絶対評価における授業時のリアルタイム評価入力システムの構築

孕 石 敏 貴

目     次

 要   約         ・・・・・・・・・・・・・・・ 1

 1.開発研究内容      ・・・・・・・・・・・・・・・ 2

 2.現在までの開発研究経過 ・・・・・・・・・・・・・・・ 3

 3.プログラムの構築運用  ・・・・・・・・・・・・・・・ 4

 4.問題点         ・・・・・・・・・・・・・・・ 7

 5.まとめ         ・・・・・・・・・・・・・・・ 7

(参考資料)         ・・・・・・・・・・・・・・・ 8

絶対評価における授業時のリアルタイム評価入力システムの構築

孕 石 敏 貴

要 約

 義務教育段階において児童・生徒の評価は長らく相対評価であった。しかし、個に応じた教育活動が重要視されるなか、中学校においては平成10年に学習指導要領が改定され平成14年から目標準拠型絶対評価が導入されるに至った。

 教育現場においては、それまでもさまざまな形で指導に対する評価方法の検討が続けられてきたが絶対評価導入に伴い、これまで以上に評価のための授業時におけるデータ収集が求められるようになった。

 そこで、本研究においては効率的なデータ収集をすすめる手立てのひとつとして、学級集団単位でのイントラネットを構築し、発問に対する生徒からのデータを回収しつつ教師がその場で評価をくだすことで授業単位でのデータベース化を図るシステム構成を考えた。

その結果、windows環境下でApache Tomcat をイントラサーバおよびJSPJava Server Page)の実行エンジンとし、MySQLをデータベースサーバとしたサーバーサイド処理環境を構築しデータ収集のための実行プログラムをHTMLJSPにより作成した。

その上でこれらのJSPプログラム群をPSPPlay Stastion Portable)ならびにPDAをクライアントとして動作させて教室内での簡易クライアントサーバ環境の実証実験を試みた。

                                            

勤務先 愛知県日進市立日進中学校

1.            開発研究内容

絶対評価導入により、児童・生徒の学力評価はこれまで以上に細密になってきた。多くの学校での教育実践で明らかなように教師の評価活動は、相対評価の頃と同様に @題材・単元への関心・意欲・態度、A題材・単元に対する知識・理解、B題材・単元を元にした創意工夫、C題材・単元に対する技術面での到達といった各観点の習熟度をもとにおこなわれている。

絶対評価のもとでは、これらの到達目標が題材・単元の1授業単位ごとに細かく設定され、授業単位で学習目標に基づいた評価のための学習活動が展開される。30人〜40人の児童・生徒(以下生徒とよぶ)を対象に1人の教師が毎回の授業で行うのである。絶対評価においては、個々の生徒が、各観点における到達目標をどの程度果たしているのかを、1授業単位においてこれまで以上にきめ細かく観察記録しなければならず、評価の客観性を保持するため生徒にカード記入をさせたり、小テストを実施することになり、客観的データ収集を目指すほど教師1人でできる評価のための学習活動は限られてくる。

その結果、集積データの統計・分析にこれまで以上の時間を要するわけであるが、学校教育活動における学習評価は教師の教育活動のごく一部であり、部活動や特別活動、生徒指導など即応しなければならない活動が優先され、さらにデータは山積みされていく。学習活動や評価活動は高度化しているにもかかわらず、学校組織自体やその中での教師の業務内容は30年前となんら変わっていない。むしろ、ADHDLD等生徒の質の多様化で対応業務が増えているのが実情である。

本研究ではそういった教師の負担をITにより軽減できるのではないかという発想から、次のような視点で開発研究をすすめることとした。

1.1 児童・生徒のITスキルに左右されず個別・グループといった枠にとらわれないデータ収集手段の開発

生徒個々やグループでのデータ収集をするために必要なデータベースソフトをどうすべきか。誰もが利用できるデータベースで、Windowsとの親和性も保証できるデータベースとして第一にあげられるのは当然Accessであるが、そもそもJSPそのものがLinux等の異なるOSを対象に進化してきたことやTomcatとの連携を考慮した場合、MySQLをデータベースとして利用することとした。

1.2 集積データの加工しやすさ、校内ネットワークの有無に左右されない、安価で使いやすいシステムの開発

50〜60%の教師がコンピュータを利用した業務ができるとはいっても、そのスキルには大きな開きがあり、教育評価のためにデータベースを活用した校内システムをあらかじめ構築している公立学校は稀であろう。しかし、校内ネットワークの真の有用性はデータベース構築にあることは間違いない。そこには当然、評価のためのデータベースが存在しなければならない。評価の基礎となるデータは、あくまで評価者個人が集積した個人的データと考えるべきで、校内ネットワークに乗せてしまえばその段階でそのデータはセキュリティポリシーの管理下に置かれることになり不自由この上ないデータとなってしまう。将来的には、学校教育活動下で得られた学習者のデータはすべてその管理下に置かれることが望ましいのであろうが、本研究では、既存のOSやシステム環境とは一線を画す形で、他のネットワークから切り離されたイントラ構築をすることによりデータの安全性と使いやすさを追求した。

2.            現在までの開発研究経過

2.1 ハードウェア選定 注1

本研究の目的の1つに、どの授業でも、いつでも、すぐにはコンピュータを利用できない、実態として児童・生徒5.4人に1台(2005年度文部科学省による学校におけるコンピュータ整備方針)の情報環境をどうしたら改善できるかを探ることが挙げられる。そこには、パソコン1台あたりのコストの問題や教室内での物理的利用環境の不十分さなどの当面解決困難な問題が横たわっている。

そこで、以下のような機器構成を考えることにより安価で容易な教室内イントラネットを構築した。

(1)無線LANアクセスポイント・・・Corega WirelessLAN AP-11

本機器はアクセスポイントとしては旧型であるが、マニュアル設定項目が容易で携帯しやすい。セキュリティとしてはSSIDと固定IPを用いた。WEPMACアドレスフィルタリングが利用できるが、本研究では設定せず構築した。しかし、上記機器のデータ転送速度が11Mbpsでクライアントとのアクセススピードに難点があるため、情報端末11台の環境では少なくとも54Mbps程度のアクセスポイントが望ましい。

(2)情報携帯端末(無線LAN機能内蔵の携帯端末)

@HP iPAQ rx3715 Mobile Media Companion

ASony Play Station Portable

    クライアントには上記2機種を選択した。@はOSWindows Mobile2003 Second Edition software for Pocket PCを搭載し、Pocket Internet Explorerによって、Webコンテンツの閲覧が可能である。Aは市販ゲーム用機器でありながら、WirelessLAN機能を搭載し、専用ブラウザを持った情報端末である。両者ともIPプロトコルでネットワークコントロールができる。

無線クライアントとしてHP製を選択したのは、@価格的メリットAOSがCE系であることB無線LANカード内臓で取り扱いが容易であること、の3点である。

一方、もう1つのPSPをクライアントとして選択したのは本体ソフトウェアがver2.00に機能拡張されたことでそれまでなかったJavaをサポートした専用ブラウザを備えたことで教育場面でのコンテンツソフト利用についての有用性が挙げられる。

2.2ソフトウェア選定 注2

 (1)サーバ用ソフト

サーバーサイド技術を用いたWebアプリケーション構築には、ASP.NETPHPなどさまざまなテクノロジーがある。どのプログラミングにも一長一短はあるが、本研究ではJavaを用いたJSPを用いた。この動作で必要となるソフトウェアを以下に示す。

    開発環境   J2SE(J2SE version1.5.0)

    イントラサーバ   Apache/2.0.43win32)(Webサーバとして利用する場合に連携)

         Tomcat5.5

    データベース MySQL  Server4.1

   上記のソフトウェアはすべてインターネットからフリーで入手できるものばかりであり、著作権等の権利についても一般的に問題にはならないが、windowsサーバがweb上でApacheを機能させる場合のクライアント数設定については制限があり、本研究においてはイントラネット上でのサーバ利用に限定することからApacheTomcatとの連携設定はしたが、Apacheは起動しない。

(2)開発言語 注3

(1)で示したように開発環境がJ2SEであることから、メインとなる開発言語はJava系であるが、データベース部分や取り込んだデータのEXCELによる処理等は別言語となる。

・ Webアプリケーション開発  Java Server Pages および HTML

・ データベース開発      MySQL

・ データ処理         VB for  Aprication

 Fig 1のようなデータ処理の流れでプログラム構築ならびに運用をおこなった。

 JSPによってクライアント操作部分を構築した。データベースの構築はMySQLでのeducation.sqlによった。

 これらをJDBCドライバで連携し、出来上がるデータはODBCドライバによってEXCELへのインポートを実現した。

 
3.プログラムの構築・運用 注4 注5  






  データ処理の流れ   Fig 1  

 Fig 2indows2000professionalでのサーバマシンの環境変数設定画面である。CLASSPATHならびにCATALINA_HOMEの設定等Javaがプログラムを実行する際に必要な外部クラスを検索するパスを設定しておかなければならない。この設定は、各アプリケーションをインストールしたフォルダのディレクトリに従う。



         Fig 2

 Fig 3はサーバマシンでのTomcat マネージャへのアクセス画面である。

Tomcat導入の際に設定したユーザ名とパスワードの入力によりアプリケーションマネージャにはいることができる。これはサーバーサイド環境でMySQLデータベースを活用するためのしくみである。

         Fig 3

 Tomcatアプリケーションマネージャ(Fig 4)に入り、コンテキストパスを再ロードすることで、コネクション・プーリングを利用することができる。これにより、データベースへの接続処理が容易になる。本研究ではパスを「education」とした。

          Fig 4

 Fig 5は、クライアントでブラウザを起動させたときのTop Menuである。

生徒が使用することを前提に、URLでのアドレス記入はかなり難しいことからHomeとして各クライアントに設定した。本来ならメニュー項目は日本語にするべきであるが、Javaによる開発でつきまとう日本語文字化けの問題が解決しなかったためやむを得ず英語表記とした。

Index.html   Fig 5

解答入力画面(Fig 6)では、生徒番号等基本データを入力した上で、答えを入力する。主キーのひとつを生徒番号としてODBCドライバによるEXCELMySQLとの連携をはかり、EXCELへのSQLデータインポートをはかった。

Seitoanswer.html    Fig 6

 クライアントでのデータ出力はFig 7のようになった。データベースでは、教師の評価等の入力がなされるわけであるが、クライアントへの出力では、評価カラムは出力されない。

 Fig 8はサーバでのデータ管理画面である。この画面はクライアントでも出力できるが、topに入れず、URL入力による出力管理とした。これによってサーバでのデータ評価を可能としたわけである。Fig 9MySQLでのデータ管理画面で、MySQLadminは利用せずコマンドからの入力とした。

Seitoscore.jsp  Fig 7

    

Update1.jsp Fig 8 MySQL コマンド Fig 9

 インポートしたデータの成績評価部分は成績管理用ファイルに貼り付けることで、成績データとした。

 データベースに残ったデータはFig 10の管理画面で削除するか、コマンドからDELETEすることで、他のクラスでの活用ができる。


評定作成.xls Fig 10


4.            問題点

 実使用に関しては、コンテキストパスの再ロードやExcelでのデータインポートに関して、特別の操作が必要である点や、問題提示画面に関して、CGIによる動的表示を予定していたが開発にいたらず、やむを得ずHTMLによる簡易表示にした点などまだまだ多くの問題が残っている。注7

5.            まとめ

 今、教育現場ではADHDLDをはじめとして、学習に集中できない生徒や基礎的な計算力不足・文章読解力の乏しい生徒など学習不適応の生徒が確実ふえている。さらに、不登校生徒や問題行動を起こす生徒も含めれば、少なく見積もっても1クラスあたり20%の生徒に何がしかの問題があると考えてよい。しかるに、1クラス40人を担任する教師は数十年前と変わらずいまだ1人である。ある調査によれば注8、保護者や生徒が義務教育に求めているものの1つにいわゆる「しつけ」にあたる事柄が多数あるとの結果がある。昨今の社会経済環境では、家庭教育環境の改善が生徒の改善に最も効果的だと考えざるを得ないようなケースも確実に増えている。学力も伸ばししつけもでき、体育も育て、・・・・担任1人でやるのは神業に等しい。その上、絶対評価や総合学習に対する教育姿勢の指針は振れ続けたままで、まだまだしっかりと根をおろしていない。

 IT技術を活用して学習環境を改善し、少しでも教師の負担を減らそうとの考えから、本研究に携わったわけであるが、未だ能力不足でこの程度のものしかできていない。問題を抱えた学校ほどITを効率よく活用して、教師の負担を減らし、その分の時間を生徒や保護者との精神的な触れ合いに活用していくためには、教師のITスキルに左右されない、より使い易いシステムを創り出す必要があると痛感している。

 最後に、稚拙な本研究に多大な助成をして頂いた、上月情報教育財団ならびに関係各位に深く感謝します。

(参考文献)

注1        http://tabletpc.jp/

http://www.playstation.jp/psp/

http://plusd.itmedia.co.jp/games/gsnews/0307/29/news08.html

http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/kounai/pdf/kounai2.pdf

http://www.corega.co.jp/index.htm

文部科学省委託事業 校内ネットワーク活用ガイドブック RIEF社団法人文教施設協会

注2        10日で覚えるJSP/サーブレット入門教室第2版 山田祥寛著 SHOEISHA

サーブレット&JSP逆引き大全500の極意 川崎克巳著 秀和システム

WINDOWS LAN逆引き大全500の極意 金城俊哉著 秀和システム

最新サーブレット&JSP 景山 瑛著 秀和システム

http://www.microsoft.com/japan/technet/prodtechnol/windows2000pro

注3        http://www.mysql.gr.jp/

http://java.sun.com/

Excel 2002VBAマグナム辞典 山賀 弘著 技術評論社

JavaMySQLTomcatで作る掲示板とブログ 竹形 誠司著 ラトルズ

最新実用HTMLタグ辞典 古籏一浩著 技術評論社

http://jakarta.apache.org/tomcat/

注4        http://harukaze.net/~hacha/mysql/mysql006.htm

MYSQL徹底入門 日本MYsqlユーザー会著 SHOEISHA

SQL ポケットリファレンス 朝日 淳著 技術評論社

注5        http://www.javaroad.jp/

注6        http://apache.jp/misc/windows.html

http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0411/22/news073_4.html

注7        http://www.atmarkit.co.jp/fjava/javatips/083container012.html

http://www5.plala.or.jp/vaio0630/apache/apache_cgi.htm

注8        http://hoku-to.blog.ocn.ne.jp/worker/2006/01/post_7891.html

      http://www.crn.or.jp/LIBRARY/GAKUSHU/TOPIC.HTM     

注9        http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/06/05061901/gimukyouiku.htm

     http://www.benesse.co.jp/s/ednews/051201.shtml

      http://www.gks.co.jp/2005/s-data/etc/05060902.html

      http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/16/01/04013002.htm

      http://homepage3.nifty.com/kawatani/syougai/031.htm

Excel/Windows2000proはMicrosoft.Corp,Corega WirelessLAN AP-11はCorega.corp

iPAQはHP.Corp,play station portableはSONY.Corpの商標です。