研究主題  
情報化社会における自己評価・相互評価能力の育成
−総合的な学習の時間におけるデジタルポートフォリオによる学習と評価を通して−
研究者  牛久市立向台小学校 向原正博 塚本桂子 武藤義教
つくば市立東小学校 坂本康子       
要約
 平成14年2月の国立教育政策研究所教育課程研究センターによる「評価基準の作成,評価方法の工夫改善のための参考資料」の中の「これからの評価の基本的な考え方に,自ら学び自ら考える力等の生きる力を育むことを目指し,児童生徒の学習の到達度を適切に評価していくことが重要である。」「自ら学ぶ意欲や問題解決の能力,個性の伸長などに資するよう個人内評価」とある。
これを受けて,[1]ルーブリックを作成し,評価の視点を児童と共有し,児童が学習をするとき,身に付けなければいけない能力を児童自身が認識して,学習に取り組むことで,目標をより効果的に達成することができるのではないかと考えた。[2]ルーブリックを児童自身と共に作成することで,学習課題をより自分自身の問題として考えることができる。そうすることで,今まで以上に学習に意欲的に取り組むことができるようになるのではないかと考えた。
そこで,茨城県で推進している「みんなにすすめたい一冊の本」という事業を基に,本校が中心に行っている「一冊の本」というインターネット掲示板を活用して意見交換を行わせる中で,児童が獲得するべき能力を児童と共に考えていった。 
 また,修学旅行では,学習を設計していく中で,児童が自分自身でコースを設定するなど自分たちが自己選択して,自己決定して
いく活動を多く取り入れた。この力を育んでいくためには,どの様な力が必要であるか,児童と共にルーブリックを考えて作成して,
学習活動の度に自己評価や相互評価を行っていった。この活動を通して,学習目標がより効果的に達成されるようになった。


1 研究主題設定の理由  
(1) 新学習指導要領等から情報教育に求められているもの
 文部科学省は,『新学習指導要領』及び『初等中等教育におけるITの活用に関する検討会議』の報告書の中で,「これからの時代にあっては,必要な知識や情報を常に更新し柔軟に対応していくことが求められる。」としている。更に,「主体的に情報 を収集・分析し,入手した知識・情報に基づき更に価値ある新しいものを生み出す創造性が,これからの時代を生きぬく子供たちに求められている。」としている。
 つまり,情報機器を,学習活動の興味・関心を高めるための道具として使えばいいという時代は終わり,明確な目的を持ち,児童にこれからを生き抜く力を確実に身につけさせることが望まれているということであると考える。
 そして,文部科学省の『情報教育の実践と学校の情報化』によると,情報教育の目的は,情報活用能力の育成を通じて,子どもたちが生涯を通して,社会の様々な変化に主体的に対応できるための基礎・基本の習得を目指しているのであり,このことは「生きる力」の重要な要素であるとしている。」と述べている。
(2) 児童の実態から
 今年度4月に実施したアンケートから,児童は発表するときにはコンピュータを活用することが多い。しかし,目新しさや興味・関心が先に立って,自分がどのような力を付けなければならないのかということを分からないで,ただ単に情報機器を活用していることがほとんどである。
その原因の1つは,その時間の目標や目指す目的を児童自身が理解していないからである。
 そこで,児童がその時間の目標や目的をしっかりと理解していれば,その目標に向かって努力することができ,自己評価や相互評価をしながら,自分が足りない部分を補っていくことができ,同時に,教師は,日常的な児童の学習の評価を正しく行うことができるのではないかと考え本主題を設定した。

(3) これまでの実践研究から
 昨年までの実践研究では,「情報機器を活用して興味・関心を高めるための実践」など興味・関心を高める指導の研究をしてきた。しかし,情報活用能力の伸張を図るには,興味・関心だけを向上させればいいというものではない。情報活用能力を分析し,その構成要素をそれぞれ伸張させていくことが,情報活用能力を伸ばすことになるのではないかと考えた。

2 研究のねらい
 総合的な学習の時間において,教師と児童がルーブリックを共有し,デジタルポートフォリオによる活動の記録や成果物を元に自己評価や相互評価を行うことを,繰り返すことにより,自己評価能力や相互評価能力を育み,ひいては「生きる力」を育てていきたいと考える。

3 研究の仮説
 教師と児童がルーブリックを共有し,児童が身につけなければいけない力を児童自身が認識して学習に取り組めば,より効果的に自己評価能力や相互評価能力を育成することができるであろう。


4研究の内容
(1) 基本的な考え方
<1> 情報活用能力とは
 情報活用能力とは,○ア情報活用の実践力,○イ情報の科学的理解,○ウ情報社会に参画する態度の3つがあげられている。『新情報教育に関する手引き』によると,この中でも,特に情報活用の実践力の育成を小学校段階ではやらなければならないとされている。
<2> ルーブリックとは
同志社女子大学の余田義彦氏によると「子どもの能力がその能力イメージにどの程度近づいているか判定するために用意された何段階かで表された基準」と定義している。つまり,児童の到達目標を評価指標として表しているものがルーブリックなのである。
 今まで,教師は様々な授業後に,児童に自己評価をさせてきた。しかし,この自己評価は,児童に対して基準が明確にされていないことが多かったので,自分に厳しい児童では悪くなったり,自分に甘い児童は非常によい結果が出たりして,評価の資料としては客観性が乏しく,評価本来のねらいを実現させる上で取り入れることは,難しかった。
 そこで,評価基準を分析し,児童が獲得しなければならない能力を行動目標として,児童に予め明示しておく。例えば,発表会のルーブリックは,中心的な出来事の書き方,細部及び背景情報,質問,色合い,写真や動画の使い方等を4つの段階に分けた。そうすることで,自己評価の精度が格段に上がってくると考えた。この評価指標をルーブリックという。このルーブリックを児童と教師が共有することで,望ましい「自己評価能力・相互評価能力の育成」を図っていきたいと考えた。
<3> デジタルポートフォリオの活用
 総合的な学習の時間の評価は,今年度の課題の一つである。学習があるところには,必ず評価が存在しなければ,児童の学習が深まっていかない。そこで,評価について,同志社女子大学の余田義彦氏は「総合的な学習の評価においては,試験の成績によって数値的に評価することはせず,活動や学習の過程,報告書や作品,発表や討論などに見られる学習の状況や成果などについて,児童生徒のよい点,学習に対する意欲や態度,進歩の状況などをふまえて適切に評価することが求められ,このような要求に応えることができるのが,デジタルポートフォリオ評価である。」としている。
 そして,この様なデジタルポートフォリオ評価を可能にしているのは,本校を初めとして牛久市全体で導入しているスタディノートである。
 また,余田氏は,スタディノートを活用したデジタルポートフォリオの利点として次のような点を上げている。

・活動表現を映像や音声で記録できる。
・いつまでも色あせない。
・再編集ができる。
・保管に場所をとらない。
・持ち運びが容易になる。
・成果物を検索できる。
・複製が簡単にできる。
・ 評価と成果物を関連づけることができる。

 この様な利点を生かして,自己評価能力・相互評価能力の育成を図っていきたいと考える。

(2) 主題に迫るために
<1> 研究の方針                   
 本研究では,知識を社会的構成主義的な考え方を取り入れ,右図の様にとらえた。
また,研究の構造を次ページの様にとらえ実践し,主題に迫ることにした。
<2> 情報活用能力の実践力に関するルーブリック
 文部科学省が「新情報教育に関する手引き」の中で,小学校に求めている情報活用の実践力とは,氷上情報教育研究会の堀博文氏の考えを参考にして,本校においても同じように6つの要素で構成されていると考えることとした。
<3> 教師と児童のルーブリックの共有       
 今までに行われてきた自己評価は,児童が各自の価値判断によって行っていたので,評価本来のねらいを達成させるには無理があった。しかし,教師と児童がルーブリックを共有して学習を進めていけば,児童は到達するべき目標に向かって努力をすることができる。そして,教師は,共有したルーブリックを活用して,妥当な評価をすることができる。
 また,児童も到達すべき目標がはっきりしているので,目的意識を持って学習活動を展開し,ルーブリックを活用し自己評価や相互評価することで,達成の度合いや技術の習得の状況を確認をしながら学習を進めることができるので,より正確な自己評価能力を育成することに繋がるのではないかと考えた。
<4> ルーブリックを用いたデジタルポートフォリオの活用      
 児童が教科の学習をする場合,例えば「わり算」の単元では,ルーブリックを用いたデジタルポートフォリオを用いなくても,どの様な技能を習得すればよいのか児童も理解しやすい。正しい答えが,正しい手順でできているかを確認すればよいからである。
 しかし,総合的な学習の時間において,「情報活用能力の育成」を図るといってもどの様な能力や態度が高まることで情報活用能力が育成されたことになるのか分かりにくいのが実際である。
 このようなケースでは,ルーブリックを共有しデジタルポートフォリオを活用し,児童の作品や成果物を振り返りながら,自己評価や相互評価をすることが有効となるのである。
<5> デジタルポートフォリオを取る時期
 デジタルポートフォリオといっても,いつでも何でも収集すればいいということではない。完成品と比較するために,初期のものを一つ選んで入れるようにしなければならない。学習目標を把握して,初期のものと完成品を比較することで,児童がこの学習目標のどこまで身につけた力をより正確に見とることができる。

(3) 実践研究
<1> 修学旅行の調べ学習の実践
  総合的な学習の時間「鎌倉について調べよう」 
ア ねらい
 修学旅行の行き先である鎌倉について,図書室の本やインターネット等を活用して,自分が選択した場所について調べ学習を行い,その情報を元に必要な情報のみを選び・まとめ・伝え・振り返る活動を通して,児童が情報活用の実践力を高めることをねらいとしている。
イ 授業の視点
 教師と児童がルーブリックを共有することにより,目的意識を明確にした学習活動が 行えるようにしたい。また,振り返りを大切にすることで,正しい自己評価や相互評価の能力を育成することができるように支援していきたい。
ウ 単元の考察


この単元では,次のような流れで学習を進めた。
(a)ガイダンスの実際
 ガイダンスを行う目的は,児童に目標を十分に把握させることである。この学習は,どの様な目的で行われているかを,児童にはっきりと認識してもらうためである。そのことと共に,児童が見通しをもって,活動ができるようにするためである。
 特に,この場面の支援で強調したことは,「がんばって学習するだけでなく,記録や成果物を残して自己評価をしっかりやろう。」ということである。
 先ず,この単元で,児童に獲得してほしい能力を提示した。また,今後の学習活動の流れについても詳しく説明した。
 児童も,目標を理解して今まで以上に意欲的に取り組もうとする高まりを見せた。
(b) 調べ学習の実際
 鎌倉の名所・旧跡を児童が分担して調べ,スタディノートの掲示板に掲示することにした。このとき,必ず,氏名を書くようにし,自分が作った情報に対して責任を持つことの大切さを意識させた。また,デジタルポートフォリオを誰に見せるのかを考えて作成するようにアドバイスした。児童は,教師や友だちに見せることを意識して活動することで,意欲が持続した。まず,簡単な作品を見本として児童に提示することを導入で行った。
 そして,オリエンテーション後の最初の1時間の活動の成果として,児童の作品を初期のものとして児童のデジタルポートフォリオに入れた。
 この段階では,多くの児童は,インターネットの内容をただ写しただけで,自分たちが読んで分かる表現になっていなかった。
 そこで,児童には学習活動の途中途中で,自分は今何を目指してやらなければならないかを学習ファイルにとじてあるルーブリックを確認しながら学習を進めるように指導した。
 ここでは,自己評価カードの「情報を集める・選ぶ」の部分をチェックするようにした。また,教師は机間指導により,手助けが必要な児童を捜してバックアップしていった。その後,友だちに成果物を評価してもらうようにした。この様な指導により,自分の言葉に直した小学生でも読んで分かる作品ができてきた。



(c) 伝える(質問のやりとり)
 児童は,他の児童が調べた情報を見て,分からないことがあれば質問をすることにしてある。この時に方法として,二つの方法をとった。一つは,スタディノートで質問を作者に送る方法である。これは,その画面に書いてあるどこがよく分からないか画面を引用しながら質問をすることができたので,非常に便利であった。
 しかし,各クラスのコンピュータの利用できる時間は,原則として週1時間しかないので,用紙を準備して,廊下に貼ってある封筒の中に入れるようにした。質問がきた児童は,自分がまとめたものがまだ不十分なところがあったと考え,その質問に答えを書いて返事を返すように約束させた。
 また,ここでのルーブリックは,児童も参加して相手に情報をうまく伝えるためにはどの様な力が必要かを話し合った。ルーブリックを児童と共に作ることで,児童はより明確にルーブリックを認識することができた。
(d) 生かす
 児童は,修学旅行では自分たちが調べて作成したコースに従って行動していった。児童は自分たちで選択して,作成した情報に従って行動するという貴重な体験をすることができた。ところが実際は,道を間違ったり,思ったより時間がかかったりして予定通りに行動することができなかったグループもいくつかあった。
 しかし,この体験は児童にとってはとても貴重なものとなった。ここで,自分たちの計画に何が足りなかったのかという新しい学びの問題が発見されたのである。ここが総合的な学習の時間の一番求めていることではないだろうか。
(e) 学習のまとめ
 児童は,修学旅行から帰ってきてから,自分たちの今までの学習を振り返り,学習のまとめを行った。自分たちが一番伝えたいことや感動したこと等を,スタディノートを使ってまとめた。動画や写真を効果的に使っている児童もいた。まとめたものを牛久市の修学旅行の掲示板に掲示した。
(f) 振り返り
 自己評価というと,これまではがんばったことだけの確認で終わることが多い。しかし,それでは評価としては不十分なので,ルーブリックを活用して目標の到達レベルを自分自身で見極められるようにした。その後,掲示板を活用して友だち同士でも相互評価をさせると,おおよそ自分のものはこの位のできなのかなという判断が児童自身でもできるようになってきた。この支援の時に,留意したことは,相互評価をする時に,安易なほめ合いに終始しないようにしたことである。ルーブリックを見ながら,どのレベルに合致しているかを判断させた。


<2>  「みんなにすすめたい一冊の本」での学習の実践
ア ねらい
 県教育委員会の推進事業の中の一つである「みんなにすすめたい一冊の本」の事業に基づき,児童が読んだ本の感想を,スタディノートの掲示板を活用して,意見交換をし合い,児童の考えを深めていくことを目的としている。
イ 授業の視点
 教師と児童がルーブリックを共有することにより,目的意識をしっかりもった学習活動が行えるようにしたい。
 また,意見交換を大切にすることで,正しい自己評価や相互評価の力を育成することができるように支援していきたいと考えた。  
ウ 単元の考察
 本校は「いばらきコンピュータ活用ネットワーク」の「一冊の本」の掲示板の幹事校をしている。「いばらきコンピュータ活用ネットワーク」というのは,「教育用ソフトウェアの利用を通じ,会員間の親睦並びに連帯感を高め,情報を共有し,指導技術の向上を図ると共に,21世紀に生きる子どもたちの育成において社会に貢献することを目的とする。」ということを趣旨に設立された教師の自主的団体である。
(a) ガイダンス
 一番最初に,この学習で,児童が獲得してほしい能力やこの掲示板の使い方や書き方についても,スタディノートを利用して説明した。また,今後の活動の見通しについても説明した。児童は「今まで,読んだ本について話をすることは,すごく仲が良い友だちとしかやったことなかったのに,大丈夫かな」と心配する児童もいた。
 児童は,自分が人にすすめたい本の紹介文を一生懸命書き,掲示板に載せていった。児童の多くは,今までは読書しても,そのことについて友だちと話し合いをすることは,ほとんどなかった。しかし,自分の好きな本を紹介しているだけでは,児童の考えが深まることは難しいと考え,掲示板への書き方をアドバイスした。
 そして,いきなり他校の児童と意見交換をやるのではなく,同じクラスの児童や同じ学年の児童と意見交換を行わせた。初めは,どの場面について書くか考えていなかった児童,書く材料の見あたらない児童,下書きを書いてなかった児童も,ルーブリックを見ながら,この単元では何が必要なのかを考えながら活動することにより,まとめ方に変化が見られるようになってきた。また,「感情の表現」という項目では,ひたすら自分の気持ちだけ書いていた児童もルーブリックを何度も見ながら書いてみるようにアドバイスすると,最初と違い相手に対する問いかけなども入れることができるようになった。しかし,ルーブリックを見ながら自己評価しても,まだ,自分に厳し過ぎる児童や甘いままの児童が数名目についた。 そこで,次の2つのことを行った。1つは,同じ評価画面を利用し,友だちに評価してもらう活動を取り入れたことである。多くの児童に自分の作品を評価してもらった。この時も,「修学旅行の実践」でも行ったように,ルーブリックを見ながら,その成果物がどのレベルに到達しているのかを冷静になって判断することができるようにした。
 次に,自己評価において,初めは「主人公のどの部分が印象に残ったかが書けているか。」等,具体的に自己評価のやり方を説明していった。
 児童の中には,非常に客観的に自分の成果物を自己評価することができている児童がいる。この児童の自己評価をみんなに紹介した。そうしたところ,この評価を模範として,自分の成果物を客観的にとらえようとする児童が少しずつ増えてきた。
 この様な指導により,少しずつではあるが,自分に厳し過ぎる児童や甘いままの児童が見られなくなってきた。
(c) 発表会のルーブリックを活用して
 児童がまとめた成果物を,児童と教師で検証していった。この時,児童は教師にポートフォリオの成果物を見せながら,学習したことを説明し自己評価や課題について報告した。この時に,よくできたところをほめ,まだ,調べの不十分なところをもう少し調べ進めるようにアドバイスした。
 そして,これからどの様なことをしていかなければならないかを確認した。
 次に,グループでミニ発表会を行った。これは,学級全員の前で発表会を行うと,それに時間がかかってしまう。そこで,4〜5人程度のグループで発表会を行うと,児童はリラックスして発表を行うことができた。この時に工夫したことは,仲良しグループにならないようにしたことである。前述のように,児童に自己評価させると,がんばったことをお互いにほめ合うだけで終わってしまうことが多かったので,出席番号でグループを作った。
 この様にすることで,発表会を短時間で多くの児童が発表することができるようにした。児童は,友だちの発表を聞きながら,ルーブリックを確認し,友だちの発表を評価した。

(5) 授業後の変容
 今回の研究の前と後では,児童が学習の目標や目的を理解しているという項目が非常に伸びた。つまり,ルーブリックを活用したことで,授業の目的をきちんと理解することができるようになったということである。
 デジタルポートフォリオを活用することで,児童は自分の成果物を後で他の人に見せるのだということを意識して,学習活動を行うようになった。また,児童は,今回の研究を通して,何となくできた・よくできた・できなかった等の非常に抽象的であった自己評価を,様々な項目で具体的にルーブリックを見ながら,数値的に把握することができるようになった。
 つまり,デジタルポートフォリオを活用することは,児童の自己評価能力を育むよい手段であると考えられる。

5 研究のまとめ
 この授業実践を通して,自己評価能力を育てるために相互評価を行うことが重要であり,自己評価→相互評価→自己評価→というサイクルで評価活動を行っていくことにより,児童自身が自分の自己評価能力を評価することができた。そして,自己評価が以前と比べて基準に基づいた妥当性の高いものになっていった。
 また,児童とルーブリックを共有したり,一緒に作成することで,児童は目指す目標が明確になり,学習意欲が持続するようになった。そして,デジタルポートフォリオを作成することで,学習の振り返りを行うことが容易になった。 学習後のアンケートを見てみると,児童は,以前はコンピュータを使うことは使っても無目的で無目標であったが,以前より 目的意識を持って活用することがが多くな  ったことが分かる。そして,デジタルポートフォリオを作成することで,学習を振り返るということができるようになった。この学習の振り返りが,児童の学習意欲を高め,学習を持続させるものになっていると考察できる。
 児童は,学習を振り返ることで,今まで より自分の学習の成果物に対してこだわりを持って作成するようになってきた。こだわるということは,目的や学習に対する見通しが児童なりに持てているということであると考える。   
 振り返りにくかったと答えた児童は合計で7名しかいなかった。これらの児童の理由は,コンピュータでまとめる時間がなかなかとれなくて大変だったとか,コンピュータの使い方がよく分からなかった等の理由であった。

6 研究の課題
 この研究を通して,児童の自己評価能力の育成についての手立てはいくつか検証することができた。
 しかし,デジタルポートフォリオを作成するに当たり,作成する時間の確保がなかなか難しい。学級のコンピュータの時間には,コンピュータによるドリル教材での基礎・基本の定着や社会科や理科の調べ学習にも活用しなければいけない。週1回のコンピュータの時間をすべてデジタルポートフォリオの作成に当てることもできない。
 そこで,今後,いかにその時間を確保していくかが今後の課題である。

協力者 塚本桂子 武藤義教 坂本康子
実施場所 牛久市立向台小学校
<主な参考文献>
「生きる力を育てるデジタルポートフォリオ学習と評価」  著者 余田義彦
「総合的な学習 5月号」 黎明書房
「NEW教育とコンピュータ」 学研
「情報教育の実践と学校の情報化〜新情報教育に関する手引き〜」文部科学省
「情報教育におけるルーブリック(評価指標)の開発とその授業利用研究」 著者 堀 博文
「評価への羅針盤」 編著 黒上晴夫