第3章 コミュニケーション能力を育む学校間交流の実践

3.1 系列学校間での交流

次に、系列学校間での交流のためにWebページを作成し、お互いの生徒作品について評価を送ることができるようにした。交流のためのWebページは教員がまとめたが生徒同士・教職員・父兄からの評価やコメントを受けられるように工夫し、学年の異なる生徒の交流が楽しく展開される場を提供した。

図7 系列学校間での交流ページ

 

3.2 コンテスト形式での学校間交流

2000年度に引き続き、コンテスト形式での学校間交流を2001年度は参加校・生徒数ともに大幅には増え、桜蔭学園の物理部パソコン班中学校2年生11名3年生16名高等学校1年生3名2年生3名計33名・聖心女子学院中等科3年生130名・立命館慶祥高等部3年生1名・早稲田大学高等学院2年生600名・早稲田大学本庄高等学院1年生252名・慶應義塾湘南藤沢中・高等部4年生240名と1200名を超える規模となった。野球やラグビー・サッカー等のスポーツ交流や英語スピーチコンテストとは一味違う「我が家の自慢料理」コンテストで、お母さんの得意料理・おばあちゃんの手作り料理・海外で覚えた特製料理・オリジナル料理・多国籍料理、それぞれの家庭の味がエントリーされた。
・投票の対象は各校から選出されたエントリー作品計24点
・最優秀賞は12月16日に発表
・投票に参加するのはプロジェクトに参加した生徒全員
・投票は他校の作品を対象に行った
・作品を閲覧して「食欲をそそるか」「栄養バランスは優れているか」「身近な食材で手軽に調理できるか」などを観点として一人各校2点投票
・投票時にコメント欄に所属校と氏名の記載のある投票を有効票とした
・連続投票は反映しない
・二重投票は無効投票

図8 我が家の自慢料理コンテスト Topページ

各校の代表作品をWeb上で閲覧できるように準備を進め、桜蔭学園・聖心女子学院中等科・早稲田大学高等学院・早稲田大学本庄高等学院・慶應義塾湘南藤沢中・高等部の作品に対しては投票を立命館慶祥の生徒の作品についてはコメントを記入できる掲示板システムを提供した。立命館慶祥は学校代表を1作品に選定してのエントリーとなった。投票システムは連続投票を防止するためにIPアドレスを記録しながらカウントしていくCGIで組んだが、各学校のプロキシーの設定に起因すると思われる動作不安定がみられたため、調整に時間を要した。昨年度の反省から得票率が表示されない方式を採用したかったが、時間的に開発が間に合わず、順位ならびに得票率が表示される方式を踏襲した。
コメントを記入する欄を設けたが、これが大変なトラブルを招いてしまう。投票開始直後、コメント欄に不謹慎な書き込みが始まってしまった。教室内でのチャット状態や不真面目な書き込みが続いた。管理者としてログをまとめ、削除すべき書き込みを処理した上で、参加校の教員メーリングリストに報告をあげ、生徒への指導をお願いした。書き込みをした生徒諸君は、ログを解析すれば誰がどの機械からどのタイミングで書き込みをしたのかが明らかになるという認識がなかったのであろう。ネットワーク利用の基本的な約束ごとを再確認するよい機会となった。

図9 投票ページ

「以下の書き込みは管理者権限で削除させていただきました。発信時刻と端末が特定できますので指導の必要がある場合は各校で対応することにしたいと思います」というメセージをメーリングリストに投げ、対応をお任せした。これは、ネットワークを利用する中で犯しやすい失敗で、キーボードトディスプレーを前にすると、ネットワークの向こう側に人がいることを忘れてしまい、自制心を失ってしまうことのあるよい例である。指導後はコメント欄に困った内容の書き込みは皆無となった。

図10 コメント欄の書き込み

立命館用のBBSもうまく活用し、プレゼンテーション作品への評価が書き込まれていた。中には週末に家族で投票をした様子もうかがえ、学校での活動の様子を伝える道具としてインターネットの持つ力は大きいと実感した。

図11 立命館慶祥の作品へのコメント

3.3 対面交流での最終審査

図12 表現を工夫する 図13 プレゼンテーション部門 図14 手際も採点対象 図15 専門家による審査

最終審査の会場校は早稲田大学高等学院が担当した。食材の準備・調理器具の調整等,家庭科担当教員を含め,打ち合わせの会を数回持ち,教員メーリングリストを活用して入念な準備を重ねた。参加各校の役割分担も行われ,コンテスト当日は生徒主体の活動として展開できるように準備が進められた。2001年度は,学校の枠を取り払い,混成チームによる調理でコンテストを開催するとの提案が生徒たちから出され,試みることになった。会議室で行われた最終審査プレゼンテーション部門は,会場設営・進行も生徒の手で行われ,採点表に当日参加した生徒ならびに教員が記入し,集計が行われた。発表者はリハーサルを重ねて臨んだ様子が伝わってくる立派な発表を行った。画面表示されているテキスト情報を読み上げるだけの発表ではなく,指示棒を使ったり,身振り手振りを入れて,一番伝えたいことを聞き手にどのように伝えるかを工夫していた。質疑応答の時間も鋭い質問にも的確に答え,ユーモアを交えて聞き手を魅了させていた。
配布資料はプレゼンテーション作品のスライドを印刷したものを用意したが,A4用紙1枚にレジュメとしてレシピをまとめた方が分かりやすいとの生徒の意見も出た。限られた発表時間を有効に使ってのプレゼンテーションは参加者同士よい刺激を与え合っていた。特に画面上の表現力の豊かさだけでなく,導入部分の工夫や,話し方の工夫に参考になる部分が多かったようである。
調理部門では,味のよさはもちろん,手際よさ・盛り付けの美しさ・片付けの様子も審査の対象となった。慣れないオーブンを使っての調理や,チームのメンバーへの指示に最初のうちは戸惑いがあったのではなかろうか。
最終審査は,生徒による審査・教員による審査・専門家による審査の総合得点で競われた。ノミネート作品の審査をする生徒の眼差しは真剣そのもの。調理の時の賑わいとはまったく 異なる。料理・食文化研究家の審査は食材の特長を生かして使っているか・調理の工夫はどのようになされているか・家庭の温かさが伝わってくるか等の基準で行われた。

生徒の感想

この「我が家の自慢料理」プロジェクトは非常に意義のあるものであり,そして今後もずっと続けていって欲しいものだと思う。一つに「我が家の自慢料理は?」と聞かれてすぐに答えを出せる人もそう多くはないだろう。それは自慢料理が自分の家にないという訳ではなく,普段から自分の家で食べている料理が自慢するものや特別なものだと考える機会が少ないからだと思う。このプロジェクトを聞かされたとき,僕も2週間ほど自分の家にもあるのだろうかと迷い,最終的に今回のポテトピザを不安ながら「我が家の自慢料理」にしたのである。今回のコンテストやクラスのプレゼンテーションを聞いていて,少なくとも僕が知っている料理は一つもなかった。だからこそ自分の家でもその料理をやってみようと思い,そこから料理がだんだん広がっていくのである。こんなに素晴らしい特色を持つ料理とプレゼンテーションであるのに現代の世情としてそれを行おうという意識・機会が少なくなってきているので,このような有意義なプロジェクトを増やしていって欲しいと思う。
二つめに“インターネット社会"というものを考えることにもなったことである。今回も各校の代表を決めるために前年と同様にインターネットでの投票となった。しかし他人の料理を非難・中傷する事件が起こってしまった。インターネットは確かに便利であり大変普及している。しかし匿名であると思ってしまう欠点もあるために,悪ふざけしても構わないだろうという甘い感情に流されてしまいがちなのだ。それを防ぐためのインターネットに対する知識や意識が薄いためにそのような事件が起こってしまうのだと思う。今回のプロジェクトによって得ることのできた様々なことを将来のための大切なものとなるように,これからの普段の生活から生かしていきたい。
早稲田大学高等学院2年 竹之上義浩

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このコンテストはとても意義があると思う。なぜならば,自分が作った作品に他の人が評価をしてくれるからである。評価を受けられるのは高校生までで,それを過ぎると,目に見えるはっきりとした評価を他人から受けることはあまりないと思う。このコンテストは,そのいい機会だと思う。また,自分が作った作品に責任を持たなくてはならないのだということを実感した。作りっ放し,提出しっ放しというのでは,作った意味がなくなってしまう。自分がわかるだけではなくて,他人にも分かりやすく説明する難しさを感じた。このコンテストでは,頭の中で作り上げたものが目の前に実際食べられるものとしてあらわれるのだから,喜びは数倍である。家族の自慢料理は,ただ結果的においしいだけではだめで,家族の団らんを助けるような存在であることが求められる。また,簡単に作ることができることは大切な要素であるが,何より,その家族の味で構成され,その味が長い間受け継がれてきているという料理が,自慢料理にふさわしいと思う。自分が分かっているだけではなくて,他の人々に分かるように説明していくのが,楽しいけれど難しい作業だった。みんなの前でプレゼンテーションをするという機会はめったにないことだったので,一生懸命皆の方を向いて,覚えていることを全て,言いたかったことを全て言ったように思った。
 慶応義塾湘南藤沢高等部2年 野口直子

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