T.研究概要 「例えお金が集まらなくてもいいんです。私たちは心を集めたいんです。」 これは,今回の実践の中で,ある児童が発した言葉である。 本研究は,情報活用の実践力や問題解決能力と,生きる力の核となる豊かな人間性を着実に養うために,ネットワークメディアを活用した「総合的な学習の時間」の実践報告である。 今回の実践では,近隣地域の3校で「盲導犬を増やしたい。」という,共通の問題意識のもと,異学年(4・5・6年)で共同学習を行った。この実践で,児童が問題意識を深めたり,様々な人たちとともに生きていること(共生)を感じとるためには,情報教育の視点が重要であり,ネットワークメディアの活用が有効であることを検証することができた。 |
U.本実践の基本的な考え方 情報活用の実践力や問題解決能力,豊かな人間性を着実に養うために,「実践のコンセプト」と,授業設計の具体的な手だてとして,「実践の柱立て」を明確にして取り組んだ。 1.実践のコンセプト 本実践は,下記の三つの視点をコンセプトにし,3校の共同プロジェクト学習として構成した。
これはICTの時代と言われる昨今,メディアを活用しながら様々な人々と協調して活動することにより,これからの時代に必要な「問題解決能力」や「豊かな人間性」を養うことをねらいとしている。 (1)ネットワーキングの捉え方 今回使う「ネットワーク」という言葉は,単なるコンピュータのつながりではなく,「人のつながり」という意味で捉えている。また,「ネットワーキング」とは,子どもたち自ら「人のつながりを創り出していく活動(個性+調和性+創造性)」を意味している。 (2)心・ネットワーキングの活動概要 今回は「盲導犬の活動と実状」をテーマに,自分たちにできるボランティアを周囲の人と協調して計画・実行する活動を学習内容とした。 ・それぞれの学校で企画する(個性)。 ・次に同じような発想をしている学校に呼びかけ,共同企画を話し合う(調和性)。 ・決定した企画にもとづき活動する。またネットワークを更に広げていく(創造性)。 (3)ヒューマンネットワーキング 無機質な機械の体験ではなく,ある人間的価値を軸にして人のつながりを深め広げていくためにネットワークを利用していこうと考えた。 子どもたちは今回の活動を実現させるためには仲間を増やしていく必要に迫られる。 その活動を通して,「盲導犬や障害者に喜んでもらおう」「そのためには人のつながりが大事だな」「自分も誰かのために役立てるんだ」というような心情や態度(人間的価値=豊かな人間性)を養いたいと考えている。 (4)オープンネットワーキング 今回は,特定の学校間のみで収束を迎える,クローズされたネットワークではなく,人間的価値が共感的に広がっていくネットワーク(オープンネットワーク)を想定した。 これは,様々な人々と協調し,様々な今日的課題を解決していくことが,これからの時代を生きる子どもたちにとって必要な資質能力であると考えたためである。 尚,実際の学習場面では,3校の異学年(4・5・6年)の共同プロジェクトとし,その他の学校にはメールやWebページなどで協力を呼びかけるようにした。 (5)メディアネットワーキング インターネットの活用を中心としたコミュニケーションネットワークとしてメディアを活用するようにした。 今回の活動は校内のみでも行うことができる。しかし,これからの高度情報社会では,様々な人々とメディアを通して交流を図ることが求められる。そこで一つのモデルとして,学校間でインターネットを活用して共同プロジェクトに取り組み,児童自らネットワーキングできる力を育成したいと考えている。 (6)一人の発想から世界へ未来へ 今回の学習では,いきなり学校間で企画立案をするのではなく,前段階として個々の発想を大切にしながら同様の活動をクラス内でも行ってきた。いわば一人の発想の延長線上の活動と捉えたのである。 子どもたちには,自分の発想や思いをもち,様々な人々と共感的に調和し,時代や社会を変革できる人間に育ってほしいと願っている。 2.実践の柱立て 情報活用の実践力や問題解決能力,豊かな人間性を育成するため,実践を組み立てる際の具体的な手立てとして,3校共通の「実践の柱立て」を明確にして取り組んだ。 具体的には,それらの能力を育成するために長期・短期における「学習計画の工夫」を行い,児童が一連の活動に取り組む中で育てたい力を着実に高められるようにした。 (1)長期しかけ1(情報活用の実践力や問題解決能力の段階的育成) 情報活用の実践力や問題解決能力を着実に養うために,育てる視点を明確にし,「総合的な学習の時間」の諸活動を中心に段階的に学習できるようにした。[表1] |
(2)長期しかけ2(先行経験の配置) 情報活用の実践力や問題解決能力を構成する学習項目について,事前に学習経験を有していることが大切である。そのため,長期しかけ(先行経験)を配置して計画的に指導・支援してきた。[表2] 本実践では,各校の独自性(個性)を前提として,3校の共感的活動に結びつけていくという考えから,先行経験の配置は各校で計画した。 |
[表2]先行経験の配置(南葛西二小4年の場合)
(3)短期しかけ1(意欲を高め,問題意識を深める活動の配置) 本実践では,児童が意欲を高め,問題意識を深められるように,短期しかけ(モチベーションを高めるキュー効果)を随所にちりばめ,児童の思考に沿った学習ストーリーを設定した。 具体的には次の点に配慮した。 ◇児童の意欲を高めるための短期しかけ 盲導犬と直接ふれあうことや,音声・動画による交流相手とのネット会議,盲導犬を増やすための企画を考え,話し合う活動の実施。 ◇児童の問題意識を深めるための学習ストーリー 問題解決学習を展開する上で,あるいは問題解決能力を育成する上で,「問題意識を持続させ,深めさせること」が重要なカギとなる。そこで今回の「心・ネットワーキング」では,児童が活動を通して,効果的に問題解決能力を身につけられるように,三重構造の問題解決学習を構成した。[表3] ・学習内容に関する問題意識(盲導犬を増やす活動への意識) ・資質能力に関する問題意識(解決に向けて必要な力に対する意識=情報活用能力) ・豊かな人間性に関する問題意識(活動の結果あるいは途上で表出する問題意識・価値) これらの問題意識のもと,各校プロジェクトから共同プロジェクトに至る一連の活動を通して,具体的に問題を解決するために「情報活用の実践力」を発揮できるように構成した。 (4)短期しかけ2(豊かな人間性の育成) 中教審答申では,「子どもたちが身に付けるべき『生きる力』の核となる豊かな人間性」として六つ提示している。 本実践では,その内の「vi) 他者との共生や異質なものへの寛容」を根拠として学習を構成した。[表3]に示した問題意識のもと,具体的な解決活動を行うことによって,児童にこの豊かな人間性を培えるようにした。 |
[表3]問題に対する意識の構造