3.新教科「ドラマ科」の構想 |
(1)設定の経緯と理由 |
本校は現在、「国際学級設置構想」の下、帰国生徒、一般生徒が「生活体験に基づく文化の違い」を互いに感じ合い、ぶつかり合う中から互いに「違い」を認め合うことにより、自己を確立していける生徒の育成を図っている。その中で「共に生きる力」を基盤とした「グローバルマインドの育成」をめざした国際交流学習を実施してきた。そして、他者理解の視点を養い、他者理解に伴う自己を認識の体験をさせることが新たな課題となった。 平成9年度〜平成10年に行ったホーリークロス校とのテレビ会議を中心とするマルチメディア通信を活用した「ドラマコラボレーション『カブキプロジェクト』」[表1]でも新たな課題が見つかった。この「ドラマコラボレーション」はゴールがテレビ会議を使ったドラマの共同上演であったため、共同上演に向けて、生徒は自分の能力が十分発揮できるように得意な役割を選び、それぞれのプロジェクトチームでコラボレーションに必要な作品や情報を作成した。それらの作品や情報はマルチメディア通信を活用して交換し合い、共同上演に向けて成果を上げることができた。しかし、ノンバーバルな部分の表情表現力、必然性に基づいた演技力の育成が課題として浮かび上がった。 |
[表1]8回にわたって行われた「カブキプロジェクト」のテレビ会議の様子
第1回TV会議
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自己紹介、学校の様子の紹介、ホーリークロス校がヴァイオリン演奏の披露、 |
第2回TV会議
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本校がコンピュータで作曲した日本風音楽、尺八の音色の披露、ホーリークロス校がドラマコラボレーションを提案、チェアパーソンの決定 |
第3回TV会議 |
本校が「KABUKI GIFT」をイメージした日本風衣装デザインを紹介 |
第4回TV会議 |
本校がシーン1を日本仕立てのサンプルとして披露、ホーリークロス校がドラマの授業で練習したシーン10を披露、ディスカッション |
第5回TV会議 1998年5月14日 |
[BBC「Blue
Peter」の番組取材のため再度茶道、書道、折り紙を行う] |
第6回TV会議 1998年6月26日 |
ホーリークロス校から来校したSedwick、Mellor両先生も参加してのリハーサル 〈音楽制作チームの音楽作りが遅れていたため、ある生徒の作品が間際の仕上がりとなった。そのため十分な話し合いの時間がないまま、Sedwick先生が、その生徒の思いと異なる場面で音楽を使用した。そのことについて生徒はSedwick先生に抗議した。しかし、Sedwick先生の説明に納得したが修正する時間がなく諦めざるを得なかった。〉 |
第7回TV会議 1998年6月29日 |
全11シーンを通して共同上演 |
第8回テレビ会議 1998年11月6日 |
今までの交流で生じた生徒どうしの疑問についての質疑応答(日本と中国の文化・イギリスとフランスの文化の捉え方など)、フリートーキング |
以上のような経緯により、本校は新教科の一つとして「ドラマ科」を行うことになった。
(2)本校「ドラマ科」の特色 |
前述した「ドラマ科」の設定に至る研究実践を通して、他者との関わりの中でドラマを作り、演じることが、場面や人物、またそれらを取り巻く人や自然、歴史や文化なども意識し理解することになり、他者を理解し自分を知るためのコミュニケーション力の育成に結びつくと考えた。なぜなら、自分以外の人物を表現するために行われた分析は、他者理解のための数多くの視点をもたらし、その人物の内面を理解してもらうためのさまざまな演技表現は自分を理解してもらうための表現力に結びつくからである。つまり、他者の人格を演じることや他者との共同作業を通して「他者への思いやりをもった理解」を深めさせ、表面だけでなく他者の心の中にある思いも汲み取ろうとする気持ちを育てると共に自己を再認識させ、自分に対する自信を深めさせることを目的としているのである。 |
(3)めざす学力と評価方法 |
本校のドラマ科では、以下の3つの項目を柱として、めざす学力を設定した。そして、その学力の習熟度を評価する評価基準表[表2の1,2の2]を、ホーリークロス校から提供を受けたクライテリアを参考に作成した。評価の方法はこの評価基準表を基にした、生徒の自己評価を取り入れた観点別絶対評価で、評点は各観点5段階のグレードで示す。 |
@ドラマに関する学力氈`、 |
A英語によるコミュニケーション力・ヲ |
Bメディアミックスの活用力ァィ |
[表2の1]ホーリークロス校クロス校の資料を基にして作成した評価の基準1
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項 目 |
自分の描いたイメージを、表情を伴った音声表現で伝える力 |
自分の描いたイメージを身体表現で伝える力 |
柄の人物設定を通して他者の人格を演じる力 (なりきり力) |
先入観にとらわれずに事象の本質を見る力 |
相手のセリフや演技に対応する力 (即興的対応) |
1 級 |
他者との関係を理解した上で、表現しようとする内容に応じた声の表情、顔の表情および状況に応じた間合いを関連させて作り、セリフが言える。 |
他者との関係を理解した上で状況を把握し、表現しようとする内容を伝えるのに適した身振り手ぶりストップモーション組み合わせて動ける。 |
自分の役柄について、その人物のプロフィールを、他者や周りの環境との関わりも含めて考え、自分に戻ることなく演じることができる。 |
ドラマのテーマおよび舞台全体のバランスと、場面が伝えようとしている内容を考えて、自分の動きが作れる。 |
ドラマのテーマおよび舞台全体のバランスと、場面が伝えようとしている内容を考えて、自分の表現が作れる。 |
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表現しようとする内容に応じた声の表情、顔の表情および状況に応じた間合いを関連させて作り、セリフが言える。 |
表現しようとする内容を伝えるのに適した身振り手ぶり、ストップモーションを組み合わせて動ける。 |
自分の役柄について、その人物のプロフィールを、他者や周りの環境との関わりも含めて考え、心の内面を演じることができる。 |
それぞれの場面の必然的な関連および登場人物の心理を理解して自分の動きが作れる。 |
実生活のさまざまな場面に置き換えて考え、相手の表現に合わせて自分の表現が作れる。 |
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表現しようとする内容に応じた声の表情および状況に応じた間合いを作り、セリフが言える。 |
表現しようとする内容を伝えるのに適した身振り手ぶりをつけて動ける。 |
自分の役柄について、その人物のプロフィールを、他者や周りの環境との関わりも含めて考え、観客に分かるように演じることができる。 |
物事の仕組みを理解し、リアルな動きが作れる。 |
相手の動きや言葉から相手の思いを理解し、自分の表現がつくれる。 |
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適切なイントネーションと声量を用い、状況に応じた間合いを作りながら自分のセリフが言える。 |
舞台上の、自分および他者の「立ち位置」を考えて動ける。 |
自分の役柄について、その人物のプロフィールを考え、恥ずかしがらずに演じることができる。 |
日常生活のさまざまな場面と結びつけて考える中で、物事の仕組みに気づくことができる。 |
相手のプロフィールも考えて、ダイアローグの部分を演じることができる。 |
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適切なイントネーションを用いて、プレーンな状態(クセのない状態)で自分のセリフが言える。 |
舞台上の「立ち位置」を考えて動ける。 |
自分の役柄について、その人物のプロフィールを考えることができる。 |
シナリオから、場面や登場人物の関係が理解できる。 |
シナリオ通りにモノローグの部分を演じることができる。 |
[表2の2]ホーリークロス校クロス校の資料を基にして作成した評価の基準2
項 目
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他者の表現から自分を見つめ直す力 |
英語によるドラマ表現力 |
英語による、コラボレーションのためのコミュニケーション力(英語の授業+αの部分) |
メディアミックスによる情報作成力 |
メディアを活用した、コラボレーションのためのコミュニケーション力 |
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自分や他者の成長を認識できる。 |
Communication 対話の流れの中で、アイコンタクトや間合いの取り方に注意して、相手とのコミュニケーションがうまくとれる。 |
テレビ会議で伝えられた、相手の発表、意見を理解し、即座に自分の意見を伝えたり、質問したりすることができる。 |
情報の受け手側の状況や思いを理解し、目的に応じたメディアを組み合わせて選び、自分のメッセージを伝えることのできる情報を作成、加工することができる。 |
コラボレーションの目的および相手の思いを理解し、自分の発信する情報の意味を理解してコミュニケーションがとれる。 |
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自分に無かった視点を発見することにより、他者の表現を評価できる。 |
Creativity 日本語と英語の細かいニュアンスの違いを理解したうえで、自分の表現が作れる。 |
テレビ会議で伝えられた、相手の発表、意見を理解し、時間をかけてでも自分の意見を伝えたり、質問したりすることができる。 |
情報の受け手側の状況や思いを理解し、目的に応じたメディアを組み合わせて選び、情報を作成、加工することができる。 |
コラボレーションの目的および相手の思いを理解し、自分の発信する情報に責任をもってコミュニケーションがとれる。 |
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自分に有って、他者に無かったと思われる視点を見つけることができる。 |
Expression 強調すべき部分などを理解し、ジェスチャーを交えて表情豊かに表現できる。 |
テレビ会議で伝えられた、相手の発表、意見を大まかに理解し、簡単な言語表現でリアクションを返すことができる。 |
情報発信の目的に応じたメディアを組み合わせて選び、情報を作成、加工することができる。 |
コラボレーションの目的を理解し、コミュニケーションに有効な電子メールを、ファイル添付機能を効果的に用いて送れる。 |
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自分の課題を日常生活の課題との関連で認識できる。 |
Articulation 英語らしい発音、リズム、イントネーションで表現できる。(子音など) |
電子メール上で受け取ったメールの内容を理解して、疑問点の解決や、自分の考えを伝えるための返事を書ける。 |
情報発信の目的に応じたメディアを選び、情報を作成することができる。 |
インターネットの仕組みやマナーの大切さを理解し、電子メールを、ファイル添付機能を効果的に用いて送れる。 |
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他者の表現と自分の表現とを比較し、自分の課題を発見することができる。 |
Projection 英語のセリフを暗唱して、後の方まで届く声で言える。 |
電子メールを使って、自分の意見を表明したり、質問したりすることができる。 |
基本的なメディアの機能を知っていて、とりあえず操作ができる。 |
電子メールを、ファイル添付機能を効果的に用いて送れる。 |
3年生 ドラマ科 新教科 単元名「声の表情・顔の表情・身体の表情による表現」「他者理解・自己認識」
学習 時期 |
学習 時間 |
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5月 |
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イメージを言葉に置き換えることができる。(日本語・英語) 声で表現できる。 自分の「ドラマ」に対するメッセージを伝える自己紹介メール、自己紹介カードを英語で作ることができる。 |
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グループの生徒
姉妹校の生徒 |
一斉での説明 個人での考察 グループでの 試演 全体での試演
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練習時のにおける行動の観察 発表会における表現の観察 自己紹介メール、自己紹介カードの点検 |
イメージと表現を感覚的に結びつけようとしているか。 恥ずかしがらずに表現しているか。 自分が残っていないか。 イメージと表現が感覚的に結びつけられているか。 自分のプロフィールだけでなく、抱負が伝わるように書かれているか。 |
7月 9月 |
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背景や状況の設定を考える視点をもつことができる。 設定した時代や場所に関連する社会的事象について調べ、それに応じた表現を考えることができる。 観察することにより物事の仕組みを分析的に理解することができる。 演じる役柄のプロフィールを考え、その者の性格や行動を表現できる。 他者(役柄)の表情や行動から、その他者の「思い」を理解できる。 他者(役柄)の表情や行動から、その他者の「思い」を理解し、必然的な表情動作を伴うダイアローグが行える。 |
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グループの生徒 クラスの生徒 ドラマ担当の先生 姉妹校の生徒 |
一斉での説明 個人での考察 グループでの 試演 全体での試演 全体での発表 |
練習時のにおける行動の 観察および問いかけ ホットシーティングの観察 発表会における表現の観察 ビデオ作品の鑑賞、点検 |
背景や状況が設定されていて、それを基に表現が作られているか。 演じる役柄のプロフィールや性格が設定されていて、それを基に表現が作られているか。 他者(役柄)の表情や行動を読みとり、分析したことを基にダイアローグの表現が作られているか。 必然性のある動きになっているか。 |
3年生 ドラマ科 新教科 単元名「テレビ会議による姉妹校との共同学習」「情報機器を活用したコミュニケーション」
学習 |
学習 |
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6月 7月 9月 |
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姉妹校との共同学習の意味を理解して共同学習を企画することができる。 共同学習を進めることができる。 インターネットの仕組みを理解し、メール等を活用した打ち合わせができる。 姉妹校とのコミュニケーションで発生したトラブルの原因を分析し、解決方法を考えることができる。 コンピュータや周辺機器を活用して、自分の責任が持てる情報を作成し、効果的なコミュニケーションができる。 本校と姉妹校の表現で、違う点と同じ点を具体的に気づくことができる。 また、その理由をイギリスと日本の文化の比較から考えることができる。 |
教室 PEC |
グループの生徒 クラスの生徒 ドラマ担当の先生 グループの生徒 姉妹校の生徒 姉妹校の先生 |
一斉での説明 個人での考察 全体でのディスカッション 個人での考察 全体でのディスカッション 個人での作業 テレビ会議におけるグループでのドラマ表現 テレビ会議における全体でのディスカッション |
ディスカッションの観察 ワークシートの点検 メールの点検 メールの点検
観察 |
姉妹校との交流でしか学べないことが何かを理解しているか。 相手のことを思いやって企画しているか。 企画が目的に添っているか。 こちらの意図が正確に伝わる表現になっているか。 インターネットに関するマナーに注意しているか 相手の文化や生活習慣を理解した上で、目的に添った自分の考えを発信しているか。 目的を見失っていないか。 メディアの特性を理解して効果的に使えているか。 プレゼンテーションの内容が整理させているか。 柔軟な視点を持っているか。 理由を的確に分析し、相手を理解することができるか。また、自己をふり返ることができるか。 |
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授業は、年間を通して毎週2時間を設定し、運用は教科間選択授業の時間の中で行った。対象は前期(5月〜9月)が3年生のみの選択者、後期(10月〜3月)が2,3年生の選択者で、生徒数は各学年15名程度であった。また、ホーリークロス校との交流の部分で英語科の教師とのTTとなった。ドラマの授業が試行段階のため、途中で提供される新しい授業の手法や基礎となる技能に関する情報にフレキシブルに対応するべく、指導計画は前期後期に分けて、ドラマに関するもの[表3の1]とメディアミックスの活用力および英語によるコミュニケーション力に関するもの[3の2]とを作成したが、実際は必ずしもこの通りには行えなかった。また、ホーリークロス校とのテレビ会議を用いた共同授業も、両校の行事日程の都合で年度当初に予定が立てられない状況にあり、一ヶ月前あたりに教師同士が確認を取り合って日時を決定し、生徒に内容を打ち合わせさせるようにした。 |