おわりに


 本研究では、高等学校総合学科における「情報に関する基礎的科目」の実践を通じて、情報機器やソフトウェアの操作指導に偏りがちだった情報教育のあり方を変える試みを行った。またその実践を通じて現代の高校生に欠けるとされる表現力、コミュニケーション能力の育成を目指した。

 情報教育の内容については、小・中学校で指導されていることを踏まえてどのような指導が可能かを追求した。これまでの情報教育は、指導する教師の知識の範囲で行われるか、高等教育機関で行われるような専門的な内容を初等・中等教育で行うという無理な形態が主流であった。多くの実践例は前者で、おのずと情報機器の操作やアプリケーションの操作といった目先の内容になりがちだった。

 この実践では、めまぐるしい時代の変化の中においても普遍的な情報を捉えられること、あふれる情報に流されない主体的な情報受信ができること、受信者を意識した情報を責任を持って発信できること、効果的な情報の編集ができること、情報社会の光と影を認めることを主題に行ってきた。

 授業の形態についても様々な試みをした。実際に授業をしたのは一人の担当者であるが、その内容については他の教科の教師の応援を得たり、外部の社会人の意見を聞いたりして授業を担当者一人のものでなくした。また、授業の場も教室に限らず校内各所での体験や校外でのインタビューなど自由度を高めた。こうしたことはこれまでであっても可能であったはずであるが、「授業は一人でするもの」、「教室でするもの」といった固定観念が無意識に自主規制していたのではないか。2003年の教育課程の改定で設置される「総合的な学習の時間」と合わせて、もっと自由な発想で生徒の可能性を伸ばすことを考えるべきであろう。

 旧来の考えでは、生徒の表現力やコミュニケーション能力を高めるという目標は情報教育の本来の目的ではなく、他の教科で取り上げるべき内容と捉えられるかもしれない。しかし、この実践を通じて感じたことは、現代においては情報機器なしに表現力やコミュニケーション能力を高めることは不可能ではないかということである。またすでに十分な表現力を持っている生徒であっても情報機器を効果的に使うことによって、さらにその表現力を高めることは可能であるということである。したがって「情報」というカテゴリーにおいて「表現力」「コミュニケーション能力」を捉えることは至極当然のことになる。実践の都合で、情報機器の操作方法はできるだけ簡略化したが、十分な時間をかけた、また表現力を高めるという意図を明示した操作指導ができれば、生徒の能力はさらに高められると思われる。

 身近な素材を盛り込み体験を重視した情報教育の授業が、生徒に情報社会を身近なものに感じさせ、情報社会の構成員としての姿勢を身につけることができたという点で今回の実践は評価できる。

 今後、さらに継続して実践を積み重ね、情報社会を生きる高校生のあるべき姿を追及したい。また小・中学校で身につけてくる力も徐々に高まることが予想されるため、高等学校における教育も固定的なものにはならないはずであり、そうした変化に時間を置かず対応できる授業を構成することを目指したい。


協力者
兵庫県立神戸甲北高等学校の先生方

実施場所
兵庫県立神戸甲北高等学校

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