研究題目

図画工作科教育を通しての情報活用能力の育成を意図した、カリキュラムと評価

−異文化理解と情報モラルの育成を中心に−

 

代表研究者名   澤 橋  直 文

 

要 約

今日、国際交流は教育関係者の強い関心をひき、各地で多くの実践が取り組まれているが、言葉の違いは、依然として壁となっている。そこで、言葉の違いを補う一つの方法として造形表現を通した言語以外でのコミュニケーションの可能性を探る必要があると考えた。同時に、教科での情報活用能力の育成は、教育の今日的な課題の一つであり、図画工作科においても情報活用能力育成に関する実践にも、積極的に取り組む必要がある。

本実践の目的は、言葉の壁を超えて伝わる造形表現の持つ感性を生かして異文化に触れ、コミュニケーション能力を含む情報活用能力を高め、異文化の理解を深めることを目的としている。絵画作品を通じて交流を行うことは、児童にとって、異国間の交流学習において常に障害となる言葉の壁を軽減し、よりよく異文化を理解できると考えた。

図画工作科で育む表現力は情報活用能力と密接に結びついており、図画工作科においても情報活用能力を高められることを実践を通して確かめることができた。

教科と総合的な学習の時間のかかわりといった場合、本実践では情報活用能力といった高めたい能力に視点をおきかかわりを模索した。教科と総合的な学習の時間で、共通した、または発展させた目標を設定し、子どもが教科と総合的な学習の時間を通じて一貫して能力を高めていけるよう学習課程を計画したことが有効であった。     

また、相手とかかわる際のマナーやモラル、相手を尊重する態度の育成は、教室の中だけでは身に付きにくい。事前指導を行い、実際に人と接する場を設定することで、また、かかわりを後で振り返る中で、子どもの中に根付いていくことが分かった。

ルーブリックは教師が子どもを評価するだけではなく、教師と子どもが共有することにより、子どもに視点を与え、また、子どもの今の自分の段階、次に目指すべき行動が示され、自己を客観的に見つめたり、思考を促したりできる道具として有効に活用することができた。また、子どもが視点をもつことができたため、相互評価や話し合いなどにおいてねらいに沿った話し合いやかかわりができ子ども同士のコミュニケーションを助けることもできた。

絵画は自分や住んでいる地域などの言葉では伝えきれない雰囲気を伝えることができる。また、言葉で伝えると無味乾燥になってしまう内容でも、絵画では豊かな情報として伝えることができ、相手の興味・関心を高めることができた。そういった点では、国際交流における言葉の壁を軽減していると言える。また、言葉では伝えようのない雰囲気を伝えられる点、高度なコミュニケーションツールとしての役割を担えることが分かった。

 

 

 

T 研究テーマ

図画工作科教育を通しての情報活用能力の育成を意図した、カリキュラムと評価

−異文化理解と情報モラルの育成を中心に−

 

U 研究の目的

 

今日、国際交流は教育関係者の強い関心をひき、各地で多くの実践が取り組まれているが、言葉の違いは、依然として壁となっている。そこで、言葉の違いを補う一つの方法として造形表現を通した言語以外でのコミュニケーションの可能性を探る必要があると考えた。同時に、教科での情報活用能力の育成は、教育の今日的な課題の一つであり、図画工作科においても情報活用能力育成に関する実践にも、積極的に取り組む必要がある。

本実践の目的は、言葉の壁を超えて伝わる造形表現の持つ感性を生かして異文化に触れ、情報活用能力とコミュニケーション能力を高め、異文化の理解を深めることを目的としている。絵画作品を通じて交流を行うことは、児童にとって、異国間の交流学習において常に障害となる言葉の壁を軽減し、よりよく異文化を理解できると考えた。

また、外国と表現作品のやりとりを、送信や加工・修正が容易なコンピュータを用いて行うことにより、コンピュータによる表現能力も共に育成していきたいと考えた。

 

【図1 2年間の計画の枠組み】

V 研究の枠組み

日米の小学校の学期の違いから交流できる期間は限られており、交流できる期間を有効に活動できるよう、本研究では2年間を準備、実践、まとめの3つのフェーズに分け、実施する。

<第1フェーズ> (2003年4月〜8月)

ケンタッキー州は8月末から新年度が始まるため、この期間を準備期間とし、お互いの学校で子どもが異文化理解に興味をもつことのできる活動を行い、9月以降に自然に交流校とのやり取りができるように子どもの意識を高める活動を行った。また、インターネットを通して作品をやり取りするため、共通の描画ソフトを選定し、各校のコンピュータへインストールするなど環境を整備した。

<第2フェーズ> (2003年9月〜2004年12月)

自分の表現作品を発信することに対して意識の高まりから、異文化理解、情報モラルへ目を向け、高めていく活動をおこなった。

段階をおってテーマを設定し、子供たちが制作した絵画作品を、共通の電子掲示板に掲示し意見交換を行った。(テーマ:自分たちの地域の紹介、言葉から想像した絵画作品とネットを通した共同制作。)

作品について話し合ううちに、表現の仕方や考え方、文化や環境の違いに気付き表現や考え方が高まっていくよう授業を構成した。また、普段は掲示板による交流だが、必要に応じてテレビ会議システムを用いてリアルな交流を行った。

<第3フェーズ> (2005年1月〜2005年3月)

実践の反省点などをまとめ、図画工作科の視点による情報活用能力やモラル、異文化理解の具体的な指導事例、カリキュラムや評価についての成果物をまとめる。

 

 

W 研究の実際

1 図画工作科と総合的な学習の時間の関連を図り、情報活用能力の育成を意図したカリキュラムの構想

1) 情報活用能力育成の視点から図画工作科と総合的な学習の時間を関連させたカリキュラム

総合的な学習の時間では、アメリカの友達に伝えるために自分の住んでいる地域について調べホームページにまとめる活動を行った。また、まとめたホームページを用いて、国際テレビ会議でアメリカの友達に住んでいる地域についての紹介を行った。

図画工作科では、相手に造形表現(絵画作品)を用いて自分と自分の地域を視覚で伝える活動を行った。

文部科学省の示している「情報教育の実践と学校の情報化−新情報教育に関する手引き−」の第2章「初等中等教育における情報教育の考え方」第3節「情報教育と各教科等との関連」において、「情報活用能力の育成は、中学校技術・家庭科や高等学校普通教科『情報』だけで達成できるものではなく、学校教育活動全体で取り組まれて実現するものである。」と述べられており、教科で情報活用能力を育成していくことは教育の今日的な課題となっている。

本実践では図画工作科で子どもの情報活用能力を高め、また、図画工作科で高めた力を総合的な学習の時間の中でさらに伸ばしていく学習課程を構想し実践した。

【図2 図画工作科と総合的な学習の時間のつけたい情報活用能力の関連図】

2は自画像と地域の風景をえがく図画工作科の題材「わたしと山田村」と、総合的な学習の時間で地域を紹介する活動「山田村紹介」での高めたい情報活用能力のかかわりを記してある。

2にあるように図画工作科でも総合的な学習の時間でも「見直す」活動は、よりレベルの高い作品を作るために必要な活動である。本実践の場合、図画工作科での「見直す」学習活動でつけた力が、総合的な学習の時間の「見直す」活動でさらに高められるようカリキュラムを計画した。図画工作科の題材と総合的な学習の時間での高めたい力を関連させ、繰り返し「見直す」活動を行うことで、つけるべき力がより効果的に定着したり、より高まったりしていくのではないかと考えた。

 

 

2) 図画工作科での情報活用の実践力の育成

日米の学期の違いから、アメリカの小学校と交流は9月から12月を中心に計画した。その間に作品等の郵送に時間がかかっていては交流が深まらない。

インターネットを活用すれば、描いた絵をすぐに相手に見てもらうことができ、また、メール等でこちらの質問に対してアメリカの子どもにすぐに答えてもらうことも可能である。インターネットには、このようなコミュニケーションを密に行える有効点がある。また、コンピュータで絵を描くことで、アメリカの子どもの絵に日本の子どもが描き加える活動をすることができる。

上記の理由で、本実践では絵画を通したコミュニケーションの可能性を探るために、日米の子どもが互いにコンピュータを用いて絵を描き交換し合うこととした。

絵画は、アメリカの友達に自分のことを知ってもらおうと自己紹介を兼ねて、自画像を描き自分らしさを表現した。また、地域を知ってもらおうと自画像を自分の好きな山田村の風景の中においた。このような作品を制作する過程で、本稿では「見直す」学習活動において情報活用の実践力を高める指導について記していきたい。

実践で子供たちは作品の制作を進めるうちに描いた自画像が自分らしさを表現しているのか自信がもてなくなってきた。 自己評価や子供のつぶやきからそのような子供の思いが聞かれるようになってきたところで、子どもが自分の作品を振り返り見直す活動を行い、自分の思いに合った表現に修正していくことができるようにした。子どもが自分の表現を振り返る手立てとして、クラスの友達同士でお互いの自画像を見合い、その人らしさが表れているか意見を交換する相互評価の活動を行った。

この相互評価活動の目標は、「正しく伝えられたのか振り返り、修正できる。」「他の人の情報をもとに、自分の情報を改善できる。」(永野他2001)といった能力を高め、子どもが友達の意見をもとに、自分の作品の表現を自分の思いに合った表現に見直し、修正していくことをねらいとした。

実践では、作品の制作途中で、図3のように、子供たちはお互いに自画像を見合い、クラスの子ども全員が一人一人にアドバイスを書いた。

四角形吹き出し: ・Rさんは明るい性格なので、色や線を濃くするとよい。
・Rさんは明るいので、笑っている顔にするといいと思います。
・元気な表情になるよう、肌の色をピンクっぽい明るい色にするとよい。
 


 

 

 

 

 

 

 

 

【図3  R児へ友達が書いたアドバイス】

 

 

<結果と考察>

【図4 アドバイス前のR児の作品】

【図5 完成したR児の作品】

相互評価活動の結果、R児は、明るく元気な感じを表そうと工夫していたが、友達のアドバイスから、自分の表したいことが十分伝わっていないことを認識し、自分の思いが表れるよう色や線を濃く描き、顔に赤みをつけるなど、友達のアドバイスをもとに顔の表現を修正・改善し、生き生きとした明るい自画像を描いた。R児も「みんなが教えてくれたように色や線を変えてみた。明るく元気な感じになってよかったと思う。」と自分らしさが表れたことに満足して、アメリカの子どもに見てもらうために、自信をもって自分の作品を電子メールで送ることができ、手立ては有効だった。

クラスの友達みんなから意見をもらうことにより、子どもは他者受容感を感じ意欲が高まるという効果も見られた。その結果、友達のアドバイスを納得して受け入れ意欲的に修正することができた。

 

3) 図画工作科で培った情報活用の実践力を発展させる総合的な学習の時間

総合的な学習の時間では、子供たちは、国際テレビ会議でアメリカの友達へ自分の住んでいる地域を紹介するために、山田村について調べ、調べたことをホームページにまとめる活動を行った。

 

【図6 子どもが最初に作った温泉のホームページ】

子供たちは山田村のよいところを話し合い、「自然」「温泉」「特産物」「コンピュータ」「行事」の5つのテーマを紹介することに決め、それぞれのテーマに分かれてグループを作り、実際に地域の人に取材に行くなどして、調べ活動を行った。

子供たちは、取材に行き聞いてきたことをそのままホームページに書いたために、見る人にとっては分かりづらいホームページとなった。

そこで、子どもが自分たちのホームページを見直し分かりやすく修正していくための手立てとして、クラスの友達同士でお互いにホームページを見合い意見を交換をして自分のホームページの内容や表現を振り返る相互評価活動を行った。

6はR児の温泉グループが最初に作ったホームページの一部である。

ここでの育てたい情報活用能力は次の能力である。

総合的な学習の時間での「見直す」活動の目標

自分の調べていることについて、他の人意見を求める。

課題解決に必要な不足情報に気づき、さらに情報を収集・整理する。(永野他2001)

お互いのホームページを見合う相互評価活動では、子どもが相手のホームページのよさや直すべき点を捉えることができるための手立てとして、ルーブリック(評価基準表)を活用した。(ルーブリックの活用については3において述べる。)

相互評価活動で、図6の温泉グループのホームページに対して、他のグループの子どもは「温泉の良さを伝えたいのに、従業員の方の苦労をいっても温泉の良さは伝わらないと思う。」「写真についての説明がないと、何の写真なのか分からないと思う。」などといったアドバイスをした。

他のグループからのアドバイスを受けて、温泉グループは話し合い以下のような見直しの意見を見出した。

ア、内容について

・ 質問、答えの形式ではなくまとめたものにする。

・ 質問ではなく結果を言った方がいい。

・ アメリカとの違いを書く。

・ クレームのことを言っても意味がない。もっと良さを表現する。

イ、写真について

・ アメリカとは違うので、温泉に浸かっている写真が必要。

・ 写真に何の写真かの説明を付ける。

グループでの話し合った意見をもとに修正したホームページの一部が図7である。 

<結果と考察>

友達同士でホームページを評価する相互評価活動の結果、子供たちは、友達のアドバイスを受け図6の様な湯船だけの写真は相手が理解しにくいと判断し、アメリカの友達にも理解できるよう、図7の様に人が浸かっている写真を、管理者の了解を得てホームページに用いることにした。

また、図7の見直されたホームページは「日本のお風呂はお湯につかります。」「これはお湯につかり温まって

温泉について(抜粋)

山田村の温泉について紹介します。                        

            日本のお風呂はお湯につかります。

            日本人にとって温泉は心を和ませ、また健康にもいいです。そのため病院でのリハビリに使われることもあります。

            これはお湯につかり温まっているところです。

温泉の由来

山田村の温泉は昔、猿が傷を癒していたのを見つけ、そこにお湯が沸いていたことで温泉ができました。

            この写真は風景を見ながら入れる温泉です。

温泉は疲れがとれ心がなごんで多くの人に愛されています

これで山田村の温泉についての紹介を終わります。

【図7 見直したホームページの内容】

いるところです。」といった  記述などに表れているように文化が違い温泉について知らないアメリカの相手を意

識した内容になっている。

このように話し合いでの意見やホームページを見直した内容から、友達からのアドバイスやグループ内で話し合ったことにより、子どもの意識が変わったことが分かり、手立ては有効であった。

教科と総合的な学習の  時間で、図画工作科で目標とした友達のアドバイスを受けて、自分の表現を工夫していった学習体験があるため、総合的な学習の時間では、友達の意見から伝える内容の吟味をしたり、分かりやすい写真を考えたりする活動が無理なく行えた。つけたい力の関連を図り段階的に指導したことにより、子どもの情報活用能力をよりよく高めていくことができた。

 

2 人とかかわりから情報モラルを育成する学習課程

人とのかかわりから子どもが学ぶことは多いが、意図的にかかわらなければ子どもの学びの効果は少ない。モラルの指導において、相手意識は、子どもの学習効果を考える上で重要な要素となると考えた。人とのかかわりを意図的にカリキュラムに設定し相手意識が高まるよう工夫した。モラルの指導においても人と接するなどの学習環境の計画的な設定が重要になると考えた。

【図8 学習課程図】

本単元では人とのかかわりのねらいを明確にして意図的にカリキュラムを計画した。図8のかかわりAでは、これから交流していくために情報モラルの意識を高めるのが目的である。図8のかかわりBでは実際に地域の人とかかわることにより情報収集能力とモラルを含むコミュニケーション能力を高めたいと考えた。かかわりCでは友達や地域人材の方との他者評価と自分の自己評価を比較することにより自己評価能力を高めたいと考えた。また、かかわりDでは情報社会に参画する態度の高まりを期待した。

以下、情報モラルやマナー・態度の指導について記述していきたい。

 

1) 地域人材の方とのかかわりから高める情報モラル

交流を初めて間もなくNorth Calloway小学校から6人分の自己紹介のメールが届いた。写真(例:図9)と簡単な紹介文によるもので、担任が翻訳して子供たちに紹介した。

それを見て、子供たちはとても喜び「私たちも送ろう。」と言い合った。子供たちはみんなで協力し、デジタルカメラで一人一人の写真を撮り、紹介文を考えた。

子どもが書いたアメリカの子どもへの自己紹介文の中には「性格は怒りっぽい。」「忘れっぽい性格。」であるとか、「趣味はごろごろすることです。」といった内容があった。

日本語のままメールで送っても相手には分からないという問題があったため、ここで地域の方とのかかわる場を設定した。地域の英語の堪能な方(以後Yさん)に翻訳をしていただくようお願いをし、後日、その方に学校へ来ていただき、子どもから事情を説明し自己紹介文を手渡した。

子どもがこれから交流をしていく上で、交流相手のことを考える必要があることを理解させるための手立てとして、Yさんに自己紹介を英訳する際に、アドバイスを入れていただいた。     

【図9 自己紹介をするアメリカの児童】

数日後、翻訳をしてくださったYさんから英訳文が送られてきたが、その中には担任とYさんが話し合った、いくつかのアドバイスがあった。アドバイスの内容は、「『怒りっぽい』『忘れっぽい。』というのはこれから始めて交流をする相手に対してよい印象を与えず、楽しみに期待している相手をがっかりさせてしまうことも考えられ、相手の気持ちを考えて、今は言わない方がよいだろう。『ごろごろすること』はアメリカでは(日本でも)趣味とは考えないし、これもよい印象を与えないので言わない方がいいだろう。」と言う内容であった。

 

<結果と考察>

ここで高めたい情報モラルは「情報は人に影響を与えるということに、気づく」「相手の気持ちを考えて自分の意見を表現する。」(永野他2001)である。

この手立ての結果、子供たちはアメリカの友達を不快な思いをさせるのは相手を思いやる気持ちに欠ける行為であることを理解し、自ら納得して自己紹介を直していくことができた。

K児は「情報を発信するには事実だからといって自分の言いたいことを何でも発信していいわけではないことが分かった。」と感想に書いており、ネットワーク上でも人と人のかかわりには変わりがなく、顔の表情などが伝わらないため直接人と接する以上に相手に気を配る必要があることに気付くことができた。

この、相手を意識して考えるという視点を知ることにより、子供たちはこれからの交流学習をするにあたり、よい心構えをもつことができた。

 

2) 情報モラルの基礎となる人権意識を高める指導

先に紹介したように総合的な学習に時間に自分の住んでいる地域について紹介するために調べ活動を行った。

活動の過程で、子どものモラルやマナーや相手を尊重する人権意識を高めるために人と接する場を意図的に設定した。実際の人に対するモラルやマナー、相手を尊重する気持ちや態度を基礎として学習することにより、インターネットなどのメディアを通したかかわりの中での情報モラルをより効果的に高めることができると考えた。

活動では、マナーやモラルを意識するための手立てとして、実際に取材に行く前に学級で話し合い、マナーやモラルの面での目標をもった上で取材に臨むようにした。

事前に話し合いマナーやモラルについての意識を高めて取材に望んだことにより、単元終了後に行った、下記の子どものアンケートにあるように礼儀正しい言葉使いや相手を尊重する意識の高まりがみられた。

子どもがインタビューをするときに気をつけたマナーについての感想(抜粋)

・ 失礼のないように、言葉使いに注意した。相手が聞いて嫌がられないようにする力がついた。

・ 敬語を使って分かりやすいように質問をした。(メールをうった。)

・ いきなりインタビューするのではなく、どこから来たのか、何のために来たかを言って質問する。礼儀正しい力がついた。

・ 忙しそうな時や他の人と話をされている時には落ち着くまで静かに待ったこと。

・ 話を聞きながら分からないことは質問して話を聞いた。

× 知っている人だと思って油断して甘えすぎた。

<結果と考察>

事前に学級で話し合い、マナーやモラルの目標をもって取材を行った結果、子供たちは実際に人にあって上記のことを実行することができ、自信につながった。また、子どもの中には「忙しそうな時や他の人と話をされている時には落ち着くまで静かに待ったこと。」「話を聞きながら分からないことは質問して話を聞いた。」など、事前にモラルを共通理解して人に接することにより、さらに高度な意識をもち行動することができた。相手を尊重し相手の立場を考える行動が見られ、子供たちのモラルの意識や態度が高まった。

3) 相手意識を高めることで育つ情報社会に参画する態度

お互いの描いた絵画を共通のテーマとして国際テレビ会議では意見交換を行った。本校の子どもはアメリカの児童のポールの絵に対して「木の描き方がやわらかく描いてあり、ふわーとした感じがしてリラックスできる。」「木をぼやーとぼかして静かな感じがする。」といった意見を言い、相手の作品のよいところを丁寧に見つけることができ、また、相手の気持ちを考えて発言をすることができた。

N児も自分の描いた絵画についてアメリカの友達から直接「ぼかしてやわらかな感じで描くかき方が参考になった。」と、コメントをもらうことにより、「アメリカの友達の言葉から自分の伝えたいことが伝わったことが分かったので嬉しかった。」と感想に書き、他者受容感を感じて意欲が高まると共に、他の人の発信した情報の良いところを見つけるなどの態度を高め、自分の発信した情報は相手に影響を与える。ことを体験として学ぶことができた。

<結果と考察>

メールや掲示板の写真やテレビ会議の映像の相手の表情などに、子どもは親近感を感じ気分が高揚した。直接相手からコメントをもらうことは、実際に人と接するのと同じように相手意識が高まることにつながった。また、相手は同じ年代であるためより受け入れてもらえて嬉しい相手であり、メディアを活用することで、子どもは他者受容感を感じ意欲を高めていくことができた。また、N児のように自分の発信した情報は相手に影響を与えることを体験として学んだように情報社会に参画する態度が相手と接することにより高まった。

 

(4)         活動にそって行う知的所有権の指導

7のように山田村紹介のホームページでは、いくつかのグループが他のホームページの写真を使用した。子どものそのような行為が見られた時に、知的所有権についての指導を行った。

   子どもに対し、他人の作ったもの(撮ったもの、描いたもの)を勝手に使っていけないことを説明し、他のホームページの写真などを使いたい場合には、子供がメールでお願いの文章を送り、必ず所有者の了解を得るよう指導した。

<結果と考察>

   山田村を紹介するホームページを作る過程で、教師が知的所有権について説明し、子どもは自分たちに必要な写真があったときには、必ずメールで了解を得るようにしたことは、写真が子供たちにとって必要といった切実感があり、また、子ども自身がメールで所有者の了解を得るという体験をしたためと、無断で他人のものを使用してはいけないということが、単に教師から知識として知的所有権について聞くだけよりも、しっかりと子どもに身に付いていった。

 

ルーブリックの効果

教師

1, 目標に対して、子ども一人一人到達度が分かるため、子どもの到達度に合わせた指導をすることができる。

2, 子どもの自己評価と教師の評価のずれなどをもとに、子どもと対話することができる。

子ども

3, 自分がどの段階にいるかを確認することができ、次に目指すべき目標を意識することができる。

4, 表に慣れれば、子ども自身が目標を立てて学習に取り組むことができる。

放射型図表

【図10 ルーブリック活用の効果】

3 情報活用能力の育成を意図した指導に生かす評価の工夫 (指導に生かすルーブリック活用の工夫)

評価には、子どもの学習の状態を把握し、教師がその後の指導に結びつけていく役割のあることは周知のことである。

中でも、子どもが自分の到達度を自覚する自己評価については、教育課程審議会(2000/12)答申の第1章、第2節の4「評価方法改善の工夫」において、「とりわけ、自己評価については、自ら学ぶ意欲などを見る上で有効であるばかりではなく、児童生徒が自分自身を評価する力や他人から評価を受け止める力を身に付け、自己の能力や適正などを自分で確認し、将来を探求できるようにするためにも大切である。」と述べられており、その効果が期待され、子どもの自己評価・相互評価能力を高めるとともに指導に効果のある充実したものにしていくことが望まれている。

また、国立教育政策研究所は総合的な学習の時間の授業と評価の工夫(平成16年3月)において「評価基準の目安となる事例を盛り込んだ『評価事例集』を作成することの大切さが指摘されている。」とし「アメリカ合衆国の諸州で進められているルーブリック(rubric)は、まさにこのような評価規準と評価基準を同時に収めた評価指標となっている。」と述べている。

ルーブリックは従来のペーパーテストなどでは測れない子どもの能力に対して行動目標を設定し、その行動を子どもが達成できれば基準に到達しているとする、子ども一人一人の到達度を判断する評価基準表のことである。また、ルーブリックは教師がもつだけの評価基準ではなく、子どもと共有することが特徴でもあり、共有することにより図10に挙げた効果があると考えている。

本実践では、教師と子ども、子どもの指導に携わる地域人材のYさんとルーブリックを共有し指導を行った。以下、教師が指導に生かすルーブリックの活用方法について事例を通して考察していきたい。

 

1) 子どもと共に作る評価規準表(ルーブリック)

山田村を紹介するために集めてきた情報をホームページにまとめる活動では、コンピュータについて取材した子供たちは取材した際の自分の質問と相手の答えをそのまま書いていたり、必要のない内容が入っていたり、また、調べた情報と自分の意見との区別がなかったりして、伝えたい内容や意図が伝わりにくい表現となっていた。

そこで、子供たちが相手に分かりやすいホームページを作ることができるための手立てとしてルーブリックを活用した。まず、子供たちは、この段階ではルーブリックを用いた評価に不慣れであるため、子どもに理解しやすいルーブリックを作成する必要があった。そこで、子供の意見からルーブリックの評価規準を作った。学級で「分かりやすいホームページにまとめるにはどんなことに気をつけて直していけばよいか。」を話し合い、子どもの意見をもとにルーブリックを作成した。以下は子どもの発言を抜粋したものである。

「どんなことに気を付けてホームページを直していけばよいか。」という問いに対する子供たちの発言

                                   伝えたいことについて内容を詳しくする。

                                   相手が興味を示してくれそうな内容にする。

                                   大事なことを強調する。

                                   意味のない文や写真はないか考える。

                                   伝えたいことに対する説明がきちんとあるか。

                                   伝えたいことを中心にする。

                                   順序を変える。

 

内   容

レベルC

レベルB

レベルA

伝えたいことと、あまり関係のないことが書いてあると考える。

相手にとって、意味の分かりにくい内容や説明があると考える。

伝えたいことを中心に分かりやすく説明していると考える。

キーワード

関係のない内容

分かりにくい内容や説明

分かりやすい

【図11 ホームページを見直す際に用いたルーブリック】

11は、話し合いで出た子どもの意見を整理したルーブリックの一つである。他のグループのホームページを見る際に、分かりやすいホームページづくりのための視点を子どもがもつために有効と考えた。また、ルーブリックを用い子どもが自分で自己評価できることをねらいとした。

この相互評価活動では内容と写真の面でルーブリックを作成した。図11は子どもの考えを整理し作ったルーブリックである。子どもの理解を助ける工夫として、キーワードを付けた。

他のグループのホームページを見て相互評価活動をする子どもの様子やワークシートの記述(図12)から、子供たちが共通の視点をもって相互評価を行ったことは相手のホームページを読みとる上で、また、友達の意見から自分のホームページを見直していく上で有効だった。子供たちの意見をルーブリックにまとめた手立ての結果、子供たちはよく評価基準の内容を理解し活用することができ、図11の子どもが書いたワークシートにもあるように、子どもが他のグループのホームページを見る際に、子どもの思考を導くのに役立った。

子供たちはルーブリックをホームページを見る際に活用することによって、ホームページを作るための視点が明確になり、分かりやすいホームページ作りへとつながっていった。ルーブリックを子どもに理解しやすくするために、子どもの意見からルーブリックを作ったことやキーワードをつけたことにより、子どもはホームページを分かりやすくまとめる視点をもつことができ、ホームページをよりよく改善していくことができた。

 

【図12 相互評価のためのワークシート】

2) 子どものコミュニケーションを深めるルーブリックの活用

相手に分かりやすいホームページにするため、図12のルーブリックを付けたワークシートを用いて、子どもがお互いのホームページを評価し意見を交換した。

<結果と考察>

実際に子ども一人一人がルーブリックをもとに自分や他のグループのホームページに対してA、B、Cの判定をし、その理由をワークシートに書いた。図11の子どもの意見にあるように、「今使っている写真は、コンピュータがいっぱいあるところは分かる。役立っているということを伝えたいのなら、使っているところを入れればよいと思う。」と他のグループのホームページの内容と写真について視点を明確にして意見を書き対話することができた。

子ども同士が学習でコミュニケーションを図るには共通の視点をもっていなければうまく意志疎通ができない。上記の結果から、ルーブリックを活用することにより相手の意図を読みとろうとすることができた。子ども同士が同じ視点をもってコミュニケーションを図ることができ、ルーブリックの活用は子ども同士のコミュニケーションを支える指導として効果があった。

 

(3)       ルーブリックを共有することで効果が高まる地域人材の方との連携

評価には地域人材の方にも参加していただいた。お互いのホームページを評価し合った際、前述の地域人材のYさんに話し合いに参加していただいた。地域人材の方からのアドバイスが多岐にわたっては子どもが内容を把握しきれなくなるので、話の視点を絞る意味で、Yさんにルーブリックを事前に渡しておき、ルーブリックの視点に沿って話をしていただいた。

 

【図13 話し合いに参加するYさん】

<結果と考察>

上記の吹き出しのように、山田村に住んでいる人ならでは、また、アメリカをよく知っている人ならではのアドバイスは子供たちを納得させ、また、強く印象に残り、子供たちは、その後の見直し活動を積極的に行っていくことができた。

Yさんに話をしていただいたことは子どもに視点を与えたり、視野を広げたり、意欲を高めたりする上で効果的であった。

Yさんにルーブリックの視点に沿って話をしていただいたことにより、子どもが悩んでいて聞きたいと思っている内容についてYさんが答えてくれたこととなり、子どもの理解は高かった。また、子ども自身が聞きたいと思っていたことなので意欲も高まった。

また、自分の評価と相互評価やYさんの評価とを比較し、違う場合なぜ違うのかを理解することで、自分の自己評価を修正し、次第に客観的な自己評価をすることができるようになっていった。

また、Yさんから、「アメリカの人の多くはシャワーで汚れを落とすために風呂に入り、湯船に浸かって疲れをとるという感覚があまりない。」と聞いたことについて、子供たちの感想文に多く表れており、強く子供たちの印象に残ったことが分かった。山田村の温泉に親しむ子供たちの中には、自分たちの感覚とはずいぶん違うと驚く感想もあり、それ以後、子供たちは、「これは相手に分かるかな。」と習慣の違いを意識するようになった。

国際交流を行うにおいて、相手の意識・習慣の違いを把握しておくことは大事であるが、すべてを把握することは不可能である。結局のところ交流は「相手のことを考える」ことで成り立ち、また、「相手のことを考える」ことで子どもの学びも大きくなったと考える。

 

4) 図画工作科での作品鑑賞において子どもが視点をもつためのルーブリックの活用

地域紹介に続いて、お互いの絵画を鑑賞することを通して相手や相手の地域のことを知る活動を行った。 

この活動では次の情報活用能力を育成することをねらいとした。

メディアを使って、情報・意見を適切に伝える。

他の人の発信した情報の良いところを見つける

社会の常識の中には、自分の考えと違うものもあることに気づく。

他人の情報を大切にする。                     (永野他2001)                                 

 

 

 

 

 

【図14 アメリカの児童の作品】

 

相手の作品を見る際に、子供たちは自分の描いた作品とあまりにも表現が違うため、戸惑い、作品を評価することができなかった。そこで、子どもが相手の作品の良さを捉えることができるように、図15のルーブリックを子供に示し教師と子どもで評価基準を共有し、視点をもって鑑賞を行った。

15のルーブリックでは、相手の工夫を見つけることができればレベルCとなる。さらに、その工夫がどんな相手の思いを表すものか関係づけることができればレベルB、表現の工夫が相手の思いをどのように効果的に表しているかを説明できればレベルAとなる。

<結果と考察>

ルーブリックを用いて行動目標を示すことにより、子供たちは相手の作品を鑑賞する際、どんなことができればよいのかを理解することができ、相手の作品を鑑賞することができるようになった。

また、ルーブリックを活用することにより、子ども自身が自分の行った鑑賞はA、B、Cのどのレベルかを判断し、より高いレベルを目指して鑑賞を行うことができた。

鑑賞しよう!

友達の作品の表現の工夫を見つけることができる。

表現の工夫とつくった人の思いを関係づけて見ることができる。(つくった人の思いがよく表れているという見方で表現の工夫を見つけることができる。)

つくった人の思いが表現の工夫で効果的に表されていることを説明することができる。

キーワード

工夫を見つける

思いを考える

説明する

【図15 鑑賞のためのルーブリック】

鑑賞してワークシートに書かれた子どもの意見の中には「静けさを表すのに寒色がいいということ」「顔を簡単にかくと静かな感じになる」「静かさを出すとき濃い色が使える。」「空や池は明るい色が使ってあって、木などは暗い感じの色を使ってあるから、木などの静かな感じが目立っている」といった内容があり、これらの意見からは、子供たちは表現についての基礎・基本をきちんと学んでいることが伺える内容であった。ルーブリックを活用することで子どもは視点をしっかりともって鑑賞を行うことができた。

 

 

5) アメリカの小学生と絵画を通してコミュニケーションを図るために、子どもがルーブリックを習得するための手立ての検証

【図16 ワークシート】

2003年度の実践を踏まえ、子どもがルーブリックをよりよく理解し、共有していくことが子どもの力を高めていくのに重要と考え、2004年度は子どもがルーブリックを理解するための有効な手立てを検証してみた。

日米の子どもがコミュニケーションを深めるためには、お互いに共通の視点をもつ必要があると考え、澤橋とSasso教諭が意見交換をし、造形作品を制作したり鑑賞したりする上で、必要な基本的な4つの視点を決めた。

4つの視点は、絵画を見たり、表現したりする際の、線、色、奥行き、であり、子どもがそれらの視点を習得するための手立てとして、ルーブリックを活用した。

これらは、子どもが造形作品を制作したり、鑑賞したりする際の1つの切り口であり、対象を把握するアプローチの方法である。アメリカでは小学校の教科書にも書かれており指導がなされているが、日本では視点をもって表現をしたり鑑賞したりする指導は一般的になっていない。

4つの視点を子どもが習得できるように、また、子どもがワークシートに意見を書く際に、到達してほしい記述のレベルを段階で示せるように、図17のルーブリックを作成した。

始め、子どもの記述は「線を太くすればよい」「色を明るくすればよい」といったレベルBの内容が多かったが、回を重ねていくうちに「下から上へいくほど色を濃くしていった方が、寒さが増していく感じがする。」といったように、レベルAの自分がよいと思う理由を書くことができるようになっていった。以下に子どもがルーブリックを理解するための手立てを述べていきたい。

 

@ ルーブリックをワークシートに付け、いつでもチェックリストとして活用する

子ども同士で絵を見合うことにより、子どもの表現を高めていきたいと考え、クラスの友達の絵を見てよいところや見直したらよいところを話し合う活動を行った。ワークシートにルーブリックを付け、子どもが友達の絵を見て意見を書く時にいつでも見られるようにした。また、ワークシートの記入欄も、子どもに理解してほしい4つの視点に対応して欄を設定した。ワークシートを記入する際、自分の考えをどの項目に書けばよいか分からない子どもには教師が個別に対応した。

ワークシートには自分のレベルを記入する自己評価の欄を設け、子どもはワークシートを書くたびに自分はどれだけできたかを振り返ることができるようにした。図3が使用したワークシートである。

【図17 子どもの到達レベルの推移】

17は、クラスの友達の絵を見てよいところを見つけたり、見直したらよいところを書いたりする活動で、子どものワークシートの記述を教師が評価した結果である。横軸が行った回数、縦軸がA、B、Cの割合を示す。1回目でAの段階の記述ができた子どもは2人とルーブリックの理解が低かった。そのため、子どもがルーブリックを理解できるよう、以下のA、Bに示す手立てを行った。

 

A モデルの提示

子どもが評価の視点をもつためのルーブリック活用については、教師の説明を聞いただけでルーブリックのレベルAの記述ができた子どもは10人のうち2人であった。多くの子どもは説明を聞いただけでは実感がわかなかった。

一人の子どもの絵を学級の子どもに対して提示し、その絵について子供たちでよいところや見直したらよいところなど意見を出し合った。実際に絵を提示して話し合うことにより、子どもは相手の絵に対してどのようなことが言えれば、AやBの評価になるのかを具体的な事例をもとに聞くことができた。

話合いの後に子どもが書いたワークシートは、Aの記述が2回目は5人、3回目は4人と増えていることから、子どもはAのレベルはどのようなことを書くことができればよいのかを友達の具体的な発言をもとに理解していくことができたと考える。

B 教師の言葉かけと繰り返しによる習熟

クラスの子どもは自分以外の9人全員の子どもの絵を見てワークシートに意見を書いた。1回目から教師は机間指導や子どもがワークシートを提出してくる際に記述に対して「なぜ、そう思う。」といった、子どもがAの視点を意識できるような言葉かけをした。子供たちは繰り返し書いたことによる習熟と、教師の適切な言葉かけによって、4回目は9人全員がAの評価となり、以後、高い割合でAのレベルの記述をすることができるようになった。

 

C 友達とのかかわりによる理解

記入したワークシートは、絵を描いた相手に渡し読んでもらった。子どもの中には、友達の書いたワークシートの記述内容の意図が理解できず疑問を抱く子どももいた。子どもが記述に対して疑問をもった場合、書いた子どものところへ理由を聞きに行くよう指導した。子どもはワークシートに書くだけではなく、相手の質問にきちんと答えられなくてはならない。子供たちには責任が伴い、きちんと答えられるよう相手の立場に立ってワークシートを書くようになった。子どもが友達に自分が書いた内容の理由を説明するためには、ルーブリックのレベルAの能力が必要である。友達に説明するというかかわり合いから、子どもがAのレベルを意識できるようにした。

18の4回目以降、Aのレベルで記述のできる子どもの割合が8割以上に高まり、教師が子どもへ言葉かけをしたことと、子どもが繰り返し書いたことは、子どもがルーブリックの理解を深めるのに有効に働いた。

 

D 教師の評価と子どもの自己評価のずれをなくす手立て

18は、友達の絵を見て書いた9回の子どものワークシートの記述を、教師の評価と子どもの自己評価の一致と不一致といった見方で示したグラフである。子どもがワークシートの記述を自己評価する際、子どもが判断するA、B、Cの自己評価と、教師の判断するA、B、Cの評価は食い違いが生じた。そのため、ずれている子どもをなくしていくための手立てを以下のように行った。

 図18は横軸が自己評価を行った回数を、縦軸が自己評価を行った人数を示し、子どもの自己評価と教師の評価のずれていた子どもの数をピンクで示し、両者の評価が一致した人数を黄色で示している。例えば教師がBと判断し、子どもがAやCと自己評価している場合、教師と子どもの評価がずれているとして、グラフではピンクで示される。

グラフ2の1回目を見ると9人中5人の子どもの自己評価が教師の評価とずれている。その後、前述の手立ての「モデルの提示」を行った後の記述では、評価のずれている子どもは2回目が1人、3回目が2人と評価のずれている子どもは減少した。

【図18 教師の評価と子どもの自己評価のずれ】

そのことから、視点の理解が高まったことによりずれも減少していったと考える。具体的なモデルを示してやる手立ては、子どもが視点の理解を高めるのに効果があった。

しかし、4回目は5人、5回目は6人といったように4回目以降、また、評価のずれている子どもが増えていった。グラフ2にあるように4回目と5回目は多くの子どもはAのレベルに達している。子どもはAのレベルの記述をしていたにもかかわらず、Bと自己評価していたのである。理由は子どもの様子から、子どもは自分がAのレベルに到達しているという自信がもてないためであると考えた。

 そこで、次の手立てとして6回目以降、子どもがワークシートを提出に来た際、子どもの目の前でワークシートの記述に赤線を引いて、「ここにこう書いてあるからAなんだよ。」と一人一人に説明をし、また、記述の足りないところは、教師が子どもの思いを問い返すことを繰り返し行った。

6回目以降食い違いはだんだんと減り、最後の9回目にはすべての子どもの自己評価が教師の評価と一致した。

 

4                 絵画を通して深まる異文化理解

(1)        コミュニケーションツールとしての絵画の活用

ここでは、小学校での国際交流をより容易に実現するための、絵画によるコミュニケーションの可能性について実践から見えてきたことを述べたい。

アメリカとの2003年度の国際テレビ会議では、お互いの地域紹介をした後に、お互いが描いた地域の絵について

【図19 アメリカの児童の作品】

【図20 たばこ畑の写真】

コメントをし合った。

子供たちは、事前に描いた絵を送り合い、お互いに相手の絵を見合っていた。本学級の子供たちは左の絵を見て描かれている植物は草なのか木なのかという疑問をもち、テレビ会議で質問しようと考えていた。すると、テレビ会議での地域紹介で左の写真が提示され、「絵に描かれている植物にそっくりだ。」と子供たちは驚いた。

 彼女の家はタバコ栽培農家で、彼女が毎日見続けてきたタバコを描いたことが分かった。

小さな頃からずっと見てきた、思い入れのある風景だけに、彼女の住む土地の雰囲気が絵によく表されている。

相手の絵画作品をインターネット上で事前に鑑賞したため、子供たちは大変な興味をもってテレビ会議に臨むことができた。そのため、テレビ会議での相手の地域紹介も興味深く聞くことができた。

タバコ農家の紹介では、タバコを作る様子を見て、タバコの葉があれほど大きいことや、葉をいぶすこと、葉をいぶす小屋がとても高いことに驚きの声をあげていた。

このように感想を出し合ったり、疑問をもったりすることで、子どもは相手のことや思いを知りたいと願うようになり、相手を話を一生懸命に聞こうとするなど、相手を尊重する態度も高まった。

<結果と考察>

事前に絵画を交換し合うことで、絵画に対する疑問が生まれ、テレビ会議においても単に写真を見せ合うだけよりも、相手のことを知ろう、表現を読み取ろうとする態度が見られ、相手を尊重するなど人権意識が高まり、造形作品が相手とのコミュニケーションに有効に働いた。

また、造形作品は自分の住んでいる地域などの言葉では伝えきれない雰囲気を伝えることができ、また、言葉で伝えると無味乾燥になってしまう内容でも、豊かな情報として伝え合うことができた。単なる表面的な知識ではなく、絵画から相手と感情や感覚を共有することができ、より具体的な知識を得ることができた。そのことにより、絵画は国際交流において言葉を補うことができた。

【図21 日本の児童の作品】

【図22 アメリカの児童の作品】

また、絵画から相手の思いを推し量り捉えることにより、子どもの興味・関心や相手を尊重する態度が高まった。

絵画の表現に注目すると、同じソフトウェアを使っているにもかかわらず、表現に大きな違いがでた。

子供たちは図画工作科の力としての描き方についても多くを学んだ。本校の子どもの絵はすべての子どもがまず線で描き色を付けており線を基調にブラシで描き、詳細な写実的な描写であるのに対し、アメリカの子どもは線を用いず、色で大胆に描き、油絵などの効果を用いている。表現的な描き方である。絵を描く際、子供たちは線で描くのが当たり前と思っていたが、アメリカの子どもは色でつくっていく感覚であり、そういった方法があることを学んだ。描き方にも価値観や考え方の違いがあることに、子供たちは興味をもった。本来は何を表現したいかで技法を変わってくるものである。子どもは自分たちとは違う表現方法に出会い、表現方法への視野が広がった。また絵の描き方を通して多様な考えにふれ異文化理解を図ることができた。

しかし、草刈りをしている絵(乗る草刈り機に子供たちは驚いていた。)や、図14では自然の中でのんびり釣りをしている絵で、言葉や環境が違っても人の営みは変わらないことも同時に子供たちは学んだ。

 

2) 日米の子どもによる絵画のコラボレーション(共同制作)から見えた異文化

【図23 K児の60パーセントの絵】

【図24 K児が完成させた絵】

【図25 K児の絵をブリアナが完成させた絵】

2003年度の実践をふまえ、2004年度は、より子ども同士がかかわりを深め、よりよく相互理解のできると考え、絵画のコラボレーションを行った。

子供たちは澤橋とSasso教諭とで話し合い決めた言葉の中から好きな言葉を選び、選んだ言葉から自分の思い描くものを想像して絵にする活動を行った。

  絵のもとになる言葉は、子どもが発想を広げやすかったり、日米でおもしろい違いがでそうだったりする言葉を日米の教師が話し合い決めた。子どもが選んだ言葉は「笑う」「喜ぶ」「風」「暑い」「寒い」「叫ぶ」であり、子供たちは自分の選んだ言葉をもとに絵を作成していった。   

この共同制作は、日本とアメリカで同じ言葉を選んだ子ども同士がペアとなる。お互いに絵を描き始め、図23のように60パーセント完成した段階で相手に送る。子どもは相手から送られてきた絵を、自分の感覚や考えで続きを描き完成させるという活動である。子どもは自分の選んだ言葉から発想して描いた絵と、アメリカの友達が同じ言葉から発想した絵の2つの作品を完成させることになる。

具体的には、本学級のK児は「叫ぶ」という言葉を選び図23の絵をメールでNorth Calloway小学校へ送った。図24がK児が完成させた絵である。North Calloway小学校で「叫ぶ」という言葉を選んだのはブリアナという子どもでブリアナが完成させたK児の絵で図25である。

また、逆に図26North Calloway小学校のブリアナが「叫び」という言葉から発想し60パーセントまで仕上げた絵である。図27がブリアナの絵の続きをK児が描き完成させた絵である。図28はブリアナが完成させ

たで絵である。このように、「叫ぶ」という1つの言葉を日米の2人の子どもが描き、1人が2つの作品を仕上げるため、1つの言葉から4つの作品ができることになる。

【図26 ブリアナの60パーセントの絵】

【図27 ブリアナの絵をK児が完成させた絵】

【図28 ブリアナが完成させた絵】

前述の共同制作した作品をテーマに国際テレビ会議で話し合った。

テレビ会議では、自己紹介をした後、自分の絵と共同制作した絵について意見交換を行った。

作品についてお互いに絵のよい点や表現の意図を話し合ったり質問をしたりした。

図画工作科での表現面では「叫び」では図24でK児は、叫んだときに体に力が入り暑くなり目がくらくらする感覚を絵に表現した。そのため、赤や黄色が使われ、画面の一部を白くかすませている。それに対して図25のブリアナは色が青や緑などの寒色を使っており、全く正反対の色の使われ方がされている。また、意図的に線を波打たせている。この絵では、叫んだ際の空気の振動を表現している。外界の空気を表すため寒色を用い振動を表すため線を波立たせている。体内の感覚を表したK児と正反対の視点であった。

話し合う内に話が発展して、お互いの日常生活の話題になった。「暑い」を表した絵の意見交換をした際、J児が「こちらは夏は36度ぐらいまで気温が上がるがそちらではどのくらいになるか。」と質問したところ、90度という答えが返ってきて子供たちは驚いた。日本では摂氏で気温を示すが、アメリカでは華氏で示しており、日本での気温の表し方が国によって違うことを学んだ。

また、「寒い」を表した絵の意見交換では、積雪のことが話題になった。山田村では通常1メートル以上積もるが、向こうでは15センチメートル程度であることを聞いた。また、最も近いスキー場でも5時間かかると言うことも聞き、子供たちは驚きの声をあげ、また、かわいそうと感想をもらす子どももいた。このことから、子供たちは、相手の子どもが住むケンタッキー州は平地が広がり山の少ない場所であることを知った。 

<結果と考察>

テレビ会議では絵画の話から自然に発展して気候や服装など、様々な話題が出て、違いや共通点を子供たちは実感することができた。

また、絵の表現では、物事を主観的に捉えるか客観的に捉えるかで大きく変わってくる。子供たちは物事を捉える視点は1つではなく、いろいろな角度から見つめることができることを、具体的な体験を通して学ぶことができた。

【図29 アメリカ側テレビ会議の様子】

本実践の2年間の交流ではアメリカの子どもは客観的に捉えた作品が多く、日本の子どもは主観的に捉えた作品が多かった。文化の違いによるものだと思われる。このような根底に流れる捉え方の違いというものまでは、明確に意識することができたとは言えないが、絵を通すことにより言葉では表せない、もしくは、言葉で表しても理解できない感覚、考え方の違いを体感することができたと考える。この活動を突き詰めていけば深い意味での異文化理解ができるのではないかと考えた。

この活動は、何枚もコピーが作れ、何度でも書き直しができる。コンピュータを活用したデジタル表現であったからこそできた活動と言える。

本実践では、プロジェクトとして双方合意のもと、相手の絵に描き加えたが、本来は他人が描くなどして生み出した物を無断で利用してはならないということを指導し、知的所有権の理解を深めることができた。

 

X 研究のまとめ

・   教科で情報活用能力を育成していくことは教育の今日的な課題の一つとなっている。

国語科、社会科などでは、その教科の目標と情報活用能力との親和性が高くイメージがわきやすい。反面、音楽科や体育科、図画工作科などでは、情報活用能力の育成といっても想像がつきにくく、事例もあまりみられない。実践から図画工作科において情報活用能力を高める指導事例を挙げることができた。

また、アメリカの子どもと、描いた絵画を交流させたことにより、造形作品をコミュニケーションのツールとして生かすことができた。造形作品を国際間のコミュニケーションの共通言語として捉えた場合、絵画には色や素材、形や空間などといった、どこの国の人が見てもイメージの伝わる共通言語がある。図画工作科では、それらの作品の中の共通言語を伝えたいイメージに合わせて意図的に活用していく力を育てる指導が今後の課題である。

・  教科と総合的な学習の時間の関連といった場合、活動内容での関連と、高めたい能力での関連の2通りが考えられる。本実践では情報活用能力といった高めたい能力に視点をおき関連を模索した。教科と総合的な学習の時間で、共通した、または発展させた目標を設定し、子どもが教科と総合的な学習の時間を通じて一貫して能力を高めていけるよう学習課程を計画したことが有効であった。     

  相手とかかわる際のモラルやマナー、相手を尊重する態度の育成は、教室の中だけでは身に付きにくい。事前指導を行い、実際に人と接する場を設定することで、また、かかわりを後で振り返る中で、子どもの中に根付いていくことが分かった。このように培ったモラルやマナーは国際テレビ会議で交流相手とのかかわりでも生かされた。また、ホームページを作る活動の中に知的所有権の指導を組み込んでいったことにより、子どもの知的所有権に対する意識や態度を高めることができた。

・  国際交流では、お互いの環境や描いた絵画の違いに驚きながらも、相手のよい面を見つけていくことができた。相手を思いやる、自分の発信した情報は他の人に影響を与えるといった意識をもつことは、コミュニケーションをする上での基本的な意識であり、メールや掲示板で相手とかかわる中で、また、テレビ会議では相手の表情などの反応や相手の意見から、子どもは相手に受け入れられているという満足感をもち意欲的に学習に取り組むと共に相手を尊重する意識をもつことができた。

・  ルーブリックは教師が子どもの到達度を把握するだけではなく、教師と子どもが共有することにより、指導に生かしていく活用事例を挙げることができた。ルーブリックは子どもに視点を与え、また、子どもの今の自分の段階、次に目指すべき行動が示され、自己を客観的に見つめたり、思考を促したりできる道具として有効であった。また、子どもが視点をもつことができたため、相互評価や話し合いなどにおいてねらいに沿った話し合いやかかわりができ子ども同士のコミュニケーションを深めることにも役立つことが分かった。

・  絵画は自分や住んでいる地域などの言葉では伝えきれない雰囲気を伝えることができる。また、言葉で伝えると無味乾燥になってしまう内容でも、絵画では豊かな情報として伝えることができ、相手の興味・関心を高めることができた。そういった点では、国際交流における言葉の壁を軽減していると言える。また、言葉では伝えようのない雰囲気を伝えられる点、高度なコミュニケーションツールとしての役割を担えることが分かった。

また、事前に絵画を交換し合うことで、絵画に対する疑問が生まれ、テレビ会議においても単に写真を見せ合うだけよりも、相手の表現を読み取ろう、相手のことを知ろうとする態度など人権意識の高まりが見られた。

反面、絵画だけの交流では、相手に関する知識が不足していたり、こちらの読み取る力が不十分であったりして相手の伝えたいことが伝わらないこともあり、言葉と造形作品を併用してコミュニケーションを図ることが望ましい。

 

協力者   

North Calloway Elementary School       Sandy Sasso

滑川市立寺家小学校              平井 正俊

富山市立船峅小学校              宝田 淳二

富山大学教育学部助教授           黒田 卓

 

実施場所

山田村立山田小学校

富山大学教育学部

North Calloway Elementary School

ケンタッキー州立マーレイ大学

 

参考資料

文部科学省  「情報教育の実践と学校の情報化−新情報教育に関する手引き−」

文部科学省  「教育課程審議会(2000/12)答申」

国立教育政策研究所 「総合的な学習の時間の授業と評価の工夫(平成16年3月)」

澤橋 直文、黒田 卓 「絵画を通した国際交流での情報活用能力と異文化理解の高まり」

30回全日本教育工学研究協議会全国大会