知的障害養護学校高等部における情報教育の実践

〜コンピュータ利用による豊かな生活の享受〜

 

 

石川県立七尾養護学校

代表    神佐 博

   

 

 

要約

 

 これからの情報技術社会を、知的に障害のある子どもたちが生きていくには、個に応じた情報の活用と、そのための適切な支援のあり方が求められている。

特別支援教育におけるコンピュータの利用には、障害を補うための利用、効果的な教材・教具としての利用、社会生活を豊かにするための利用が考えられる。中でも「社会生活を豊かにするための利用」を重点的に研究し、授業実践を通して知的障害教育における情報活用の可能性を探りたい。

 「自己紹介をしよう」「修学旅行のホームページを作ろう」「卒業アルバムを作ろう」を単元とした具体的な授業実践を行い、生徒たちに情報活用の実践力を育んできた。また、総合的な学習の時間においても「コンビニ探検」や「絵本づくり」の実践を通して、コンピュータ利用による豊かな生活づくりを目指した。

 コンピュータ等の基本操作は、ワープロテキストの練習によりほとんどの生徒はマスターした。

 生徒自身による自発的なデジタルカメラによる取材活動は活発になり、プレゼンテーション作成ソフトでコンピュータに取り込む技能も定着してきた。

卒業アルバムにのせる画像データをデジタルカメラで生徒自らに取材させた。その経験を生かし、授業以外の場面で意欲的に取材し、自分のフォルダに写真を入れる生徒も出てきた。

コンピュータの活用によって、生徒の学校生活に広がりと深まりが出てきた。

また、「情報活用」という教科の設定によって、教師間でのコンピュータ活用の情報交換が多くなり、 プレゼンテーション技術の向上など、コンピュータに習熟する教師が増えた。また、他の授業でもコンピュータを道具として利用する実践が増えてきた。 

 卒業生の中には、自宅のコンピュータを活用し、インターネットを利用して興味ある情報を収集しているとの報告もある。

 本研究を実践してみて、知的に障害があっても、コンピュータの利用が、その人のコミュニケーション手段のひろがりを支援し、新たな人との出会いやかかわりが作られることを確認した。また、コンピュータは、知的に障害のある人にとって豊かな生活を享受するための大きな手段であると結論できるし、そのための学習の機会が学校教育に必要であることも確認した。

 情報教育には、「情報の科学的な理解」や「情報社会に参画していく態度」の教育も重要である。今後の展望として、校内のみで使える擬似的インターネット体験ができる校内ネットワークシステムを構築しようと考えている。この校内専用ホームページを生徒たちが運営することで、上記の教育分野を克服していきたいと考えている。

 

Copyright (C) 2003 NanaoYougoGakkou.(Nanao Schools For the Handicapped). All Rights Reserved.

このホームページ全ての文章・画像の著作権は石川県立七尾養護学校に帰属します。


勤務先   石川県立七尾養護学校

 

I.            はじめに

高等部ではこれまで「自己選択」「自己決定」をキーワードとして、生徒の興味・関心から出発した教育を実践してきた。

高等部の研究内容

l      平成9〜10年度 作業学習での作業班や作業内容の自己選択の試み

l      平 成 11 年 度 高等部教育全体の見直し

l      平 成 12 年 度 総合的な学習の時間のねらいを取り入れた生活単元学習の改善

l      平 成 13 年 度 総合的な学習の時間の実践と学校設定教科

さらに高等部教育の特色を出すため、「豊かな生活を享受するための教育内容を整備する」ことに視点を置き、平成13年度から学校設定教科として「情報活用」を設定した。

それは、ITが障害者の生活を豊かにする大きな可能性があり、インターネットの活用により障害者の世界が広がり、新たな人との関係がつくられる社会になってきているからである。

そして、これからのIT社会を知的に障害のある子どもたちが生きていくには、個に応じた情報の活用と、そのための適切な支援のあり方が求められている。単にコンピュータ等の操作法を学ぶだけでなく、それが生活の中でどのように生かされ、豊かな生活に結びつくのかを学ぶことが大切であると考えた。

 

II.          研究の目的

特別支援教育におけるコンピュータの利用には、障害を補うための利用、効果的な教材・教具としての利用、社会生活を豊かにするための利用が考えられる。中でも「社会生活を豊かにするための利用」を重点的に研究し、授業実践を通して知的障害教育における情報活用の実践力を育んでいきたい。

 特に知的障害の内容や程度に応じて、情報活用技術を身につけさせるためのテキストの工夫や指導計画の工夫、授業方法なども明らかにしていきたい。

 

III.         研究計画

1.    豊かな生活を享受する「情報活用」の概念図の作成

  知的に障害があっても、情報活用の実践力を身につけることによって豊かな生活が享受できるようになると考え、研究を進めていく上での「情報活用」の概念図を図1のように作成してみた。

 

図1

2.    学校設定教科「情報活用」の指導計画作成

(1)     情報活用の目標

 「豊かな生活を営む上で必要な情報を各種メディアから適切に選択し、活用する基礎的な能力や態度を育てる」

(2)     情報を活用する基礎的な能力

 学校教育で指導可能な「情報を活用する基礎的な能力」を以下の3点とした。

(ア)   コンピュータ等の基本操作

(イ)   情報の収集・加工

(ウ)   情報の発信

コンピュータ等の基本操作

情報の収集・加工

情報の発信

コンピュータの機器・装置の名称

電源の入れ方、切り方

日本語入力の基本操作

データの保存、読み出し

 

 

ワープロの習熟

インターネットの基本操作

デジタルカメラの基本操作

インターネットからのデータ収集

データベースへの入力

プリンターの基本操作

レイアウト技法の習得

プレゼンテーションの基本

Eメールの利用

 

(3)     高等部各学年での授業実践計画

 情報を活用する基礎的な能力を身につけさせるため、学年別に以下のような指導計画を立てた。

 

実習項目

課題

第1学年

(半期)

・基本的なコンピュータ操作

・日本語入力(かな・ローマ字)

・デジタルカメラの操作

・画像処理(コンピュータへ取り込み)

・インターネットの利用

ワープロ入力(テキスト1〜40段階)

自己紹介ページ及び壁新聞の作成

 

第2学年

 

・修学旅行情報をインターネットで収集

・デジタルカメラの操作

Eメールの利用

ワープロの習熟

デジタルカメラで校外学習や修学旅行を記録・保存

修学旅行ホームページ作成

第3学年

・画像処理(画像の選択・加工)

・プレゼンテーションの基本

 

卒業アルバム印刷・作成

卒業アルバムCDの作成

卒業制作(在校生へのプレゼント作成)

 

3.    その他の授業の指導計画

(1)     生活単元学習

校外学習のインターネット利用による事前調査、実施記録、事後のまとめでコンピュータを利用する。

(2)     総合的な学習の時間

   前・後期の各12講座より4講座を選択する「選択講座」でのインターネット・電子メール、プレゼンテーションなどでコンピュータの利用を図る。

 

IV.         研究実践

1.          「情報活用」の実践

学校設定教科には情報活用と生活文化があり、選択制をとっている。

l      1年次…情報活用と生活文化の両方を、前・後期に分けて共通履修

l      2年次…情報活用と生活文化のいずれかを選択履修

l      3年次…2年次の選択を継続

1年次で選択を固定するより、すべての生徒が両方の教科を経験し、自分の興味のもてる教科を選択できるようにした。1年生の前・後期のグループ構成は、単一障害学級と重複障害学級を混合した。

(1) 実践事例1<自己紹介をしよう>

(ア)   対象生徒  6名

(イ)   授業実施期間  9月5日から26日  8時間

(ウ)   単元・題材名  自己紹介をしよう

(エ)   単元の目標

l      自己紹介する内容の項目を考える。

l      ワードアートの活用、画像挿入などして全体の編集を分かりやすく工夫する。

(オ)   授業展開の基本的な考え

l      個別の生徒の進度に応じたパソコンの基礎操作の習得をねらう。

l      デジタルカメラを使った画像の挿入やワードアートの活用などを通して楽しんだり工夫したりできる。

l      自己表現していくことを積極的に望む姿勢を養う。

(カ)   メディア利用環境

l      利用機種  デスクトップ型コンピュータ6台、 ノート型コンピュータ1台

l      周辺機器  デジタルカメラ3台、 液晶プロジェクター1台

l      利用ソフト  Microsoft社「Word2000」

(キ)   学習展開

 

時間

学習段階

学 習 活 動

留 意 点

2

自己紹介って何?

・模範例を参考に自分について考える。

・デジタルカメラの使用方法を学ぶ

自分の関心のある事柄を引き出す。操作、取材を一人でする。

2

自己紹介の内容を考える。

・項目を考える。

これまで保存してある行事の画像を閲覧し選択するなど大まかに編集する。

取材した画像、これまでの画像より取捨選択し自分の一番表現したい物を選び挿入する。

2

自己紹介の仕上げ

・項目毎に記入する。

・編集の仕上げをする。

・発表する。掲示する。

仕上げに細心の注意を払う。

2

自己紹介の応用編

取材、文書作成、画像入力に挑戦する。

できるだけ1人で作成することを見守る。

(ク)   学習活動の実際、及び学習者の反応

l      それまでコンピュータのゲームや遊びとしてしか利用していなかった生徒が授業でじっくり取り組めるので興味関心を継続することができた。

l      休憩時間も惜しむ姿が見られた。

(ケ)   学習評価の方法とその結果

l      1学期から毎週2時限続きの授業についての内容をあらかじめ進め、それについての生徒の様子、学習変容の記録を積み重ね、その兆しが見られる時期に学習内容を変えてきた。

l      それぞれ個別での学習変容を記録してきた。その記録を振り返ってみることでその生徒の学習変容を評価することができた。

(コ)   授業の成果

l      情報活用の授業以外において、学習したことをいろいろ工夫して試す姿が見られた。

l      学校行事で蓄積してきた画像を閲覧、選択、取り込みなど行い、学年通信、廊下掲示物(壁新聞など)を作ることができた。

(サ)   今後の課題

l      校内LANを利用して、教職員の作成したデータ(画像)を取り込んだり、他の生徒のデータに書き込みをしたりなどする生徒が出てきた。コンピュータを使用する上において良いこと悪いことのルールについての認識を深めさせる必要がある。

(シ)   まとめ

l      人前での自己表現がなかなか難しい生徒にとって、自分自身を表現する機会と自分自身とは何かを考えさせる契機となるのではないかと考え、「自己紹介をしよう」という単元を設定した。自分自身の紹介として、自分の名前、住所、好きなこと、食べ物、遊び、家族構成、友達、今楽しんでいること、将来の夢を項目ごとに入力し、個人のデータファイルを作り上げることに目標を置いた。特にワードアートを利用して、文字の形態、大きさ、色合い、デザインなどの工夫をして楽しく表現したり、デジタルカメラで取材してきた画像の挿入の仕方などを授業に取り入れた。

l      自分自身のことを表現するという題材なので、積極的な参加の態度が見られ、他の人に自分自身をより知ってもらおうという意欲が感じられた。

                              

(2)     実践事例2<修学旅行のホームページを作ろう> 

(ア)   対象生徒  高等部2年生 男子5名、女子2名

(イ)   授業実施期間  平成13年9月14日から11月2日、10時間

(ウ)   単元・題材名  修学旅行のホームページを作ろう

(エ)   単元の目標  自分たちが行った修学旅行についてみんなに知らせる。

(オ)   授業展開の基本的な考え方

中学部から来た生徒はコンピュータを使用した経験がある。また、外部の学校から来た生徒もコンピュータにかなり興味を持っている。総じて、どの生徒もかなり基本的な操作(コンピュータの起動、終了、日本語入力)は理解している。

1学期は、情報を文書で発信することを目的に、授業に取り組んできた。まず、例文どおりの文書を作成させた。その後、自己紹介の文書を作成させた。まず、レイアウトを考えさせ、「名前」「住所」「好きなもの」などを打ちこませた。また、デジタルカメラを利用し、自分の顔を取りこんだり、カットの絵を描かせる練習も行った。

2学期は、「修学旅行」という大きな行事があるので、それを題材に「情報の収集と発信」に取り組んでいる。「情報の収集」として、インターネットを利用して修学旅行の行先について調べたり、新聞で天気を調べたりした。次に「情報の発信」に取り組むことになる。自分たちの学校の「高等部」のページに「修学旅行」のページを作るのが目標である。

(カ)   メディア活用の意義

インターネットを利用して修学旅行の行き先を調べて、情報を得た。今度はその逆にインターネットを通じて、自分たちが実際に行った修学旅行の様子を様々な人に知らせることができることを学ぶ。

(キ)   メディア利用環境

l       利用機種  デスクトップ型パソコン7台CD-RW搭載

l       周辺機器  プリンター2台 スキャナー1台 デジタルカメラ3台  液晶プロジェクター1台 

l       利用ソフト  Microsoft社「Word2000」、「PowerPoint2002」  Adobe社「Photo Deluxe for ファミリー4.0」 Sony社「Pictur Gear5.0」

l       教室環境  校内LAN 専用メールアドレス(2)

(ク)   学習展開

時間

学習段階

学習活動

指導上の留意点

 

4

インターネットとは

・インターネットでいろいろなWebページを見る

興味をもつようなWebページを紹介する(動物占い、天気予報)

 

2

修学旅行の行き先について調べよう

・上野動物園、東京タワー、東京ドーム、東京ディズニーランドのWebページを見て、それぞれ調べる

調べたことは、生活単元学習の時間にまとめ、発表する

 

 

4

修学旅行のホームページを作ろう

・自分の学校のWebページを見る。

・作成する

(1)自分の担当する場所を選ぶ

(2)写真を選ぶ

(3)コメントを考える

(4)文字を入力する

他の学校のページも参考にし、作りたいという意欲をもつ

実際の操作は、文字を入力するだけにする

 

(ケ)   学習活動の実際とまとめ

2学期は、「修学旅行」という大きな行事があるので、それを題材に「情報の収集と発信」に取り組むことにした。「情報の収集」として、インターネットを利用して修学旅行の行先について調べたり、新聞で天気を調べたりした。次に「情報の発信」に取り組むことになる。自分たちの学校の「高等部」のページに「修学旅行」のページを作ることにした。

修学旅行の行き先について、上野動物園、東京タワー、東京ドーム、東京ディズニーランドのWebページを見て、それぞれ調べた。調べたことは、生活単元学習の時間にまとめ、発表した。Webページで修学旅行の行き先の上野動物園を調べた時には、何やら不思議そうな顔をしている生徒もいた。しかし、自分の学校のWebページを見た際には食い入るように見ていた。友だちの写真や学校の建物の写真があったことで「○○くんだー」などと喜び、インターネットに自分の学校が紹介されていることを理解したようだ。スクールネットを利用して石川県の他の学校を見ても、自分の出身校が出ていたので興味を持って見ていた。

Webページ作りについては、細かい作業は難しいので、ここでは、「自分が紹介する行き先を選ぶ」「その行き先の写真を選ぶ」「コメントを考える」「文字を入力する」の4点について行った。

インターネットを利用して修学旅行の行き先を調べて、いろいろな情報を得た。今度はその逆にインターネットを通じて、自分たちが実際に行った修学旅行の様子を様々な人に知らせることができることを学んだ。

生徒は、「楽しかった。また作りたい」「東京タワーのホームページがすごかった(実際に現在そこから見える景色を見ることができたから)」「(修学旅行の写真で)スチュワーデスさんがかわいかった」との感想を話していた。

(3) 実践事例3<卒業アルバム作り>(平成14年度)

(ア)   単元  卒業アルバムを作ろう

(イ)   目標 

l      これまでの学校行事や学年の取り組みのデータを見ながら学校生活を振り返り自分でまとめることができる。

l      コンピュータ活用の技術を高め、卒業後の生活の幅を広げられるようになる。

(ウ)   指導にあたって

この学年は、2年次から「情報活用」の授業の中で、ワープロソフト(ワード)を利用し、文章入力や画像の取り込み方などを学習してきた。自己紹介文や学年便り、行事のしおり作りなども経験してきた。さらには、体験した修学旅行をホームページにまとめたりすることも行ってきた。卒業学年となった今年度は、これまで学習してきたことや、写真・作文などの素材をもとに「卒業アルバムCD」を作成していくことにした。

(エ)   卒業アルバムCD作りの学習展開

時間

学習展開

学習活動

留意点

 2

・単元について

・行事を振り返る

・写真アルバムを参考にする

 4

・ワードで作ろう

 

 

 

・アルバムに入れる行事の選択

・タイトルの入力

・画像の選択

・コメントの入力

・楽しいアルバムになるよう、画像の選択やコメントに工夫できるようアドバイスする

 2

・HTML形式で保存しよう

・ホームページの形式

・壁紙の選択

・ワードから

(オ)   授業実践を通して

  今まで撮ってきた行事の写真を素材として、卒業アルバムCDを作ることにした。校外学習のときは、いくつかのグループに分かれて行動するが、各グループに1つのデジタルカメラを持たせ、自由に撮影させてきた。そのような画像が行事ごとにたくさんある。

  アルバムを作成するにあたって、一人一人担当する行事を選ばせた。O.E(女子)は、合宿を選び、多くの画像を選んで、ワードに貼り付けていった。コメント文は自ら考えることは少なく、教師や他生徒の写真について話したことをそのまま入力することが多かった。K.M(男子)は、「すみれの集い」を担当した。タイトルを入力した後、フォントを変えてみたり、字の大きさや色を変えてみたりいろいろと試していた。画像の選択、挿入も上手に行っていた。ただ、コメント入力に関してはかなり時間を要した。単文が多く、わからないことがあった場合、誰かが気づいてくれるのを待っていることが多かった。

(カ)   I.M(男子)の学習活動の実際

 中学部のときからコンピュータには興味を持っていた。コンピュータに興味があるといっても、マウスで手当たり次第クリックするだけで、指示通りの操作には無関心であった。ワープロテキストの入力練習の場合、興味のある言葉の場合は、入力することができたが、集中することは困難であった。市販のゲームで、ゲームを進めるためのアイコンを教えると、集中して取り組み始めた。家でゲームをしているためか、試行錯誤でゲームの仕方を自分で探し出し、マスターすることができた。3年生になってから本人は「情報活用」=「ゲームの時間」と勘違いしたようで、コンピュータ室に入るなり、ゲームを起動してしまうことが多かった。ゲームで十分満足させてからワープロ練習を促すと、ひらがなで自分の名前や、教師の名前を入力し、満足げであった。

 6月に入り、学習してからゲームをするという約束に同意した。

 卒業アルバム作りでは、校外学習−いしかわ動物園を自ら選び、担当することになった。写真のサムネイルからゾウを選び、「ぞうさんどこいくの?」「さんぽだよ」とコメントを入力した。このコメントは、本人が大好きな絵本から選び出したものである。

(キ)   Y.K(女子)の学習活動の実際

中学校の通常学級から高等部に入学してきた生徒である。中学校のときローマ字を学習しており、入学時より  「この学校でパソコンしたい」と希望していた。1年次より、メールの送受信を行っていた。2年次に「情報活用」が始まり、ワードを利用して、自己紹介文や夏休みレポート、冬休みレポートを積極的に作成した。文字フォントの種類や大きさ、色を変え、楽しく仕上げていた。カットを挿入するにはどうすればいいかなど積極的に質問したりして、新たな手法を習得していった。また、デジタルカメラで撮影した写真を取り込み、プレゼンテーションソフトで「○○の休日」や「楽しかったそばうち」など、自分に関係するプレゼンテーションを作り上げるなどした。デジタルカメラで撮った自宅の様子や、母親の趣味、自分の大事にしているMDラジカセ、親戚の人たちなどを撮影して、教職員たちにうれしそうに見せていた。「お母さんやおばあちゃんに見せたいので印刷してください」と、プリンターでの印刷も行っていた。

3年生になり、ビジネス文書の入力に挑戦した。普段あまり接していない漢字はほとんど読むことができず、入力に時間がかかった。なじみのない熟語などは、書いてみたり、知っている読み方で入力してみたりといろいろ工夫していた。

卒業アルバム作りでは、「流しそうめん&バーベキュー」を選び担当することになった。タイトル入力からフォントの工夫、画像の挿入、レイアウトの工夫、コメントの挿入などすべて一人でできることなので、楽しみながら作り上げていった。吹き出しのコメントを入れる際には、周囲に「ねえねえ、こんなのどう」と話しかけたりしていた。

(4) 実践事例4<ワープロをマスターしよう>(平成13年度)

(ア)   対象生徒の実態とねらい

 高等部3年、6名。家庭にコンピュータがある生徒は4名である。生徒の実態は下記の表のとおりである。生徒の能力差が大きい授業で、生徒個々の課題の達成と集団としての学習形態を作ることを授業の基本とした。

生徒

指示の理解

意思の伝達

文字の読み

文を書

学習の

意欲

      文字入力のねらい

M

書き言葉が未発達。ひらかなの区別と正確な入力

テキストどおりに入力する

G

全商4級検定レベルをめざす

継続して取り組む

T

小学校3年程度の漢字を獲得する

Y

創作が得意、興味の幅を広げて文書を作る。もくもくと文章入力を続ける

◎…できる、よくある ○…できる(不明確ながら)、ある △…かなり援助を要する

(イ)   指導にあたって

コンピュータをより身近なものとして家庭生活の中でも気軽に利用できるように、コンピュータの操作に習熟させたいと考えた。

子どもたちにとって、文字の理解と文字入力がコンピュータ操作の一つの障害になっている。そこで、「情報活用」のすべての授業を通じて、授業の始めに20〜30分ワープロソフトを使い、文字入力の練習をした。

(ウ)   ねらい

 自分の課題に応じて、日本語文字入力の練習を自主的にする

(エ)   1学期「情報活用」 授業実践  計13時間

l      電源のON、Windowsの終了

l      マウス操作

l      インターネット体験(検索入力)

l      Word〜日本語入力(毎時間30分程度) ひらがな、数字、英字、記号の入力、印刷・ファイルの保存

l      デジタルカメラの基本操作

l      Word〜画像の取り込み(校外学習)

l      課題「画像のある文書作成」で 学年だよりの作成

※1学期終っての課題

l      ワープロテキストはA4版で3つ(ひらがな、カタカナ、数字・記号)作ったが、1枚の文字量が多かった。A4版で1つの文章(100字程度)がよい。

l      「あ」〜「わ」行については、生徒の知っている言葉が載っているテキスト作りが必要。

  また、1シート=1ステップで自学自習がしやすいようにテキストを揃える。

l      メールアドレスを取得したので、活用を図る。

(オ)   テキスト作り

1学期の反省より、個別のテキストを作成した。基本的なテキストは、全国商業高校協会(全商)主催検定4級の市販テキストを利用した。この問題集はJISキーボードの文字配列に考慮して、段階的に配列場所を学習できるようにしてある。

l      基本練習のひらかな・カタカナ・数字・アルファベット・記号編とした

l      1〜40段階の40枚のテキストにした。教室の棚に透明ケース40個を保管している。

l      1枚のテキストは3〜4行で、文字数は少なくしてある。

 1枚終るたびに、次のテキストを取りに行く。次々と段階が進むので、意欲的に取り組むことができることをねらって作成した。

(カ)   個々の課題と個別の支援               

(1)      Sの「あいうえお」テキスト

 手に軽い機能障害がありキー入力が難しく、JISキー配列の文字位置の判別に戸惑っている。「わ」と「れ」の区別ができない。

ワープロの画面上に五十音配列のキーボードを大きく表示(ATOKのクリックパレット)して、マウスで入力しやすくする。

文字位置を習得するため「あ」〜「わ」行まで10枚のテキストを用意した。

 昨年の「ことば調べ」の授業で、Sたちのグループが集めた言葉を利用して、テキストにした。言葉のイメージがしやすいと思ったためである。

(2)      SとHの「40段階別」テキスト

 Sはひらがなの識別できるが、言葉を書くとき音声言語と文字表記が一致しない部分がある。テキスト原稿どおりに入力することに問題がある。「あき あき あき」など文字の確定をしてスペース(空白)を挿入するとき、エンターキーとスペースキーの操作が難しいので、図のように番号をつけた。

 Hの言語理解はある。しかし、コンピュータ操作の継続が難しく、キー操作に習熟する必要があった。

(3)      Gのテキスト

・自閉的傾向のある生徒である。文章の正確な入力ができる。キーボードの配列はほぼ覚えている。(絵本づくり  の実践で活躍する)

・全国商業高校協会(全商)主催検定4級の速度問題をテキストにしている。

・最初にテキストの文章を読む。読めない漢字は教師が教える。

・3回繰り返して練習をする。

・今後、社内文書の作成やデータベースの初歩としてエクセルでのデータ―入力を予定している(結果として時間がなくて、できなかった)

(4)      Tのテキスト

・小学校低学年の漢字でも読みの困難なところがある。文章は自分の思いを書くことができる。

・ひらがな、カタカナ、記号等の文字入力はほほできている。

・漢字の練習を寄宿舎で行っている。

・自分で勉強している漢字練習帳(小2年程度)をテキストにして、文書入力している。漢字学習をより定着させたい。

(5)      Yのテキスト

・既成のテキストよりも、自分で文章を創作したほうが意欲的に取り組む。

・テキストを用いずに、自由に文章を作っている。決められたものより、自分のもっとも得意とする創作の世界で、文字入力をする。特定の教師以外はほとんどしゃべらないため、わからない場合はサインを出すので、そのときに教える。

・興味・関心の世界を広げたい。

(キ)   学習者の反応

・遅刻が見られたHも、授業の始まる前から入室してコンピュータを起動している。

 粘り強く継続して取り組むようになった。

・授業前から個人課題別のテキストを開いて文書入力を行っている生徒がでてきた。

・段階別のテキストを使用しているHとSは、授業中に一段階が終るたびに次のテキストを自分で取りに行き、競うように取り組んでいる。

    ・家族の支援が得られて、Sは家族からのメールを見たり、返事を書いている。

    ・Yは、A4で1枚を40分あれば創作できるようになった。

    ・Gは、漢字混じり文200字を8分で入力かのになった。

・3年生であったため、個人のこれまでの経験を配慮した練習方法を取った。1年生においては40段階のテキストから授業をスタートさせている。このテキストは、初歩的なワープロ導入には抵抗なく取り組めて、効果的であった。

(ク)   課題

・ワープロの指導は教育においても有効である。しかし、目的ではないのでワープロの技術を生かした他の授業との連携が必要である。

 

2.           「総合的な学習の時間」における実践

 本校の「総合的な学習の時間」は平成14年度より140時間実施している。月〜木の毎日2時間目を当てている。月・火と水・木で生徒は、延べ24講座から2講座を選択する。

(1)     実践事例5<コンビニ探検>

(ア)   単元名  コンビニ探検(商品と流通の仕組み) 生徒数3名

(イ)   指導目標 

(1)   生徒自身がコンピュータを活用して、疑問を解決する学び方を身につける。

(2)   コンビニエンスストアを利用できるようになる。

(3)   コンピュータやデジタルカメラを利用して学習内容をまとめ、報告書や壁新聞にして情報を発信することができる。

(ウ)   コンピュータ活用のねらい

コンピュータの活用を身近に感じて、生活の幅を広げ、卒業後の生活に役立てようとする態度を育てたいと考えた。そのため、体験的・実際的に学ぶために、インターネットや電子メールを利用するほかに、現場へ出かけ、実際に買い物をすることで現実の生活と結びつけ、理解できるよう工夫する。

(エ)   指導計画(全体時間19時間)

l      おにぎりはどこからきたの・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2時間

l      コンビニってなに?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間

l      インターネットで調べよう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間

l      手紙を出そう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3時間

l      流通経路を知る・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間

l      再び質問しよう(電子メールを使って) ・・・・・・・・・・・・2時間

l      インターネットで今週のおすすめ商品情報を知る・・・・・・・・・1時間

l      コンビニに行ってみよう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間

l      壁新聞にまとめ、プレゼンで発表しよう・・・・・・・・・・・・・6時間

l      もう一度コンビニへ行こう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1時間

(オ)   コンビニに行ってみよう(12時間目)の目標と展開

(1)   目標 

l      自分で調べた目的の商品を購入する。

l      お店の人に質問することができる。

l      デジタルカメラで店内の様子を撮影する。

(2)   展開

時間(分)

学習活動

活動への支援

 

(1)今日の目的を知ろう

 

 

・インターネットで調べたプリント資料を確認する。

・質問者と質問事項を確認する。

 10

(2)学校からコンビニまで行こう

・指導者は生徒に案内される形を取る。

 15

 

 

 

(3)買い物をしよう

・目的の弁当を探し出す。

・無印商品を一点選ぶ。

・レジで支払いをする。

・店員にあらかじめ了解を取っておく。

・店内を自由に行動させる。

・できるだけ一人で買い物している雰囲気を作る。

 10

 

 

(4)質問をしよう。

 

 

・自力で質問するのを見守る。

・質問用紙をあらかじめ持っていく。

・質問している様子を指導者が撮影する。

  2

(5)店内を撮影しよう

・撮影ポイントを考えさせる。

10

(6)帰り道に感想を話し合おう

・やり遂げたという実感をお互いに共有する。

(カ)   単元実践から

(1)       イメージをつくる

 対象生徒が1年生のときに行った校外学習「コンビニめぐり」を思い出させた。そして身近で具体的なものからイメージできるよう「コンビニのおにぎり」を提示した。おにぎりから得られる情報をまとめて、商品の流通経路に気づくよう配慮した。地図ソフトを使って、作っている場所と販売している場所のずれや時間のずれを意識させた。このことがのちに弁当の配達時間の質問につながっていった。

(2)       コンビニ店を調べる

 生徒はそれぞれ、自分の家の近くのコンビニ店の名を紹介することができた。さらに詳しくコンビニ店の種類や扱っている商品をWebページで調べていき、知っている商品をまとめていった。調べていく中で疑問に思ったことを質問することにし、学校の近くにあるコンビニ店の本部へ生徒が質問の手紙を書いた。指導者は生徒の質問への回答依頼を電子メールで本部に送った。

(3)      コンビニ店へ行こう

 買ってくるものや店員に質問する内容を決め、コンビニ店へ出かけた。弁当を自分で買ったり、店内をデジタルカメラで撮ったり、用意した質問も自信を持ってできた。生徒の中には、前日から教師にコンビニへ買い物に行くことを何度も確認するなど楽しみにしていた。

(4)      発表に向けて

 まとめやすくするため、これまでの学習の流れを中心に、わかったことをカード化し、模造紙3枚大の壁新聞を作った。発表は壁新聞を読むのではなく、プレゼンテーションソフトを用い、液晶ビジョンの大きな画像で、クイズ形式で発表した。

(キ)   生徒の反応

 意欲的に取り組み、新たな関わりと広がる生活がみられた。

コンビニという身近な素材が、「いつ買いに行くのか」と待ち遠しく、意欲的な学習につながった。手紙を書き、実際にその返事が東京からきたので「返事が来たのでうれしかった」と感激し、電子メールのやりとりよりも身近な対象ととらえることができたと思われる。このような体験の後に電子メールを利用した。電子メールを送信したその日に回答が寄せられたことに、その速さに生徒たちは一様に驚いていた。

 ある生徒は、回答への礼状に、「運動会が終わった後、コンビニへ行ってジュースとお菓子を買った」ことを自分で付け添えていた。また、一人で家の近くのコンビニへおにぎりを買いに行ったことが保護者からの連絡帳に書いてあり、学習の成果として、コンビニを独力で利用する機会が増えたと言える。

 

(2)     実践事例6<絵本づくり>

総合的な学習の時間で男子A・女子B・C・Dが絵本作りを 行った。Aは、ワープロ検定4級程度の日本語入力が可能な自閉的傾向のある生徒。Bは小学校2年程度の漢字の学習をしていて、文字入力や歌手などのインターネット検索が可能な音楽好きの生徒。C、Dはどうにかキーボードの文字を探して入力できる程度である。

(ア)     授業の構想を立てる

作 A

 
     コンピュータを利用し、彼らの力で表現できる絵本作りを行う。各自短編を作ったのち、共同作業で1冊の絵本を作るという2段階の構想を立てた。

(イ)     1回目の絵本づくり

<ストーリーを考える>

「絵本をつくろう」といっても、すぐにストーリーは考えられない。それぞれが題材を見つけることが困難であった。物語の下書きをしてから、それに絵をつけていこうと話す。

(1)   何を主人公にするか考える。

(2)   普通写真サイズのカードを作る。そのカードに1つの文を書く。

(3)   そのカードをつなぎ合せて物語の下書きをする。

(4)   作文にする。

 Aは生活の場面をカードに書く(歯をみがいたよ。お風呂に入ったよ。バスタオルで体をふきました。おふとんきてねました。おやすみなさい。

夕ご飯きもちいいな)「だれのことかな?」。Aは、「ガムテープ」という。教室にあったガムテープが目にとまったのだろう。すぐに作文を書き始めた。  B・C・Dは思いつかない。

 特に3人の中でも言葉の発音が不明瞭なDとは対話しながら単語を書きとめていった。お年玉、ししまい、おもち、はねつきなどお正月の言葉が多く出てくる。物語の主人公にはならないなあと感じながら、以前家庭訪問したときの彼女の家にいた犬のことを思い出した。「あの犬の名前は?」とたずねると「ポチ」と答えた。ポチの事を聞いていった。人をかんで怒られたことがあったという。そこで、一緒に作文にしていく。

                            「犬がどうしたの」「かんだんや」「文書こうか」 →  犬が人をかんだりしました。

                            「なんでなの」「しらないひとやから」「へーえ」 →  しらない人だからかんだ

                            「そんときどうしたの」「だめって」       →  ポーチはだめってゆった。

                            「いえのひとに?」              →  ポーチはおこられました。

                            「ポーチは怒られたたらどうなるかな?」    →  ポーチわ(は)はらがたちました。

                            「で、どうなったかな?」           →  ポーチはひもお(を)きりにげました。

このように進めていった。

 ポチの話をしているうちに、Bは自分の飼っているハムスターの話をしだした。5枚のカードにそれぞれの場面を書き出した。(この後の取り組みでは、Bはその場面の絵を描くことにとらわれて、物語性のない絵本になった。何かを見てイラストを書くのがとても好きで、得意だと思っている生徒であった。逆にいえば見本を見ないと自分の納得できる絵は描けない思いがあった)

Cはかつて飼っていた猫を思い出した。「それ、いいね」というと、カードに1枚だけ、“りえ(猫の名前)とよっちゃん(自分)はいつもなかのいいふたりでした”とだけ書けた。

(ウ)     下書き原稿をワープロ化する

Aは、どんどんワープロに文章を打ち込んでいく。自分の世界に入り込んでいた。しかし、37行の原稿は生活場面の時間の流れはあるものの、そのままでは絵本にならないと感じた。

Bは、ハムたろうという題で14行の文章を書く。ハムスターの子どもが生まれた様子や感想、ハムスターの遊び、祖母がハムスターを山に捨てて来いといっなど彼女の心情が感じられた。

Cは、すでに死んでしまっているの猫との小学校1年生の思い出を14行の文にまとめた。自分のことをよっちゃんという書き表し方をしていた。

 Dはすべてひらがな文であった。ポチがひもを切ったあとの続きを聞くと、「ぽーちはどうろにでました。くるまがたくさんとつていました。ぽーちはひかれそうでした。」と打ち込んでいった。

Aを除いて3人には、下書き原稿の打ち込みが終わった後、そのワープロ画面をみて、私が彼女たちに質問をして、言葉を引き出しながら、続きを脹らませ入力するという作業を繰り返した。

(エ)     文章から1場面ごとに絵を描く

生徒の負担がかからないように、4コマ程度のストーリーにする。完成まで長くかかると創作意欲が続かないと考えた。

  B6版の大きさの画用紙を準備した。最初に、ガムテープのガムくん、ハムたろう、猫のりえ、犬のポーチのキャラクターを描いた。鉛筆でB6の画用紙の大きさいっぱいに描いていた。36色の発色のよい色鉛筆で色をつけていった。どの生徒も、これまで使ったことのない色が多く、興味を持って自由に描いていた。

(オ)     スキャナーで読み取る(画像のデジタル化)

画像処理ソフト(PhotoDeluxe HE 4.0)を使い、スキャナーで絵を取り込む。簡易で使い勝手がよく、特に使い方のテキストを作成しなくても、この生徒たちは、2〜3回練習すれば手順を理解していた。画像処理的には、ソフトのクイック修正を教えた。

余分な画像の切り取り、画像サイズの変更(画像データの圧縮)は教師がした。他のソフトで使えるようにJPEG形式にしたが、ファイル・出力・保存形式の選択・保存名をつける部分は、教師と一緒に習いながら生徒がした。この点で、このソフトが自動的にJPEG形式保存へいけるような改善がされるように望まれた。

(カ)     パワーポイントで電子絵本を作る

PowerPointXPを使用。生徒はJPEG画像を挿入し、画像を見ながら前にワープロ化した原稿の文章を打ち込んでいった。Aは画像を見るだけで、文がでてきた。レイアウトの選択、画像の挿入、テキストの位置が分かりやすくなっているので、同じ作業の繰り返しは自分たちで出来た。スライドショウを見る生徒は満足そうである。

(キ)     印刷・製本する(「4人の絵本」として合本する)

印刷は、両面印刷が可能なA4用紙を準備した。生徒は、印刷していく手順を理解して、自分の作品を印刷していった。

製本は、背表紙を綴じるためにコニシのSP7ボンドを使用した。通常の木工ボンドと違い、固まってもパリパリにならず、従って何度ページを開閉してもページが剥離しない柔軟性のある素材である。

完成した作品を見た保護者のひとりは、自分の子がこれだけの作品をつったことに驚きと、喜びを語ってくれた。

(ク)     学習発表をする

「総合的な学習の時間」の発表会があった。生徒は、液晶ビジョンを利用して、PowerPointXPを操作した。実物の作品を紹介しながら、スライドショウを行った。電子紙芝居として、みんなで楽しめた。

(ケ)     考察

(1)      絵本つくりは、情報発信の1つの形態である。情報発信の目的があるから収集・加工する。

絵本という魅力的な素材があり、寄宿舎における絵本の読み聞かせの取り組みがなされていたこと、そして小さい子どもたちとの共同生活の中で彼女らは絵本を作って、絵本をプレゼントできたらいいねという思いが動機付けとなった。自分たちの生活と密着した情報発信ができた。

(2)      情報の収集には身近な経験から進めることが有効であった。

 キャラクターづくりでは、ペットの存在が大きかった。知的障害の子どもたちは、とても動物が好きで、身近に感じている。具体的に生きていて、イメージとして定着していて、コミュニケーションもとり易いのかもしれない。言葉を絵にしやすかった。

(3)      擬人化することで、制約を感ずることなく自由に発想が出来た。また、人との関わる力の弱い自閉的傾向のAも、絵本の中では4人の主人公と関わることが出来た。

(4)      持っている情報を絵で表現することは、生徒が他者に伝えやすい手段でもある。絵本は文字も少なくて済む。自分もわかりやすい。

(5)      情報の加工を、生徒の力に見あったものにした。

カード形式にして、単語レベルや絵を1枚に1つの情報に限定したこと、自分の力にあった大きさの画用紙が選べたことなどが、抵抗なく意欲の継続につながった。

(6)      コンピュータの活用が有効であった。

l      絵をデジタル化することで情報の2次加工を容易にし、表現の幅を広げた。部品を作って合成して、より近い自分の思い描く世界を実現ができた。

l      原画を描く時の制約が少なくなった。自分の力に合わせた絵の大きさで描くことが可能になり、生徒は描く意欲と自由とを得たと思われる。

l      やり直しが効くので、意欲を失うことなく、失敗するゆとりができた。

l      ユーザーインターフェイスの優れたソフトの利用は、教師の援助を最小限にして、自分でできる範囲を広げた。なおいっそう使いやすいソフトの課題も見えてきた。

l      作品の共有化と拡大化→多数の読者の形成、つながりの関係の発生、自分だけの世界から他者と共有する世界への発展をもたらすことになる。

l      共同作品を作りやすく、個から集団という共同の世界へスムーズに移行できた。

l      スライドで発表したり印刷物を作ったり、伝達する力を補助する道具として有効であった。

 

V.          研究の成果

本研究を実践してみて、コンピュータの利用が障害者の生活を豊かにし、なかでもインターネットの活用などにより障害者の世界が広がり、新たな人との出会い・関わりがつくられることを実証できた。それこそが「豊かな生活を享受する」ための重要な部分であると思われる。

1.     情報機器活用能力の変容 ○:平成13年4月段階  ◎:平成15年1月段階

  情報活用の授業で、初期状態からの変化を調べた。Y.Kの場合、中学校でコンピュータ操作の経験があることから、デジタルカメラ以外は少々出来る状態であった。興味を持って授業に取り組み、卒業の段階でほとんど一人で出来るようになった。K.MやK.Tは本校中学部からの入学生で、当初ワープロの簡単な入力しか出来なかったが、授業を通して、ことばかけで出来るようになったが、一人で最後までは難しい。

  このように、情報活用の授業で、コンピュータを利用した学習を行なうことにより、ワープロ入力や、デジタルカメラの利用、インターネット、電子メールなどが日常的に使えるようになる生徒が増えてきている。

 

2.    コンピュータ等の基本操作 

コンピュータの基本操作の中でも、電源の入れ方・切り方、マウスの扱い、データの読み出し・保存、装置の名称は全員ができる。日本語入力の基本操作については、オリジナルテキストを段階別に用意した。情報活用の授業の始まりに時間を決めて練習することを習慣化することで意欲的に取り組む姿が見られるようになった。

3.    情報の収集・加工

l      デジタルカメラを使っての取材活動が活発になってきた。校外学習や他の授業の取材に積極的に生徒が取材するようになった。

l      パワーポイントのようなプレゼンテーション作成ソフトの使い方を指導することで、デジタルカメラからの写真の取り込みやその説明文のための文字入力で、情報加工技能の習得を図ることができた。

l      総合的な学習の時間で「コンビニ探検」という授業計画を設定し、その際あるコンビニ店の本部にいろいろな質問を手紙で送った。本部から手紙と同時にメールで回答が返ってきた。それに感激した生徒は、メールでの情報交換をイメージすることができた。

l      インターネットの利用が情報の収集にとても有効であり、しかも新たな人との関わりを作り出すことがわかってきた。

 

4.    情報の発信

l      学校行事で蓄積してきた画像を閲覧、選択、取り込みなどをとおして、自己紹介の発表や学年通信、廊下掲示物を作ることができた。生徒の家庭でも学習で作成したこのWebページを見たいという声があがり、家でも見るようになった。

l      他の授業(選択講座)で、家族にメールを送り調査活動をする生徒や絵本づくりの授業はスキャナーを使い自作の絵を取り込み、情報をデジタル化して、パワーポイントを利用できるようになってきた。

l      他者との情報の共有が図られ、コミュニケーションを生み、喜びを共有できた。

5.    メディア活用の意義

(1) コンピュータ機器の活用について

一人一台の環境で、個々の課題が達成できるようにコンピュータのハードディスク上に、個人のフォルダが置くようにした。教室内はLAN対応とし、データやファイルの共有化を図った。それによって必要な情報を自分のフォルダに取り寄せる生徒も数人出てきた。

(2) デジタルカメラ・スキャナーの活用について

卒業アルバムにのせる画像データを生徒自らがデジタルカメラで取材することを授業で取り入れたところ、授業以外の場面で意欲的に取材し、自分のフォルダに写真を入れる生徒も出てきた。アナログ写真もスキャナーの活用でデジタル化でき、情報の共有化が促進される。

また、コンピュータ、デジタルカメラ、などスイッチ1つ押すことで自分の表現を肩代わりしてくれたり、より分かりやすく、変化を付けてアピールすることを可能にした。

6.    その他

l      それぞれ個別での学習変容を記録してきた。その記録を振り返ってみることでその生徒の学習変容を評価することができた。

l      情報活用の授業以外の時間において、学習したことをいろいろ工夫して試す姿が見られるようになった。

l      コンピュータの活用によって、生徒の学校生活に広がりと深まりが出てきた。

l      「情報活用」という教科の設定によって、教師間でのコンピュータ活用の情報交換が多くなり、 プレゼンテーション技術の向上など、コンピュータに習熟する教師が増えた。また、他の授業でもコンピュータを道具として利用する実践が増えてきた。

 

VI.         今後の課題

1.    ユーザーインターフェイスの開発

知的障害児・者は、コミュニケーションをとること多くの障害がある。文字の獲得も1つの壁である。

昨年卒業したMの母親から次のようなメールが届いた。

 

テキスト ボックス: あけましておめでとうございます。(略)。年末には競艇の実況を見ていてびっくりしました。Yahooからスポーツ、競艇とたどって行ったらしく、自分に必要な文字がわかると、楽しいことがあるという事を、実感しているみたいです。そんなわけで、ウイルスが怖いけど我が子のネット利用はちょっと進んでおります。

 

 

 

 

 

インターネットは情報を収集する手段としては優れたものである。私たちにとっても、ほとんどの情報を手に入れることができる。上手に利用できれば、豊かな生活の一部を享受できる社会になった。しかし、知的障害児・者にとってインターネットの利用にネックがある。検索文字の入力や、検索結果の表示から情報を読み取ることに困難さを抱えている。試行錯誤しながら、有効な情報を得ることが少ない。それでもコンピュータに向かって同じことを繰り返している。

    彼ら自身の文字を獲得する努力と共に、彼らが使いやすいような、ユーザーインターフェイスの開発が必要である。

 

2.    要求を育てる

次に、生活の中で関わりの少なさから、知りたい・使いたいという要求が十分に育っていない。芸能人の情報、週刊TV情報雑誌、ゲーム、漫画本などが興味・関心のあるところである。

さらに、TVという受動的なメディアがいっそう受身の生活を満足させてくれる。

    地域社会で、彼らを受け入れる環境の整備・充実をはかり、働きがいある、生きがいのある生活の質の向上が求められる。

 

3.    電子メールの活用

学校では生徒が自由に使える独自のアドレスを取得している。メールを出す楽しみを知った生徒は、身近にイメージできる教師を相手にやり取りを楽しんでいる。寄宿舎生活をしている生徒は、遠く離れた家族とメールで連絡をとることもある。家族から誕生日にお祝いのメッセージがきてうれしそうに見せてくれたこともあった。

    卒業後の生活では、地域や家族によるパソコンボランティアの充実が求められる。双方向の関わりの経験を積み重ねていくことが、主体的に生きる豊かな生活の享受の1つになりうる。

 

4.    校内専用ホームページ構想

今、実験的にLANで擬似的インターネット体験ができる校内ネットワークシステムを構築しようとしている。外部に対しては閉ざされているが、校内では自由に利用できるホームページを開設する。そこでは、生徒が運営するホームページとして開放し、自分たちの作った情報を自由に発信できる環境にしたい。授業の成果である作品が、表現できる場の設定のあることで、線でつながる。

知ってもらう喜び、自分の存在の確認、人の役に立っているという実感が、、主体的に生きる力を育むことになることは、これまでの実践で確認できたと思っている。

    生徒がわかりやすいインターネット環境の開発が是非とも必要である。

    生徒が自由に情報を収集したり、発信したりする工夫された仮想システム

    実験的にホームページが作り、情報の発信(私のページなど)

    実際の情報をインターネットより取得する

    情報活用の基礎的能力を養う(卒業後のコンピュータの活用を暮らしに生かす)

    校内の情報を利用する(メール、掲示板、図書検索、行事の画像等の閲覧など)

 

5.    今後の展望

 情報教育には、「情報の科学的な理解」や「情報社会に参画していく態度」の教育も重要である。今後の展望として、校内のみで使える擬似的インターネット体験ができる校内ネットワークシステムを構築しようと考えている。この校内専用ホームページを生徒たちが運営することで、上記の教育分野を克服していきたいと考えている。また、公式ホームページでは、保護者や在校生、卒業生がパスワードでアクセスできるようにし、情報のやりとりができるようにしたいとも考えている。

 

【概念図】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 共同研究  高野 正裕、西 知佐子、松村 重伸、後藤 芳泰、細川 芳範、森下 昇

       広田 善進、向峠 増観、一瀬 芳久、川畑 務、白藤 裕巳、薮下 敏和

 

実施場所  石川県立七尾養護学校

 

参考資料          ● 森 博俊ら(1993)障害児のわかる力と授業づくり ひとなる書房

    古瀬幸広・廣瀬克哉(1996)インターネットが変える世界 岩波新書

    宮城教育大学附属養護学校TP研究会(2001)障害児教育の「総合的な学習の時間」田研出版

    伊藤英一ら(2002)障害者と家族のためのインターネット入門 全障研出版部

    石川県立七尾養護学校研究紀要VOL.1416

    日本教育工学振興会(2001)アイデア授業実践事例集VOL.10