開発研究テーマ
「食育」をテーマにしたデジタル教材「給食の秘密」ver.2の開発と
開発した教材を活用した学習指導法の研究
開発研究 代表者 小林泰義
目 次
T 要約・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
U 開発ソフト概要説明・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
1 教材作成の基本的概念・・・・・・・・・・・・・・2
2 この教材のねらい・・・・・・・・・・・・・・・・2
3 使用ソフトウェアー:ホームページビルダー・・・・3
4 教材の内容の主な構成・・・・・・・・・・・・・・3
5 「給食秘密」イメージマップ・・・・・・・・・・・6
6 この教材を開発するにあたって苦労したこと・・・・8
7 開発した教材を活用した学習指導法の研究・・・・・8
8 今後の課題・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
9 おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
10その他・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
開発研究テーマ:
「食育」をテーマにしたデジタル教材「給食のひみつ」ver.2の開発と
開発した教材を活用した学習指導法の研究
開発研究 代表者 小林泰義
要 約
この教材「給食の秘密」ver.2は、「クイズ100人に聞きました」というクイズ形式で始まる。そして、児童生徒に関心の高い「学校給食」をきっかけに、以下のような項目について自主的に調査研究を深めていくことができる教材である。
また、学習を進めていくと、「給食の秘密の達人になる」というクイズ形式の項目で、教材全体のポイントをフィードバック学習が、興味深くできるようにした。
この教材は「給食」のさまざまな「秘密」を楽しみながら調べていくうちに、気がつくとたくさんの項目について学習しているという教材である。
国際理解・・・・日本・韓国等の食事のマナーの違い
道徳教育・・・・食事のマナー 箸の使い方
環境教育・・・・残菜のゆくえ
給食の歴史・・・明治時代に初めての給食
進路指導・・・・栄養士 共同調理場で働く人たちの苦労と喜び
体験学習・・・・堆肥作り
公民・・・・・・給食が安いわけ なぜ給食があるのか
保健・安全教育・O157を防ぐにはどうしたらよいか
家庭科・・・・・日本の昔ながらの料理を作ってみる
社会科・・・・・生産と流通 食材の仕入れ方
勤務先:所沢市立若狭小学校 (前所沢市立狭山ヶ丘中学校)
開発ソフト「給食の秘密」ver.2概要説明
1教材作成の基本的概念
この教材を作成していく上での基本的概念として、次の2つを考えた。
@児童生徒の目線でとらえられた教材を作成する。
この教材は、児童生徒の目線を意識し小学校高学年から中学生向けに作成した。
特に時間をかけて作成した1例を挙げると、教材の導入部分である。いろいろな案が出たが、最終的にクイズ形式にして児童生徒の関心を引きつけることで取りつきやすい教材にした。
A教材の調査検索の幅を広くする。
この教材は学校給食を皮切りに児童生徒の興味関心が湧きあがり、それを満たしていけるような教材でなければならない。まだまだ不充分なところもあるが、現段階でできる限り地平線を広げた。
また、児童生徒の関心がどのような方向に向かっていくのかを予測し、さらに教師として導いていきたい方向、気がついて欲しい方向への検索もできるように工夫した。
2この教材のねらい
この教材のねらいは次の3つである。
@ 給食の残食を少なくする。
給食指導をする中で、多くの教員が感じていることがある。それは、「せっかく作っていただいた給食を、こんなに残してもったいない。」ということである。
実は、毎日我々の想像を越える量の給食が残され、そして焼却処分されている。食べ物に対する「有難さ」や、給食を残すことで地球環境にどのような悪影響を与えているかを、学校でしっかり指導していきたい。
そんな思いがこの教材を利用することで多くの児童生徒に伝われば、少しでも残食の量を減らすことができるはずだ。
A 給食を作る側の栄養士・給食センターの職員の方々と、食べる側の児童生徒の距離を短くする。
「今日の給食はおいしかった。」という言葉を、給食を作った方々に直接伝えたい。そして、給食に関わっている方達の嬉しそうな笑顔やひとことを児童生徒達に伝えたい。そう思った。なぜならば、食べる側の「ことば」が作る側に伝わることで、更においしい料理を作ろうと思う。そして、作る側の「ことば」が食べる側に伝わると、残さず食べよう。という気になるからだ。
そこで、この教材では直接栄養士の方とメールでコミュニケーションを取れるようにした。
B「総合的な学習の時間」の教材として活用する。
この教材を活用することで、調査・まとめ・発表の作業をする「総合的な学習の時間」で、効率の良い授業展開ができる。
3使用ソフトウェアー:ホームページビルダー
4教材の内容の主な構成
この教材は、次の12項目から構成されている。
@残った給食はどうなるのかな
Aなぜ給食があるのだろう 学校給食法について
B給食はどこで作られているのかな
C病気にならないための手洗いの方法について
D給食のときの食事のマナーは
Eいつから給食は始まったのかな
F君が給食のメニューを作るためには
G牛乳パックの再利用法
H給食はなぜ安いのだろうか
Iアンケートの結果を知りたい
J「給食の秘密」の達人になる
K食育・ロハスについて
それぞれの項目の主な内容を以下にまとめた。
@
残った給食はどうなるのかな
給食の残食が学校から運び出されて最終的にどのように処分されるのかを追った。だれでも残食の量が少しでも減り、残食を処理するための無駄なお金を使わずに済むようにしたいという願いがある。調べていくうちに、所沢市内、小学校30校、中学校15校で1学期間に15万トンもの給食が焼却処分されていることがわかった。
また、食べ物がなく餓死していく人達のいる地域を援助する団体のホームページも見られるようにした。
さらに、日本だけでなく、世界の食糧問題や飢餓について調べられるようにした。
その他、沖縄の西表島の小学校で取り組んでいる、残食を有効活用するための堆肥化やEM菌を使って花壇経営をしたり、コーンポストを使って残食の堆肥化したりしていることについて知ることができる。(環境問題、国際理解教育)
A
なぜ給食があるのだろう 学校給食法について
なぜ学校給食が始まったのか。また、学校給食の役割は何なのか。などについて知ることができる。(公民)
B
給食はどこで作られているのかな
給食センターに取材に行き、映像でその様子を見ることができる。
その他、どのように私たちの主食であるお米が作られているのかについて、お米や野菜を作っている「田や畑の仕事」について知ることができるように秋田県大潟村の小学校社会科副読本にリンクを貼った。(自然・体験学習)
C
病気にならないための手洗いの方法について
手の洗い方について映像を見ながら学ぶことが出来るようにした。また、O−157などの菌についても知ることができる。 (保健衛生・健康)
D 給食のときの食事のマナーは
ここでは、1)食事の際のマナー 2)料理の食べ方 3)レストランでのマナー の3項目について以下のような内容を調べることができる。
1)食事の際のマナー
A)
<中国の食事のマナー>
B)
<韓国の食事のマナー>
C)
<日本の食事のマナー>
D)
<インド料理のマナー>
E)
<フランス料理のマナー>
F)
<中華料理の食卓作法>
G)
<イタリア料理の食卓作法>
H)
<和食の時の作法>
I)
<正しい手の洗い方>
J)
<箸の正しい扱い方> など
2) 料理の食べ方
A)
<デザート>
B)
<大魚の食べ方>
C)
<フルーツ>
D)
<ロブスターの食べ方>
E)
<カキとハマグリの食べ方>
F)
<紅茶・コーヒー>
G)
<レモンの絞り方>
H)
<料理の残し方>
I)
<魚料理の後片付け>
J)
<牛肉・豚肉の食べ方>
K)
<鳥肉の食べ方>
L)
<懐石料理の食べ方>
など
3)レストランでのマナー
A)
<テーブル・セッティング>
B)
<テーブル・ナプキン>
C)
<スプーン・ナイフ・フォーク>
D)
<パン・バター>
E)
<スープ>
F)
<オードブル>
G)
<サラダ>
など
その他、世界的な長寿の地域沖縄の、「沖縄の料理」について調べることができる。ニューヨークのおすし屋さんへのリンクも貼り、おすしの値段などを英語で知ることも出来る。(国際理解教育・英語教育)
Eいつから給食は始まったのかな
日本体育保健センターにリンクを貼っている。明治時代に始まった給食がどのようなものであったか等、学校給食についての様々な情報を得ることができる。(歴史)
F君が給食のメニューを作るためには
ほとんどの学校給食の種類は一種類である。そうなると、あまり好きでない給食を我慢して食べている児童生徒もいる。そんな児童生徒の中に、「将来自分で給食のメニューを作りたい。」という児童生徒もいる。そこで、この項目を作った。
ここでは、給食のメニューを決定する栄養士になるためにはどのような学校へ進学し、どのような学習をするのか。さらに、給食を作る調理師になるにはどのような進路選択をするのかを調べることができる。
また、所沢市の給食の献立がどのような手順で作られていのるかについても知ることができる。(進路学習)
G牛乳パックの再利用法
数年前に所沢市はビン牛乳から紙パック牛乳に変更した。その学校給食でゴミとして出る牛乳パックを使って、カレンダーを作るまでの過程を取材し、映像で紹介している。
また、ビン牛乳と紙パック牛乳では、どちらが地球環境に良いのか討論するときの資料になる。(環境教育・リサイクル)
H給食はなぜ安いのだろうか
一食分の給食費はおおよそいくらなのか。給食費の打ち明け(人件費や光熱費など)や、どのようにして給食費を安くしているのかを知ることができる。市役所の学校給食課にリンクを貼っている。(公民)
Iアンケートの結果を知りたい
クイズのアンケート結果を知らせ、学校給食についての疑問を、直接、栄養士の方にメールで答えていただけるようにした。
さらに「咀嚼の大切さ」などについても知ることができる。(情報教育)
J「給食の秘密」の達人になる
この教材を細かく学習していないと答えられないクイズを9問設置した。全問正解したくなるように、正解の画面とそうでない画面を興味深いものにした。
K食育・ロハスについて
食育・ロハスについて、児童生徒の関心を引くような項目を挙げ、すべての項目にリンクを貼ってすぐに調べられるようにした。ただし、児童生徒の「生きる力」を育成できるように、知りたい情報がすぐに画面上に出てしまうのではなく、少し努力をしなければならないようにした。
5「給食秘密」イメージマップ
図 1
図 2
図 3
図 4
6この教材を開発するにあたって苦労したこと
生徒が活用しやすくするために、この教材には何十枚もの画像をネット上から引用した。見栄えはなかなか良くなったが、1枚1枚の画像の使用許可を得るためにかなり苦労した。何枚かの画像については使用許可を得ることができず、新たに画面構成をしなくてはならなかった。結局、メールでの返事をなかなか頂けなかったり、「一体どのように使うのか。」という問い合わせに対応したり、適当な入れ替えの画像を見つけられなかったりと、仕上がったと思ってからホームページにアップするまでに約5ヶ月かかった。
以前ほどではないが、「日本人は著作権にルーズである。」と言われているので、著作権の許諾は必ず得た。
それまで何とかワードでホームページを作ろうとして失敗し諦めたり、取材が大変だったり、こまめに保存せずに突然フリーズしたりといろいろ大変なこともあったが、今思い返すと著作権の許諾を得ることが一番大変だったように思う。
7開発した教材を活用した学習指導法の研究
この教材を授業で活用し、児童生徒の取り組みの様子を観察した。以下のような点がわかった。
@ 児童生徒が、関心を持った項目について、自分の力で解決していった。
A 教材自体が懇切丁寧にまとめすぎている個所があり、それ以上自分で調べていこうとしない場面があった。
B クイズ形式の場面では、特に興味関心を持って学習していた。
今後さらにこの教材の使用方法を検討していく。
8今後の課題
今後の課題としては、以下の3つを考えている。
@児童生徒がこの教材をどのように使うのか。その使い勝手を追跡し改良を加えていくこと。
Aこの教材を利用された先生と連絡を取り、教材の改善点を洗い出し、改良を加えていくこと。
Bこの教材「給食の秘密」ver.2をホームページにアップするなどして紹介し、関心のある方々と情報を共有し、今後の授業に役立てていくこと。
9おわりに
平成元年に「森鴎外の部屋」というハイパーカードを用いた教材を見た。画面内の本棚の本を押すと映像が開き解説が始まった。かなりのショックを受けた。「ここまでの教材を作ることができるのか。」と思ったからだ。
あれから20年、あの教材でできたことを簡単に誰もが作成できるようになった。
数年前には、公立中学校で南極の昭和基地とテレビ会議が実施された。次は同じシステムを活用し、宇宙ステーションとリアルタイムの質疑応答が始まろうとしている。
映像処理も早くなった。今後、ますます様々な情報が発信されるようになる。
そこで、以前に増して、児童生徒が身につけていかなくてはならない能力の一つに「判断力」と「情報選択能力」がある。
これは、必要な情報か、真実性のある情報なのかをしっかり選択判断し、どの情報をどのように取り入れていくか否かを、自己決定していかなくてはならない。
これからのITC時代を生きていく児童生徒達が、そんな必要な能力を育てるためにきめ細かな指導ができる教材の開発をこれからも進めていきたい。
最後に、この教材を開発するにあたって長々と忍耐強く、きめ細かなご指導、叱咤激励を頂いた、元所沢市教育センター所長 故永嶋賢一先生に心からの哀悼と感謝の意を表したい。
10その他
協力者 狭山市立入間中学校 柳沢哲夫
参考資料 特記事項なし