれについて開発した(図3の右側は乗法の虫食い算).

 

  

2 クイズ・パズル系問題1(一筆書き,道順,魔方陣)

 

  

3 クイズ・パズル系問題2(年齢算,暦パズル,虫食い算)

 

 また,マッチ棒を積み上げ三角形を作るとき,何本のマッチ棒が必要かを考える問題(図4の左側)では,小さい段数から考え,一般のn段まで考える.同じように,缶を積み上げる問題(図4の中央)やマッチ棒で正方形を作る問題なども作成した.図4の右側は,立方体の切断面の図形の形を考える問題である.立方体上の与えられた3点を通る平面で立方体を切断すると,その切断面は三角形や四角形,五角形,六角形などの図形になる.学習者には,これらを平行性の性質を利用して考えることが期待される.

 

  

4 クイズ・パズル系問題3(マッチ棒の問題,缶の積み上げ,立方体の切断)

 

(2) ドリル系問題

ドリル系問題では,教科書などによく出る問題を中心に,基礎的基本的な問題をドリル的に練習できる問題を集めた.関数領域では,一次関数の傾きと切片を求める問題(4の左側),一次関数や2次関数,円などの不等式の領域を考える問題(図4の中央),関数のグラフで囲まれた領域の面積を求める問題(図4の右側)を作成した.ここでは,グラフを読み取る力を育てることをねらいとしている.

 

  

4 ドリル系問題1(一次関数,不等式の領域,定積分)

 

図形領域では,図形の性質を利用して角度を求める問題(図5の左側),三角形の五心の名称とその意味を考える問題(図5の中央),図形の面積を求める問題(図5の右側)を作成した.ここでは,図をできるだけ正確に作成し,表示についても図がなるべく歪まないように改良を重ねた.

 

 

  

5 ドリル系問題2(求角問題,三角形の五心,図形の面積)

 

 また,因数分解の問題(図6の左側),立体の体積の問題(図6の中央),集合の要素の個数の問題(図6の右側)を開発した.これらは,教科書にある基本的な問題の確認を目的に作成した.

 

  

6 ドリル系問題3(因数分解,体積,集合の要素の個数)

 

(3) Flash light版「Mobile Math

 何名かの生徒を対象に,開発したJavaアプリを試用してもらい感想を聞いたときに,「いちいちダウンロードするのは,面倒だ」という意見が出され,ダウンロードする必要がないFlash版アプリを開発した.Flashの良さを活かすために,動きのある視覚的なアニメーション系教材とJavaアプリと同様なドリル系教材を開発した.

 

@     アニメーション系Flash教材

 三平方の定理の証明は,いろいろな方法がある.しかし,それを言葉や式で説明することは必ずしも容易ではない.そこで,Flashを用いたアニメーションを用いて,等積変形する様子を視覚的に説明するものを開発した.図7は,3種類の三平方の定理の証明である.これをもとに,言葉や式で説明できるようになることがねらいである.また,図8の左側の2つは,正弦関数と余弦関数のグラフについて,単位円の運動と関連付けながら学ぶものである.ここでは,円の半径の動きとグラフができる様子がアニメーションで表示される.これらは,個別学習や自学自習というよりは,むしろ一斉指導での活用を目的にした点で他の教材とは異なるものである.携帯電話を各生徒個人が持つ小型コンピュータと考えると,教室で1人一台の小型コンピュータを持っていることになり,将来,携帯電話に関する諸問題(料金,機種など)をクリアできれば,有効なツールとなる可能性がある.

 

A ドリル系Flash教材

8の右側の2つのように,基本的な問題について,答えを選択するような問題も開発した.正誤はその場ですぐに表示されるとともに,全ての問題が終了すると正答率がパーセントで表示されるようにした.また,繰り返し学習することを考慮し,小問題はランダムに表示されるように配慮した.この他にも同様な問題を開発している.

 

  

7 Flash版教材1(三平方の定理の証明1,2,3)

 

   

8 Flash版教材2(正弦関数,余弦関数四則演算,面積の公式,)

 

3.実践による評価

公立聾学校高等部1年から3年及び専攻科1年から2年の希望する生徒6名(男4名,女2名)に対して,携帯電話を貸し出し(NTTドコモの携帯電話を所有し希望する生徒は自分のものを使用),自分で好きな問題を選択して解いてもらい,アンケート調査を行った.アンケート調査では,「まったくそう思う(5点)」,「そう思う(4点)」,「どちらとも言えない(3点)」,「そう思わない(2点)」,「まったくそう思わない(1点)」の5段階で各項目に回答してもらった.また,最後に,自由記述として,感想や意見などを記入する欄を設けた.

実践では,どの生徒も,携帯電話の学習教材に対して,驚いた様子とともに,とても興味を示した.どの生徒も特に操作方法を詳細に説明しなくとも,次々と問題を解き始めた.問題によっては,難しい問題もあったため,解くことを途中でやめ,簡単そうな別の問題に移ることも時々見られた.また,計算が必要な問題もあるため,紙と鉛筆を取り出し,計算をしてから,答えを選択する場面が多くあった.約50分間で実施したが,時間いっぱい集中して取り組んでおり,時間が終了したことを告げると,「もっとやりたい」との声があがったが,次の授業もあるので終了にした.

アンケート調査の結果は,以下のとおりであった.

 


@            操作は簡単であった.

A            画面は見やすかった.

B            内容は難しかった.

C            内容は面白かった.

D            また,やってみたい.

E            学習の役に立つ.

 

自由記述では,

A:携帯で勉強できるのはいいけど,接続料金が気になる.

B:もっといろいろな問題があればいい.

C:数学だけでなく,国語や英語,社会もあったらいいかも.

D:いちいちダウンロードするのは,めんどう.

E:これなら,少しの時間で勉強できる.(やると思うよ).

F:答えだけじゃなく,説明もほしい.

 

4.まとめと課題

本研究では,携帯電話で活用できる算数数学用のJavaアプリを開発し,6名の生徒を対象に実践を行い,アンケート調査と生徒の学習活動の様子をもとに教材を評価した.また,開発途中の反省をもとにFlash版のアプリも開発した.その結果,開発したアプリについて,以下のことが明らかとなった.

(1)     アンケート調査の「学習の役に立つ」の項目が高い評価を得ており,開発したアプリが生徒の学習を支援できる可能性があることが示唆される.

(2)     アンケート調査の「内容は面白い」の項目が3.5以下であり,対象生徒が数学を苦手とする生徒が多いことも影響していると考えられるが,内容面でのさらなる工夫が必要である.しかし,実践での生徒の学習活動の様子からは,とても集中してこの教材に取り組む様子が観察され,生徒の興味・関心・意欲を十分にひくものであったと考えられる.

(3)     アンケート調査の「操作は簡単であった」「画面は見やすかった」の項目が4.0以上であり,各Javaアプリの操作性を統一したことがよかったものと考えられる.

(4)     今回開発したアプリは,NTTドコモにしか対応していない.しかし,生徒はいろいろな会社の携帯電話を所有しており,広く利用してもらうためには,すべての携帯電話に対応していく必要がある.

(5)     同じ会社の携帯電話でも,携帯電話の機種や新旧によって,動作しないものがあったり,動作しても表示画面が異なるなど,より多くの実機での確認が必要である.

(6)     Javaアプリのダウンロード,Flash版アプリの利用には,パケット料金がかかるため,料金を気にする生徒もいる(自由記述のA).しかし,このことについては,

@       Javaアプリは,一度ダウンロードすれば,その後は何度でも無料で使えること,

A       Flash版アプリは画面保存をすることで,それ以降はパケット料金がかからないで利用できること,

を知らせることで対応できるものと考える.

(7)     最新の携帯電話ほどアプリのデータ量が多くても動作するが,生徒の所有する携帯電話は必ずしも最新のものとは限らず,ある程度旧型にも対応する必要がある.

(8)     今回は基本的には個別学習や自学自習を想定して開発したが,教材によっては一斉指導でも活用可能であることが示唆された(特に,Flash系教材).

(9)     「もっと問題の種類や領域を増やしてほしい」という生徒のニーズに応える必要がある(自由記述のBC).

(10) 自学自習のためには,答えだけではなく,詳しい答えの解説を表示できるようにすることが必要である(自由記述のF).

 

【研究協力者】

筑波技術大学 教授 後藤豊

 

【参考資料】

1.          後藤豊,伊藤守,中村好則,前田直広,内藤真穂(2005)聴覚障害学生への携帯電話活用Javaアプリ型教材の配信,教育システム情報学会誌,Vol.22No.3pp.216-222

2.          伊藤守,内藤真穂,前田直広,中村好則,後藤豊(2005)聴覚障害者を対象とした携帯電話の学習活用に関する研究−大学との共同研究の試み−,第39回全日本聾教育研究大会研究収録(大阪),pp.180-181

3.          Yutaka Goto, Mamoru Ito Naohiro Maeda, Yoshinori Nakamura, Maho Naito,  Toshihide Hosoi, Kenji Hirai2006"Individual Learning with a Mobile Phone: Experimental Distribution of Learning Materials to Deaf Students", Proceedings of 9th Asia-Pacific Congress on Deafness and 40th Annual Conference of the Japanese Deaf Education Association, pp.197-198 (in Japanese), (Abstracts Book, pp. 247-249), Tokyo, Japan.