「日本の子どもたちの参加を可能にする国際教育コミュニティの実践研究」

                          Team e-village 代表 鳥越厳之

Copyright (C) 2003 e-village. All Rights Reserved.

                   目次

  要約

    国際教育コミュニティe-villageとは

    本研究について

1 コミュニティ運営の視点から

   ^ 国際教育コミュニティe-villageについて

   _ e-villageのネットワーク 

   ` 諸外国からの参加状況の分析 

   a 年間3ステージ制の確立

2 日本からはどのようなかたちで参加しているか

   ^ 事例1 年間を通した情報発信の例

   _ 事例2 日本から提案したプロジェクトの例

   ` 総合的な学習と国際教育プロジェクトとの関連

   a 情報教育と国際教育コミュニティ

3 外国ではどのように活用されているか

4 気軽に参加できる教育プロジェクトとは

   ^ 実施したプロジェクトの活動形態とテーマの分析

   _ 気軽に参加できる要素とは

   ` 参加する意義のあるプロジェクトとは

5 簡単に情報発信できる技術とは

   ^ コミュニティに参加するための情報技術

   _ オンラインページクリエイターの開発

   ` 評価と課題

6 言葉の壁を低くする交流の方法とは

   ^「プロジェクトボックス」に絵を中心にした情報を入れる

   _ 情報の共有・交流パターンの分析

   ` 言葉の壁は越えられるか

7 成果と今後の課題

 

 要約

 国際教育コミュニティe-villageとは

 近年のインターネットに代表される情報技術の社会への普及がコミュニティの概念を変え、目的を共有する者同士が地域や国境を越えて新たな関係づくりを始めている。これは教育の分野においても同様である。現在、インターネット上に国際的な教育ネットワークや教育プロジェクトがすでに数多く存在する。特に英語圏の国々では、国境を越えて子ども同士のやり取りや教育活動が常識になりつつある。

 では、日本の現状はどうであろうか。日本の学校現場では総合的な学習の時間枠が導入され、環境・情報・国際理解・福祉健康等のテーマを含んで各地で実践が行われている。しかし、国際的な教育プロジェクトへの参加や情報発信は決して多いとは言えない。これは情報技術の壁に加え、英語という言葉の壁が主な原因と考えられる。日本を含め、誰もが気軽に参加できる世界規模のインターネット上の学びの場の構築が望まれるところである。

 1998年以来、筆者は諸外国の教育関係者らと共同で「インターネット上に世界の子どもたちが誰でも気軽に楽しく参加できる学びの場をつくる。」ことをめざして様々な実験を試みてきた。これまでに教育プロジェクトの共同研究や実践と、コミュニティ構築に必要な技術や方法を探ってきた。それらを統合して2001年の8月に国際教育コミュニティとしてe-villageを立ち上げた。

 

 e-villageの特長として

◇日本の教育関係者が中心となって運営する国際教育コミュニティである。

◇参加者がインターネットを使って簡単に情報を発信・共有できる技術を研究し提供している。

◇英語を母国語としない国の子どもたちにも参加の道を開くための工夫をしている。

 また、e-villageに参加することで、

◇世界の子どもたちと共同・創造する態度を学ぶことができる。

◇様々なテーマで交流することで、地域の独自性と世界の多様性や地球規模の価値観を学ぶことができる。

◇自然や社会を探究・表現・交流する学習方法や情報技術の活用法について学ぶことができる。

このような教育コミュニティづくりをめざしている。

  

 本研究について

 過去5年間に実施した各種教育プロジェクトに対して、これまでに42カ国、106団体及び個人が参加し、ホームページとして約3000件、画像数約10000(動画・音声データ300)の情報が集まっている。その中で日本から発信されたものは約1/3を占め、プロジェクト運営上でも重要な役割を果たしてきた。

 本研究は、特に「日本の子どもたちの参加を可能にする要素は何か。」という視点から、これまでの実践及び蓄積された情報を多角的に分析するものである。成果は次のとおりである。

 

日本の子どもたちが参加しやすいプロジェクトの実施体制を知ることができた。

総合的な学習と国際教育プロジェクトとの関連をモデル化することができた。

気軽に参加できるプロジェクトに必要な要素を明らかにすることができた。

初心者や小学生においても簡単にホームページ上に情報を発信できる技術を確立することができた。

言葉の壁を低くする様々な交流のバリエーションを生み出すことができた。

 これらの成果と同時に課題を明らかにして、今後のコミュニティ発展につなげていきたい。

 

本文 

 

1 コミュニティ運営の視点から

 

^ 国際教育コミュニティe-villageについて

 「世界の子どもたちが誰でも気軽に楽しく参加できる学びの場」として、インターネット上に設立した国際教育コミュニティである。e-village上で実施されている様々な教育プロジェクトに参加することで、子どもたちの地球的な視野を育てることを目的にしている。具体的な活動は、ホームページで一般公開している。なおWebサーバーは日本に設置している。(http://www.e-village.jp/index.html)

 

_ e-villageのネットワーク

 現在コミュニティは、日本、ニュージーランド、オーストラリア、ハワイ、デンマーク、ドイツの6カ国の教育関係者がコーディネーターとして共同で運営している。

資料 e-villageのネットワーク
 

 コーディネーターの役割は、教育プロジェクトの企画・運営が中心である。新規プロジェクトはテーマ・目的・方法・時期等を考慮しながら、コーディネーター間で協議する。時には参加者から提案されることもある。ホームページはウェブ担当者が制作する。

 また、コーディネーターの重要な役割として、参加者への支援や交流相手との連絡調整がある。初めての参加者には、e-village上で使う情報技術やプロジェクトの活動内容について助言を行う。プロジェクトへの参加募集はホームページ上で行う。場合によっては各コーディネーターの持つ人的ネットワークに呼びかけ参加者を募る場合もある。このようにコーディネーターを核にして新規の参加者が加わり、e-villageのネットワークは成立している。

 コミュニティには、趣旨に賛同すれば誰でも参加することができる。参加登録後、参加者はコミュニティ上で実施している各種の教育プロジェクトの中から、希望するプロジェクトを選んで参加する。そして、プロジェクトのテーマに沿って各自が子どもたちと活動を行い、その様子や結果をe-villageのサーバーに送りこむ。そしてホームページ上に集まった情報を共有して、それぞれの教育現場で活用する。

 参加者が発信する情報については、ホームページ上で公開することを前提にしている。また著作権と個人情報の保護についてはガイドラインを設けている。著作権については・参加者が発信する情報はオリジナルであること。・コーディネーターは教育目的に限り掲載された情報を編集する権利を持つことなどである。個人情報については・子どもたちのフルネームは使わない。・個人(特に子ども)が特定できる写真その他の情報はさける。・あらかじめ保護者に説明を行い同意を得るなどである。

資料 コミュニティのイメージと役割
 

` 諸外国からの参加状況の分析

@ 諸外国からの参加者(団体)とこれまでの経緯

 コミュニティ内の各種プロジェクトへの参加登録数は、過去5年間で42カ国、106団体及び個人である。98年以来、参加の呼びかけは日本から、オセアニア、アジア、ヨーロッパ、アフリカ、アメリカへと展開してきた。参加国はヨーロッパが多い。国別の参加登録数ではアメリカが多い。通信基盤の整備が厳しい国からも参加がある。例えば、ウルグアイの山間部にある小学校の教師は、月に一度町まで出かけてインターネットカフェから参加している。また、インドや韓国などアジアの国々からも徐々にではあるが、参加が増えている。

 登録者のほとんどは小学校のクラス担任で、担任するクラスの子どもたちをプロジェクトに参加させている。数は少ないが幼稚園からの参加や、家族単位、また個人として中学生や高校生が参加している場合もある。

A 月別ページ掲載件数と世界の学期

 e-villageのサーバーには、世界各地の参加者から発信された情報が、ホームページとして蓄積されている。5年間で、約3000件、約10000の画像(300の音声・動画)が追加・蓄積されている。このうち約2000件の情報について、掲載時期や国別の分析を行った。

 まず、参加者によって掲載されたページを、日本と日本以外の国とに分けて月ごとに集計した。日本からの掲載のピークは10月である。日本以外の参加者からの掲載のピークは意外にも4,5,6月である。世界的には、4,5,6月が情報交流のさかんな時期であることがわかった。

 日本の学校の状況では、4,5月は新学年の立ち上げに追われて対応は難しい。それに対して10月は日本から見ると本格的に活動に取り組む時期としてふさわしい。掲載されたページを国別に比較すると、4,5,6月はアメリカやヨーロッパと南半球の国々の交流が盛んである。10月は、日本と南半球の国々との交流が主である。

 これらを、世界の学校の学期制と比較してみよう。参加国は、北半球型、南半球型、そして日本型と類別できる。大まかに言えば、北半球型は9月前後に新学期を迎え翌年の6月前後に終わる。南半球型は2月に新学期を迎え12月に終わる。そして、日本は4月に始まり3月に終わる。このように、参加者の学校の学期制が3つに異なることで交流にずれが生じていると考えられる。

 教育プロジェクトへの参加は、準備・活動・交流と一定期間を必要とし、いつでもすぐに交流できるというものではない。しかも、参加国によって学期制が様々である。このようなことから、各参加者の交流に最適な時期は1年間の内で限られてくる。

資料 ホームページに掲載された資料の月別掲載率

a 年間3ステージ制の確立

 世界的に見れば、4,5,6月が交流のピークであることは前述した。この時期は北半球型では、学年末を控え活動が活発になると考えられる。事実、アメリカからのプロジェクト参加登録はこの時期に集中している。また2月に新学年が始まった南半球型では、この時期は余裕をもって活動や交流に取り組める時期であると考えられる。4月は日本にとっては新学年の立ち上げ時期であり、どうしても交流には出遅れる。日本型は世界の中では特殊で、この時期の交流には不利である。

 しかし、日本が参加することで10月にもう一つのピークをつくり出すことができていると考えられる。この時期は、日本と南半球型との間での交流が中心であり、4,5月からプロジェクト実施の準備を始め、同一学年内で継続して取り組むことができる。さらに、1,2月に北半球と日本との間で交流する機会をつくり出せる可能性がある。

 このように北半球、南半球、そして日本が参加することで、3極間で年間を通してスムーズなプロジェクトの運営が可能になると考えられる。すなわち、5・6月、10月、2月頃の交流を前提に各種プロジェクトを計画実施し、3極のうち活動が可能なところがプロジェクトをリードしていく体制である。

 e-villageでは、このような教育プロジェクト実施の年間3ステージ制の確立をめざしている。

 

2 日本からはどのようなかたちで参加しているか

 

^ 事例1 年間を通した情報発信の例

@ 「コミュニティたんけん」プロジェクトの概要 

 e-village上で「Exploring the Community」というプロジェクトを実施している。子どもたちが地域社会に出かけて、地域の自然や人々のくらし、それを支える社会の仕組みについて調べる活動は、世界共通の教育活動である。このプロジェクトは参加者がそれぞれのコミュニティで調べたことを紹介しあい、お互いのくらしや自然・文化について理解を深める。また、「違い」や「同じ」を比較することで、自国のくらしを振り返ることをねらいとしている。(URL http://www.e-village.jp/evc03/expcom/index.html)

 

A プロジェクト参加のベースになる総合的な学習

 岡山県のK小学校の3年生は、2001年度の総合的な学習として、地域の自然や社会に親しみ学ぶ「コミュニティたんけんたい」の活動を年間を通して行った。そして、日々の活動をe-villageの「コミュニティたんけん」プロジェクト上で世界に紹介しながら、国際プロジェクトに参加して外国の子どもたちと交流した。ここでは絵や写真を中心に世界に紹介した活動内容や、参加した3つの国際プロジェクト「サークリンがやってきた」「デンマークと日本調べ」プロジェクト、「理想の村」プロジェクトについて説明する。

 

[4月]◇たんけんたい結成式:たんけんたいを結成する。◇かも川たんけん:近くの川を探検、春を探す。◇バードウォッチング:校内や隣接神社境内で野鳥観察。◇春の野草観察:校内で野草採集スケッチ。

[5月]◇旗づくり:たんけんたいのシンボル旗。◇町めぐり:町内を歩く。◇毛筆習字:地域の書道家に毛筆習字を習う。◇校内・町内つばめ観察:種類*場所。◇チョウの観察:チョウのたまごを採取*観察と飼育。アオムシコマユバチについて昆虫博士へ手紙。

        4,5月に掲載された写真から

ロ 「サークリンがやってきた」(トラベルバディプロジェクト)の実施 [6月]

 デンマークのホーンバーク小学校からアニメの主人公のぬいぐるみが送られてくる。このぬいぐるみのサークリンと一緒に地域を調べる学習を展開した。活動の様子は教師がデジタルカメラに記録してe-village上で公開した。

◆サークリンに自分たちの町を教えよう:サークリンに町のことを教えるという形で地域学習を展開する。一緒に町たんけんにでかけ、町のよいところを「わたしの町」という絵に描いて教えた。

◆サークリンに日本の生活を教えよう:子どもたちが順番にサークリンを家に連れて帰り、日本の生活を絵日記につけた。この日記は後でデンマークに送った。

◆たんけん地図づくりと発表会:サークリンと一緒に調べたことをたんけん地図にあらわし、各施設の関係者を招いて発表会を行った。

◆子どもたちの感想から:「サークリンはマッチ箱にすんでいるようせいです。サークリンをじゅんばんに家につれてかえることになりました。はやくわたしのばんがきてほしいです。」「ぼくは、家のそばの山でモリアオガエルをつかまえました。きょうサークリンに見せてやりました。ちょっとびっくりしたみたいです。」

 

[7月] ◇町の施設調べ:主な施設調べ。計画(調べたいこと*インタビューの仕方)*施設の見学とインタビュー。◇たんけん新聞づくりと発表会:新聞づくり*施設の関係者を招いて発表会*意見交換。

[9月]◇身近なこん虫調べ:身近にいる昆虫採取*図鑑で調べる*観察スケッチ。◇秋をあらわす:水彩絵の具。秋をあらわす詩。

 

ワ 「デンマークと日本調べ」プロジェクトの実施 [10月]

 サークリンがやって来たデンマークのホーンバーク小学校の4年生とインターネットを使って交流を行った。交流の場はe-village上に設定した。

◆相手の国調べ:初めにお互いの国について調べる活動を行った。日本の子どもたちは、それぞれが調べたことを絵や図にまとめて発表会を行った。それらを教師がデジタルカメラに撮ってe-village上で公開した。

◆質問に絵でこたえよう:相手のことや住んでいる地域や暮らしについて知りたいことを話し合い、教師が短い英文にして交換した。相手からの質問の答えは、子どもたちが絵に描いて交流した。

◆子どもたちの感想から:「ぼくはデンマークのことを知りたくて、くらしきのチボリ公園につれていってもらいました。大きな地図もかきました。」「今日デンマークの質問のこたえを絵にかきました。わたしは前に町で起きたこう水の絵をかきました。」

 

[11月]・[12月]◇秋さがし:神社境内で秋さがし。秋の宝もの図鑑 ◇炭焼きたんけん:地域の伝統産業の学習。窯入れ作業の手伝い*窯だし作業の手伝い。◇バーベキュー大会をしよう:計画*買い物*準備*バーベキュー実行*たきぎひろい*炭の火おこし。

[1月]◇森の贈り物:山でひろった木ぎれを材料に工作。◇今とむかし調べ:むかしの生活調べ。町に保管されている生活道具資料を見学。名称や用途を調べる。

 

ン 「理想の村」プロジェクトに参加 [2月]・[3月]

 自分たちの住んでいる地域の夢や理想を考え、それを絵に表して交流する「理想の村」プロジェクトに参加した。このプロジェクトにはスロバキア、スロベニア、ルーマニア、ニュージーランド、アメリカ、南アフリカ、デンマーク、ベナン、日本のこどもたちが参加した。

◆空飛ぶおじさんの話を聞こう:パラグライダー乗りの地域のおじさんから、空から見た町の様子を聞く。

◆展望台から町をながめよう:町の展望台から眺め、町のよさを見つける。

◆みんなで描こう「こんな町にしたいな」の絵:班で村の設計図を考える。大切に守りたいもの、あればいいもの。設計図をもとに絵を制作。村を宣伝するメッセージをつける。

◆絵で交流しよう:プロジェクト「理想の村」上で互いに絵を紹介する。教師が絵をデジタルカメラに撮って、プロジェクト上に掲載した。スロバキア、南アフリカ、デンマーク、日本の4国間で交流。お互いの絵を見てメッセージを交換。

◆日本の子どもたちが描いた絵についてのやりとりから

「わたしたちの村は美しい自然にかこまれています。村のまん中でこいのぼりがおよいでいます。森にはたくさんの動物がすんでいます。世界のみなさん、私たちの村に遊びにきてください。そして動物たちと友だちになってください。動物村チームより」

「わたしは、たくさんの木にかこまれた山が気に入りました。オレンジ色の太陽がすてきです。鳥や犬もかわいいですね。スロバキアの子どもから」

「とてもすばらしい村ですね。わたしは自然や動物が大好きなので、ほんとうに行って住んでみたいです。こいのぼりが気に入りました。デンマークの子どもから」

 

B プロジェクトに参加して得た成果

◆絵という単純な方法で、楽しみながら多くの国の子どもたちと交流することができた。

◆国際プロジェクトへの参加は、むしろ自分たちの地域をより深く知ることにつながった。

◆交流のパターンとして、質問は簡単な英文で、答えは絵に描くという方法が、現実的な交流の方法として効果的であった。

◆参加した国際プロジェクト上で、多くの国の参加者からメッセージが届いた。これは年間を通して情報を発信することで、自分たちの存在を知らせることができた結果であると考える。

 

 

_ 事例2 日本から提案したプロジェクトの例 

 

@「Water」プロジェクトの概要とねらい (URL http://www.e-village.jp/evc02/water/index.html)

 世界の子どもたちと「水」について共同で学ぶプロジェクトである。「水」は世界の誰もが共有できる身近なテーマである。また、多くの国が参加することで様々な水事情を知り、自国のくらしを振り返る材料にすることが期待できる。このプロジェクトは、e-village上に日本から提案したものであること、またトラベルミッションという交流の方法を試みたことが特長である。提案に対して、ニュージーランド、デンマーク、イタリア、南アフリカ、エジプト、ベナン、アメリカ、日本の8カ国から10団体が参加した。

 

A プロジェクト提案のベースになる総合的な学習

 岡山県N小学校の4年生は、2002年度の総合的な学習として学校の側を流れる川に焦点をあてた。水と親しむ中で、水と生き物、水とくらしとのかかわりをテーマに、年間を通して「水の学習」を展開した。その一環として、世界の子どもたちに「水」について共同で学習することを提案し、ホストクラスとしての役割を果たした。ここではこの小学校4年生の活動を軸に、「Waterプロジェクト」の経過を説明する。

 

ロ プロジェクトの発案とトラベルミッション(水辺の生き物のマスコット)の派遣

 子どもたちは川で遊び親しむ中で、世界の子どもたちと一緒に水について学ぼうという担任の提案に、大いに関心と興味を持った。身近な水辺の生き物をマスコットにして、一緒に学ぶ世界の子どもたちへ送ることにした。マスコットの図案は子どもたちが考え、製作は保護者の協力を得て親子で9種類を完成させた。共同学習への参加の呼びかけはe-village上で行い、またコーディネーターの持つネットワークに呼びかけた。その結果8カ国へ、トラベルミッション(マスコット)と共同学習の内容を書いたメッセージを送った。

 

ワ 調査活動

◆川の生き物を調べよう:4年生の子どもたちは実際に川に出かけて、河原で遊んだり水の中に入ったりしながら水辺の生き物について定期的に調査を行った。

◆水道の水はどこから来るのか:学校で使っている水道の水はどこから来ているのか?この素朴な疑問から、子どもたちは学校にある水道の蛇口の数を調べたり、町の浄水場の見学・調査に出かけたりした。学校の水道も家庭の水道も、川から来ていることを知った。

 

ン 情報の共有と交流

 各参加者が調査活動を行った後、インターネットを使いe-villageサーバーに情報を集め、参加者同士で共有した。その過程で子どもたちの興味を引いたものや、教育的に意義のあると思われるトピックを取り上げ、授業を行った。

◆生き物が住みやすい水辺を絵で交流しよう:ミッション(マスコット)が住みやすい環境、住み難い環境を考え、絵に描いてお互いに交流した。

◆くらしで使う水くらべ:デンマークの子どもたちが一週間に家で水を何に使っているかを調べ、グラフにして送ってきた。これに啓発され、日本の子どもたちも家で使う水を調べ絵に描いて教えた。また、日本とニュージーランドで、町の年間水消費量について比べた。

◆水のやくそくをしよう:南アフリカの子どもたちが、水を大切にするために自分の「水のやくそく」をつくり、実行しようと提案してきた。これに応えて日本の子どもたちもやくそくをつくり実行した。

◆作品「水辺の風景」を見て:アフリカの国、ベナンの子どもたちやエジプトの子どもたちが水辺の風景を絵に描いて送ってきた。川で水くみをする人や水車を使う人などが描かれた絵に、日本の子どもたちは大いに興味を引かれた。

゙ 発展的な学習

◆自分たちに何ができるか 世界同時クリーン作戦

 日本の子どもたちは、参加者から送られてきた絵や写真を含む情報から、様々な水と人間のくらしとの関係を学んだ。一連の学習の後、「水や水辺を大切にするために自分たちに何ができるか」を話し合い、また「これから世界の子どもたちと一緒に何ができるか」を話し合った。その一つとして、川のクリーン作戦を行うこと、そして世界同時クリーン作戦をしようと、参加者に呼びかけるポスターを描いた。

◆第3回世界水フォーラムに参加

 2003年3月に第3回世界水フォーラムが日本で開かれた。e-villageもこれに参加して、子どもたちの意見をネット上で発信した。また、一連の活動を「Water Projectを通して世界の子どもたちは何を学んだか」と題して、京都国際会館でプレゼンテーションを行った。

 

B 子どもたちの感想から

「こんにちは。カエルの黒いネクタイと黄色いひもがとてもかわいいです。あなたたちがアフリカの私たちのミックルフィールド小学校を選んでくれたことを光栄に思います。私は地球上の水には限りがあって、できるだけ多く節約しなければならないことを知っています。私たちは、プロジェクトの終わりに「水のやくそく」をすることを決めました。 南アフリカの子どもから」

「この1年間私たちといっしょに水の勉強をしてくれてありがとうございました。とても勉強になりました。いろんな国の人と勉強して世界には水のあふれる国、水の足りない国があることを知りました。私は世界中をしあわせな国にしたいと思いました。 日本の子どもから」

 

資料「水の学習」年間活動表

C プロジェクトを通して得た成果

◆ともすればネット上では参加意識やつながりが希薄になりがちである。トラベルミッションという方法をとることにより、参加した国の子どもたちに新鮮で目に見える強烈なつながりを印象づけ、共同学習に対するより強い意欲づけを行うことができたと考えられる。

◆日本の子どもたちがプロジェクトを提案し、ホストクラスとして年間を通して参加者との交流をサポートした。これらの経験は日本の子どもたちに自信を持たせた。

◆参加した8カ国の参加者は、言葉の違いを越えて絵や写真や短い英文で互いに交流することができた。

◆多くの国が参加し共同で学習することで、世界の様々な水事情について学ぶことができた。

◆世界の子どもたちと共同で学習することで、世界同時クリーン作戦の提案に見られるように、子どもたちから今までに考えもつかなかった発想や行動が生まれた。

 

` 総合的な学習と国際教育プロジェクトとの関連

 

 これまでの事例で見られるとおり、日本から国際コミュニティ上のプロジェクトに参加する場合、総合的な学習がベースになると考えるのが一般的であろう。子どもたちの活動の拠点であるそれぞれの地域と、世界へつながる国際コミュニティをつなぎ合わせるのが、総合的な学習であると考える。

 国際プロジェクトと関連して、総合的な学習の活動過程を「テーマの設定」「探究(体験、調査等)」「表現」「交流」「発展」の段階に分けて展開する。このように段階に分けることにより、学習活動を段階ごとに授業として計画・準備・実施することが可能になる。また、各段階ごとに授業のねらいを焦点化でき、それに基づいた評価が可能になる。以下に、各段階ごとに総合的な学習と国際プロジェクトとの関連を説明する。

 

@ 「テーマ」の設定

 総合的な学習のテーマは、子どもたちの活動(探究、調査等)が可能な地域に根ざした特色のあるものを選ぶ。同時に国際コミュニティ上のプロジェクトのテーマと共通するものである。言ってみれば地域に根ざし世界に共通するテーマである。ただし、全てが一致する必要はなく、部分的でもかまわない。

 テーマの決定は、教師が一方的に決めるのではなく、子どもたちと話し合い子どもたちが納得するものでなくてはならない。活動の見通しや外国との交流を目指すことを熱意を持って話せば、大抵の場合子どもたちは興味や関心を示す。

 

A 地域を「探究」することが学習の原動力となる

 直接的な体験が乏しい現代の子どもたちにとって、地域に出かけて体験したり調べたりする活動は大きな意味があると思われる。体験を通して地域のよさを知り、同時に物事の見方、感じる心、物事に積極的に関わろうとする態度が育まれる。表現の活動は勿論のこと、その後の学習の原動力になると考える。

 

B 「表現」の工夫

 調査したことを表現する方法は様々であろう。絵や写真を多用する国際的な交流を前提にするのであれば、「外国の友だちに言葉なしでいかに伝えるか。」という表現の工夫を子どもたちに考えさせたい。その際、結果の出来映えやよく見せようとする必要はない。むしろ子どもなりの表現を大切にしたい。なお表現する活動は探究・調査の後に限らず、あらゆる場面で生じる。

 

C 外国との「交流」の場としてコミュニティを利用する。

ロ 情報発信を体験する場

 探究・表現の段階を終えて、もしくは表現の段階と並行して、それらの成果物をもとに国際コミュニティ上のプロジェクトに情報発信する。世界に向けて子どもたちが情報発信を体験する意義は大きい。また、情報はもらうものではなく、与えるものであるという態度も重要である。情報の発信なくして相手の反応はあり得ない。

ワ 共通のテーマを持った交流

 多くの場合、外国との交流が目的で国際コミュニティに参加する。共通するテーマなしでは、質問を交換しあうだけの単発的な交流に終わる。共通のテーマを持ち体験や調査にもとづいた自分たちなりの情報を発信することで、地域の独自性や世界との共通性が見えてくる。

ン 共有した情報を授業に生かす

 様々な国の情報が集まることで、「違い」や「同じ」に着目してテーマにより深くせまる授業を行うことができる。ただし、共有した情報がそのまま授業に使える資料になるとは限らない。参加者のそれぞれの学習に応じて、教師が共有した情報を再構成する場合が多い。

 

D 交流から「発展」的な活動へ

 世界との交流は子どもたちに刺激を与え、新たな意欲や発展的な活動を生む場合がある。例えば交流の中で新たな提案が生まれたり、自分たちの地域を振り返り意義のある行動を起こすきっかけになったりする。この段階は見通しが立ちにくいが、子どもたちの新たな可能性を発見できる興味深い段階である。

 

a 情報教育と国際教育コミュニティ

 「水」プロジェクトを例にとれば、トラベルミッションという方法で、日本の子どもたちが世界の子どもたちに共同学習を呼びかけた。子どもたちは目的を遂行する過程で、情報の収集から発信までに必要な技術や、交流するマナーやルールを学んだ。総合的な学習と国際教育コミュニティ上のプロジェクトをリンクした活動は、子どもたちが情報を主体的に活用するために必要な技術や態度を学ぶ場、すなわち実践を通して情報活用能力を育てる場でもある。

資料 トラベルミッションの学習方法
 

資料 活動の過程で学ぶ情報活用能力

成果

● 世界の子どもたちを相手にすることで、情報の発信者と受信者としての両面から、情報社会に参画する態度について考え実践することができた。

●情報通信ネットワークの有効性や必要性について具体的な活動を通して学ぶことができた。

●プロジェクトの目的を遂行する過程で、無理なくバランスよく情報活用能力を育てる場面を設定することができた。

 

3 外国ではどのように活用されているか

 

 諸外国の参加者は、国際教育コミュニティe-villageをどのように活用しているか。多くの場合は特定のプロジェクトに参加し、クラスの子どもたちの作品や活動を紹介しながら他の参加者と交流している。このような単発的な参加に対して、コミュニティに継続的に参加しているケースが少なからずある。また、参加者がそれぞれの教育目的に応じて、効果的にコミュニティを活用しているケースもある。それらの事例を紹介する。

 

◆ニュージーランドのケース

 ニュージーランドからは全校児童60人程度の小学校が参加している。気候も自然環境も日本の田舎の小学校とよく似ている。ニュージーランドでは、日本への関心が高い。子どものアニメやゲームソフトも日本のアニメキャラクターが人気がある。この学校でボランティアで日本文化を教えている教師は、子どもたちが日本の文化や生活を知る場として、また日本の子どもたちとの交流を目的に参加している。

◆ハワイのケース

 ハワイからは私立幼稚園の男性教師が参加している。彼は、幼稚園での日々の活動をe-village上に紹介している。幼稚園に通う子どもたちは多様である。彼が紹介する幼稚園での日々の活動は、ハワイの伝統に基づいた行事はもちろん、アメリカやヨーロッパやアジア諸国の伝統に基づくものまで実に多彩である。多様な子どもたちの文化的な背景を尊重しながら生活している様子がうかがえる。日々の生活がまさに国際交流といえる。彼はe-villageのコーディネーターの一人で、発信する情報に参加者は大いに啓発されている。ただ、彼自身は、e-villageを国際交流の場としてより、むしろ園児の保護者向けに情報公開の場として活用している。これは、一つの注目すべき活用例である。

◆デンマークのケース

 コーディネーターの一人であるデンマークの小学校の教師は、毎年クラスの子どもたちの活動をもとに、様々な教育プロジェクトをe-village上で企画・実施している。ヨーロッパ内やアメリカとの間での交流は既存のネットワーク上で盛んであるが、それ以外の国々との交流の場としてe-villageを活用している。

◆アメリカのケース

 アメリカのコネチカット州の教師は情報技術スペシャリストとして、地域にある複数の学校の情報教育を担当している。e-villageのオンラインページクリエイターに注目し、これを異なる学校間で子ども同士が情報を共有する道具として活用している。彼が担当する300人の子どもたちは、全て自分の力で情報発信を行っている。

◆南アフリカのケース

 私立の女子小学校から、コンピュータ教育担当の教師が参加している。現在この小学校には白人だけでなく黒人の子どもたちも通っている。これまでに学校をあげてインターネット上の教育プロジェクトに取り組んできている。毎年、コンピュータ担当の教師が調整をとりながら、各学年ごとに国際交流プロジェクトやネットワークを選んで参加し活動している。その一環として毎年e-villageを活用している。

 

4 気軽に参加できる教育プロジェクトとは

 

^ 実施したプロジェクトの活動形態とテーマの分析

 過去5年間で、60以上の教育プロジェクトを実施してきた。これらのプロジェクトのテーマを参加する子どもたちの活動形態で類別すると、大まかに活動紹介型、地域調査型、資料収集型、作品創作型、個人嗜好型の5種類に分けることができる。それぞれの型の特長を実施したプロジェクトの中から例をあげて明らかにする。同時に気軽に参加できる要素を探る。

 

@ 活動紹介型のプロジェクト

 参加者が日々の学校や地域での行事や活動を大まかなテーマにそって紹介する。特に詳しい調査活動や大がかりな制作活動をともなうものではないので、日本からも気軽に参加できる。「学校生活」というプロジェクトは、ありきたりなテーマだが多くの参加者がある。学校での日々の子どもたちの様子や学校行事の紹介が多くよせられる。遠足やスポーツフェスティバルの様子、授業風景やスクールランチ、あるいは日課表の紹介など興味深いものもある。身近で準備もいらず参加しやすいプロジェクトである。

 

A 地域調査型のプロジェクト

 主に地域学習や総合的な学習とリンクするかたちをとる。テーマにもとづいて、子どもたちが実際に地域に出かけて調査を行い、調べたことをまとめ、インターネットを使い参加者と交流し、さらに発展的な学習へつなげるという学習活動を展開することができる。活動の範囲が地域に広がるために、取り組みには十分な計画や準備が必要になる。現在実施中の「Tree」プロジェクトを例にとってみよう。身近な木と親しくなることで自然に対して関心を持ち、交流を通して世界の子どもたちと仲良くなることをねらいとしている。参加者の身近にある古い木、有名な木、気になる木などを子どもたちが実際に調べ、その結果を絵や詩で表現して共有・交流する。

 

B 資料収集型のプロジェクト

 子どもたちがテーマに沿って、学校で本や資料を調べたり、家庭で聴き取りをして調べたりして情報を収集する型である。地域調査型ほど大がかりではなく、調査の範囲が学校や家庭に限られるため、比較的短期間で取り組むことができる。交流を前提に収集した情報をどのようにまとめるか、表現に比重をかけた活動が多い。「相手国調べ」プロジェクトでは、交流の相手国についてどのようにして調べるか子どもたちに考えさせる。図書室や家にある本はもちろん、外国製品、おみやげ、輸入食品、輸入物の宣伝のちらし、旅行パンフレットなど、身近に相手国に関係した資料が意外にある。インターネットを使って相手国について調べることも可能である。

 

C 作品創作型プロジェクト

 テーマにもとづいた絵や工作などの作品を紹介し交流する型である。学校で図工の授業として組み込みやすい。創作という目的がはっきりしているために、教師も子どもたちも見通しを持って楽しみながら取り組むことができる。気軽に参加でき、これまでに数多くのプロジェクトを実施した。現在実施中の「e-villageことば絵本」プロジェクトでは、身近にあるものを絵に描いて参加者が使う言葉と英語でお互いに教えあうということを行っている。これは単に作品を紹介しあうだけではなく、言葉の違いを楽しんだり文化的背景を学んだりする試みである。現在、イタリア、デンマーク、日本を中心に取り組んでいる。

 

D 個人嗜好型のプロジェクト

 大がかりな計画や準備を必要とせず、いつでもどこでも短期間で取り組める。初めて参加する際に自己紹介や趣味や将来の夢などを絵に描いて交流する場合が多い。またヒーローやペットの紹介など、子どもたちの関心のあるテーマを採用し、楽しく取り組めるようにしている。「わたしの好きなもの」では、オーストラリア、ニュージーランド、インド、フィンランド、日本の子どもたちが自分の趣味を絵で紹介しあった。

 

_ 気軽に参加できる要素とは

 参加者の多くはクラス単位の参加である。従って学校での授業として取り組めることが前提になる。気軽に参加できるプロジェクトとは、テーマや子どもたちの学習形態は勿論であるが、活動範囲、学習時期や期間、また調査や資料収集の方法等にも関係している。

 これまでの実践から、誰でも気軽に参加できるプロジェクトの要素として以下のことがあげられる。

◆短期間で事前準備を必要としない

◆参加者の都合でいつでも参加できる

◆活動範囲が学校や家庭に絞られる

◆作品の紹介を中心に言葉を少なくした交流

◆子どもの興味や関心をもとにしたテーマ

 気軽に参加できる国際的なプロジェクトに、まずは自分たちの情報を発信してみることが重要である。この段階を体験するだけでも、得られる成功感や達成感は大きい。何より次の活動への意欲や原動力となる。

 

` 参加する意義のあるプロジェクトとは

 気軽に取り組めるプロジェクトの必要性を前述したが、一方で「国際的な教育プロジェクトに参加する意義は何か?」という本質的な問いがある。初めての場合や単発的な参加を除き、参加者がより本格的に授業に組み込もうとすれば、これに応えられるテーマや内容がプロジェクトに求められる。e-village上で本格的な教育プロジェクトを立案する場合、次のような視点から検討している。

◆どの国の子どもたちにとっても身近なもので、しかも世界共通のテーマになりうるもの

◆取り組む過程で教育的な意味が見いだせるもの

◆異なる国の様々な情報が集まることで、自分たちの再認識や再発見につながるもの

 これらをふまえたプロジェクトの実行には、計画や準備、ある程度の期間を必要とするので、いつでも気軽に参加できるというわけにはいかない。しかし、複雑で専門的なものになりすぎないように、誰でも参加できる要素を組み入れておくことも必要である。

 このような視点から生まれたプロジェクトに、「水」「木」「ゴミ」プロジェクトや「コミュニティたんけん」プロジェクトがある。これらは、ありふれた基本的なテーマばかりである。しかし、地域の独自性や世界の多様性、生活様式の違いを反映させながら、子どもたちが世界共通の課題として、共同学習を行う意義のあるプロジェクトであると考える。

 一般的に、現実には不可能な物理的な空間の広がりの中で、それぞれの相違点や共通点を知ることができるのがインターネットを利用した国際的なプロジェクトの長所であろう。このような取り組みを基本にしながら、新たな試みも行っている。「昔と今」プロジェクトは、時間の推移を縦軸にして、空間の広がりを横軸にする。例えば、「病気の治し方」に焦点をあて昔と今の違いを明らかにする。しかも子どもたちが高齢者にインタビューをする方法を用いる。子どもたちが高齢者とコミュニケーションしながら生活の知恵を学び、それらを電子メディアを使って世界中で共有する試みである。

 

5 簡単に情報発信できる技術とは

 

^ コミュニティに参加するための情報技術

 現在、日本の学校では情報通信環境が整備され、子どもたちが使える情報技術の幅が広がっている。例にとれば探究・調査の段階では従来の紙やエンピツに加え、デジタルカメラで情報収集する方法が一般化しつつある。表現の段階ではコンピュータ上でワープロソフトやプレゼンテーションソフトで、情報を編集する方法もとられている。一部の学校ではホームページの制作にも取り組んでいる。

 実際にe-villageに参加している世界の国々の情報通信環境や情報技術のレベルは様々である。アフリカから1200人の小学校に1台あるパソコンで参加している例や、前述のアメリカから一度に300人の子どもたちが参加し、情報収集から情報発信まで全て子ども自身が行っている例まで幅広い。参加している教師と子どもたちが、状況に応じて柔軟に対応しているのが実態である。

 e-village上の教育プロジェクトに参加するためには、少なくともコンピュータやインターネットに接続できる環境が必要である。しかし特殊な技術ではなく、世界中の誰もが使える一般的な技術を使うことを前提にしている。特に交流の段階で特別な技術を使うことなく、世界の誰もが使っている一般的なブラウザソフト上から簡単に情報発信できる仕組みを持っている。

 

_ オンラインページクリエイターの開発

@ システムの概要

 オンラインページクリエイターとは、世界各地の参加者が使っている一般的なブラウザソフトから、e-villageのホームページ上の各プロジェクトのディレクトリに対して、画像や文章を送りこんで新規のページを簡単に追加・編集できるシステムである。これは、近年コミュニティ系のCMS(Contents Management System)と呼ばれるシステムの一種である。e-villageサーバーに組み込んで機能させる。

 ホームページの作成は、htmlやftpの知識や技術を必要とする。初心者や子どもたちにとっては難しいものである。参加者自身が情報発信の主体になるためには、誰でも簡単にページを作成できる仕組みが必要である。また、参加者からe-villageに送られてくる情報の適切な管理も必要である。このような問題を解決するためにオンラインページクリエイターを開発した。日本のソフト会社と共同研究し1999年に試行開始以来、実際に使用しながら改良を加えてきた。

 このシステムを使うことにより、次のような効果が期待される。

◆日本の子どもたちを含め初心者が、簡単な操作でコミュニティに参加できるようになる。

◆より迅速な情報の掲載が可能になる。

◆集まった情報の適切な管理と有効活用が容易になる。

◆コーディネーターのホームページ作成の負担が軽減される。

 

A ユーザー機能

 参加者はブラウザ上からIDとパスワードを入力し、オンラインページクリエイターのユーザー機能を使うことで新たなページを作ることができる。参加者は、学校の先生やクラスの子どもたちが中心である。初心者にはより簡単に、上級者にはより柔軟にページづくりに対応できるように、3種類のページ作成モードを準備している。

◆初心者モード:子どもたちが使えることを前提に、必要最小限の機能にしぼり、少ない操作で情報を発信できるようにしている。1つの画像と1つのテキストを持つページを作成することができる。

◆中級者モード:最大4つの画像と4つのテキストを持つページを作成することができる。また、音声や動画を追加することもできる。

◆上級者モード:htmlを使って自由で柔軟なページを作成することができる。

 

B ページ管理機能

 参加者によって掲載されたページをコーディネーターが有効に管理するための機能である。

◆ディレクトリマネージャ:e-villageのコミュニティ内では、複数のプロジェクトが同時に存在する。この機能はそれぞれのプロジェクトに対して、固有のディレクトリをつくり出す。また、参加者によって掲載されたページの各種情報を管理する。

◆サーチ&リンクマネージャ:掲載された情報の中から、キーワード検索によって必要なページを探し出す。また、掲載されたページのリンク情報を管理する。

◆デザインマネージャ:自動的に生成されるページのデザインやレイアウトを行う。

 

` 評価と課題

 多くの参加者がオンラインページクリエイターを使った感想や評価を寄せている。それらをシステムの改良に生かしている。

 Ken Royal(Instructional Technology Specialist at Reed Intermediate School Newtown, Connecticut USA)は、300人の小学生にオンラインページクリエイターを使わせた後、次のように評価している。

 「オンラインページクリエイターの長所として、ページは学校でも家でもまたカリフォルニアのおじいちゃん宅でも、いかなる場所でも見ることができ、誰もが情報を共有することができる。また、生徒がページを作成する前にプレビューすることができ、作成後に修正・追加のためにページを再編集できることである。e-villageのプロジェクトは、簡単でしかもパスワードで保護されたオンラインページクリエイターを生徒に提供している点がユニークである。」

 このようにオンラインページクリエイターを使用することで、小学生や初心者でも簡単に情報を発信することが可能になった。

 2002年に、オンラインページクリエイターを全面改良した。主な改良点は、ページ管理機能を強化したことである。参加者により掲載された各種ページ情報を管理する機能を強化し、新たにページのリンク情報を管理する機能を追加した。これにより、e-village上に蓄積された情報資源の管理が容易になった。また、ページの検索とリンク情報の再構築が可能になり、蓄積された情報資源を有効に活用した教育コンテンツの制作ができるようになった。

 今後の課題としては、初心者にとってさらに使いやすいものにするために、オンラインページクリエイターのユーザー機能部のGUI化が必要であろう。また生成ページの母国語版の作成という課題がある。現在オンラインページクリエイターが生成するページは英語版のみである。これに各参加者の母国語版を追加する機能のことである。改良するためには経費の問題や、掲載される膨大なページを各母国語版に誰が直すのかという問題がある。また、これまでe-villageでは翻訳体制とは別に、言葉の壁を低くする様々な工夫を模索してきた経緯もある。このような理由で、これまで改良は実現していないが、特に日本においてホームページの日本語版の要望は根強い。

 

6 言葉の壁を低くする交流の方法とは  

 

^「プロジェクトボックス」に絵を中心にした情報を入れる

 世界の国々の子どもたちが、言葉の壁を越えて気軽に交流できるにはどうすればよいか。この難題の解決には2通りの方法が考えられる。1つは、翻訳スタッフ等を充実させ翻訳体制をつくることであろう。もう1つは、言葉が少なくても交流できる方法を模索することであると考える。

 e-villageでは、情報を共有・交流する仕組みを工夫し、絵や写真を多用することでより少ない言葉で交流する方法を模索してきた。

 この情報を共有・交流する仕組みは、「プロジェクトボックス」と呼ぶ箱の概念に例えることができる。e-villageの参加者は、実施している教育プロジェクト上にある「プロジェクトボックス」に、参加者自身がオンラインページクリエイターを使って情報を入れる。「プロジェクトボックス」に入った情報は、ホームページ上のページとなって一般公開され、参加者間で共有する。この「プロジェクトボックス」に絵や写真を中心にした情報を入れることで、言葉の壁を低くする交流の形態を探ってきた。ここでは、これまで試みてきた様々な例をあげ、言葉の壁を少しでも低くする情報の共有・交流パターンを分析する。

 

_ 情報の共有・交流パターンの分析

 

@ 参加者専用型

 文字通り参加者が固有に持つボックスである。例えば参加したクラス固有のもので、他の参加者は書き込むことができない。このボックスでは参加者間の交流は成立しないが、初めて参加する場合や、テーマや期間に縛られず発信する場合に有効である。また、相手に存在を知らせる上でも効果的である。「自己紹介」「あなたの国調べ」「学校生活紹介」などのテーマで活用されている。日本からは、子どもたちが自分の似顔絵や自分の趣味や相手の国を調べて絵に描いたり、学校生活をデジカメで撮ったものを発信したりしている。

A カレンダー書き込み型

 その時々の学校行事や生活の様子、お祭りや伝統行事など、複数の参加者が共通のカレンダーに書き込むように、日々の活動を自由に紹介しあう。これも細かいテーマや期限に縛られることなく、参加者自身のペースで情報を発信することができるために気軽に参加できる。様々な国の文化や自然環境、また子どもたちの生活の様子などを見ることができる。日本からは極力言葉を少なくして、絵や写真を多用することで参加が可能になる。

 

B テーマ交流型 

 e-village上で最も多い情報の共有・交流のパターンである。一つの「プロジェクトボックス」を複数の参加者が共有する。複数の参加者はテーマに沿った情報をこのボックスに書き込んで交流する。テーマにより深くせまるためには、言葉も必要である。ただし、下述のようにこの型を応用することで少ない言葉で効果を上げている例がある。

ロ 美術館・図鑑型  

 子どもたちの作品を集めて、美術館や図鑑のように見せるものである。テーマを決めて同一の「プロジェクトボックス」に複数の参加者が作品を入れる。美術館の場合は子どもの絵や工作などである。図鑑の場合は、子どもの作品もあるが、子どもたちがデジカメで写した画像も多い。タイトルと参加者の名前程度でほとんど言葉はいらない。「理想の村の絵美術館」は、世界の子どもたちが描いた理想のコミュニティの絵62作品が6カ国から集まった。また「子どもの遊び図鑑」や「世界の昆虫図鑑」に多くの写真が寄せられている。絵を中心にした情報の共有・交流で気軽に取り組める典型的なパターンである。

 

ワ Q&A型 

 交流を始めると、相手をより知るためにお互いに尋ねたいことがたくさん出てくる。子どもたちが直接、言葉でやり取りができればそれに越したことはない。しかし、現実はそうは行かない。言葉をできるだけ少なくするために、質問と答えに次のようなルールをつくる。お互いに質問は簡単な英文で、答えは子どもたちが描いた絵を「プロジェクトボックス」に入れるというやり方である。相手に何とかして絵で伝えようとする教育的な意義も大きいと思われる。言葉の壁を低くする現実的な方法である。

 

ン リレー絵本型

 物語を次々にリレーしながら創作していくプログレッシブストーリーという手法は、世界でよく使われている。この手法を応用して参加国の子どもたちが言葉を使わないで、次々にリレーして描いた絵を「プロジェクトボックス」に入れるやり方である。「世界の創造」「種の旅」というテーマ等で試みた。テーマや方法について改良の余地はあるが発展の可能性があると考える。

 

゙ サウンド・ムービー型

 美術館型の一つであるが、集めるものが音声データである。「ピタ・パタ」プロジェクトでは、動物の鳴き声や自然や町の音を子どもたち自身の声で比較しあった。4カ国から100以上のデータが集まる。最近では、デジタルカメラの普及により、動画と音声が一緒になった動画データを扱うことが増えている。

 

C トラベルバディ型 

 交流を希望する団体が相手にぬいぐるみを送り、その人形を通して交流をすすめるトラベルバディという手法がある。これも現在世界で広く行われている。この人形を交換する手法と、情報を共有・交流するために「プロジェクトボックス」を組み合わせたものがこの型である。相互あるいは一方が人形を送る。送られた方は、その人形に自分たちのことを教えるという形で学習をすすめる。その過程をe-village上の「プロジェクトボックス」に入れ公開することで、お互いに情報を共有しながらタイムリーに交流する。子どもたちの活動の様子を絵や写真を多用することで、言葉の壁は低くすることができる。たかが人形一つでと思いがちだが、人形が届いた瞬間に、子どもたちは相手の存在を意識することができる。小学校の低学年では絶大な効果がある。

 

D トラベルミッション型

 トラベルバディ型の効果は大きいが、一度に2者間の交流に限られる点に限界がある。一般的に国際プロジェクトには、同時に多数の参加者がある。そこでトラベルバディ型を発展させて、一度に多数の交流を可能にする方法として考案したのがトラベルミッション型である。前述の「water」プロジェクトでは、プロジェクトの発案者がホストクラスとなり、身近な水辺の生き物をぬいぐるみにして共同学習に参加した8カ国9団体に送った。参加者はテーマに基づいて、ミッションと共に活動し、その結果をe-village上の「プロジェクトボックス」に集め共有・交流し、それぞれの参加者が学習に役立てた。勿論、絵や写真を多用することで言葉の壁を低くすることができる。

 

` 言葉の壁は越えられるか

 e-village上で使っている共通語は英語である。日本も含め非英語圏の国々にとっては壁であるが、世界共通語として英語に替わる言語があるわけでもない。言うまでもないことだが全く言葉なしのコミュニケーションはあり得ない。コーディネーター間でのやり取りは勿論であるが、日本からプロジェクトに参加する場合、英語への翻訳スタッフと言葉の壁を低くする工夫を併用しているのが現状である。

 これまで翻訳に頼る体制づくりは、できる限り避けてきた。e-villageは、参加者のチャレンジ精神と自助努力を支援する場であると考えるからである。これは、言葉についても同様である。言葉の壁は低く設定するが、それを越えるのは、あくまでも参加者であるという考え方である。

 言葉の壁を越えられる場を提供できるか。現時点で、この無謀に近い問いに対して言えることは、少なくともこれまでの模索が、上記の通り様々な交流のバリエーションを生み出したことである。これは大きな成果であると考える。そして様々な交流のパターンを提供することで、日本から参加した教師や子どもたちにおいても、例えば美術館型やQ&A型などで言葉の負担を大幅に減らすことができている。ただし参加する教師が、テーマや活動の過程、交流の仕組みをあらかじめ理解しておくことが前提になる。

 

7 成果と今後の課題

^ コミュニティ設立の成果 

 e-villageに参加した教師が、「ヨーロッパでは日常生活で英語を含め最低3カ国語は使い分ける。」と話す。ただ「自分の使っている英語が通用するかどうか自信がない。」このような悩みを、デンマークやイタリアの教師から聞く。英語を苦手に感じるのは何も日本人に限ったことではないのだ。言葉の壁を低くする工夫は、ヨーロッパの教師からも支持されている。

 過去5年間に実施した教育プロジェクトに、42カ国106団体から参加があった。これらの参加者は通信基盤の整った国や先進国と言われる国からだけではない。最近では、アフリカのベナンから「絵を通して世界の子どもたちと交流したい。」と希望してきた。公的な教育機関ではなく、地域の子どもたちを集めボランティアで文化センターを運営している青年からである。またアメリカ先住民、スー族の保護区にある小学校の教師からは「伝統的な文化の交流」を提案してきた。現在われわれは、ネパールの子どもたちとの交流を検討中である。このように英語圏ではない発展途上の国やマイノリティからの参加も着実に増えている。

 また、「理想の村の絵」の交流で、南アフリカから参加した小学校の教師から、次のようなメールをもらった。「私は2人の児童がインターネットに強い関心を示したことを誇りに思う。彼女らは黒人の少女で、両親は南アフリカのアパルトヘイトで十分な教育を受けることができなかった。e-villageでの交流は、どのような背景を持つ子どもたちでも対等に受け入れ、作品自体の良さで世界中から評価されることがすばらしい。」 このような反応が返ってくるたびに、われわれは勇気づけられる。同時に誰もが気軽に参加できる国際コミュニティづくりを目指して、様々な試みを行ってきた成果でもあると考える。

 では日本の場合はどうであろうか。日本から参加する場合、特に総合的な学習と国際プロジェクトとをいかに関連づけるかという課題があるが、これまでの実践からその関連を一つのモデルとして提示すことができた。また、これまでにコミュニティ上に掲載された情報総数の約35%が、日本から発信されたものである。数の多さは勿論のこと、日本の参加者は多くのプロジェクトで中心的な役割を果たし、活動を活性化させることができた。日本の子どもたちの教育活動をこれほど掲載している国際的なネットワークは、他にはないと思われる。e-villageの一つの特長であろう。

 これまでの成果をまとめると

◆ 日本の子どもたちの活動が多くのプロジェクトで中心的な役割を果たし活性化させることができた。

◆ 英語を母国語としない国やマイノリティからの参加が着実に増えている。

◆ コミュニティ上の技術や工夫は、外国の多くの教師から支持されている。

 コミュニティ設立という当初の目的は一応の成果をあげることができたと考える。

_ 今度の課題と展開

 しかし日本における課題は多い。様々な交流パターンの工夫は一応の成果をあげたと考えるが、日本からの参加数は伸び悩み、参加したいが断念するケースが数多くあるのが現実である。この原因は様々であろうが、依然として言葉の壁は高いと思われる。共通語が英語のため子どもたちが直接内容を把握できない、指導者が翻訳の時間を確保できない、英語で参加することへの躊躇、このような参加者の実態が明らかになった。また、コミュニティに蓄積されている貴重な資料も十分に活かされているとはいえない。今後より多くの日本の子どもたちを参加させるには、言葉の壁を低くする工夫と並行して日本語による活動を可能にする環境整備が必要である。

 さらに今後、コミュニティを発展させるためにいくつかの課題がある。その一つは、蓄積された情報を生かした教育コンテンツの研究と制作である。これまでにコミュニティ上に蓄積された情報は、世界の子どもたちの現状を反映した貴重な資料である。今後蓄積されるものも含め有効に活用して、子どもたちに親しみやすい教育効果のあるコンテンツを研究・制作して、コミュニティ上で提示する。

◆ 蓄積した情報を有効に活用できる仕組みづくり

 「子どもが使える参加型オンラインデータベースシステムの開発及び資料整備」

◆ 日本の子どもたちのコミュニティ参加支援体制の整備

  ・コミュニティの日本語版Webの制作     ・「コミュニティ参加ガイド」の作成と支援

  ・すぐに使える「インターネット英文事例集」の作成と支援    ・翻訳スタッフの確保

◆ 授業に役立つ教育コンテンツや参加者支援コンテンツの制作

 上記の参加支援システムの実現により、子どもたちがコミュニティに直接日本語で参加できるようになる。これはプロジェクトに参加する子どもたちの意欲と主体性を高めることができる。またプロジェクト上での交流は期間が一定時期に集中しているため、翻訳体制の充実と迅速化がタイムリーな交流を可能にし、授業を活性化させると考える。

 今後期待される効果として、より日本の広範な地域からの参加が見込まれる。参加者は、関心を持つ一般市民も含まれるが、現状では特にインターネットを利用した国際規模の環境教育や国際交流に関心を持つ教師や子どもたちであろう。これらの参加者に対して日本語環境による交流の場の提供と、これまでの経験をもとにした参加支援を行うことができる。また、直接参加はなくても国際プロジェクトに日本から参加する際のノウハウや豊富な実践事例などの情報を提供することで、日本の子どもたちが国際的な共同プロジェクトに参加するための基礎づくりに貢献できると考える。

 e-villageに行けば、国際プロジェクトに参加するためのノウハウが得られる。そして気軽に楽しい活動に参加できる。今後、日本の子どもたちと世界の子どもたちをつなぐ入門的な役割を果たす国内の拠点としてe-villageを発展させたい。 

 最後に、国際コミュニティづくりを通して日本の果たすべき役割について考えてみたい。日本の子どもたちが気軽に参加できる国際教育コミュニティとは、実は英語を母国語としない国々の子どもたちが気軽に参加できるコミュニティに他ならない。世界共通語としての英語を苦手とする日本だからこそ、それを少しでも低くする仕組みの必要性を理解している。さらに言えば、世界の誰もが気軽に参加できるコミュニティとは、非英語圏の子どもたちも、英語圏の子どもたちも対等に参加できるコミュニティづくりをめざすことに他ならない。

 また、長い歴史と独特の文化や伝統を持つ日本であるからこそ、世界の多様な文化や伝統に敬意をはらうことができると思う。先進国か発展途上国かではなく、マジョリティかマイノリティかでもない。自分たちの文化や伝統に誇りをもつ様々な立場の子どもたちを迎え入れ、世界の多様性と独自性を尊重し理解し共有しあう。その上で地球的な課題を共に考えていく。このような教育コミュニティづくりをリードすることが日本の役割であると考える。

 現在、パソコンをはじめとする情報関連機器の充実や、近年における通信環境の安価な提供など、日本の情報通信における基盤は世界でもトップレベルにある。このような環境を生かして世界にどう貢献するか、日本に課せられた課題は大きいと考える。

 

 

北野日出男 東京学芸大学名誉教授 日本環境教育フォーラム理事長  指導助言

Judith Bennett Environmental Education Coordinator, Australia  指導助言

Jonathan Yorck Kindergarten Teacher at Punahou School, Hawaii  Project運営

Lone Nielsen  Teacher at Hornbaek School, Denmark        Project運営

Jan Haarmann  Teacher at GGS Ruppichteroth, Germany       Project運営

Lynne Ralph   Freelance Web Designer, New Zealand        Web制作

鳥越 厳之   岡山県加茂町立加茂小学校  教諭         e-village代表 論文作成者

岩野 浩昌   岡山県鏡野町立香北小学校  教諭         授業実践・教育方法

野呂 直子   岡山県久世町立草加部小学校 講師         授業実践

河本 陽子   岡山県熊山町立磐梨中学校  教諭         技術支援

鳥越 裕子   LABO Torigoe Party tutor             事務局