情報教育の組み入れ方を工夫した総合的な学習のカリキュラム開発研究
グループ名 | 情報教育研究会(岡山市立平福小学校内) | |
研究者 |
研究者 三宅 貴久子 岡山市立平福小学校(研究代表者) 青山 順子 岡山市立平福小学校 尾崎 彰一 岡山市立平福小学校 安西 洋子 岡山市立平福小学校 松本 敏伸 岡山市立平福小学校 多田 朋子 岡山市立平福小学校 山根 和歌子 岡山市立平福小学校 |
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住所 | 岡山市平福1−7−1 | |
電話番号 | 086−263−7621 | FAX番号 086−263−7622 |
hirafuku@educet.plala.or.jp | ||
ホームページ | http://www1.harenet.ne.jp/~hirafuku/ |
【要約】
高度情報化社会への移行が進むなかで,コンピュータ・ネットワークを介したコミュニケーションが普及しつつある。それによって,従来の単一のメディアによるコミュニ ケーションから,様々なネットワークを活用しての情報を収集処理加工・発信伝達する能力が求められている。それに伴って,学校現場では,来年度から導入される総合的な学習の時間の導入に向けて,様々なメディアを学習支援として活用する総合的な学習の単元開発が取り組まれてきた。そのなかで,児童の情報活用能力の育成に向けて,支援の内容や方法等が模索されている。 本校でも,平成9年度の放送教育全国大会の会場校に指定されたことをきっかけに,平成8年度より子ども一人一人が自ら課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主体的に判 断し,行動することによって,よりよく問題を解決していくことができる学習の在り方 を求めて,「様々なメディアを活用した総合的な学習」のカリキュラム開発に着手したのである。生活科【1・2年】,生命【3・4年】,環境【5・6年】,国際理解【5・6年】と4つの領域で,年間を通して実践研究に取り組んできた。そして,児童が自らの課題解決に向けて従来の図書資料,新聞資料及び放送番組の活用に加えて,新たに外部人材やコンピュータネットワークを導入し,様々なメディアを組み合わせて活用できる学習環境を整備することを重視してきた。その過程で,総合的な学習における情報教育の位置づけについても明確にする必要性を痛感し,模索していったのである。 そして,昨年度末,総合的な学習で培う資質・能力を明確にし,6年間の内容と能力の系統化を図るなかで,領域の再編成を行い,学校カリキュラムとしての『平福モデルプラン』が完成したのである。そして,中学年に独立情報領域という新たな領域が誕生し,より明確に情報教育を総合的な学習に位置づけるに至った。 本論文では,本校における総合的な学習のカリキュラム開発の過程において,どのように単元の中に情報教育を組み入れていったのか,また,具体的にはどのような実践に取り組んでいるのかについて報告し,今までの実践を見つめ直すとともに,今後の情報教育への取り組みの課題を明確にし,本校の情報教育の更なる発展をめざすものとする。 |
1.はじめに
新教育課程では,中学校の「技術・家庭科」のなかで情報教育を系統的に取り扱い,高等学校では「情報」が必修科目として取り扱われるようになるなど,進展する情報化社会に対応した「情報教育」が体系的に正規の教育分野として位置づけられるようになる。ここで言う「情報教育」とは,情報活用能力の育成を主たるねらいとした教育である。この情報教育は,学校段階によってその位置づけが異なっている。しかし,位置づける基本的な考え方は共通しており,次のように述べることができる。「一つは,情報教育が進展するこれからの社会に生きていく子供たちに,どのような教育が必要かということであり,もう一つは,子供たちの教育の改善・充実のために,コンピュータや情報通信ネットワーク等の力をどのようにしたら生かしていくことができるか,どのように生かしていくべきかということである」。そのうえで,中教審や教課審,文部省の「情報化の進展に対応した初等中等教育における情報教育の推進等に関する調査研究協力者会議」,新学習指導要領などによって,学校教育全体のなかに情報教育は位置づけられている。(注1)
しかし,実際には,小・中学校における情報教育の進展には地域差及び学校間格差がある。具体的には,地域及び学校によってインフラ整備の状況が違うことや,コンピュータ教育等の歴史が違うことがあげられる。
また,この地域及び学校間格差には総合的な学習への取り組みの歴史が違うことも関連していると言える。なぜなら,現在,総合的な学習の時間の導入に伴って,様々なメ ディアの活用を学習支援とする総合的な学習の実践が行われており,総合的な学習と情報教育は関連が深いと言えるからである。特に問題解決的な学習の流れを身につけることを重視しているという点では,情報活用の実践力と重なる部分が多いと言える。
しかし,総合的な学習は学校裁量の部分が大きいため,様々な取り組みが可能で,情報教育がそこに根を下ろすならば,様々な取り組み方が出てくるはずである。したがって,情報教育の総合的な学習への組み入れ方も何通りもあると考えられる。
岡山総合的な学習研究会が岡山県下の小学校を中心に,総合的な学習における情報教育の位置づけについて,アンケート調査及び聞き取り調査をした結果,図1のようなタイプ分けになると報告している。
(図1)組み入れ方のタイプ分け
そこで,各段階における情報教育の位置づけの変遷を考察することによって,今後の本校の情報教育の課題及び歩むべき道について明確にしたいと考える。
2.総合的な学習における情報教育の位置づけの変遷
平成8年度から平成13年度までの5年間を総合的な学習への情報教育の組み入れ方 という視点でまとめると大きく3つの段階に整理することができると考える。(表1)
情報教育という言葉すら全く意識されず,放送番組を単元開発の拠り所としてひたすら単元開発に挑んだ試行段階。単元開発も進み,インフラも整い始め,放送番組だけでなく,コンピュータネットワークや外部人材など,様々なメディアを駆使して,子どもの情報活用能力を育成しようと試みるとともに,情報活用の実践力の段階表作成に至った普及時代。そして,学校カリキュラムが整い,情報教育の位置づけも明確になり,科学的な理解や社会へ参画する態度育成の系統化を図ろうと実践研究に取り組み始めた系統化段階の3つである。
それぞれの段階は,総合的な学習のカリキュラム開発の段階と時を同じくして変化し,カリキュラム,インフラ整備及び情報担当教師の働きと教師の情報スキルが充実するに従って,情報教育の組み入れ方を明確にしていこうという動きがでてきたのではないかと考える。
H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14
総合的な学習における 研究の経緯 |
試行段階 | 共有・調整段階 | 体系化段階 | ||
やってみよう | 教科発展型の総合的な学習の単元開発 様々なメディア活用を通して |
2002年の導入を視野に入れて | |||
1〜6年までの学び | 平福モデルプランの作成 | 知の総合化をめざしたカリキュラム開発 | |||
情報教育の組み入れ方 | 試行段階 | 普及段階 | 系統化段階 | ||
随時型 |
包含型 | 独立・包含型 | |||
●単元の流れに 放送番組を効果 的に活用し,情 報活用能力を育 成する。 |
●問題解決の流れのなかで,様々なメディアを効果的に活用し,情報活用能力を育成する。 ●子どもたちの主体的な情報収集 を支援するための学習環境を重視する。 |
●機能的な学力と情報活用の実践力との関係性を整理し,発達段階における重点化を図る。 ●科学的な理解や社会へ参画する態度についても洗い出しをする。 |
●科学的な理解及び参画する 態度の位置づけ及びその系統 化を考える。 |
(表1 総合的な学習における研究の経緯及び情報教育の組み入れ方の変遷)
(1) 試行段階(平成8年)
●学校放送番組の利用研究を中心に
放送教育全国大会の会場校に指定されたたというものの,研究開発校でも研究指定校でもない本校にとって,総合的な学習のカリキュラム開発はあまり にも高い壁であった。『まずは,やってみよう!』という決意のもと,学校放送番組を単元開発の拠り所にして,実践研究に着手した。その際,当然のごとく, 子どもたちの主体的な学びを支援するものとして,特に単元における学校放送番組の位置づけを重視した。
放送によって与えられる情報は,子どもたちに新鮮な感動を与え,その結果みずみずしい感性を育ててくれる。また,事物・事象の全体的な理解を容易 にし,論理的で創造的な思考への手がかりを与えてくれる。つまり,放送を視聴することによって,子どもたちは自分の生活経験や学習経験と関連づけて 考えを深めたり,新たに得た情報を活用したりして,主体的な学習を展開していくことができると考えたのである。
そこで,学校放送番組を単元の流れの中で,導入部分,追究部分,まとめの部分の3つの段階に位置づけ,子どもたちが主体的な学習を展開していく支 援の在り方を探ることにした。具体的には,下記表2のような活用の方法を考え,情報活用能力を培いたいと考えた。
単元の流れ | 活 用 の 仕 方 | 問題解決活動における育てたい力 |
「導入」での活用 | ・自分なりの問題を見つけだし,さらに追究 していこうとする意欲を喚起できるような活用 (一斉視聴) |
・問題を見つけだす力 ・見通す力 |
「追究」での活用 | ・問題解決へ向けて,必要な情報を自ら選択できる ような活用 ・追究活動での視点を広げるための活用 (個及びグループの選択視聴) |
・収集する力 ・関係づける力 ・蓄積する力 ・再構成する力 |
「まとめ」での活用 | ・自分の伝えたい思いをまとめることができるような 活用 ・今までの活動の振り返りができるような活用 (一斉視聴) |
・関係づける力 ・組み立てる力 ・表現する力 ・新たな問題を見つけだす力 |
(表2 単元の流れのなかでの放送番組の活用方法)
また,平成8年度の後半にコンピュータルームが設置され,インターネットも活用できる環境が整ってきたため,情報担当教師を中心に,メディア環境の充 実とコンピュータネットワークの整備にも取り組んだ。
●メディア環境の充実とコンピュータネットワークの整備
子どもの意識の流れを大切にした総合的な学習を展開する時,それまでの一斉学習を越えて,班活動としての校外における調査やアンケート,また,それ らの記録のための道具や機器の使用,さらに様々な形でのまとめや発表などの多様な活動が予想された。そこで,総合的な学習の中で,子どもたちが主体 的に取り組む活動を支援する手だてとして,以下の視点からコンピュータを中心にしたメディア環境の充実とコンピュータルームの整備を考え,放送番組と組 み合わせた利用形態を模索していくことにした。
ア メディア環境の充実とマルチメディアコンピュータの活用
○子どもの多様な個性に応じたメディア環境の充実
○マルチメディアコンピュータを活用した総合的な学習の展開
イ コンピュータネットワークを使った情報リテラシーの育成
○コンピュータの分散配置とネットワークを利用した情報の活用
○ネットワークを利用した学習活動の広がりと幅広い視野の育成
以上のように,総合的な学習の単元の構想,放送番組の効果的な活用及びメディア環 境の充実とコンピュータネットワークの整備という3つの視点を設定 し,カリキュラム開発に取り組んだ。総合的な学習,そして,学習支援としてのメディア活用,それもコンピュータという今まで教育活動に活用した教師がほとん どいないなかでの実践研究だったために『まずはやってみよう!』という段階であった。当然のごとく,情報教育という概念もほとんどの教師の視野にはなく, 情報担当教師とごく一部のコンピュータに堪能な教師のみであった。
そこで,全ての教師が,総合的な学習において子どもの情報活用能力を育成するために,様々なメディア活用を意図的に組み込んだ学習デザインができ るようにするために,研究組織にメディア教育研究部を位置づけ,情報担当教師をリーダーとし,そこから様々な提案をし,研修を積み重ねていくことによって 学校全体に普及していこうと考えた。
(2)普及段階(平成9年〜12年)
●様々なメディア活用から総合的な学習と情報教育との関連づけの研究へ
試行段階を経て,総合的な学習のカリキュラムを目標・内容及び学習支援等の視点から整え,さらに小学校6年間という枠組みで全教師の共通理解のも とに単元開発を試みようと考えた。そして,学習支援としては,放送番組に加えて,コンピュータや外部人材などの様々なメディアの活用を考えた。
子どもたちは個々の興味・関心・問題意識のもとに自分なりのテーマをもち,追究活動を展開していく。そうなると,当然子どもの情報収集の手段も多岐に わたる。その活動を支援するためには,つまり,図書コーナー,ビデオ視聴が自由にできるようなライブラリー教室,校内LANを構築し,教室からもインターネ ットができる環境等,様々なメディア活用ができる学習環境づくりが重要となってくるのである。そして,子どものニーズに応じたメディア活用を支援すること に よって,子どもの主体的な学びが成立すると考えた。
しかし,総合的な学習を展開するなかで,どのような資質・能力を培えるのか,また,情報活用能力との関係性については明確にできていなかった。そこ で6年間の学びに視点をあて,本校で具体化を図った総合的な学習で培う資質・能力と情報活用能力は重なり合うものであるという仮説に基づいて,情報 教育との関係性について,実践研究に取り組むことにした。(図1)
図1 (平成12年度の研究構想図)
そして,総合的な学習のねらいは,学び方や見方・考え方など目に見えない学力,つまり,機能的な学力の育成にあると考えた。
総合的な学習で培われる資質・能力を新指導要領の総合的な学習の時間の解説をもとに各学年の具体的な子どもの姿を洗い出し,【自分の考えや思い を表現する能力】・【他者とかかわる能力】・【問題発見能力】・【問題探究能力】・【問題解決能力】・【問題解決・探究に取り組む態度】・【自分の生き方を考え る能力】・【社会への参加・参画・貢献する態度】の8つに整理した。さらに低・中・高学年の重点化を図り(図2),平福独自の機能的な学力の基準表を作成し た。
図2(機能的な学力の重点化)
社会の現実問題を自分なりの目線でとらえ,問題解決に向かって,追究し自分なり 図2(機能的な学力の重点化)の考えを構築し,自分の思いを伝え,行 動していこうとする過程はまさしく情報活用能力を育成する重要な場であるといえる。しかし,それは総合的な学習の実践研究のなかに未分化な形で含まれ ており,理論 的に整理はできていなかった。
そこで,研究組織のなかのメディア教育研究部を中心に過去の実践を整理し,平福なりの機能的な学力の具体化をもとに情報教育の段階表を作成した。
この段階表を作成するにあたっては,本校の総合的な学習における「機能的な学力」の具体化との関連を重視し,類型化・重点化を図った学年・子どもの 姿(項目)に合わせて,小学校の情報教育で中心となる【情報活用の実践力】を柱に,それを支えるものとして【情報社会へ参画する態度】や【情報の科学的 理解】・リテラシーがあると考えた。総合的な学習で培われる能力として,特に【情報活用の実践力】を柱として,学年の系統性を整理し,他の2つの能力につ いても実践のなかから取り出して一覧化したのである。
図3(機能的な学力と情報教育の関連づけ)
また,段階においても低・中・高学年とはっきりとした区切りがあるのではなく,一つの目安と考え,6年間の学びのなかで培っていけばよいのではないか と考えた。
作成にあたっては,【本校での教科学習における情報教育の洗い出しと整理】→【コンピュータを中心とした情報機器の接し方段階表の作成】→【コンピュ ータリテラシーの段階表の作成(学年・教科学習における)】→【総合的な学習(機能的な学力の育成)における情報教育の洗い出し】→【「機能的な学力」 の具体化に合わせた情報活用の実践力の整理・具体化】という手順を踏まえて作成した。
本校では,総合的な学習のなかで培われる機能的な学力のなかに情報活用能力を位置づけ,その育成をめざしているのである。ただ単に情報を集める 方法を知るというのではなく,知る必要のある文脈のなかに子どもを誘い込んでいくことで,情報を収集・判断・表現・処理・創造することの価値にふれるこ とができると考える。
本校では,あくまでも総合的な学習における情報教育というスタンスを大切にするとともに,6年間の学びのなかで,子どもたちにどのような能力をどのよ うに培っていけばいいのかについて明らかにしていくために情報教育の段階表を作成するのである。その段階表が6年間の学びのものさしとなって,子ども たちの発達段階に応じて,確実に情報活用能力を育成するための実践が展開できるものと考えた。
●メディア環境の工夫
ア コンピュータ環境
・基本的な考え方
情報の共有化を図るために,校内LANを構築する。そして,子どもたちがタイムリーにコンピュータを活用できるように,休み時間及び放課後も解放す る。また,高学年の各教室1台,中央廊下1台,ライブラリー1台及び会議室3台とコンピュータの分散配置をすることによって,コンピュータを身近なツー ルの一つとして活用できる学習環境を整える。
・工夫点
子どもたちがコンピュータを活用して,主体的に学習活動を展開できるように,次のような工夫をした。
・【話合いコーナー】,【アドバイスコーナー】,【作業コーナー】を設ける。
・過去の成果物を掲示する。
・スキャナー等の機器の使用マニュアルを用意し,作業がスムーズにできるようにする。
教室でも自由にコンピュータ活用 | ![]() |
コンピュータルームで調べ学習 | ![]() |
●情報通信インフラ
〈校内サーバ〉 WindousNT server 4.0
〈クライアント〉Windous95 (教室からもメールの送信)
デスクトップ型(22台)
ノートブック型(3台)
※LANシステムを構築 Peer to Peer 型〈プリンタ〉
〈デジタルカメラ〉23台(35万画素) 6台(230万画素)
イ 視聴覚ライブラリー
空き教室を利用して,子どもたちが自由にビデオの選択視聴,必要な画像場面のプリントアウト及びビデオの編集ができるように,VHSと8oのビデオデ ッキとモニターテレビを5セット用意した
(視聴覚ライブラリー教室配置図)
さらに,中央には話合いができる机,そして,コンピュータも1台設置し,情報収集, 話合い及びまとめ活動など様々な活動にも対応できるように工夫した。
ウ 外部人材とのネットワーク
人的なメディアとして,外部人材の活用を積極的に取り組んだ。直接的な話合いだけでなく,オンライン上でも情報交換をし,子どもたちの調査・研究の支 援及び評価をお願いしている。また,教師との話合いのなかで,カリキュラム全体についての意見等も伺うことによって,教師にとっても,軌道修正を図るポイ ントを明確にすることができる。
(外部人材との意見交換)
エ 廊下に資料コーナーを設置
子どもたちが,日常的に情報収集ができるように廊下に資料コーナーを設置している。調べ学習に必要な図書資料,先輩の成果物及びパネル等を用意し ておくことによって,身近にそして,タイムリーに情報を収集できる支援を大切にした。
(資料コーナー・先輩の成果物・パネル)
● 情報担当教師の果たす役割 〜サポート役に徹して〜
コンピュータ導入当初,コンピュータを活用することについて抵抗の強い教師が多 く,ほとんどコンピュータを学習に活用することはなかった。しかし,情報 担当者が中心となって,コンピュータを活用することが子どもの学びを広げ,深める重要な支 援の一つとなることを実践を通して,実証しようと努力した。
そのためには,情報担当と学級担任がT・Tを組み,子どもへのコンピュータ使用についての中心指導は情報担当教師が積極的におこない,担任教師の抵 抗感を和らげるとともに,子どものコンピュータリテラシーの向上に努めた。それと同時に,教師へコンピュータ機器活用の有効性を説き,コンピュータ研修を 繰り返し実践したり, コンピュータを活用した授業実践を公開したりした。
子どもも教師もある程度コンピュータ機器になれてくると,総合的な学習の活動のなかで,どのように情報機器を活用して子どもたちの探究活動を支援して いけばいい か,また,情報活用の実践力を高めるために,どのように情報を収集・処理し,加工 ・ 表現して発信させていけばいいかについて,情報担当教 師が,学級担任と相談し,アドバイスや支援をしていった。担任が学習活動から情報機器の設定まですべてを準備するのは大変である。そこで,専門性を生 かしながら,分業作業及び協働作業を組 み合わせながら,担任をサポートできるような体制づくりを図った。
それによって,コンピュータの活用も全教師の実践に加えられるようになってきたのである。同時に,子どもたちのコンピュータリテラシーも飛躍的に向上し た。
以上のように,普及段階では,子どもの主体的な情報収集の環境づくりが整備され,総合的な学習のカリキュラムのなかで,情報教育を視野に入れた学 習展開が取り組まれた。そのなかで,情報担当教師の果たした役割は大きい。
しかし,取り組まれたとはいえ,あくまでも総合的な学習の学習活動に組み込まれたスタイル,つまり図1の包含型にあたるものであり,6年間の系統立て たものとはいえなかった。また,領域間での取り組みの温度差もあった。
(3)系統化の段階(平成13年〜 )
●領域の改編による中学年の情報学習の新設
平成13年度から,総合的な学習に新たな枠組みが登場し,実践に取り組み始めた。中学年では,これまで生命教育という領域名で,多様な内容や活動 に取り組んでいった。それを「地域」という領域名に変更し,これまでの生命教育の内容(環境教育的なもの,国際理解的なもの,福祉的なもの)にかける授 業時数を圧縮し,学び方の育成を重視するために,「情報教育」を前面に押し出した単元を新設することになったからである。
中学年の教師たちは,3,4年生の1学期に独立情報領域という単元を準備した。そのなかでは,多様なメディアの利用技能とその特性に関する知識・態 度の育成を図る単元を開発した。例えば,3年生ではデジタルカメラやビデオカメラの特性の理解とその操作の仕方,また,取材するときの態度面について, 「地域のコマーシャルビデオ制作」という文脈のなかで,子どもたちが身につけるように学習活動を仕組んだ。4年生では,2学期以降の単元でのインターネ ットの利用を意図して,ブラウザやメーラーの利用方法を教師が指導した。そのなかで,インターネットの仕組み等についても理解させた。さらに,インターネ ットによる交流活動を用意して,実際にメールを送受信するという実践活動の場を用意した。そうすることで,確実に知識・技能・態度の内面化を図ろうとした のである。
( 表5)内容及び能力の系統
● 情報担当教師の果たす役割 〜サポートから改革のリーダーへ
研究組織は,メディア教育部会から,情報教育部会に看板を変え,部会としての研究がスタートした。
情報担当教師をリーダーとし,平成12年度に作成した情報教育の段階表の情報活用の実践力の基準を実践の場で検証しつつ,さらに科学的な理解や 社会へ参画する態度についても,低・中・高学年の系統化を図ろうと検討している。また,スキル面についても,刷新が図れず苦慮しているインフラ環境のな かで,子どものニーズにどのように対応していくのかについての対策を練っている。
さらに,中学年の情報単元のカリキュラム開発に積極的にかかわり,中学年の教師集団とともに授業設計に取り組んでいる。専門性を生かし,全国的な 情報教育の動向もにらみながら,適切なアドバイスを与えている。
3.実践の概要
平成13年度の1,2学期に取り組んだ中学年と高学年の実践例を紹介する。
(1) 平福学区の有名人コマーシャルビデオをつくろう(3年生の情報学習の実践より)
中学年では,これまで生命教育という領域名で多様な内容や活動が編成されていた。しかし,領域の再編成により,「地域」領域として再出発することにな った。新たな 地域領域では,これまでの生命教育の内容(環境教育的なもの,国際理解教育的なもの,福祉領域的なもの)にかける時間を圧縮し,学び方 を育成するために「情報教育」を全面に押し出した単元を新設することになった。1学期の情報領域36時間のカリキュラムは別紙資料の通りである。
そのなかの3年生「平福学区の有名人コマーシャルビデオをつくろう」の実践について,さらに具体的に述べることにする。
● 単元の目標
・ 学区に住んでいらっしゃる方を題材にして,必要な情報を集め,自分が伝えたいことを明確にしてまとめて,コマーシャルビデオを作成することができる。
・ 相手の立場に立って取材したり,表現したり,発信したりすることができる。
・ デジタルカメラやビデオカメラの特性を知り,内容に合わせて,機器を選択して利用することができる。
● 単元設定の理由
地域に目を向け,情報を収集し,まとめて伝える学習として,3年生ではこれまでに,平福学区のスクープをパンフレットにまとめる「平福学区のコマーシャ ルパンフレットをつくろう」の学習をしている。この学習を通して,調べたいことを決めて,情報を収集,判断,表現,処理,創造し,発信するという情報活用の 実践力を身につけさせたいと考えた。子どもたちは,平福学区だけの自慢できるものについて情報を収集し,それらの中から,自分たちが伝えたい内容に 必要な情報を選択してコンピュータを使ってパンフレットにまとめることができた。取材をするときやパンフレットにまとめて伝える際には,あいさつなどのマ ナーを守ったり,インタビューや撮影の許可を得たりするなど,常に相手の立場に立って考えることを意識することができるようにした。また,収集した情報を 記録する際には,発見カードやデジタルカメラを使用して情報を蓄積するようにした。特にデジタルカメラについては,使い方を知るだけでなく,デジタルカメ ラの特性についてスチールカメラと比較して考え,目的に合った写真が撮れるようになることをねらって撮影の工夫のポイントを学習する時間を設定した。
以上のパンフレット作りの単元は,集めた情報のなかから必要な情報を選択してまとめるというプロセスで行ってきたので,本単元では,コマーシャルの シナリオを前もって考え,必要な情報だけを収集するというプロセスで行おうと考えた。また,デジタル カメラに加えビデオカメラの活用の仕方を学ぶ機会を 設定した。デジタルカメラとビデオカメラの特性を比較しながら静止画と動画のそれぞれの良さを知り,伝えたい内容に合わせて機器を選択してコマーシャ ルビデオを作っていくことができるようにと考えている。さらに,ビデオを作っていく際には,ビデオに出て下さる方の了解をえることや人が撮影した映像を勝 手に使ってはいけないなどの著作権のことを含め,相手の立場を考えた表現や発信方法など,情報社会に参画する態度についても養っていきたいと考え ている。
このような学習を積み重ねていくことにより,子どもたちは課題意識をもって情報を収集し必要に応じて機器を選択して使用し,相手を意識して情報を発信 することができるようになると考え,本単元を設定した。
● 本時のねらい
ばくだんゲームをしている様子をビデオカメラで撮影する活動を通して,見る人がわかりやすい映像を撮影しようとすることができる。
● 指導にあたって
本学級の児童は,「平福学区のコマーシャルパンフレットをつくろう」の学習で,平福だけの自慢できるものを調べて,調べたことをコンピュータを使ってパ ンフレットに まとめる活動を行ってきた。調べ活動では,特に地域の人にインタビューしたり,デジタルカメラを使って写真を撮影したりという取材活動を重 視してきた。その際,学校放送番組「しらべてまとめて伝えよう」を活用し,繰り返し練習を行い,実際に現場で使 うようにしてきた。失敗を繰り返しながら, 相手の立場を考えたインタビューの仕方やアングルや距離を意識したデジタルカメラの撮影の仕方などを少しずつ身につけていくことができるようになって きた。
本単元「平福学区の有名人コマーシャルビデオをつくろう」では,どんなコマーシャルにするかを考えて必要な情報を集めることにした。絵やデジタルカメラ の写真の静止画やビデオカメラで撮影した動画を4シーンつないで作るという簡単なものである。まず,教師自作のコマーシャルビデオを見て作り方を理解 した後に,ワークシートをもとにしてシーンを考えて取材計画をたてた。伝えたい内容にあわせて静止画と動画のどちらがよいかを考えてから取材にあたる ようにした。ビデオカメラの撮影のポイントや編集の仕方についての指導は,パンフレット作りのときと同様に学校放送番組「しらべて まとめて 伝えよう」 を活用することにした。また,ビデオカメラとデジタルカメラを比較することによって,「動きがわかる」「音声もはいるのでインタビューの話などをあとで確かめ ることができる」というビデオカメラの特性を理解できるようにした。本時は,ビデオカメラで実際に撮影を行って,使い方に慣れる授業である。2年生までに 一部の児童はビデオカメラの撮影方法を知って実際に撮影した経験があるが全員ではないので,全員に経験させたいと考えている。ビデオカメラの使い方 の指導を行ったのち,休み時間に「遊んでいる人を撮影しよう」というめあてで自由に使わせてみた。3年生の児童にとって動きのある映像を撮影するのは かなり難しかった。うまく撮るのは難しいなあという意識をもってから学校放送番組「しらべて まとめて 伝えよう」の『ビデオカメラでロケに出発!』を視聴し 撮影するポイント(1.カメラをしっかり持とう 2.三脚を使おう 3.近づいてとろう 4.いろんな向きからとろう)を知った。本時は撮影するポイントを確認し たうえで,再度ビデオカメラの撮影に挑戦してみる。ただ単に撮影するというのではなく,他のクラスの友だちに「3Aの好きなゲームをビデオカメラで撮影し て紹介しよう」というめあてで撮影を行う。「何をしているかが分かる」「楽しんでいる様子がわかる」映像をビデオカメラで撮影して伝えようという目的意識を もって撮影にあたるようにしたい。「しらべてまとめて伝えよう」の撮影のポイントを考えて,いろいろな向きを工夫して撮影に望む子どもたちを期待している ビデオカメラの撮影は,前半後半にわけて行い,2,3人で1台のビデオカメラが使えるようにする。友だちと教え合いながら活動を進めていくことができる ようにしたい。最後の撮影した映像を見合う活動は,それぞれの友だちの良さを自分に取り入れたり,自分たちの足りないところに気づいたりするうえで大 切であると考えている。失敗することも大切な経験としてとらえ,次にどう生かしていくかを考えて活動していこうとする態度が育っていくことを期待している
● 学習課程(60分)
児童の活動 | 教師の支援 | |
1 本時のめあてを確認する。 2.ビデオカメラを使って撮影する。 3.撮影した映像を見合う。 |
○ 前時までの活動を話題にし,本時のめあてを確認する。 ○ 休み時間に遊んでいる人をビデオカメラで撮影したけれど,後で見たらわかりにくい映像だった。その後,「しらべて まと めて 伝えよ う」の『ビデオカメラでロケに出発!』を視聴して,撮影するポイントを知ったことを話題に出し,見る人にとって わかりやすい映像を撮影しよう という意欲をもつことができる。
動きがあり,楽しい雰囲気がある場面が撮影できるように,クラスのお楽しみ会などでよく行う「バクダンゲーム」を撮影 するようにする。 ○ 他のクラスの友だちに,「何をしているかがわかるように」という条件を出すことで,目的意識をもって撮影ができるように する。 ○ ビデオカメラの使い方について掲示しておき,いつでも使い方がみてわかるようにしておく。 ○ いろいろな向きの工夫ができるように,体育館のギャラリーやステージの上からも撮影しているグループを賞賛し,他のグ ループにも活動を広げるようにする。 ○ 友だち同士で協力して活動しているグループを賞賛し,他のグループにも活動を広げるようにする。 ○ 撮影してみての感想(うまくできたところや苦労したところ,うまくいかなかったところ)を出し合い,次にどうすればよくなる かを考えることができるようにする。 ○ 休み時間に撮影した映像を比べて,うまくなったところについて話し合うことによって,撮影のポイントが生かされている かについて考えることができるようにする。 ○ 撮影するポイントをつかんでうまく撮影しているグループは,どのようなところを注意して撮影をしたかを尋ね,他の児童の 参考にできるようにする。 ○ アップで撮影している映像と全体を撮影している映像があれば比べてみて,それぞれのよさについて話し合うことができ るようにする。 ○ 次回は,いろいろビデオカメラを持って取材に出かけることを知らせ,意欲をもつことができるようにする。 |
●授業実践を終えて
本時は,ビデオカメラの撮影に慣れる授業であった。事前に撮影方法のみを指導して,休み時間に自由に撮影することにした。撮影した映像を見合ってみる と,ぐらぐらして目のまわるような映像ばかりであった。このうまくいかなかった経験があったので「うまく撮影したい」という目的意識をもって本時に臨むことが できた。さらに,学校放送番組「しらべて まとめて 伝えよう」の『ビデオカメラでロケに出発!』の視聴も効果的であり,番組で流れた撮影のポイントをしっかり 頭に入れて活動を行うことができた。2,3人に1台のビデオカメラを使えるようにしたので,活動時間を十分とることができ,子どもたちは生き生きと活動し,楽 しみながら技能を習得することができた。見る人にとって見やすい映像にするために,三脚を使うことはもちろん,表情がわかるように近づいて撮影したり,全 体の様子がわかるようにステージの上などから撮影したりと子どもたちなりの工夫がみられた。
このビデオカメラの撮影の授業の後,平福学区の有名人コマーシャルビデオの制作に取りかかっていった。子どもたちは,伝えたいことがよくわかるように シーンの構成やキャッチフレーズを考えてシナリオ作りをし,それに合う映像を撮影していった。デジタルカメラとビデオカメラの特性を比較しながら静止画と動 画を組み合わせて,コマーシャルビデオをつくることができた。出演していただく地域の方に作成してもよいか承諾をとったり,「喜んでもらえるだろうか」「みて いやな気持ちにならないだろうか」などを考えたりすることで,肖像権のことや相手の立場にたった発信など,情報社会に参画する態度について3年生なりに 学んでいくことができた。
(2)瀬戸内デジタルマッププロジェクト(5,6年環境学習の実践より)
5,6年の合同学習における環境領域では,1学期は体験活動を重視し,身近な自然「旭川」を調査・研究の舞台として個々の興味・関心・問題意識のも と追究活動を展開し,自分なりの解決策を構築した。そして,その解決策について,3つの実践活動のプロジェクトを考え,2学期の活動へと発展したのであ る。そのなかの「瀬戸内デジタルマッププロジェクト」の実践について紹介する。
子どもたちのなかに,1学期の学習で旭川から瀬戸内海へと視野を広げ,瀬戸内海の実態に興味・関心をもつとともに,旭川や瀬戸内海の実態を地域や 瀬戸内海に面した人々に知ってもらい,ともに身近な環境について考え,少しでも改善できるように行動していくことを提案したいと考えたのである。
この学習のねらいは,地域理解の深化と郷土への愛着心の育成と情報活用能力の育成である。昨年度取り組んだ旭川流域の上・中・下流域の6校での 旭川デジタルマップ制作(http://www.kasen.niknak.ne.jp/kasen/)が一つの学習モデルとなり,今年の子どもたちの思いや願いとしての瀬戸内デジタルマッ ププロジェクトへ発展していったのだ。
高学年では,包含型の情報教育というスタイルではあるが,子どもたちは,自分たちのテーマ達成へ向けて学習活動を展開していくなかで,情報活用能 力及びスキルも身につけていく。
また,高学年は自分の学びのプロセスを自分なりに振り返り評価することを鍛えることを意図して,ねらいに対して,いくつかの尺度を教師側から提案した そして,活動前に自己設定し,自分なりの目標を明確にし,見通しをもって活動を展開できるように支援した。そして,授業後評価タイムを設けることによっ て,目標の達成がどのぐらいできたのかについて自分の学習活動を見つめ直す時間を設け,次への学習活動のめあてを自分なりに設定できるようにした。
● テーマ:体験! 探検! 発見! 〜瀬戸内デジタルマップを作ろう〜
● ねらい
・ 瀬戸内海の自然・歴史・文化等の様々な視点から見つめ直したり,川と海のつながりに目を向けたりして,未来の瀬戸内海のあるべき姿について,自 分なりの考えをもち,自分たちが身近な環境にどのようにかかわっていけばいいかについて仲間とともに考え,思いや願いをもって行動することができる
・ 瀬戸内デジタルマップの共同制作活動において,電子掲示板(ネットワーク広場),インターネットメール及びテレビ会議等を利用して,他校の友達と情 報交換しながら情報を集めたり,整理したり,自分にとって必要な情報を選んだり,マップを作って発信したりする力を身につけることができる。
●学習の時間
・ステップ1:【課題設定・計画】4時間
・ステップ2:【情報を集める】12時間
・ステップ3:【情報の整理・分析・自分の考えをもつ】9時間
・ステップ4:【マップの制作・発信】14時間
・評価タイム:5時間 計44時間
● 学習展開イメージ
7月 | ○ 昨年度の旭川デジタルマップの制作活動を振り返ると共に,瀬戸内海へも目を向けていこうと考えている友だちの意見を聞き,今年度はどのようなマップを制作するのかについて内容や方法等を話し合おう。また,7/15の旭川クリーン作戦についても計画を立てて行動し,その結果をマップにのせよう。 | |||
夏休み | ○ 自由研究で瀬戸内海の情報を収集しよう。 | |||
9月 | ○ 夏休みの情報交換会をして,マップ制作へ向けて,各自の役割分担を決めて活動しよう。(ワークショップ形式) | |||
10月 | プロデュース班 | 情報収集班 | デザイン班 | |
活動内容 | ・デジタルマップ全体の企画・運営 ・各班への連絡調整 ・リーダー会議の運営及び交流校への報告 |
・デジタルマップに載せる情報を交流校の友だちと情報交換しながら収集する。 ・デジタルマップにのせる情報を選択し,修正・加工する。 |
・昨年度のデジタルマップを参考にしながら,マップ全体のデザインを考える。 | |
学習支援 | ・テレビ会議 ・掲示板の活用 ・電子メールの活用 |
・掲示板の活用 ・交流校とのテレビ会議 ・ARネットの方々との情報交換 |
・ARネットの方やデザイナーの方との話合い ・先輩との話合い |
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11月 | ○ 全体会を開き,各班での活動経過について情報交換をし,瀬戸内デジタルマップの全体像を明らかにし,マップを完成しよう。 | |||
12月 | ○ 完成した瀬戸内デジタルマップを自己評価したり,他地域の友だち及びアドバイザーの方々にも評価してもらったりして,マップ作り全 体を振り返ろう。(http://www1.harenet.ne.jp/~hirafuku/) |
● 授業を終えて
中学年で,インターネットのしくみ等の科学的な理解,著作権についての学習を通して,情報社会へ参画する態度を身につけてきている子どもたちである コンピュータ等の様々なメディアを自分の目的に応じて活用できていた。
例えば,電子掲示板での情報交換で,自分の考えが十分に伝わらないと感じたら,テレビ会議を教師に求めたり,FAXでメールに対する返事の内容につ いて補足したりして,必要な情報を集めようとしていた。
(瀬戸内デジタルマップ 表紙絵)
また,マップ制作では,自分たちが集めた情報を整理し,必要な情報を選択し,マップにアップする情報ページを作成したが,その際,必要とするグラフや 画像などについて,使用許可を依頼する電子メールを関係機関に送り,承諾を得ることも自ら取り組めていた。マップ制作という学習活動において,情報活 用の実践力はもちろんのこと,社会へ参画する態度や電子掲示板の仕組み等の科学的な理解も,中学年での学びが応用・発展できていたのである。
最終的には瀬戸内海に面した地域にはすばらしい自然や文化遺産が残されていることが分かり,よさを大切にしたいという思いを高めるとともに,生き物 や砂浜の減少等の問題点の原因の一つが自分たちの生活にあることを実感し,自分たちにできることを取り組んでいくことの重要性も感じたのである。
中学年で,情報学習を徹底して学ぶことによって,高学年では,生き方の能力,つまり,社会への参加・貢献の態度育成のための活動に集中して取り組 ませることができるのである。
4.成果と今後の課題
(1)成果 (ネットの向こうに友達がいる)
○ 学校カリキュラム作成への挑戦によって,情報教育の位置づけを明確にすることができた。
試行段階では,総合的な学習のカリキュラム開発が低・中・高学年の独自性に任されていたが,普及段階で6年間で勝負!という考えが確認できたこと によって,学校カリキュラムの作成へと実践研究が進んだ。それによって,内容と能力の系統化が図られ,中学年での学び方の育成がクローズアップされ, 情報教育が前面に押し出された領域の改編に至ったわけである。
何のために情報教育をするのか?という目的意識が,全教師集団にもててこそ,単なるコンピュータや他のメディア機器を教えるのみの教育に陥らなかっ たといえる。
○ 情報教育へのゆるやかな取り組みが,教師自らが問題意識をもち,ボトムアップにおけるカリキュラム改造へ導けたと考える。
情報化の波が学校に押し寄せたとはいえ,本校では,あくまでも総合的な学習のカリキュラム開発の過程で,子どもの情報活用能力の育成についての課 題が見えた時点で,情報教育についても系統立てた指導が必要であるという見解に教師集団の思いが一致したのである。教師一人一人が,総合的な学習 のカリキュラム開発で持ち味を生かしつつ,未熟な情報技術を情報担当教師に支援してもらいながら,自分の力量を向上させていったことは,学校全体の情 報教育の進展に大きな影響を与えたと考える。
○ 情報教育への組み入れ方の工夫を,カリキュラム,もの,人材の面で,充実させることができた。
平成9年度から12年度の普及時代に,子どもの主体的な情報収集ができる環境づくりや情報担当教師による担任へのサポート体制の充実は,情報教育 を視野に入れた総合的な学習の展開に多大な影響を与えたと考える。
この3つがバランスよく機能してきたことによって,情報教育を前面に押し出した単元も誕生したともいえる。
(2)今後の課題
今やっと情報教育へのカリキュラム開発へと歩み始めたばかりの本校である。
5年間の研究の経緯を振り返ってみて,これからの課題も見えてきた。
カリキュラム,もの,人材という3つのキーワードから,今後の課題を展望してみたいと考える。
● 中学年の独立情報領域と他の領域との情報教育の系統化
本校のカリキュラムは,独立型と埋め込み型の両者が共存している形を取っている。果たして,そのカリキュラムは妥当であるのかについては,今年度の 実践の結果から考察することになると考える。
特に高学年は,中学校への発展として教えておかなくてはいけない知識・技能・態度面を今一度洗い出し,子どもの実態と照らし合わせてみる必要がある と考える。
● インフラ整備
平成8年度からコンピュータ等の機器のリニューアルがなされないまま現在に至っている。子どものコンピュータリテラシーは年々向上し,学習活動での子 どもの様々なニーズに対応できなくなっているのが実状である。
校内LANにより,コンピュータの分散配置によって,情報の共有化がおこなわれネットワーク環境は整ってはいるが,少しずつ世の中の現状から取り残さ れつつある。著しく情報技術の進歩と情報化が進み,IT革命がうたわれている現在,これからの高度情報通信技術社会に生きる子どもたちに必要な力を身 につけるだけの学習環境に改善していくための方策を考えることは急務であると考える。
● 人材の育成
学校現場は,当然人の入れ替わりがある。どのような事態に陥っても,今までの情報教育への取り組みが継承されていくようなシステムを構築することが 必要である。そのためにも,今までの取り組みを整理し,マニュアル化するようなことも考 えていかなければならないだろう。ただし,それは固定的なもので はなく,絶えず進化していくものとして位置づけたい。先輩教師は,後身の指導にあたるなど,学校全体での人材育成のシステム化も今後検討していく必要 があると考える。
協力者
指導・助言 大阪市立大学 木原 俊行助教授
実施場所 岡山市立平福小学校
参考資料
1 赤堀侃司『情報活用能力をはぐくむ』 ぎょうせい,2000年,p15〜18
2 岡山総合的な学習研究会『情報教育の地域モデルプラン開発−総合的な学習への組み入れ方を視点として』
− 全日本教育工学協議会全国大 会富山大会論文集
(C)2002岡山市立平福小学校