校内LAN上のWebサーバを有効活用できるサーバ教材作り
− ネットちゃれんじ3の開発を通して −

小早川 誠二(松山市立窪田小学校 教諭)


◎ 要約
 文部科学省の方針により、小学校にもクライアント・サーバ型の校内LANが構築されてきている。そこで、クライアント・サーバ型のよさを考え、サーバ機能を活用する学習教材(以下、「サーバ教材」と略す)として「ネットちゃれんじ3」の開発に取り組んだ。
 サーバ教材では、クライアント側はブラウザがあれば利用できる。クライアントの動作環境として、OSはWindows98/2000/XP、ブラウザはInternet Explorer、Mozilla、Operaなどで動作確認をしている。また、「任天堂Wii」といった家庭用ゲーム機でも、正常に動作できるように工夫をしている。
 開発言語の特性を生かし、GUI画面の開発にはグラフィック作成に優れたFlashを、データの処理にはブラウザで動的に処理できるCGI(Perl言語)を用いた。なお、研究当初に考えていたFlashから直接データを読み出す方式はセキュリティ面に不安があることがわかり、Flashで個人データを扱っても情報を漏洩させないための研究に多くの時間を費やした。
 ネットちゃれんじ3は、土台となる「基本システムプログラム」と追加機能となる「学習モジュールプログラム」とで構成されており、高い拡張性をもっている。
 基本システムプログラムでは、一人に1つアバターロボットを登録し、アバターロボットを使って学習や遊びに取り組むことができる。また、グループウェアとしての役割もあり、教師が個別支援に利用するための電子メールや電子掲示板といった機能などももつ。
 学習モジュールプログラムは、学習する内容によって個々に作っていくミニプログラム群である。現在は、算数科を中心にして、ステージ・ステップ型の学習教材の開発を進めている。ほかの人が作成した学習教材も規格を合わせることで取り入れることができるようになっている。
 一年をかけ、器としての基本システムは、安全面でもほぼ万全な形でできた。これから、子どもの反応を見ながら、学習の要素や遊びの要素をもつプログラムをつけ加え、さらに肉付けしていきたい。

○ サーバ教材のよさ
 ソフトウェアを開発する上で、サーバのよさを生かして、個人データの領域をサーバに確保し、個々でログインするしくみにすると、ネットワーク上のどこからでも自分のデータを取り出して利用することができる。そうすると、コンピュータ室等で一斉に授業を行っても、それぞれの子どもが個人データを使うようにすれば画一的な学習にならず、一人一人の子どもがそれぞれ自分にあった学習を自分のペースで進めていくことができるようになる。
 電子メールや電子掲示板のようなグループウェア的な機能を使って、教師による個別支援や子どもの自己評価などもネットワーク上で行える。学年が変わっても個人データを継続して蓄積できるので、長い視点に立って子どもの成長や変化をみることもできる。
 サーバ教材では、主プログラムやデータはすべてサーバ上に置かれる。クライアント側は、必要なときにサーバからデータを読み取って利用する。そうすると、個人データをサーバで一元管理できる上に、クライアントとなる各パソコンに特別なソフトウェアをインストールする必要もなくなり、保守運用面でも簡単になる。
 また、インターネットもイントラネットも同じ原理なので、校内Webサーバを使って校内だけで利用することもできるし、インターネット上に公開して不特定多数に対して活用させることもできるようになる。

○ ネットちゃれんじ3の特徴
 ネットちゃれんじ3は、土台となる「基本システムプログラム」と追加機能となる「学習モジュールプログラム」とで構成している。基本システムプログラムは、一人に1つアバターロボットを登録し、そのアバターロボットを使って学習や遊びに取り組むようなグループウェアになっている。学習モジュールプログラムの方は、学習する内容に応じて作成するミニプログラム群になっている。どちらのプログラムも、今後プログラムを改良・改造・増設…と増やしていくことができるように、十分に拡張をもたせた広々とした作りになっている。
また、InternetExplorer7や任天堂Wiiインターネットチャンネルといった最新のブラウザにも対応させ、より多くのプラットフォームで利用できるように配慮している。

 ★ 任天堂Wiiのブラウザでの画面      
 

  ★ メニュー画面の構造  
 

 ネットちゃれんじ3にログインすると、メイン画面の上部にメニューバーが表示される。メニューバーの構成は、「大メニュー」>「中メニュー」>>「小メニュー」というように操作ボタンがおかれている。
 大メニューは、「スタディ」と「エンジョイ」の2つがある。ネットちゃれんじ3では、学習と遊びの要素のバランスを大事にしたいと考えている。そこで、大メニューによって、学びと遊びのコンテンツを完全に分離させるようにした。
 スタディには、「勉強べや」や「教科学習」といった中メニューがある。「勉強べや」では、子どもが自主的に計画的に勉強していくためのコンテンツを用意していく。例えば、「Sメール」の「S」は、「先生、スタッフ、支援、指導」といった意味合いをもっており、つぎにどういうめあてで取り組ませたらいいかなど子ども一人一人に支援したいときに利用する。一斉送信やロボ名を使った送信もできるようになっている。

 ★ Sメールの画面
 

 教科学習は、今は「算数」を中心にコンテンツの開発を行っている。「算数」には、「ギアドリル」、「ちょこライブ」、「パワステ」という3つのコンテンツを配置している。
 「ギアドリル」は、「100マス計算」のような計算問題をビジュアルよく変化させたもので、続けて計算しても飽きのこないデザインになっている。繰り返し学習で計算技能を定着させていくことを狙っており、全部が完成すれば45種類もの計算ステージになり、小学校で習う「たし算・ひき算・かけ算・わり算」のほとんどの計算を網羅することができる。各学年でログインすると、その学年に適した学習ドリルのリストが出てきて、当該学年向けには「◎」、復習向けには「◇」、つぎの学年向けには「☆」と表示される。学年に縛られずに自分の技能に応じてステージを選ぶこともできる。基礎的なものから大人でも悩むものまでバリエーションが豊富で、より楽しくより効率的に計算練習に取り組んでいくことができる。

 ★ ギアドリルのメニュー画面            ★ ギアドリルの計算画面
   
 
 「ちょこライブ」は、「ちょこっと学習教材ライブラリ」という意味で、手軽に作った教材ソフトをどんどん蓄積してライブラリ化していくための場である。旬の教材や実験的なソフトを置くようにするなど、動的にソフトウェアを配置する意味も含めており、自分が作った作品だけでなく、他の人が作った作品とコラボレーションできることも考慮している。

 「パワステ」は、「パワフル!ステージ・ステップ学習」の略で、「わかる→できる→とける→やくだてる」の流れに沿って学習内容を小さく区切る作業を行って、ソフトウェア化を図っている。子どものつまずきを見越してヒント機能をつけるには、子どもの多様な思考パターンを把握しておかなければならない。そのためには、教材自体の研究をかなり深めておく必要があり、ゆっくりではあるが、順次準備を進めていっている。

★ 「わかる」のステップ ★ 「できる」のステップ 


※ わからなければヒントが出る!

※ 正解すると、一緒に喜んでくれる!

 「エンジョイ」は遊びの要素を集めたメニューである。エンジョイの方は、グループ管理者の判断で、グループ内の子どものエンジョイの利用をロックして停止することができる。例えば、算数の授業中はロックしてスタディだけ利用させるようにし、休み時間や学級活動などになるとエンジョイを開放して遊ばせてやるといった使い方ができる。

 ★ エンジョイにおけるメニュー画面  
 

 ★ ロボが装備するいろいろなパーツ類  
        

 ★ ロボへやのようす                 ★ロボ用の服屋 
    
 ★ ロボの探検用のマップ              ★ ロボへやにある「ドック」
    

○ ネットちゃれんじ3を使った授業実践
 3年生の「2けたのかけ算の筆算」の単元では、2けたのかけ算の筆算はどうやって計算したらいいか全員の子どもにきちんと理解させるために、「わかる」のステップのFlashアニメーションで説明を行った。その際に、「スマイル棒」という教具を紹介し、子どもが実際に具体的な操作活動を行いながら学んでいけるように配慮した。
 こうして、筆算の手順を一通り理解させた後、今度は、確実に計算する力を育てるために、「できる」のステップを使って、個別の練習問題に取り組ませた。今までの経験から、2けたのかけ算の筆算のように計算が複雑化してしまうと、一人にかかる支援時間が増え、支援を必要とする子どもへの対応が間に合わない場合があった。子どものつまずきの中には、単純な計算ミスや勘違いなどもあるので、簡単に支援できそうなつまずきは、パソコン上のヒントだけで、子ども自身で自己解決できるのではないかと考えた。
 「できる」のステップでは、計算力の定着を図るために、実際に筆算に書いて計算することを大切にしながら、自分が行った筆算が正確かどうかパソコン上で手順通りに確認していくことができる。また、筆算のやり方がわからないときにロボットをクリックするとヒントが出てきたり、できなかった計算問題は後で宿題プリントとして印刷できるようになったりと、一人一人の子どもが自分なりに学習をすすめられる手だてを用意している。
 ネットちゃれんじ3を授業で実践してみて、一人一人の子どもに対してより細やかに支援や指導を行い、基本的な学習内容を確実に定着させる方法としてかなり有効だと感じた。
 まず、子どものつまずきに対するほとんどのヒントがパソコン上でもらえるので、教師の支援を待った状態の子どもがたいへん少なくなった。教師は、余裕をもって支援できるようになり、巡視しながら評価を行う時間も確保できるようになった。また、速く計算できる子どもはより難しい問題にどんどん取り組んだり、計算に不安がある子どもは手順を一つずつ確認して取り組んだりと、それぞれの子どもの技能やペースに合わせて学習に取り組めるようになった。さらに、教師が一人一人の子どもに送っていた支援や評価のメールも、子どもの学習意欲の喚起につながっているように感じた。

○ 今後の課題
 今回の開発研究は、当初考えていたほどのプログラム数までの開発はできなかった。しかし、問題視していたセキュリティ面が解決し、校内LANだけでなくインターネット上で利用する場合でも安心感を覚えたことや、今までより多くのプロラットフォームに対応できたのは、大きな成果だ。これから、子どもの反応を見ながら、学習の要素や遊びの要素をもつプログラムをつけ加え、さらに肉付けしていきたい。
 校内LANだけの利用に終わらせず、自宅にあるインターネットサーバ上にも3月中に公開していく予定である。
 ネットちゃれんじ3 インターネット公開予定アドレス http://sikoku.jp/net3/


参考資料
 小学校学習指導要領
 啓林館 小学校 算数 教科書 わくわく算数1〜6
 啓林館 小学校 算数 教科書 指導書 3年