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「子どもの情報活用能力を育成するための教員研修カリキュラム作成と考察」

      中村 武弘、南 和美、森 喜世子、谷本 康 他 11名

<要約>

 これまで行ってきた「情報教育」の教員研修は、IT機器操作の研修と実践事例の紹介を組み合わせるだけで、具体的な情報活用能力の育成のプロセスを学ぶことやIT活用の授業イメージをいだくことが難しかった。そこで、教員研修において、「デジタルコンテンツを活用した指導案を作成し模擬授業を行う」という情報活用の流れを組み込んだ研修カリキュラムを作成し、情報活用能力育成のプロセスを体得させた。その後、研修参加者にアンケートを実施し、考察を加えた。このカリキュラムの特徴は、以下の5点である。

 (1)ワークショップ型演習の運用をつかみやすくするため、「研修の流れ」を軸として、研修全体の概要を示した。 
 (2)授業スキルの向上にもつながる「講師(教師)の役割」を「研修の流れ」に合わせて、明記した。
 (3)活動の様子がわかるように、情報活用能力育成の育成する場面やIT活用でわかりやすく教える場面を示した。
 (4)講師や研修の企画をする場合に役立つように「研修のポイント」や事例紹介等の「資料」を提示した。
 (5)目的がわかりやすいように、情報活用能力のプロセスを含んだ「研修カリキュラム」を図示した。
 研修カリキュラムを図式化することで、研修会を運営する上でのポイントを明らかにした。
 また、実践を通して検証した結果、次のようなことがわかった。

 (1)デジタルコンテンツを活用した授業のイメージ化を助けることができた。
     (本カリキュラムが授業のモデルとなる。)
 (2)研修参加者の意欲・能力を伸ばすことができた。
 (3)学習効果(情報活用能力を含む)を向上させる手法を伝えることができた。
 (4)情報活用の育成プロセスを体感させることができた。

 この研修カリキュラムの有効性は、本研究メンバーの一人である教諭(教職経験12年)がカリキュラムを元にして研修を実施し良好な成果を上げていることからもわかる。第一にワークショップ型(模擬授業を含む)の演習をメインにする、第二に授業スキルの向上を含む、第三にIT活用の授業イメージが伝わることを目的としたカリキュラムは、情報活用能力育成のための研修を学校内外で、行うことが可能であることがわかった。現在、研修参加者への研修後の実践支援を行うことの必要性を感じ、できるところからアフターケアを行っている。また、こういった研修会への参加が難しい教育現場の現状がある。現在並行して研究を進めている、「校務が忙しい」「ちょっとIT活用のレベルが高そう」「情報活用能力をどのようにつかるかわからない」「授業での活用方法がわからない」「活用のメリットが見えない」などの理由で参加しない教職員に対しての研修カリキュラムを研究していきたい。今後も教師の「情報活用能力の育成プロセスを体得するための研修」を深める研修カリキュラムを企画・実践していきたい。

中心になった執筆者

 三重県教育委員会事務局研修分野研修支援室 副室長兼研修主事 中村 武弘
 三重県伊勢市立御薗中学校 教諭 南 和美
 三重県松阪市立中部中学校 教諭 森 喜世子
 三重県亀山市教育研究所 長期研修員  谷本 康

I はじめに

 これまでの「情報教育」の教員研修は、機器操作の研修と実践事例の紹介を組み合わせるだけで、情報活用能力の育成を図るための授業の組み立てやITを活用した授業を行おうと考える初心者にとっては、具体的な授業イメージをいだくことが難しかった。加えて、平成15年度以前には、手軽に授業に活用できるデジタルコンテンツも少なかった。その理由として、第一に、情報活用能力の育成の中で大切にしている、学習者が自ら考え・判断し、意見をまとめ、相手を意識して伝達することができる一連のプロセスを学ばせるようなものがなかったためである。そのため教師や講師自身がこれらの体験しながら学ぶカリキュラムが必要であると考えた。第二に、教科の中でわかることを主眼に置いたIT活用も積極的に行われていないことである。中でも、学校現場でデジタルコンテンツを活用した授業があまり実施されていない。例え、IT活用のための機器の整備が進んだとしても、機器の活用と連動した授業力を高めたり情報活用能力を高めたりする研修が行われていないようでは、子どもたちの「学び」を深める授業はできない。そのため、IT機器と授業(研修担当者の場合は研修)をリンクさせた研修が必要であると考えた。

II 研究の目的


 本論文では、「デジタルコンテンツを活用した指導案を作成し模擬授業を行う」という情報活用の流れを組み込んだ研修カリキュラム作成させ、情報活用能力育成のプロセスを体得させた。その後、研修参加者にアンケートを実施し、考察を加えていった。
当研究グループでは、平成15年度に文部科学省の教育情報共有化促進モデル事業と教育用コンテンツの活用/高度化事業に参加し授業実践指導案を作成し、それに基づき、授業及び研修会を行った。そのプロセスを記録・分析・検証した。
 平成16年度からは、2ヶ年計画で、今までデジタルコンテンツを授業に活用していなかった教員を対象とし、指導案とデジタルコンテンツを組み合わせた学習パッケージを教員研修カリキュラムに取り入れた。加えて平成17年度は、清水康敬教授の下「ITを活用した指導の効果等の調査」研究会での調査研究と平成17年度教育情報共有化促進モデル事業(普及)を受け研究を行っている。これらの成果をWeb上で公開し、共有をはかってきた。
   (http://d-tano.axisz.jp/)

<本研究での具体的な目標>
 研修カリキュラムの基幹として、「デジタルコンテンツを活用した指導案の作成や模擬授業、という一連の情報の活用プロセスを組み込んだ研修のカリキュラム作成」を研修の具体的な目標とする。特に、研修を行う上で大切な要素として、以下の活動を重視した。

(1) 研修参加者が、研修を通して、授業におけるグループ活動の研修の流れ(構成)やワークショップ型や模擬授業を組み合わせた演習方法について体得できる。
(2)「講師(教師)の役割」を具体的に記述したため、研修参加者が研修の実践する指針にできる。
(3) 研修参加者が講師の立場になるとき、研修に参加する教職員(子ども役)に研修(授業)を進めていく上で、コミュニケーションのツールとしてのIT機器の利用、思考活動を助けるためのIT機器の利用について体得できる。
(4) 研修参加者が研修企画案(指導案作成)や模擬研修会(授業)を通してデジタルコンテンツを利用した授業のイメージが体得できる。

III 研究の経緯と方法

 1 教員の情報教育指導力を向上させるための研修会の実践
ワークショップ形式を多用した演習主体の教員研修カリキュラムを作成実施した。
           【表1 実施した主な研修会】

H16年度

6月

独立行政法人教員研修センターにおける「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(全国指導主事等)の「校内研修案の進め方及び作成:IT活用や情報教育の学習の進め方」の研修

9月

東海近畿ブロックにおける「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(中・高等学校教諭等)の「情報活用能力を育成するための指導案作成:情報教育の学習の進め方」の研修

10

東海近畿ブロックにおける10月「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(小学校教諭等)の「情報活用能力を育成するための指導案作成:情報教育の学習の進め方」の研修

12月

北陸・信越ブロックにおける「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(小学校教諭等)の「IT活用と情報活用能力を育成するための指導案作成:情報教育の学習の進め方」の研修

H17年度

6月

つくば教員研修センターにおける「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(全国指導主事等対象)の「IT活用と情報活用能力を育成するための研修案作成:情報教育の学習の進め方」の研修

8月

東海近畿ブロックにおける「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(小学校教諭)の「情報教育の学習の進め方」の研修

四日市教育センターにおける「IT活用と情報活用能力を育成する:学習の進め方−わくわくどきどきプレゼン指導−」の研修

11月

東海近畿ブロックにおける「ITを活用した指導者の拡充のための指導者の養成を目的とした研修」(中・高等校教諭等)「IT活用と情報活用能力を育成するための指導案作成:情報教育の学習の進め方」の研修


2 研究の方法
 研修参加者にアンケートを行い、企画側の意図と研修内容についての記述式内容の相違を対比する方法で有効性を検証する。「つくば教員研修」については、「研修内容が身についているか」「研修会が実施できたか」という2点を確認するため、半年後にアンケートをとった。
 また、アンケートを実施したM市とY市の研修についても考察を行った。

IV 「情報教育」の研修カリキュラムのポイント

1 「情報教育」の研修会の企画段階で押さえるべきポイント
 本研究で行った情報教育の研修会の企画段階でで押さえるべきPointを以下にまとめた。

【Point1 「研修でつけたい力」を具体化する】
 このとき、以下のような力をつけることを目的として、研修プランを作成する。
 ○「情報活用の実践力」について知る。
 ○「情報活用の実践力」について具体的な授業実践例を知る。
 ○授業の中で情報機器を活用する意図やよさをイメージする。
 ○自分に必要な情報を選べるように子どもたちに指導できるようになる。

【Point2 課題意識を持たせる】
 次のような課題設定と具体的で、しかも結果が反映されるようなものを選ぶ。日頃から問題意識を持っている教員のモチベーションは大幅にアップする。
例:「この学校の改善点を2分で発表してください。その時、改善するところの画像とその理由を述べてください。なお、発表された意見の中から学校長が適切とみなしたものは採用されることにします。」

【Point3 IT操作の手取り足取りの支援はしない】
 機器の操作の説明は必要最低限の知識から出発し、各自が使いたい機能を探し出し教え合う活動の場をつくる。例えば、プレゼンテーションソフトの操作の説明は10分少々(文字の入力、新しいコマの入れ方、画像の入れ方など)とする。
 相互補助や、自分で考えながら行うことを基本とすると、講師1人でも対応できる。校内でリーダーとなる人が現れれば、今後、講師がいなくても、学校内で簡単な操作に対する問題が解決できる。
また、自ら考え、工夫し見つける学習プロセスを体験することで課題解決能力や情報活用能力が身につく。

 


【Point4 成果の発表を行う】
 作成時間を削ってでも必ず発表に必要な時間を確保する。発表は時間制限(一人3分など)を設ける。
 人に見てもらうこと、見ることで以下のような学習効果をあげることができる。
 ○相互の意欲の向上。
 ○他者の良さを知り、プレゼンテーション能力の向上。
 ○時間の確保と、時間内にまとめる力の向上。

【Point5 内容全体で評価をする】
 プレゼンテーションソフトの様々な機能が使えることよりも、「発表の仕方」「発表内容」「聞き手の意識率」(情報活用能力)などを重視した評価規準を課題提示の際、明示する。

【Point6 グループ活動でコミュニケーション能力を高める】
 研修の手法としてワークショップ型を取り入れ、グループで活動することでコミュニケーション能力を高める。指導案を作成する話し合いについては、ブレーンストーミングを行い、授業展開案を作っていく。その際、ホワイトボードや模造紙は有効な手段である。また、授業についても模擬授業をグループ単位で発表させることを行う。


2 本カリキュラムの研修会の実施段階での講師の役割とその意図
 講師は、研修会の企画を立てるだけでなく、意図的に研修会の場で次のような行動をとることが必要である。
永露陽子2005(ぎょうせい,「授業にいかす教師がいきるワークショップ型研修のすすめ」)も「D(実施)の場面で重要になるのが“リレーションシップ”である。このリレーションシップとは、講師がいかに受講者の心をつかみ、信頼関係を築けていけるか、また、講師が受講者の状況に応じていかに柔軟にプログラムやタイムスケジュールの変更ができるか、ということである。」「講師がいかに研修そのものを面としてとらえ、受講者や内容、時間などの点をバランス良く連携できるかがD(実施)の場面で最も重要なポイントとなる」と述べている。運用段階で大切なのは、研修参加者との連帯感、信頼関係を構築することであり、研修の正否をきめる大きな要素である。

 
 


 また、吉崎静夫1991(p230,ぎょうせい,「教師の意志決定と授業研究」)は、「教師の状況把握・判断−(中略)つまり教師は、授業設計・実施段階において教授過程と経営過程の2系統を考え、子どもの把握、学習の状況の判断などを求められるようになります。」と述べている。これは、「講師」を「教師」、「研修参加者」を「子ども」と捉えてもおかしくはない。
 これらの考えに基づき、講師の役割についてその意図を述べる。

           【表3 実施段階での講師の役割とその意図】

講師の動き

具体例

意図

役割

具体的かつ的確な指示を行う

・段取りを細かく示す。

・指示を明確にする。

・認める(ほめる)。

・「はい、こちらにお臍を向けてください。」「今から、説明しますよ、いち・に・さん」

・「先生方も、こうやって指導されますよね。」

・「まず機器の使い方のVTRを見てから実験を行いましょう」

・「すごいですね。さすが授業のプロの味が出ています。」

・研修参加者を集中させる

・授業手法を示すことで、普段の授業を思い起こさせる。

・具体的な指示が有効であることを体感させる。

・作っている内容や作品をほめることでやる気をださせる。

・研修参加者が講師や授業者になったとき、自分が指示する参考とさせる。

役割

ITの有効性を実演で示す

・手際よく見せる。

【図5 IT機器の活用の実演】

ITの苦手意識の垣根を取り払う。

・「使ってみよう」と思わせる。

・見せれば納得できることは、実際に見せることで相手の理解が深まる。

・準備の様子を見せることで、研修参加者に簡単にでき、特別なことではないと行動で伝える。

役割

授業モデルを具体的に提示する

・模擬授業を1〜2分程度で行う。

・教科書の図を拡大して見せる。

・「算数の教科書の図を拡大して見せて、教師が一緒に作図すると理解の遅い子にとって有効ですよね。」

【図6 ITを活用した算数の授業】

・普段の授業で使えることを実感させる。

・授業利用への意欲を高め、機器の利用に対する抵抗を低くする。

・子どもたちに授業をするのと同じように、授業モデルを具体的に示す映像を見せてイメージ化を図る。

IT機器を利用し教師の動きを拡大して見せることで、わかりやすく子どもたちに伝えられることを知らせる。


役割

時間のコントロールを行う

・時間をカウントし、課題の進行具合を伝える。

「話し合いの時間、あと3分です。」「あと2分で作業時間終了ですが、いいですか。延長を希望しますか。」

・時間の意識と取り組みに対する集中力を高める。

・研修参加者に、「時間対効果」の意識を伝える。


役割

相手に合わせて、内容を変更する

・常に研修参加者をリサーチしながら指導方法を考え、研修参加者によりそった支援を行う。また、到達目標の変更を行う。

「今日は、プレゼンソフトの写真を入れるところまで頑張りましょう。」

・スキルに合わせた評価を行い、研修後に「少し頑張ればやれる」「やってみたい」という意欲を高める。


役割

コミュニケーションに努める

・IT操作が得意でない人には、より多くの言葉がけをする。

・「操作に困ったときは、何度でもサポートしますよ。」と伝える。

「壊しても大丈夫ですよ。安心してください。いつでもこの部屋にいます。」

・講師の人柄が研修参加者の積極的な活動を促す場合が多いので、親しく話しかけることで安心感や信頼を得る。



割7

アクターアクトレスとしての面を持つ

【図7 演技で引きつける】

・研修参加者を講師のペースにのせることで、意欲を引き出す。


V 研修会カリキュラムの実施と結果


1 作成した研修カリキュラムのポイント
 以下の研修カリキュラム(図12)を作成し運用した。

 
 


<カリキュラム図のポイント>
 @「研修の流れ」を図式化(PDCAサイクル)する。
 A各サイクルでの「講師の役割」を明記する。
 B研修の活動の様子が伝わりやすいようにサイクルごとに「活動風景の写真」を添える。
 C「研修のポイント、資料」を付け加えて、運用をスムーズに行えるようにする。

 村川雅弘教授2006(p14,鳴門教育大学,悠,「巻頭論文:学校教育を支えるシステム構築に向けて」)は、『ワークショップ型研修では全ての教職員が『共通理解を図る』「各自が持つ知識や体験、技能を生かし繋げ合う』『具体的なアクションプランを作り実行に移す』『絶えず問題を見つけ改善を図る』「お互いに力量を高め合う』ということが研修自体のプロセスに内在している。」と述べている。
研修カリキュラム全体で大切なことは、演習をワークショップ型の研修で進行することである。
 その意図は、次の2つである。
 ・アイデアを気軽にだし、課題解決をしていく体験が、研修参加者の協働性の構築につながる。
 ・研修参加者に、活動の中で「選択と決定」をさせることでより主体的な活動を促す。

2 カリキュラムの設計
研修カリキュラムの流れ
「W 情報教育の研修会のカリキュラムで必要なこと」を受け、以下を作成した。




3 カリキュラムの結果

(1)結果1(講師:総合教育センターN研修主事、対象:都道府県教育センター指導主事39名、半年後のアンケート回答14名)
「情報教育の校内研修を企画する」その企画を模擬授業(模擬研修)で示す。
今回、情報教育にIT活用や、教科でのIT活用を含むこととした。



@アンケートに対する満足度
 アンケートの評価の段階と項目については、以下である。(回答者の中での回答)
 評価を4段階で記入 ◎大変満足 ○満足 △あまり満足しなかった ×不満足で選択する。
 ア この日の研修は、満足できましたか。(大変満足、満足:100%)
 イ この日の講義(話)は、役に立ちましたか。(同:100%)
 ウ この日の演習について、グループ構成や人数は適切でしたか。(同:100%)
 エ この日は、ワークショップ型の研修を取り入れました、この演習の進め方や内容は、どうでしたか。(同:100%)
 オ この日の研修で、模擬授業の企画、実施を取り入れたことはよかったですか。(同:93%)
 只一人の不満足は、「もともと校内研修を支援するような部署でないのでイメージしにくかった。」というコメントを寄せている。
 カ この研修会の後、同じような研修会を実施しましたか。(実施率57%、予定含む実施71.5%)




A記述内容についての分析
この研修の設計段階で、講師の役割の重要なものを7つの項目にあげた。このこととアンケートの記述の部分を比較して、講師の役割とその意図が研修参加者に伝わっているか分析をした。(今回は、研修の講師・企画者の場合なので、「講師の動き」、「意図」の中の「授業」を「研修」と読み替える)

【表4 教師の役割とその意図に関わるアンケート結果】

講師の動き

意図

アンケートの結果より:( )内の数字は、アンケートに現れた頻度

頻度

役割1

具体的かつ的確な指示を行う

1-1研修参加者を集中させる

1-2授業手法を示すことで、普段の授業を思い起こさせる。

1-3具体的な指示が有効であることを体感させる。

1-4作っている内容や作品をほめることでやる気をださせる。

1-5研修参加者が講師や授業者になったとき、自分が指示する参考とさせる。


【図14】やる気になる

1-1

・集中できる研修であった。

・プレゼンを有効に活用することで、受講者の意識が集中した。

1-2

・校内研修の様子をはなしてもらったので具体的な研修が想起できた。

1-3

・具体的な例や場面を取り上げ、コーディネーターとしての研修内容の的確な説明や指示があったので大変理解しやすかった。(6)

 目的が明確であった(4)

・手の内(ちょっとしたコツ)を教えてもらったので、いろんな場面で“応用が利く(3)

1-4

・元気が出てくる内容だった

1-5

・グループの発表における進行およびその評価など参考にすべきところが大変多くあった。(2)

・自分が研修を実施する場合の視点が多くあり、参考にしている。(3)

・指導主事として、研修会を立案・支援するという内容について理解が深まった。自分自身が研修会を行うことはあったが、支援するためのコンサルティング力を付けることの重要性と、課題に気づく力の重要性を痛感した。

23

役割2

ITの有効性を実演で示す

2-1 ITの苦手意識の垣根を取り払う。

2-2「使ってみよう」と思わせる。

2-3見せれば納得できることは、実際に見せることで相手の理解が深まる。

2-4準備の様子を見せることで、研修参加者に簡単にでき、特別なことではないと行動で伝える。

2-1

・現場の学校で、コンピュータを活用した授業が行われにくい現状をふまえての話しがよくわかった。

・情報教育の必要性を具体的に示してもらったので自信を持ってこれからの研修を進めていきたい。

2-2

・簡単に誰にでも活用できる事を示し、初心者の先生方にも安心感を与えることが重要と感じた。(2)

・授業へのデジタルコンテンツの活用は絶対有効だという確信を得られました。(2)

2-4

・簡単なIT活用によって、わかりやすい授業ができること。

・具体的にITを上手に使って研修を進められたので、参考になりました。

8

役割3

授業モデルを具体的に提示する

3-1普段の授業で使えることを実感させる。

3-2授業利用への意欲を高め、機器の利用に対する抵抗を低くする。

3-3子どもたちに授業をするのと同じように、授業モデルを具体的に示す映像を見せてイメージ化を図る。

3-4 IT機器を利用し教師の動きを拡大して見せることで、わかりやすく子どもたちに伝えられることを知らせる。

3-1

・現場の学校で、PCを活用した授業が行われにくい現状をふまえて課題解決。これについては、各学校、あるいは地域の中心になる先生に対して研修する場面で役立つ。

・当県の研修講師として招聘し、自分がつくばの研修で得た充実感を、講演に参加した先生方も感じており、大好評でした。参加者が現場に持ち帰り、身近なところから実践してくれることを期待している。

3-2

・情報機器の使い方がとても印象深く、その後、活用している。

・授業の上手な先生が、IT活用でさらに授業上手になること

3-3

・子どもたちの伸びる様子を示すことにより、先生方のやる気が生まれる。

・校内研修の様子をはなしてもらったので具体的な研修が想起できた。

・研修の具体的改善パターンを住宅の新築リフォーム等に例えてもらったことで、その現状についてより理解を深めることができました

・「校内研修を構想してもらう」ための講座のイメージがわきました。

・研修の流れ、内容や講師のふるまいなど本当に参考にさせていただいております。

・この研修では、情報教育に限らず、研修を実施する側としての視点を示唆していただけたと思っています。

・班発表が終わったところで、間髪入れずに先生のユーモアあふれる講評が一番役立っています。私も講座でそっくりそのまま使わせていただいております。

3-4

・具体的にITを上手に使って研修を進められたので、参考になりました。

・資料の提示の仕方や研修の構成などでも参考になることが多かった。

12

役割4

時間のコントロールを行う

4-1時間の意識と取り組みに対する集中力を高める。

4-2研修参加者に、「時間対効果」の意識を伝える。

4-1

・講師の、コーディネーターとして時間のコントロールの必要性を知った。(2)

・グループの発表における進行およびその評価など参考にすべきところが大変多くあった。(2)

4-2

・逆に時間を切っていただけたから、一定の結論を出せたとも思っています。

・実際に体験してみることは、重要であると思う。時間を区切ることの重要性を知った。

5

役割5

相手に合わせて、内容を変更する

5-1スキルに合わせた評価を行い、研修後に「少し頑張ればやれる」「やってみたい」という意欲を高める。

5-1

・同じ目的を持ち、ある程度高い意識を持った集団であったので良かった。

・内容で覚えているのは、相手の状況にあわせて研修を行うことが大切と感じた。(2) 

・学校現場、教育センター等における課題と直結していたため、それぞれの立場で忌憚のない意見交流ができた。

・私の担当業務に直接役立つ内容であった。(3)

・受講者に対して打てば響く、価値ある研修であると思います。訪問研修など機会を設けて、実施してみたいと思っています。

役割6

コミュニケーションに努める

6-1講師の人柄が研修参加者の積極的な活動を促す場合が多いので、親しく話しかけることで安心感や信頼を得る。

6-1

・講評では、まず誉めることから始めて、次に、ちょっとしたアドバイスを付け加えたい。

・話の内容というより、何よりも研修をする講師のキャラクターが大事であったようにも感じました。

・班発表が終わったところで、間髪入れずに先生のユーモアあふれる講評が一番役立っています。私も講座でそっくりそのまま使わせていただいております。

3

役割7

アクターアクトレスとしての面を持つ

7-1研修参加者を講師のペースにのせることで、意欲を引き出す。

7-1

・元気が出てくる内容だった

・話の内容というより、何よりも研修をする講師のキャラクターが大事であったようにも感じました。

・講師が、受講している者に「うまいなあ」と感じさせるプロの技を随所にちりばめていたため。

・先生の元気の良さをもらったような研修でした。

・テンポ良く進めてもらった。

・講師の口調がとてもアップテンポで、脳が活性化されました。身振りそぶり、いろいろな点で参考になりました。(2)

・班発表が終わったところで、間髪入れずに先生のユーモアあふれる講評が一番役立っています。私も講座でそっくりそのまま使わせていただいております。

・これまでにない刺激的な研修でした。

・研修の流れ、内容や講師のふるまいなど本当に参考にさせていただいております。

・当県の研修講師として招聘し、自分がつくばの研修で得た充実感を、講演に参加した先生方も感じており、大好評でした。参加者が現場に持ち帰り、身近なところから実践してくれることを期待している。

11

 
 表3「実施段階での講師の役割とその意図」と表4「教師の役割とその意図に関わるアンケート結果」にまとめたように、設計段階での意図と実施した結果を比較することによって、カリキュラムの有効性を以下のように検証した。(アンケートは、講座の実施した平成17年11月16日から約半年後の平成18年5月20日から1週間をかけ研修参加者メーリングリストで行った。)

 ア 授業スキルの向上につながるカリキュラム構成
 「具体的かつ的確な指示を行う」という項目が23個と格段に多く、アンケートの記述より、授業の基本的な手法が研修会においても有効であるといえる。研修参加者が講師となったときにも利用しているという記述が多かった。いかにシンプルに、かつ具体的に見せることが重要であるかがわかる。
 また、役割7「アクターアクトレスとしての教師」は重要視している人が少ないと予想していたが、「間髪入れずに先生のユーモアあふれる講評が一番役立っています。」「何よりも研修をする講師のキャラクターが大事であったようにも感じました。」というアンケートの回答にもあるように、授業を組み立てる上での重要なファクターであることがわかった。


 イ 情報活用能力の育成を含むワークショップを中心としたカリキュラム構成
 授業モデルを具体的に提示した上で演習を行い、発表・評価することで、研修参加者が主体的に取り組むことができた。さらに、教育現場に持ち帰り、実践できたことは、ワークショップ型研修の成果であろう。今回のつくばでの教員研修では、14名中8名が実施したという結果を得ている。残り6名においても、「これから実施する」が4名、「部署が変更になって実施できない」が2名であった。

 ウ IT活用の授業がイメージできるカリキュラム構成
 簡単なIT活用を準備段階から授業の活用例までを講師が実際に示すことで、研修参加者に活用の有効性や使ってみたいと思わせることができた。「授業でのデジタルコンテンツ活用は絶対有効であるという確信が得られました。」という回答が得られた。


(2)結果2((講師:総合教育センターN研修主事、対象:M市小中学校新任教員、アンケート回答13名)
 今回は、「IT活用や情報教育の授業力をアップする」ことが目的の研修である。
研修参加者のアンケートを分析したところ、表3にあるような講師の役割と意図を盛り込んだ研修を行うと、以下のような満足度高い研修を行うことができることが明らかになった。




ア 講座内容・講師・その他の記述内容について
               【表5 アンケート記述内容の集計】

項目

授業活用:新規採用教員

IT等の活用と研修(授業)への展開方法

・IT活用という新しい知識、方法が得られたから。

・特別高価な機器(物)を準備する必要がなく、実践可能な内容であるため助かるから。

IT機器を使ったことはなかったが、共有したい資料があることが多かったので、意外と手軽に使えることがわかり、よかったです。活用してみようと思います。

・授業中子どもたちに「○ページの○○を見てー」と指示してもなかなか見ない子がいて、いつもなんとかならないものかと思っていました。早速明日からでも活用したいと思います。(3人)

授業イメージの取得

・具体的な事例を提示してもらったので授業に使ってみようと思ったところが何点かあった。

・今まで気づかなかったことに気づけてよかったです。

・とてもわかりやすかったです。(2人)

・とても簡単で、使ってみようと思える内容でした。

・デジタル機器、コンテンツ等は、日頃の活動、授業力を助けるものという点が印象的でした。

・うまく活用できる実力を磨きたいと思いました。(5人)

研修後の実践授業の実施

・授業で活用したいと思いました。

演習(模擬授業・模擬研修)の有効性

・話を聞いた後、実際に活動しアドバイスをもらうことで、実際に使用場面を考えられた。

・どのグループからも教師としての熱意が感じられました。

機器の活用についてスキル習得

該当項目なし

話し方等講義技術

・話し方が上手である。

・とてもわかりやすくよい話を聞かせていただきました。

・とてもわかりやすく、興味の持ちやすい講義をしてくださったので。

・ユーモアあふれる講義、ありがとうございました。

・リラックスでき、楽しかった。

・「言葉や説明だけではわからない子もいますよ」という先生の言葉から一人一人の学びを大切にしている姿勢が感じられました。

 


(3)結果3(講師:M中学校教諭、対象:Y市小中学校教員19名、アンケート回答19名)
 講座担当者は、今回のチームのメンバーの一人である。研修企画段階からコアメンバーとして関わっていた者が研修を「企画・立案・実施」まで行った結果、満足度の高い研修を行うことができた。


  【図16 研修後のアンケート結果】

<アンケート記述より>
 ・楽しい時間となりました。
 ・講師の話し方がうまくついつい夢中になりました。
 ・とても分かり易く実習もおもしろかったです。体験的な活動がよかった。
 ・プレゼンの基礎をパソコンを使って、教えていただくのかとはじめは思っていましたが、生徒たちがプレゼンをうまくするための流れ、概要がわかりやすかった。これから、プレゼンを生徒にさせるのに少しでも役に立てられるとおもった。(情報活用の指導力育成のプロセス)
 ・想像していたのと違っていたのですが、具体的で、自分たちも活動することもあり、よくわかる研修でした。
 Y市のアンケートによる分析から、具体的授業事例と演習を取り入れることが、教師のプレゼンテーション能力の指導力育成にも重要であることがわかった。


4 研修会カリキュラム実施の考察
 これまで述べてきた3つの研修会の結果より、以下の表のようにまとめることができた。
   【表6 3つの研修結果の考察】

項目

研修企画:指導主事対象

授業活用:新規採用教員

授業プレゼン:小中教員

IT等の活用と研修(授業)への展開方法

利用できると記述あり

理解できた記述あり

理解できた記述あり

授業イメージの取得

研修に使える記述あり

授業に使える記述あり

授業に使える記述あり

研修後の実践授業の実施

過半数が実施・予定

調査せず、希望あり

調査せず、希望あり

演習(模擬授業・模擬研修)の有効性

満足度が高い記述あり

満足度が高い記述あり

満足度が高い記述あり

機器の活用についてスキル習得

該当項目なし

実際のものを提

満足度が高い記述あり

カリキュラムの有効性:判定

有効

有効

有効


アンケート結果 肯定的75%以上◎、肯定的○50%、否定的な意見△
5つの項目の◎、○である比率が過半数以上である場合、カリキュラムを有効とする。

VI 成果と課題


アンケートの記述の分析と表6の結果により、以下の成果が考えられる。
 @ 研修参加者が、研修を通して、授業(研修)におけるグループ活動の構成や演習方法について習得した。
 A 研修参加者が、自らが講師となる研修を運営する上で、コミュニケーションのツールとしての機器の利用、思考活動を助けるための機器の利用について体得した。
 B 研修参加者が、具体的に指導案(研修企画案)作成や模擬授業、および授業を通してデジタルコンテンツを利用した授業(研修)のイメージを習得できた。
 C 研修参加者が、協働作業を通して相互の仲間づくりを行えること、相互の理解を深められることを体得した。

 なお、課題としては、役割4「時間のコントロールを行う」役割6「コミュニケーションに努める」の数値が低かった点である。講師としては重視していたが、研修参加者のアンケート結果から、あまり意識化されていないと考えられる。まず、役割4については、「時間的に厳しかった。」や「30分余分にほしかった」などの講師の意図とは異なる意見が見られた。演習に入る前に時間コントロールの大切さを話したが、演習に熱中するあまり、自分のおかれている状況をメタ認知することが難しかったのではないかと考える。
 役割6「コミュニケーションに努める」についても、研修参加者自身が対話者の立場になっているため意識できなかった。そのため、机間巡視での「言葉がけ」や休み時間の「話しかけ」の意図が、研修参加者にあまり伝わらなかったのであろう。
 しかし、この2点については、研修参加者が講師になる場合に重要な要素であるので、今後、講義の中で適切に伝える工夫が必要である。
  現在、研修参加者への研修後の実践支援を行うことの必要性を感じて実施中である。また、こういった研修会への参加が難しい教育現場の現状がある。例えば、「校務が忙しい」「ちょっとIT活用のレベルが高そう」「情報活用能力をどのようにつかるかわからない」「授業での活用方法がわからない」「活用のメリットが見えない」などの理由で参加しない教職員に対しての研修カリキュラムを研究していきたい。


VII おわりに


I T活用や情報教育の研修会を企画するなかで、やはり授業の力量の上にのっていることを実感する。これは、教師スキルの低下について、千々布敏弥2005(国立教育政策研究所, 「日本の教師再生戦略」)は、「大きな原因として授業研究が形骸化し、意義が希薄になっている」と述べている。今後、教科の研究会や他校との授業交流とともに、本研究で提案したような授業スキルの向上を含む研修を学校内外で、継続的・計画的に行うことが必要である。
 また、吉崎静夫1991(日本女子大学,p110-111,「ぎょうせい,教師の意志決定と授業研究」)が教師の授業における意志決定について「意志決定の前提として、キュー(手掛かり)を収集し、処理する情報能力が教師に求められる。そこで、我が国の教師教育は、教師の意志決定の前提となるようなこのような情報処理能力(つまり、生徒の言語的・非言語的行動を知覚・判断する能力)を育てる必要がある。」と述べている。今回、研修カリキュラムを考え実施してきたが、研修参加者をスキャンしながら研修や授業を進める能力の大切さを改めて感じている。今後は、このような能力を育てるプログラムをさらに研修カリキュラムの中に盛り込んでいきたい。



[謝辞]


[謝辞]
本研究を進めるにあたって、調査や検証授業にご協力頂きました教員・指導主事等の先生方に感謝致します。

【引用・参考文献】



吉崎静夫(1991), 「教師の意志決定と授業研究」ぎょうせい, 日本女子大学,p110-111
堀田龍也・高橋 純(2006)ら,「IT活用指導力の構成要素とその重要度に関する検討」教育工学会研究集録集JSET06-3,メディア教育開発センター・富山大学,p57-66
千々布敏弥(2005),「日本の教師再生戦略」,国立教育政策研究所
村川雅弘(2006),「巻頭論文:学校教育を支えるシステム構築に向けて」,悠,鳴門教育大学p14)
永露陽子(2005),「授業にいかす教師がいきるワークショップ型研修のすすめ」,ぎょうせい,産業能率大学
永野和男(1996),「発信する子どもたちを育てる これからの情報教育」,高陵社書店,聖心女子大学
文部科学省(2005),学校における教育の情報化の実態等に関する調査(中間報告)結果,http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/17/12/05120502.htm
文部科学省(2003a),「ITを用いて指導できる」基準の作成のための調査研究報告書,
http://www.japet.jp/skillchk/checksheet.pdf
文部科学省(2003b),学校における情報教育の実態等に関する調査結果,http://www.mext.go.jp/
b_menu/houdouu/15/07/030750.htm
水越敏行・佐伯ゆたか(1996),「変わるメディアと教育のありかた」,ミネルヴァ書房,関西大学・東京大学
北山裕子(2006),「授業におけるデジタルコンテンツ利用の現状分析」,日本教育工学会研究報告集JSET06-3「メディアと子ども」,大阪市立大学大学院,p31-38
NICER  「教育情報ナショナルセンター」 http://www.nicer.go.jp/
デジ楽Web  「デジタルコンテンツで楽しい授業づくり研究会」文部科学省H15年度教育用コンテンツ活用・高度化事業 http://d-tano.axisz.jp/main/
みえデジコム  「デジタルコンテンツ授業実践共有化チーム」 文部科学省H15年度教育情報共有化促進モデル事業 http://d-tano.axisz.jp/dezicom/


【研究分担者・協力者】



分担者
上谷 典秀 名張市立梅が丘小学校/教諭
中西 康之 阿児町立神明小学校/教諭
竹内 久人 伊勢市立今一色小学校/教諭
田中 信太郎 四日市市立桜小学校/教諭
南 和美 伊勢市立御薗中学校/教諭
森 喜世子 松阪市立中部中学校/教諭
岩森 正治 度会町立度会中学校/教諭
谷本 康 亀山市教育研究所/長期研修員
水谷 浩三 私立暁小学校/教頭
森 ふみ子 亀山市立中部中学校/教諭 
岡村 里香 度会町立内城田小学校/教諭 
小掠 春行 明和町立明和中学校/教諭 

各 研修参加者

【実施場所】
三重県総合教育センター
及び 各研修会場(研修会場校を含む)


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