普通教科「情報」における広域学習環境下でのカリキュラムと評価法の開発

− 高校生の自律性・コミュニケーション能力・自己表現能力の向上のために −
東海スクールネット研究会[1]
栗本直人[2]・奥村稔[3]


1.要約・研究の目的
 本東海スクールネット研究会は、1994年12月12日インターネットの教育利用を考える会として発足した。1998年より、『広域での学習環境の構築は、高校生の自律性を養う援助として効果がある。』という仮説のもとに、自律プロジェクト(詳細は後述する。)が開始された。その発足会には、この研究の助言者である坂元昴先生に基調講演をいただき、その後の動きとして、坂元先生はじめ多数の方々の努力で、普通教科「情報」が誕生した。
 本研究では、その教科「情報」をいかすために、2002年度は、この1998年〜2002年度までの課外活動として広域での学習環境の構築などのまとめを行ってその効果を検証した。2003年度は、はじめての試みとして、教科「情報」の枠組みの中で広域での学習環境の構築を図った。
 具体的には、その広域での学習環境の中で高校生の自律性を養うためには、
1)効果的なコミュニケーション能力(Effective Communication能力)
2)効果的なプレゼンテーション能力(Effective Presentation能力)
3)論理的思考能力(Critical Thinking Logical Thinking 能力)
などの育成が必要であり、2002年度は、5年間のまとめとして、情報の共有・蓄積・継承の仕方を研究成果とまとめ、いろいろな問題点を指摘した。また、2003年度は、これを教科「情報」のカリキュラムの中にどのように組み込んでいくか、そして、高校生のモチベーションとしてのテーマ設定を、Career Preparation、つまり進路学習(職業研究)をテーマとして選んだ。(これは、2001年からのロサンジェルス教育委員会からいただいたCareer Way 2000なども参考にした。)これらの問題点、成果、今後の課題と展望について述べたい。

2.2002年度(自律プロジェクト)の研究内容
2.1.自律プロジェクトとは
 「自律プロジェクト」は通称であり、正式名称は「地域分散広域統合型自律的学習環境の構築プロジェクト」である。プロジェクトは大きく分けて、<1>地域分散プロジェクト、<2>その広域統合、<3>情報発信、<4>「高校生の集い」での交流という4つの要素からなる。

2.2.地域分散プロジェクト
 日本の高校6校、アメリカ・台湾が1校ずつの参加生徒は、自ら学びたいという意思のもとテーマを持ってプロジェクトを企画・発展させる。留意しなければならないのは、学校の枠組みの中だけで活動が完結するのではなく、実社会へのコミットが必要とされる点である。たとえば、滝高校のシニアを対象としたIT講習会である「シニア交流プロジェクト」、生徒の熱意から生まれた「ネパールに学校を建てようプロジェクト」、旭川凌雲高校の地元IT企業を取材しWEB上に総合コンテンツを作る「旭川・マルチメディア・マップ・プロジェクト(AMMP)」が良い例である。また、前回の「高校生の集いin江南・高山」での沖縄尚学高校の発表プロジェクトは「だいじょぶさぁ〜・沖縄」であった。アメリカの同時多発テロの影響をうけた沖縄観光のために市を巻き込んでのPR活動や全国キャラバンを開催した姿が印象的であった。

2.3.広域統合
 各地域分散プロジェクトの成果は統合Webページに集約される。これはNAW(ネクスト・エイジ・ウェブ)=URL:http://www.nextage.ne.jp/ というWebページで、自律プロジェクト全体が一望できる見晴らし台のようなものである。また、過去のプロジェクトのコンテンツデータのみならず、基本的な自律プロジェクトの考え方なども紹介されている。


2.4.情報発信
 自分たちの活動を理解してもらうために、Eメールが積極的に活用されている。NN(ネット・ニュース)と呼ばれる各学校のプロジェクトの進捗状況などをまとめたメールが生徒の手によって編集されており、月1回のペースで配信されている。

2.5.「高校生の集い」での報告と評価活動
 「高校生の集い」の第1セッションでは各プロジェクトの報告が行われる。各報告の終わりには評価シート(資料1)の記入がある。評価のポイントとしては、プロジェクトの社会的な活動意義を認識しているかどうか、活動上の問題点を把握しそれを乗り越えようと工夫しているかどうかという姿勢が重視される。これは自律的学習環境の構築という理念にもつながっている。また、一般的に学校内でのさまざまな活動に対して、生徒のモチベーションを向上させる手段としても応用できる可能性も秘めている。

2.6.研究方法
 2002年度の自律プロジェクトを以下のようなスケジュールで進めた。その中で、問題点を生徒とともに考え、フィードバックする。先生間では、その成果と課題(問題点)を洗い出し、まとめるという研究方法をとった。
4月 先生のメーリングリスト(seed)の運用開始
5月 生徒のメーリングリスト(active)の運用開始動画配信用サーバー実験的運用開始
7月 旭川で北海道メンバーとの調整会議を開催して、意見交換を行う。(先生)
8月 自律プロジェクト「高校生の集いin旭川」(8-11)
9月 (1)NN(ネットワークニュース)の発行 (2)NAW(Next Age Web)の更新 (3)ビデオクリップ集約・WEB化の運用開始
11月 プロジェクトの進捗状況をチェックして、問題点の洗い出しを行う。(先生)
1月〜3月 自律プロジェクトのデータの整理・公開(3月NAWの完成)

2.7.高校生の集い in 旭川
 2002年8月8日〜11日にかけて、北海道旭川市にある旭川藤女子高等学校で、「自律プロジェクト・高校生の集いin旭川」が開催された。この集いは、自律プロジェクトに参加する各学校のメンバーが自分たちの活動内容を発表し、お互いに評価し合い、新たな活動につなげるためのオフライン・ミーティングである。

写真1 米・台湾の高校生の夕食風景 写真2 米の生徒のプレゼンテーション

写真3 最後の集合写真         写真4 NNの活性化に関する討論風景

 今回の「高校生の集い」では、8つのセッションを設定し(資料1)、セッションごと責任者を決め、熱い議論を行った。セッション・スケジュールは滝高校の生徒が中心となり、TV会議システムを使って生徒たち自身が決めていった。各セッションでは自律プロジェクトに関する様々な議論が展開されたが、オープニングを飾る第1セッションだけは発表が中心となる。プロジェクトに参加する各団体は地域分散プロジェクトの活動成果を10分の発表にまとめた。海外の団体もいるので英語での発表も必要とされたが、通訳ボランティアと日系アメリカ人の生徒が参加していたので、言葉の壁は多少低くなった。

2.8.研究成果−実践研究の中からでてきた問題点−
 単純に「日・米・台・ネパールの高校生によるネット・ニュースと動画クリップの発行」を考えると、それは各国から原稿・動画クリップを集めて、編集すればよいと考えられる。しかし実際に活動すると、多くの問題点が明らかになってくる。

1)定期的な発行の困難さ
 一度だけの発行であるならば、それほど期限などを心配する必要もない。しかし定期的(一ヶ月に一号)に行うとなると次号の準備も迫るので、その作業の負担は肉体的にも精神的にも相当である。
2)各学校のスケジュールの相違
 定期考査を始め、各学校のスケジュールの相違が、協調作業を困難にしている。スケジュールを共有しようという意見もあるが、共有してどのような活動計画を立てるかという議論までは進まない。
3)もっと多くの購読者に
 教師側には、ネット・ニュースの購読者を素性が分かり特定できる人たちを対象にすることで、教育的な反応も期待した。生徒側からすれば、読者の数が多いに越したことはなく、さらに、購読者の反応を知りたがっている。購読者とのインターラクティブな交流ができるような構造が必要である。
4)言語の壁
 生徒達とって、英語の壁は大きい。英語のプレゼンテーションを作成するために、生徒たちは、ネイティブな英語の先生に添削してもらう、あるいは、翻訳ソフトやインターネット上の翻訳サイトを駆使していた。さらに、リアルタイムの意見交換する場面になると英語の壁はさらに大きくなる。やはり、英語での「効果的なプレゼンテーション能力」あるいは「効果的なコミュニケーション能力」の育成が重要である。
5)「活動過程を共有する」ことの意味
 これまでの活動の中で、「共有−蓄積−継承」のキーワードは、生徒たちの意識の中にも定着してきた。これは自律プロジェクトの実践が積み重ねられてきた中で定着してきたことである。しかしながら、最も基本的な「共有すべきは、結果としての成果ではなく、どう活動し・何を学んだかという活動過程である」という点においては、現在でも心もとない。
6)ネットワークニュースへの動画クリップ活動の挫折
 滝高校の生徒が動画配信サーバを準備して動画クリップの作り方・編集の仕方・FTPの仕方などを集いの際に説明した。しかし、主催した生徒の挫折もさることながら、参加者全員の理解不足のため、この試みは頓挫したが、それを見たOBがプロジェクトのバックアップ(URL:http://www.nextage.ne.jp/wmv/ )を行ったところに、自律プロジェクトの底力を見た。

資料1
自律プロジェクト 地域分散プロジェクト・プレゼンテーション評価シート
自分の学校名
[              ]
自分の名前
[              ]
評価するプロジェクト名
[              ]

○内容について   
評価内容
良い ⇔ 悪い
メモ
1. 活動の意義を理解できたか
5 4 3 2 1
 
2. 活動の問題点を把握できたか
5 4 3 2 1
 
3. 活動の問題点を克服しようとしていたか
5 4 3 2 1
 
4. 活動を発展的に進めようとしていたか
5 4 3 2 1
 
5. 自分達の活動を克服しようとしていたか
5 4 3 2 1
 

○発表の仕方について   
評価内容
良い ⇔ 悪い
メモ
1. 準備が十分になされているか?
5 4 3 2 1
 
2. 声の大きさはどうだったか?
5 4 3 2 1
 
3. 話し方のスピードは適切であったか?
5 4 3 2 1
 
4. 聴衆を意識した内容になっていたか?
5 4 3 2 1
 
5. 総合的に発表の内容はどうであったか?
5 4 3 2 1
 
6. 提示された画面はどうであったか
適当だった
文字が小さかった
 (複数選択可)
情報量が多い
情報量が少ない
7. 配布された資料はどうであったか?
なし
適当
 (複数選択可)
情報量が少ない
情報量が多い

○活動に関する質問を書いてください。(質疑応答をした場合にも、そのことを記す)



○活動に対して、アドバイスを書いてください。




3.2003年度(普通教科「情報」内での新しい試み)の研究内容
3.1.年間の目標とその意味
 以下、述べる実践は、滝高等学校でのものである。年間の目的は、年度当初、生徒に見せた以下のプレゼンテーションのとおり、Effective CommunicationとEffective PresentationとCritical Logical Thinkingが主体で、その他に、テーマであるCareer Preparation、そして、英語の壁の克服であった。
 

3.2.Effective Communication能力 & Presentation能力とは、そして、いかに?
 実社会に出て、求められる能力として、コミュニケーション能力とプレゼンテーション能力がある。たとえば、チームで活動する時に、いかに仲間と上手にコミュニケーションをとるかは重要である。また、お互いが何を考えているかをお互いに表現するプレゼンテーション能力も重要である。本カリキュラム開発の中では、チームで活動する場面を意識的に作った。
 コミュニケーション能力として、優秀な小論文を班ごとに選び出す作業(写真5)やLEGOマインドストームによるチーム対抗ロボコン(ロボットコンテスト)(写真6)などをカリキュラムの中に入れて指導した。
 プレゼンテーション能力として、自分のCareerに関するWebページ作成やそれを利用した発表を行なわせた。本年度は、時間の関係上、割愛したが、ディベートの活用はこの両能力開発のためには、重要かつ有効な教育手段と成り得る。また、現在、大学レベルで騒がれている“実務能力”“キャリア&クレデンシャル(クレジットの履歴)”の1つとなりうる重要な要素である。
 
写真5−優秀小論文選定作業       写真6−ロボットコンテスト

3.3.Critical Thinking & Logical Thinkingとは、そして、いかに?
 日本語として、論理的思考と言われるのは、Logical Thinkingである。たとえば、本年度のカリキュラムでは、LEGOマインドストームによるロボット制御である。簡単なGUI(Graphic User Interface)によるプログラミングで、ロボットが制御され、生徒自身が自分の論理性の正解・不正解を考えながら、論理的思考力をつけるトレーニングを行う。
 Critical Thinkingとは何か?Criticalとは、直訳すれば、「批判的な」となる。つまり、言われたことを、少し、斜に構えて、そのことがほんとうかどうかを自分で判断する能力と理解すればよい。たとえば、イラク戦争時のマスメディア(テレビ)の報道がどこまで正しいかを判断する力は、これからますますグローバル化する世界では必要となる。いわゆる、メディア・リテラシ教育と言われるものである。本年度は時間の関係で割愛したが、特別講師として、カナダ・オンタリオ州・トロントのメディア・リテラシ協会のニール・アンダーソン氏を招聘して、いろいろな指導を受けたので、これも、2004年度のカリキュラムとして、生かしたい。

3.4.年間カリキュラム
 本年度のカリキュラムは、以下のとおりである。生徒には、1年間の指導プリントはすべて、MS Power Pointで作成して、Webページで公開し、指導案も同時に公開されている。
授業回数
 授    業    内    容 
授 業 項 目
第01回目 ICT教室を使う際の注意とE-Leaningシステムの説明 項目1:E-Leaning
第02回目 Windows・電子メールのパスワードの変更 項目2:パスワードの変更
第03回目 フリードマン先生についてのレポート作成・提出 項目3:メールの送信
第04回目 小論文の書き方 項目4:小論文
第05回目 小論文の評価のしかた 項目4:小論文
第06回目 班代表からクラス代表小論文へ評価する 項目4:小論文
第07回目 クラス代表から最優秀小論文を評価する 項目4:小論文
第08回目 効果的なコミュニケーションとは 項目6:LEGO
第09回目 LEGOの説明 項目6:LEGO
第10回目 LEGOのプログラミング(課題1から5の説明) 項目6:LEGO
第11回目 LEGOの課題1から3 項目6:LEGO
第12回目 夏休みの宿題1・2の説明 項目11:Career
第13回目 夏休みの宿題2をプリントアウトして時間中に提出 項目11:Career
第14回目 LEGOの課題4から5 項目6:LEGO
第15回目 LEGOのコンペティションの説明/予選リーグ 項目6:LEGO
第16回目 LEGOの決勝トーナメント 項目6:LEGO
第17回目 Webページ作成の基本的なタグの説明 項目7:Web
第18回目 リンク、画像ファイルのはり方 項目9:リンク
第19回目 基本的なタグを使って自己紹介ページの作成 項目8:自己紹介
第20回目 基本的なタグを使って自己紹介ページの作成2 項目8:自己紹介
第21回目 静止画(自分の顔)・動画(1人=15秒)を撮る 項目10:写真
第22回目 Careerに関する活動のWebページを作成 項目11:Career
第23回目 Careerに関する活動のWebページを作成2 項目11:Career
第24回目 冬休みの宿題(BOOK REVIEW)のWebページの作成 項目11:Career
第25回目 Careerに関する活動(1人=1分)を発表 項目11:Career
第26回目 Careerに関する活動(1人=1分)を発表2 項目11:Career
第27回目 Careerに関する活動(1人=1分)を発表3 項目11:Career
第28回目 米国等の自己紹介Webを見る 項目12:海外交流
第29回目 Web投票を行う 項目12:海外交流
第30回目 MLで、職業別に意見交換を行う 項目12:海外交流

3.5.項目ごとのカリキュラムの説明
項目1:E-Leaning
 本校では、生徒約2000人の電子メールの管理を、「学籍番号@taki.jp 」という電子メールアドレスで行っている。そのメールを読むWebメール機能と教材データベース機能を合体したE-Leaningシステムを運用している。以下はその入り口画面と中身のTOP画面である。

項目2:パスワードの変更
 本校には、いろいろなサーバが設置してある。電子メールサーバ、Webサーバ(授業用サポートページ(http://kita.taki.jp/)にパスワードをかけて公開されている。Windows共有用sambaサーバ、E-Leaningサーバなどがあり、生徒は4種類のパスワード管理が必要である。生徒には、以下のようなプレゼンテーションで、パスワードの付け方の注意とパスワード設定・変更方法などを説明した。

項目3:メールの送信
 生徒は、課題の提出は、電子メールで行う。その送信方法は、E-Leaningシステム内のWebメール機能を使って行う。その設定と操作方法を解説して、実際にレポート提出をさせる。最初の課題は、以下のとおり、フリードマン博士(MIT、1990年ノーベル物理学賞受賞)の講演を聞いて、「自分の将来の進路を考える」という小論文であった。これは、CareerPreparation に関する最初の課題でもあった。
 

項目4:小論文
 生徒全員が提出した小論文は、班・クラス・学年の順に以下のような評価基準で評価がされた。この際には、クラス・学年のメーリングリストが活用された。最終的に、クラス代表論文、最優秀論文が選ばれた。この中で、生徒は良い論文を読む機会を得た。
 

項目5:メーリングリスト
 電子メールは宿題提出用に活用された。メーリングリストに関しては、まず、概念を説明してから、実際に評価の集計の際に活用された。

項目6:LEGO
 MITで開発されたLEGO社製のマインドストームというロボット制御の授業を行った。以下のような課題1〜5までを与えた。
 1時間目の授業では、ロボット制御に関するプログラムの説明から始まり、以下のようなカリキュラムの説明を行った。班分け、Effective Communication能力の説明、部品の確認、課題1〜5の説明、最終は、班対抗戦のロボットコンテストを開催する。
 2時間目 プログラミングの仕方・そのロボットへの転送方法の説明後、課題1のクリアを開始する。
 3時間目〜5時間目にかけて、課題2から課題4をクリアする。
 6時間目にロボットコンテストを開催する。
 

項目7:Web
 本年度は、Web作成に関して、HTMLのタグ打ちによる作成を行った。簡単なWebページ作成をタグ打ちをした意図は、1)Webページの構造を理解すること。2)Webページ作成ソフトをあとで使うとしても、操作方法が理解しやすい。3)Webページソフトが出す余分なタグの把握ができる。などの利点があるためである。
 

項目8、9、10:自己紹介、リンク、写真
 海外の高校生との「将来の自分のCareer」に関しての意見交換のために以下のような項目で、自己紹介ページを作成した。リンク張り、静止画の加工、動画の加工などまで行った。動画は海外との交流では、相当軽いファイルに編集しないと米国の高校生からは見えなかったようである。
 

項目11:Career
 夏休みに、自分の将来のCareerに関する宿題を下記のように課した。生徒は、職場体験、大学オープンキャンパス、ボランティア活動などをこなした。しかしながら、そのイメージあるいは意図が伝わらない生徒もおり、消化不良の生徒もいた。そして、その宿題を利用しながら、自己紹介Webの作成をおこなった。冬休み前後には、講演会の感想あるいは自分の将来のCareerに関する書評(Book Preview)のWeb化も行った。また、最後に以下のような手順で、自分の将来のCareerに関する発表を全員行った。
 

項目12:海外交流
 海外交流のプランの詳しいものは、自律プロジェクト2003として、その交渉過程のたいへんさも含め、3.3.2で説明する。最終的には、いろいろな要因によって、スケジュールが遅れがちとなり、2004年2月にやっと間に合ったという感が否めない。行ったことは、1)自己紹介Webページの公開・投票(優秀な作品)、職業ごとのメーリングリストを使った意見交換である。
 

3.6.自律プロジェクト2003とは
 自律プロジェクト2003の計画書は以下のとおりで、http://www.nextage.ne.jpに公開してある。2002年度まで行われたものを一新して、作成して、海外参加高校も新規に募集した。日本語版の計画書を資料2として添付する。

資料2 自律プロジェクト2003 計画書(8月,2003 - 7月, 2004)
1. 最終的な目標
 16歳から17歳までの高校生に自律性をつけさせたい。自律スキルとは、自律的な動きを意味します。授業あるいはカリキュラムの中で、アメリカ、日本、台湾、ネパールという4ヶ国の間で、ICTやインターネットを利用した広域な学習環境を作りたい。

2. 自律スキルとは?
 論理的な思考、効果的なコミュニケーション能力、効果的なプレゼンテーション能力、職業について考える(進路学習)、英語あるいは他の言語の習得、ICTスキルの習得、*特に、職業について考える(進路学習)に焦点を当てたい。

3.試みと予定
準備期間 2003年8月から9月
最初の試み 2003年10月から2004年2月
プロジェクトのおさらい 2004年3月から7月

4.参加高校リスト
アカデミー高校(米国、テキサス州、ダラス市)、http://www.irvingisd.net/academy、参加生徒数は、約400名
バラード高校(米国、ワシントン州、シアトル市)、参加生徒数は、約20名
沖縄尚学高校(日本、沖縄県)、http://www.okisho.ed.jp/、参加生徒は、180名
滝高校(日本、愛知県)、http://www.taki-hj.ac.jp/、参加生徒数は、約380名

5.最初の試み
1)最初の試み 2003年10月までに
2003年10月までに、この自律プロジェクトに参加するすべての生徒は将来の職業に関するホームページを作成する。たとえば、名前、電子メールアドレス、国、男女、クラブ、趣味、2つか3つの将来の職業、それらを選んだ理由など。教師は、すべてのホームページを1箇所に集める。教師は、すべての生徒のためのメーリングリストを作成する。教師は、職業ごとの生徒用のメーリングリストを自動登録で作成する。
2)最初の試み 2003年12月まで
2003年12月までに、この自律プロジェクトに参加するすべての生徒は、職業の違いに関する質問用紙をつくるか、メーリングリストに職業体験に関する報告を作る。生徒はメーリングリストですべての生徒に職業に関して質問を行う。そして、すべての生徒は質問に答える。
3)最初の試み 2004年3月まで
2004年3月末までに、この自律プロジェクトに参加する、おのおの学校のすべての生徒は、職業に関する論文を作成する。すべての生徒は、ホームページにそれを掲載する。

6.授業とインターネットでの例
1)1時間目(授業で)生徒は、自己紹介と職業に関するホームページを作成する。
2)2時間目(インターネットで)生徒は自分のコンピュータからホームページサイトへファイルを転送する。(たとえば、http://www.nextage.ne.jp/)
3)3時間目(授業で)生徒は他の生徒のホームページをよく見る。
4)4時間目(インターネットで)生徒は、電子メールかメーリングリストで「こんにちは」を言う。
5)5時間目(授業で)(In the class)生徒は、授業の中で、英語のプレゼンテーション(発表)を行う。先生は、ビデオにとり、MPEGデータにそれを変換する。先生と生徒は、その評価を評価基準に従い行う。
6)6時間目(授業とインターネットで、 プロジェクトに基いた学習)生徒は授業か他の学校の生徒とグループを作る。生徒は職業に関するアンケート票を作成する。生徒はアンケートを行う。
7)7時間目(授業で)生徒は英語で職業に関する論文を書く。生徒はホームページの中身を作成する。
8)8時間目(インターネットで)生徒はホームページにデータを転送する。
9)9時間目(インターネットで)生徒は電子メールや掲示板で職業に関して話し合う。

3.7.自律プロジェクト2003の結果・問題点
 自律プロジェクトの結果と問題点については、2004年3月末に参加高校間で意見集約を行った。以下がその英文である。やはり、今回は、初年度ということで、時間的な制約、各高校間のスケジュール調整不足などのために、メール・メーリングリスト上での流量は期待したいほどのものにはならなかった。この部分は、今後の課題となった。
JIRITSU teachers' Meeting 2004/03/24-27
USA member
1)Irving Academy High School(3/24),John Brown, Gary Schepf
2)Ballard High School(3/25),Alexander LeeAnn, Ken Tong
3)Cablillo High School(3/27),Daglus Trelfa
Japanese member
4)Okumura Minoru(Sapporokita High School)
5)Ueno Horoshi(Okinawa Shougaku High School)
6)Kurimoto Naoto(Taki High School)
1) Feed JIRITSU project 2003 back and Result JIRITSU project 2003 started in Jan.2004 with Academy,Ballard, Okinawa Shogaku and Taki Senior high School. In Feb.2004, students made web pages of self-introductions. From 15th Feb. 2004, students voted on web pages. From 20th Feb. 2004, students said "hello!" and wrote the opinions to ML as following;
Jiritsu-all:11 mails, Jiritsu-bio:9 mails, Jiritsu-edu:9 mails, Jiritsu-legal:14 mails, Jiritsu-medical: 24 mails, Jiritsu-tech: 18 mails
2) Web Vote and Problem How should we make another activity about ML for students? We have to check the school schedules of each other to do better activity. Ex) JIRITSU project schedule From Oct. through Feb the students do activity. From Mar. through Sep, teachers feed back this project. We wonder if we could know details of school schedules of each other. If we don’t know it precisely, we need to make an appropriate plan. We have to understand to each other about the situation of career preparation to do more activity for students.
 
自律プロジェクト2003のTOPページ       バラード高校の生徒のCareerに関する意見


3.8.年間カリキュラムのアンケートからわかる点
1年間の授業終了後、以下のようなアンケートを行った。

 結果は、以下のとおりで、LEGOとWebの取り組みに対して、難しいにも関わらず、興味・積極性が見られた。自律プロジェクトに対する姿勢は、スケジュールの関係もあり、理解が進んでいない。今後の課題となった。それぞれの項目に目的であるコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力、論理的思考能力、Careerに対する意識向上などがある。その分析も必要となる。
<1> 1年間で楽しかった授業は?
 123456789101112
内進 19 14 32 13 10 143 88 82 38 49 21 22
外進 11 3 5 7 5 71 49 32 12 16 11 20


<2> つまらなかった授業は?
 123456789101112
内進 48 61 37 106 32 19 15 25 28 32 58 28
外進 19 22 18 61 15 21 10 12 13 14 24 12


<3> 難しかった授業は?
 123456789101112
内進 11 23 16 33 14 64 43 52 49 38 74 52
外進 4 6 6 21 7 29 18 29 24 18 40 30


4.研究の問題点と課題
 これまでの自律プロジェクトと2003年度以降の自律プロジェクトを比較して、その特徴をまとめる。1)基本的には、学校の教育活動の枠組み(授業)の中で行われる。2)参加メンバーは、旧プロジェクトとは比較にならないほど多い。3)生徒のオフライン・ミーティングの企画は現実的ではない。4)コミュニケーションには、日本語と英語を対等に必要とする。5)互いの異文化を認めたうえでの交流が必要である。
 以上の特徴を考慮し、新プロジェクトに向けての方向性、要求項目、解決すべき問題点などを列挙する。1)テーマを一つに絞りやすい。2)グループ化して、なるべく小さなコミュニティを形成し活性化することが必要である。可能であれば、動画交換やビデオ会議(時差の問題あり)の実施などを通して、身近なコミュニケーションが欲しい。3)日本語と英語とのトランスレートの克服(英語の勉強、翻訳機能)が必要である。4)各地域間のスケジュール調整のためのシステムの設置が必要である。5)異文化を理解した上で交流するのか、異文化が問題にならないような方法や内容で交流するのかを検討するべきである。

5.これからの課題
 これまで整理した内容を受けて、新自律プロジェクトについての構想をまとめる。まず、構想をまとめるにあたっての原則を述べる。
 以下の文章にある「活動」とは、メーリングリストや掲示板などでの書き込みや、ビデオクリップへの出演、ビデオ会議でのプレゼンス、各地域での様々な活動などを指す。
原則1 全面性の原則
 グループ化、小さなコミュニティ化を図ることで、目先の活動だけに意識が向くのではなく、全体の動きや流れを視野に入れて活動できる。
原則2 意識性の原則
 自分の活動にあたって、単なる興味関心から気分的な行動をするのではなく、なぜなのか、何のためなのか、目的はなんだったかなどと、自覚的に振舞うことができる。
原則3 漸新性の原則
 コミュニティの活性化がすぐなされるなどとは期待せず、活動の段階を踏むことで、少しずつコミュニケーションが深まり活動に進展が見られることが必要である。
原則4 反復性(日常性)の原則
 気が向いたときだけではなく、日常的に活動できる。コミュニティの中のそれぞれのメンバーの活動が噛み合うためには、時間的なずれや、考えの深まりに大きな差異があってはならない。互いの立場を理解することが必要とする。
原則5 個別性の原則
 活動としては周囲と協調的であっても、考えや発想においては個性的であること。多くの斬新なアイディアや知識が組み合わさって、新しい知見が生まれ出てくる。

6.自律プロジェクト2004の概要
 以下に自律プロジェクトの概要を述べるが、この提案の特徴は、コミュニティの活動を活性化させるために、コラボレーション環境であるWikiを導入する点にある。
<1>テーマ
 授業の一環として、統一テーマで取り組む。テーマに関してはかねてからCareer Preparationが挙げられていたが、個人的な価値観と地域の異文化性が現れやすく、興味深いものであると思われる。ただし、単に自分がなりたい職業について調べたり、その職業について発言をしたりするだけでは、単純な進路学習に終始してしまう危惧がある。
<2>内容
 事前に適当な方法を用いて、各地域でのキャリアに対する考え方について調査を行う。後で行うディベートでのテーマの設定や、プロジェクト運営の参考とする。たとえば、アンケート調査用紙作成に企業の支援が必要となる。
 Wikiの使い方を学ぶ。Wikiを各地域(学校)で使ってみる。可能であれば、自律プロジェクト以前の学習で使うことができればよい。その場合、次項のテーマと重ならないように事前に留意する。全体コミュニティで、Wikiを活用したディベートを行う。テーマ例/政治家(医者、弁護士など)は割に合う職業か。期間/2週間程度。書き込みの頻度を調査して、学校ごとの統計値を公表する。各地域の有識経験者の「ネット講演会」を開催する。各地域から数通限定の、質疑応答を行う。テーマ例/各国の大学教授の現実、これからのキャリアの考え方、転職によるキャリアアップ。
<3>スケジュール
10月以前 キャリアに対する考え方調査、Wikiを利用するための教材資料の作成、ディベート・テーマの準備。
10月上旬〜10中旬 Wikiの使い方の学習(各学校での利用)。
10月下旬〜11月上旬 全体ディベート(テーマ1)。
11月中旬〜11月下旬 全体ディベート(テーマ2)。
12月上旬〜1月上旬 (休暇による中断)
1月中旬〜1月下旬 ネット講演会(複数同時開催)および質疑応答。
2月上旬〜2月下旬 各地域(学校)でのまとめ、レポート作成、ネット講演会のレポート作成、自律プロジェクトの活動を振り返ったレポートの作成、Career Preparationについての考察のまとめ、Webページとして公開。

7.評価方法に関する一考察
 評価方法に関しては、生徒が活動する課題に対する評価方法と授業の出来具合に対する評価方法がある。前者に関しては、先生も生徒も普通にルーブリック(評価基準表)を利用しながら行って一定の効果をあげている。たとえば、2002年度の自律プロジェクト高校生の集い旭川での発表時とか2003年度の小論文あるいはCareerに関する発表などである。
 問題は、やはり、授業の出来具合に対する評価方法ではないだろうか。今回は、生徒自由作文アンケートによるテキストマイニング手法を採用した。以下がその実践例である。これを利用すれば、授業の改善点などが容易に知ることができる。
テーマ:HTMLタグ打ちによるWEBページ作成授業で「今回の授業を受けた感想を自由に書きなさい。」(自由記述)
<アンケート記述内容の好評・不評の図>
 
 左の図では横軸が頻度、縦軸が好評・不評となっている。右下側が頻度の高い不評項目、右上が好評項目となる。右の図では「好評」「不評」「その他」の項目に関して、その分散度合いを表している。上にあるものは均一的な評価であり、下にあるものは評価が分散しているものとなる。あるテーマについて具体的に不評表現をしているものの頻度は少ない。右図で、好評項目については均一性が高いが、不評項目やその他項目のものは均一性が低い。生徒と教師の関係では、「自由に記述しなさい」という設問では、どうしても否定表現を記述しにくかったり、隠喩的に否定したりすることが想定される。状況によっては、設問時に「困ったこと」「改善して欲しいこと」を記述しなさいというような具体的投げかけをすることが有効かと考えられる。全体の頻度を除いて、いくつか出されている改善ポイントについて次に記述する。
 <好評とされている項目>「経験」「授業」「ホームページ」に関する表現が、頻度も突出していて、かつほとんど好評表現が中心となっている。今回の授業では好評ポイントとして「経験」として良かったと表現されている。
 <不評とされている項目>頻度は低いが不評項目としてあげられている特徴的なものは「時間」「提出期限」「英語」である。授業の実施にあたり、このような不評項目とあげられるものについては、補足的説明や追加改善策の検討項目として取り上げることが有効である。

8.参考文献
[1] 栗本直人,奥村稔,古井雅子:北海道、愛知、沖縄の高校生による自律性を育む総合学習の実践研究,松下視聴覚教育研究賞理事長賞,2000.5
[2] 奥村稔:地域分散広域統合型自律的学習環境の構築プロジェクト、マイクロソフト未来基金2000報告集
[3] 奥村稔:地域分散広域統合型自律的学習環境の構築プロジェクト、東海スクールネット研究会報告集Vol.5,2001.5
[4] Kurimoto, Akimaru and Okuyama: Fitness of the Internet phone supporting the e-learning environment between 4 countries' school cooperation, 2001 Asia-Pacific Symposium on Information and Telecommunication Technologies, p.298-301
[5] Kurimoto,Okumura and Ken Tong : Autonomous students of Japan, Nepal, Taiwan and U.S.A. Creating new learning Environment on the Internet, NCCE (The Northwest Council for Computer Education), 2002.3.13-15
[6] 奥村稔:地域分散広域統合型自律的学習環境の構築プロジェクト、東海スクールネット研究会報告集Vol.5,2003.5
[7] 栗本直人:テキストマインニング手法による授業評価方法の確立、コンピュータ教育開発センター学校企画最終報告書、2004.3.31

9.謝辞
 本研究は、上月情報教育財団と東海スクールネット研究会の援助のもとに行った研究の成果である。研究を進めるにあたって御指導・援助いただいた坂元先生、研究会の代表の後藤邦夫先生、はじめ、財団と研究会のみなさん、そして、自律プロジェクトを同時に進めている諸先生方及び生徒諸君に心から感謝の意を表します。特に、自律プロジェクト誕生時より、いろいろなご提言・ご助言・ご示唆をいただきました宮澤先生には、心から感謝の意を表します。

[1]東海スクールネット研究会:http://www.schoolnet.or.jp/

[2]勤務先 栗本直人 滝高等学校・中学校

[3]勤務先 奥村 稔 北海道札幌北高等学校